世界の音楽聖地を歩く 第10回:ウッドストック・ミュージック・フェスティバル 「ザ・サイト・オブ・1969」

2016.06.2419:00

TEXT・PHOTO / 桑田英彦

ウッドストック・ミュージック・フェスティバルは、1969年8月15〜17日までの3日間(正確には18日午前まで)、ニューヨーク州サリバン・カウンティのベセルで開催された。観客動員数約40万人というアメリカの音楽史に残るコンサートとなり、1960年代後半に盛り上がったカウンター・カルチャーを象徴するイベントとして大成功を収めた。この小さな町で暮らしていたロシア系ユダヤ人の農場主マックス・ヤスガーが所有する酪農農場が会場(写真上)として使用された。一帯はキャッツキル・バレーと呼ばれるインディアンの共同居住区である。3日間のコンサートの模様はドキュメンタリー映画としてマイケル・ウォドレー監督のもとで撮影され、この時ステージ下で撮影を担当し編集作業を行ったのが、後に『タクシードライバー』で映画監督として大成功を収めるマーティン・スコセッシである。映画『ウッドストック』は1970年に公開され、第43回アカデミー賞「長編ドキュメンタリー映画賞」を受賞した。ジミ・ヘンドリックス、サンタナ、ジャニス・ジョップリン、ザ・フー、ジョー・コッカー、ザ・バンド、ジョーン・バエズ、リッチー・ヘブンス、スライ&ザ・ファミリーストーン、クロスビー・スティルス&ナッシュなどのスーパースターが多数出演し、伝説となる名演を繰り広げた。

 

所有する農場をフェスティバルの会場として提供したマックス・ヤスガーは、周辺の住人たちから「フェスティバルに集まった観客たちによって自分たちの土地を荒らされた」として訴訟を起こされる。そして1971年に和解が成立するとヤスガーは農場を売却してフロリダに引っ越し、その半年後に53歳で亡くなった。長い間農場は放置され、映画に映し出されるフェスティバルの原風景がそのまま残されていたのだが、1997年にアラン・ゲリーという投資家がこの土地を買い取る。その後は再開発を進められ、2007年にこの町の名前を冠した「ベセル・ウッズ・センター・フォー・ジ・アーツ」(写真下)としてリニューアルされ、館内にはウッドストック・ミュージアムも設置された。入り口にはリッチー・ヘブンスがウッドストック・ミュージック・フェスティバル出演時に着用したコスチュームとギター(写真上)が展示され、内部には多くのメモラビリアが展示されている。

 

音楽遺産

ウッドストック・ミュージック・フェスティバルを企画・プロモートしたマイケル・ラングたちは、当時、ボブ・ディランなどのアーティストたちが暮らすウッドストックの町に、自分たちのレコーディング・スタジオを設立する資金集めを目論んでフェスティバルを企画した。しかし開催予定地だったウッドストックがあるアルスター・カウンティでイベント開催反対の住民運動が起きたため、場所の確保が不可能となったのだ。そのためウッドストックという町の名称は使ったものの、開催地は南西方向に60キロほど離れた場所にあるベセルにあるマックス・ヤスガーの農場での開催となったのだ。

 

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ニューヨークまで車で1時間半というアクセスの良さもあり、緑に包まれた閑静なウッドストックの町には昔からアーティストが多く暮らしていた。1966年に遭遇したオートバイ事故によって、ウッドストックで休養を兼ねた隠遁生活を送っていたボブ・ディランは、当時バックバンドとしてツアーを共にしたホークス(後のザ・バンド)と自由気ままな創作活動やセッションを繰り返していた。この幸せな時期にスタジオとして、そしてクラブハウスとして使用されたのが上の写真のピンクの家、通称『ビッグ・ピンク』で、ホークスのリック・ダンコ、リチャード・マニュエル、ガース・ハドソンの3人は実際にここで暮らしていたのである。この自由気ままなセッションはビッグ・ピンクの地下室でデモテープとして録音されており、1975年にボブ・ディラン&ザ・バンド名義で『ザ・ベースメント・テープス』として正式にリリースされた。ちなみにザ・バンドの名盤『ミュージック・フロム・ビッグ・ピンク』は、この家ではモチーフや曲作りが行われただけで、レコーディングはニューヨークとロサンゼルスのスタジオが使用された。

Big Pink House:56 Parnassus Lane, Saugerties, NY 12477
http://bigpinkbasement.com/

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桑田英彦(Hidehiko Kuwata)

音楽雑誌の編集者を経て渡米。1980 年代をアメリカで過ごす。帰国後は雑誌、エアライン機内誌やカード会員誌などの海外取材を中心にライター・カメラマンとして活動。ミュージシャンや俳優など著名人のインタビューも多数。アメリカ、カナダ、ニュージーランド、イタリア、ハンガリー、ウクライナなど、海外のワイナリーを数多く取材。著書に『ワインで旅する カリフォルニア』『ワインで旅するイタリア』『英国ロックを歩く』『ミシシッピ・ブルース・トレイル』(スペースシャワー・ブックス)、『ハワイアン・ミュージックの歩き方』(ダイヤモンド社)、『アメリカン・ミュージック・トレイル』(シンコーミュージック)等。