世界の音楽聖地を歩く 第8回:ジョン・ボン・ジョビ「JBJ ソウル・キッチン」

コラム | 2016.06.04 18:00

TEXT・PHOTO / 桑田英彦

ジョン・ボン・ジョヴィの生まれ故郷はニュージャージー州のパースアンボイという小さな町で、ブルース・スプリングスティーンの故郷であるロングブランチの隣町である。ともにニュージャージーを代表するスーパースターとなり、ジョン自身もスプリングスティーンを敬愛し、音楽的にも生き方においても多大な影響を受けている。ボン・ジョヴィは長年に渡ってトップ・スターの座を守り、アルバム、シングルとも売れに売れた。億万長者となったジョン・ボン・ジョヴィは2006年に「ジョン・ボン・ジョヴィ(JBJ)・ソウル・ファンデーション 」を設立し、貧困にあえぐ人たちやホームレスなどに積極的なサポートを行ってきた。2014年には新たに「JBJ ソウル・ホームズ」を設立して、低所得者、ドロップアウトした若者たち、ホームレスなどに提供する住宅、医療施設や職業訓練などの複合施設の開発をフィラデルフィアでスタートさせている。そのようなジョンの社会貢献活動の中に「JBJ ソウル・キッチン」というプロジェクトがある。現在はニュージャージー州で2店舗を運営している。

 

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2012年の秋、ニュージャージー州アズベリー・パークに滞在していた僕は、偶然ホテルに置いてあった雑誌で「JBJ ソウル・キッチン」の小さな記事を見かけた。このレストランについての詳細には触れていない記事だったので、てっきりロック・スター、ジョン・ボン・ジョヴィが所有する”小洒落たダイニング”の類だと思った。ロック・スターやムービー・スターが所有するレストランやバーは珍しい話ではない。今夜のディナーはここだと決めて、早速予約の電話を入れてみた。すると「予約は必要ありません。17時、もしくは19時に店にお越し下さい」という返事だった。有名人の所有するレストランなのに予約が必要ない?17時か19時? 腑に落ちない気分でアズベリー・パークからレストランのあるレッド・バンクという町に向かった。16時45分に店の前の駐車場に車を停め、店の入り口でマネージャーらしき男性に名前を告げると、「順番に呼びますので庭で待っていて下さい」そう言いながらウエイティング・リストに僕の名前を記入してくれた。数組のお客がすでに店の前で待っており、みんな店の建物をバックに記念撮影を行なっている。間違いない、ここはジョン・ボン・ジョヴィの店である。

 

17時を少し過ぎた頃、店内への案内が始まる。こざっぱりしたシンプルなインテリアだがセンス良くまとめられている。テーブルに着くとすぐにウエイターがメニューを運んできてくれた。「ワイン・リストを見せて下さい」というと「お酒は出しておりません。アイスティーかコーラならありますよ」。酒を置いてないだって?リッカー・ライセンスがないとハード・リッカーは扱えないが、ワインやビールは出せるはずだ。このレストランは一体どういうコンセプトなんだ。改めてメニューを眺めてみると、3種類の前菜、5種類のメインディッシュ、そしてデザートが記されていてチョイスができるようになっている。しかし金額が記載されていないではないか。まさかジョン・ボン・ジョヴィのレストランがぼったくることはないだろうが、かなり割高なのかもしれない。しかしメニューを見る限り、そんな割高な価格になるメニューではない。腑に落ちないまま、アイスティーとチキン・ブレストのディッシュをオーダーする。

 

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運ばれてきた料理は、デザートも含めてなかなかの味わいだったが、いったいこの料理の値段はいくらなんだろう。めちゃ高い料理ではないはずだが、たちの悪い店だったら高いことを言ってこられても「まっ、しょうがないか」となる程度の料理ではある。などと考えているとマネージャーがグリーンの紙を各テーブルに配り始めた。間違いなく勘定書である。紙を受け取った人たちの顔は笑顔なので、ひとまずぼったくり価格ではなさそうだ。テーブルの上に置かれたこの紙に記された内容を読んで、この店に酒が置いてないことも、金額が記されていないわけも、はじめて納得した。「本日はご来店ありがとうございます。以下のオプションからお支払いについてお選び下さい。
① ご提供した御料理は通常のレストランでは$15ほどの価格だと思います。現金でお支払いの場合はドネーションとして$10、もしくはそれ以上の任意の金額をご記入の上レジでお支払い下さい。いただきました寄付金はすべてコミュニティへの寄付金となります。
② このコミュニティにおいてボランティアで食事代を賄うこともできます。その場合はボランティア可能な日付と時間を記入して下さい。

 

ジョン・ボン・ジョヴィ・ソウル・キッチンは2011年にオープンした。極端な所得格差により、アメリカ人の6人に1人が、空腹をかかえ、5家庭に1家庭が、水準以下の貧困にあえいでいる。この状況を深刻に受け止めているジョンは、どんな環境下であろうとも栄養価が高く、温かくバランスの良い食事を摂ることが生命の根源であると考え、このプロジェクトをスタートさせた。新しいインスピレーションやイノベーションは、人々の幸福から生まれるのだ。その幸福とはお金だけの問題ではなく、もっとも重要なのは未来への希望である。”HOPE DELICIOUS” ジョン・ボン・ジョヴィの人間味溢れた取り組みは続く。

JBJ Soul Kitchen
Red Bank
207 Monmouth Street, Red Bank, NJ 07701
Tel : 732-842-0900
Toms River
1769 Hooper Avenue, Toms River, NJ 08753
Tel : 732-731-1414
www.jbjsoulkitchen.org

ジョン・ボン・ジョヴィ・ソウル・キッチン

桑田英彦(Hidehiko Kuwata)

音楽雑誌の編集者を経て渡米。1980 年代をアメリカで過ごす。帰国後は雑誌、エアライン機内誌やカード会員誌などの海外取材を中心にライター・カメラマンとして活動。ミュージシャンや俳優など著名人のインタビューも多数。アメリカ、カナダ、ニュージーランド、イタリア、ハンガリー、ウクライナなど、海外のワイナリーを数多く取材。著書に『ワインで旅する カリフォルニア』『ワインで旅するイタリア』『英国ロックを歩く』『ミシシッピ・ブルース・トレイル』(スペースシャワー・ブックス)、『ハワイアン・ミュージックの歩き方』(ダイヤモンド社)、『アメリカン・ミュージック・トレイル』(シンコーミュージック)等。