ポップスの追求者、冨田ラボ。
ゲストボーカルを中心に据え、その世界を存分に!
<information>
●「トップランナー」出演決定!!
NHK教育テレビ 2/12(日) 19:00
※2/16(木)24:00(再放送)

●「J-WAVE 25 Tomita Lab Radio Edit」放送決定!
J-WAVE 2/12(日) 25:00〜27:00
http://www.j-wave.co.jp/

“造船”から“進水”へ。キリンジ、松任谷由実、ハナレグミらをヴォーカルに迎え、ポップ・マエストロの手腕を遺憾なく発揮した名盤『シップビルディング』から約3年。冨田恵一のセルフ・プロジェクトとしてポップの大海に船 出した冨田ラボは、ますます快調に音楽航海を続けている。最新航海記となるニュー・アルバム『シップランチング』には、高橋幸宏、大貫妙子、SOULHEAD、田中拡邦(MAMALAID RAG)、CHEMISTRY、山本領平、YOSHIKAらがフィーチャリング・ヴォーカルで参加。さらに詞の面では高橋・大貫の両氏に加えて、吉田美奈子、糸井重里、鈴木慶一、高野寛、キリンジの堀込高樹らを作詞家として起用。“ポップス三世代共演による壮大な音楽航海図”を描き出すことに成功している。冨田ラボとしては初めてとなる3月19日のスペシャル・ライヴに向けて、素敵&サプライズな航路をとろうと現在計画中の冨田恵一に、ライヴにかける意気込み、そして独自のポップ観などをタップリと語ってもらった。その特別ロング・インタビューをどうぞ。

--冨田ラボとしてのアルバムを作るうえで冨田さんはいつもどういったことを考えているのですか?

「贅沢な話ですけど、僕はどこをとっても辻褄が合っていて、いいと思うものにしたいなと思っているんですよ。例えば素晴らしい一拍だし素晴らしい一小節だし素晴らしい8小節だし素晴らしいワンコーラスだし素晴らしい1曲だけども、それが何曲も集まってアルバム1枚になってもストーリーがあって、アルバムという集合体としてもいいと思えるようなものを作りたいなって」


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--アルバム・タイトルの『シップランチング』は、前作『シップビルディング』と今作がつながっていることを暗示していますね。

「そうですね。冨田ラボっていうのはポップスで歌ものが中心なんだけども、僕がシンガーなわけではなくて、フィーチャリング・ヴォーカリストをたてているっていうのが基本の形態になっているんですよ。だから前作と今作はツインズ(双子)というか、シリーズだなと思ったので、それを分かりやすく説明できたタイトルだとは思うんですけどね」

--形態は同じでも、ヴォーカリストの顔ぶれは前作とは違っていますが。

「もちろん『シップビルディング』で歌ってくれた人たちは大好きなんで、またこんな歌を歌ってほしいなあという思いはすごくあるんですよ。でもそうすると彼らが冨田ラボの専属ヴォーカリストみたいになっちゃうじゃないですか。だけどそこはやっぱりそうではないんで、そこは最初に決めたんですよ。前回歌ってもらった人たちはみんなすごくよかったけども、今回は重複しないようにしようって。それで最初に僕が曲を作った後で、どの曲を誰に歌ってもらおうかってことをスタッフと話して決めていったという感じですね」

--ヴォーカリストに加えて、今回は作詞の面でもさまざまな人が起用されているのも特徴の一つだと思いますが。

「前回は歌う人がその曲の作詞をするっていうのが基本だったんです。松本隆さんだけちょっとイレギュラーな形だったんですけど、それは僕が松本隆さんがすごい好きだったからで。最初は僕が歌う曲だけ詞を書いてもらおうかなと思ったんですけど、物理的な問題として、永積タカシ君がツアー中で詞を書く時間がとれなかったんですね。それで松本さんに打診してみたところ書いていただけたので『眠りの森』って曲ができたんです。だから詞を書いているのは歌う人だったということですね、前作は。で、今回が前回と違うのは、今回はシングルを何枚か先にリリースしてたんです。それが大きくて。最初に出したのが『Like A Queen feat.SOULHEAD』で、本人たち(SOULHEAD)に詞を書いてもらおうかなと思ってたんだけども、アルバムではなくて一曲だとやっぱり一曲の中に色々盛り込みたくなっちゃうんですよね。それで他に一緒に仕事したいかたにお願いできたら面白いかなと思って、吉田美奈子さんになったわけなんです。その時はまだ全体の明確なフォーマットがあったわけじゃないんですけど、その曲を作ったあとに(スタッフと)色々話をしているうちに、三世代住宅的なという話が出たのね。40代前半の僕が真ん中で、下の世代が歌って、上の世代が詞を書くっていう。で、曲によってはその逆もある。そういうフォーマットで全部できたら面白いねって話になったの。で、その次の『アタタカイ雨 feat.田中拡邦(MAMALAID RAG)』の時も、じゃあ三世代ということで、上の世代で何かいい感じの詞を書いてくれる人いないかなあってスタッフと話した時に“高橋幸宏さんはそんなに他のかたに歌詞だけ提供するってことはないけど、ご自分で書かれてる詞も素晴らしいな”って話が出て。受けていただけるかどうか一番難しいねみたいな話をしていたんだけど、受けていただけて。で、2個そういうフォーマットでやっちゃうと、段々そのフォーマットを守らざるをえなくなるんですよ(笑)。そこからは大変でしたけどね」

--なるほど。そういうフォーマットが先にあったから、高橋幸宏さんと大貫妙子さんをフィーチャーした「プラシーボ・セシボン」ではキリンジの堀込高樹さんが作詞するという構造をとったわけですね。

「そうなんですよ。僕が昔から好きで聴いてきた人たちにも(ヴォーカルで)参加してもらいたかったので、そこは三世代住宅という法則を守ろうと。一番最後の『PRAYER ON THE AIR』は僕が歌っているんですけど、僕が歌う場合はやっぱり(作詞は)同世代の人だろうってことで高野寛さんにお願いしたんです」

--今回作詞を手掛けている人たちを見てみると、高橋幸宏さん、大貫妙子さん、糸井重里さん、鈴木慶一さんなど、YMO世代の人間にとっては非常に感慨深い顔ぶれになっていると思います。作詞を依頼する際に、何か人選基準のようなものはあったのですか?

「最初からそれほど明確に考えていたわけではなかったんですけど、あとで考えたら、80年代に僕がいいと思った仕事をしていた方々が多くなったなあっていう気がしましたね。80年代という時代は、音楽ビジネスが大きくなりすぎて、誠実じゃないものがいっぱい出て席巻してしまった感がある。でも今回選んだ方々は、そういう時代にもすごくいい音楽を作り続けていた“誠意ある音楽家”だったわけです。最初からそういう人たちを集めようとは全然思ってなかったんですけど、結果的にそういう人たちにお願いできたことになりましたね」

--確かにどの人も、70年代から現在に至るまで、“しっかりとした知識や技術に裏づけされたセンスの良いポップ・ミュージック”を日本の音楽シーンに一貫して提供してきていますよね。

「センスもあって技術もなければ許されなかったというのが70年代のポップスの歴史だとして、それがパンク・ムーヴメントによってそうではないんだよっていう動きになっていきましたよね。で、彼らもその動きはちゃんと見ていたと思うんですよね。僕なんかは同じような時代に起きていたいわゆるフュージョン/クロスオーヴァーのほう……テクニックのほうに行ってしまった人間なんですけど、パンクがニューウェイヴになって、アティテュードだけでなくて耳に聴こえてくる音楽として新鮮さを感じられるようになった時に、テクニックとか構築されたものをよしとしていた80年代以前のものに対して疑問を持ったわけです、そこで。同じようなことは彼らももっと早く気付いていたというか、幸宏さんなんかはYMOの時点で自分のテクニックとそうではない部分ていうのをきっと分かっていた。だから幸宏さんにしろ慶一さんにしろパンク以前 の部分もありつつ、それ以前の音楽の価値観に対する疑問も持って、センスだけでも大丈夫という80年代にも対応していったというか……。センスは人一倍ありつつもセンスだけじゃない部分があったと思うんですね、今回参加してい ただいた方たちは。それが僕の心に響いたのかもしれないけど。その部分てのが今また必要とされている気がしますね、ここ最近」

--それは何が原因だと思いますか?

「90年代のDJカルチャーの影響で、今は色々なものを引用して記憶に訴えるようなものを作ったりとか、新しいものを再構築するというようなことが一般的になっていますよね。あとはテクノロジーの進歩で、楽器が弾けなくてもとりあえず形になるというレベルでは音楽を作ることはたやすくなっている。それって、80年代と同じですよね。うますぎるのはかっこ悪いっていう価値観が出て、そのかわりにセンスがさらに上がったところもある。(引用するためにレアなさまざまな)レコードを掘るというレベルでは。でもそれもまた一段落してしまったと思うんですよね。引用だけで作ってるものにすごくよく構築されてるものもあるけど、薄っぺらなものもすごく多かった。で、リスナーの耳がそのへんを選別しはじめたというのかな。引用しても、咀嚼して血肉化して自分のものとして構築しているものと、そうではないものの差というのが結構また重要になってる気がして。最近ミュージシャンと話していても、今話したような話によくなりますよね。ネタ的な聴き方とか引用云々ていう感じではもうないなあって感じが実感としてあるんですよね」

--リスナーが薄っぺらい引用だけの音ではないものを求めるようになってきた背景には、冨田さんが若いアーティストをプロデュースする際にそういう下地を作ってきたことも関係しているような気がするのですが。

「僕も引用の面白さとか分かってはいたけども、どうも後で考えてみると、僕がやっていたことは引用だけではなかったという風に今になって思うんですね。引用して構築していくんだけど、それが楽曲の一部として不可欠な存在になるように若干ブラッシュアップして作っていたと思うんです。だからその作業が引用だけに終わってない風になっていたのかもしれないと、今になって思います」

--引用だけでないものを見せたいという思いはライヴに対してもありますか?

「ライヴになるとね、より引用ってのは難しい思うんですよ。CDをプロデュースする場合は、レコードから受けた質感とか微妙なタイミングから何まで全部自分の手でコントロールできるわけだから、引用として非常に精度の高いものができるわけですよね。だけどライヴで引用といっても、それはミュージシャンそれぞれの手を通ってその場でリアルタイムに放出されてしまうものなので、引用という概念が一番難しくなっちゃうわけです。僕はライヴというのは構築されたものであるし、CDに作品化されたものと同じような質感を届けたいとは思うんだけども、それよりもやっぱり横の流れだよね。縦の構築よりも横の流れが大事。ヴォーカリストなり演奏者なりが2時間という中でストーリーを作って演じ、高揚しているようすを見せる場だと思っているんですね、ライヴというのは」

--3月19日のライヴでもそうした部分を見せていこうと?

「僕ね、ライヴであんまり好きではないのが全部ガチガチに決まっていてそれをなぞっているだけのもので。ライヴというよりもショウというものに近くなればなるほどあんまり好きではないんですね。僕はジャズメンではないけれど、大のジャズ・ファンではあるんで、インプロヴィゼーショナル(即興的)な部分ていうのがまったくないと僕的には面白くないんですよ」

--となると今回のライヴの編成は、演奏の自由度の高いものに?

「ストリングスとブラス・セクションとパーカッションがいて、僕はキーボードとギターを弾くんですね。で、あとはベーシスト、ドラマーがいて、キーボードとギターを弾く人がもう一人いてという編成です。それで1〜2曲ごとにヴォーカリストが入れ替わるという。すごい人数ですよね(注:総勢21人のバンド編成だそうです)。でもだからこそね、特別な一夜だと思うし、すごく面白いと思いますよ、単純に。前代未聞。これだけ色々なヴォーカリストが出るっていうとさ、フェスっぽいよね。自分で言うのも変ですけど(笑)」

--大編成のライヴをやろうと思った理由というのは?

「ライヴはどうですか、みたいなことをスタッフから打診された時に、ストリングスとブラスは普段レコーディングに関わってもらってる人たちがみんなやってくれるんだったらやるよ、って深く考えずに返事をしたんですよ。それが1年ぐらい前かなあ。それで結局やる運びになったんですけどね。ストリングスとかブラスを全部揃えればやるよっていうのは、やっぱり冨田ラボとしては初めてのライヴだからだと思うんですね。最初に一度そういう形を提示しておきたかったんですよ。単純に言ってさ、僕、あれが嫌いなんですよ。シンセのストリングスとかでなんとなくレコードのフレーズを弾いて、ブラスを2管ぐらい足してなんとなくCDの感じになるっていうような、普通のライヴがあるじゃないですか?80年代とか、歌謡曲でもロックでも、みんなそういうライヴやってたじゃない?僕はあのお安い感じがすごく嫌で、そういうシンセとか出てきた時点でそのライヴはもう聴いていらんなくなっちゃう。かといってさ、僕のライヴで弦とかブラスがまったくないと、全然違うバンド・アレンジでやっちゃうことになるでしょ?それはやっぱり2回目以降のライヴの話だなと思っていて。冨田ラボっていう名前がついた初めてのコンサートだと、やっぱり本物の弦を入れるしかないっていうことですね」

--確かに今はシンセやコンピューターであらゆる音が出せちゃうから、レコーディングもライヴもバンドの編成や機材がどんどんコンパクトな方向に向かっていますよね。でもそれに対して……。

「(今回の)ライヴに関しては完全に逆行ですよね」

--あえて逆行したライヴをやってやろう、みたいな思いはあるんですか?

「僕がアンチテーゼ野郎だとか、そういうことですか?(笑)」

--例えば、引用で音を構築する動きが主流だった時代に確かな技術や知識に裏づけされた音作りを行なったりとか、ほとんどの人がAという道を行くんだったら自分はBという道を行く、みたいな姿勢が冨田さんにはあるような気がするんですけど。

「根底にはあると思いますよ。だけどアンチテーゼを唱えてる奴にろくな奴はいないっていう風に僕は思っているので。“そうじゃなくて”っていうことから始まることにあんまりろくなことはないと思うんですね。だけどその考えがない人はもっとダメだと思うんですよ。なので根底にはその考えはあるけども、それを声高に言うのは自分では粋ではないと思ってるから、そう見せないようにしてるのかな。でもね、だからだと思うんだけど、音楽とか色々なものは僕、すべて完全にパーソナルなものだと思っているのね、だいぶ前から。だから人々が何をやろうが、たいして何とも思わないんですね。人がやったことに対して“それ作っちゃダメだよ”とか“なんでそんなものが?”って思うこ とはさ、パーソナルなものだと認めてないことでもあるじゃない?でもだからこそ、プロデュースの仕事にしろ自分の作るものにしろ、こういうものをやりたいからやる、っていうところは曲げないしさ」

--すべてはパーソナルなものだという音楽観を持つようになったきっかけみたいなものはあったのですか?

「多分、色んなものに対するアンチな気持ちがすごくいっぱいあったのを自分で整理して、そうじゃない状態を作ろうという、20代後半から30代ぐらいにかけての知恵だったような気が今はしますね。ネガティヴなものが前に出ると、作るものがよくなくなるんで」

--冨田さんの音作りには、いくら技術的に複雑なことや実験的なことをやっても、表面はあくまでもポップであるという特徴もありますが、これは意識的なものなのですか?

「複雑なハーモニーとかテクニカルな表現ていうのは往々にして分かりづらいとされることが多いじゃない?で、僕は根本にはそういったものをすごく抱えていると思うわけ。だけども、だからといってアンダーグラウンドでアヴァンギャルドな方向に行って、分かる人だけ分かればいいという風には全然思っていなくてさ。複雑なハーモニーであれテクニカルなリズミックな表現であれ、それらで高揚する自分がいるわけでさ。これはこんなに高揚するんだということをみんなに分かってほしいっていう気持ちが昔からあるからね。それがポップさにも結びついていると思うんだよね」

--となると、今回のライヴでも高揚感を出していきたいと?
「と思います。僕、音楽では高揚感てのが一番大事だと思ってるからね。高揚しっぱなし、ぐらいのものにはしたいです(笑)」

--特定のゲストだけを目当てで観にきても全体を楽しめるライヴになりそうですね。

「と思いますね。それぞれのヴォーカリストのファンのかただと普段自分が聴いてるのと全然違う音楽が目の前にあるかもしれないけど、必ず接点はあるはずだと思うんですよ。例えば、あのヴォーカリストが歌ってる曲がすごく良かったけど、こういう音楽の種類は何て言うんだろう?とか。そうやって興味が広がっていくのって、面白いじゃないですか。今は2000年代だけど、ポップスという範疇で考えただけでもすごくいっぱい種類がある中で、冨田ラボのコンサートとしては僕が良いと思ったものを時間軸や音楽ジャンルに関係なく抽出して聴いてもらおうと思ってるんで。そこからまた違う種類の音楽を好きになってくれればいいと思うし」

--選曲はどんな感じになりそうですか?

「基本的には2枚のアルバムの収録曲をやるんだけど、そこにプラスアルファも考えていて。もしかしたらだけど、この曲とこの曲を歌ってた人たちが一緒に出てきて何か別の曲をやるとかいうことがあるかもしれない。僕はその場でライヴ自体がどんどん発展していく余地があるもののほうが好きだからそういう状態を作りたいし、みなさんにもそれを楽しんでいただきたいですね」

--その場でしか体験できないミラクルが味わえるのを楽しみにしています。

「ライヴは本当そうだもんね。僕、あれが好き。すごいいいライヴってさ、終わって帰る時が本当に祭りの後っぽくない?あの感じ、いいよね。それが味わえるようなものにしたいですね」

インタビュー/小暮秀夫
撮影/井上治

オフィシャルサイト http://www.tomitalab.com/
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