ファンにはすっかり年末恒例となった「さとがえるコンサート」。
サポートは、昨年と同様、マーク・リーボウ(g), ジェイ・ベルロウズ (ds), ジェニファー・コンドス (b)という3人である。
ステージに登場した3人ともにグレー系の色のジャケットを着ていて、ジェイはネクタイまでしている。
地方の役場の職員のようなその堅実そうで地味な佇まいがかえって印象的で、しかも最後にひとり登場した矢野が飛び切り派手な衣装とヘアスタイルだったから、その不思議なコントラストがその後に披露される演奏の月並みでない個性を予感させた。
果たして、演奏は1曲目から高い緊張感をはらんで展開された。
そして、T・ボーン・バーネットがプロデュースした矢野の最新アルバム『akiko』はあの歴史的名盤『JAPANESE GIRL』を思わせるグルーヴ感が印象的だったが、そのアルバムのドラムとギターがサポート・メンバーであるこの日の演奏も当然その最新作と印象が重なるものになった。
フロア・タムを多用するジェイのドラミングと矢野の左手が繰り出すタイトなフレーズにジャニファーの過不足ないベース・ワークが絡んで生み出されるそのグルーヴは、土俗的なエネルギーを感じさせ、例えばDNAの記憶などと呼ばれるようなオーディエンスの無意識の最深部を刺激し、その内側から体全体をムズムズムラムラと揺り動かす。そうしたプリミティブな興奮はやはり矢野ならではのものだが、そこにいかにも抽象的なマークのギターが突き刺さり、矢野の右手が描き出す先鋭的なフレーズがエッジをつけると、その原初的な興奮はいっそう純化されていくかのようだ。
ここに至って、バンド・メンバーの匿名的なグレー系ジャケットと原色が目を引く矢野のコスチュームの対照が、朴訥としたグルーヴと研ぎすまされた曲構成が織り成すアンサンブルの妙に照応していることに気づくわけだが、おそらくはそうしたディテールよりも大きな音のうねりのなかに身を委ねることがこの日の正しいあり方なのだろう。少なくとも、矢野的にはそれが正しいはずだ。
SET LIST
1. Evacuation Plan
2. Missing And Dropping
3. 涙の中を歩いてる
4. Don’t Be Literary,Darling
5. When I Die
6. Good Girl
7. クリームシチュー
8. きよしちゃん
9. ほんとだね
10. 股旅(ジョンと)
11. ウナ・セラ・ディ東京
12. まなべよ
13. Nothing Ever Stays The Same
14. ラーメンたべたい
15. Whole Lotta Love
EN1. SAYONARA
EN2. ふなまち唄
矢野的と言えば、なんの説明もなく演奏を始めて「きよしちゃん、いい曲ね」と鼻歌然としたフレーズで繰り返した後で、最後に「雨上がりの夜空に」の一節を折り込んだ弔意の示し方も彼女らしくて、心にしみた。アンコールのMCで「青森に行きましょう」と生まれ故郷への旅を呼びかけたのも、彼女の音楽的なルーツへの回帰を感じさせたこの日のライブにはぴったりハマッていたと思う。
いつもながらのチャーミングなMCまで含め、隅から隅まで矢野フレイバーに満ちあふれた、彼女にしかできないライブだった。
L→R Jay Bellerose(ds) Jennifer Condos(b) Akiko Yano(pf, vo) Marc Ribot(g)