渋谷公会堂物語 第11回 語り手:望月展子(ぴあ株式会社)“雑誌編集者という立場で体感した1980年代以降の東京の移り変わり”

コラム | 2019.02.13 11:30

“音楽と演劇の街”として渋谷がクローズアップされ、音楽の分野の一つの象徴として渋谷公会堂があったんだと思います

──そうした音楽ビジネスが大きくなっていく流れや渋谷という街の盛り上がりに対して、ぴあ自体は、80年代のどのタイミングで、どういうふうに反応していったんでしょうか。
チケットぴあというサービスが始まったということは音楽がウチのビジネスとして大きな割合を占めることとイコールなんです。それまでは“映画のぴあ”だったと思うんですが、でも映画の場合は「発売日に絶対チケットを手に入れないと…」みたいなことが当時はほとんどなかった。1984年にチケットぴあのサービスが始まって、ライブ・エンターテインメントにビジネスの焦点が当たってきたなかで、その結果として、“音楽と演劇の街”としての渋谷がクローズアップされてきたということだと思いますし、音楽の分野の一つの象徴として渋谷公会堂があったんだと思います。
──いま話してくださったような音楽シーンや渋谷という街を取り巻く大状況があってレベッカやBOØWYの伝説的なライブが生まれたんでしょうか。あるいは、素晴らしいライブがまずあって、それを大状況が伝説化したということでしょうか。その辺りの因果関係については、どういうふうに思われますか。
どうなんでしょうね?いま言われた両方とも当たっているような気がしますが、ただ渋公を伝説のホールにしたのは間違いなくBOØWYですよね。私は、あの87年12月のライブのとき、渋公にいたんですけど、あの時点ですでに“渋公はロックの聖地”というようなイメージがありましたから、そこでBOØWYがああいうライブをやったから、いよいよ伝説化されたんだと思います。
──さっき話に出た「ぴあmusic complex」の創刊号はその2年後に出るわけですが、その頃には渋谷はまさにmusic complexにうってつけの街だったですよね。
そうですね。ニューヨークから戻ってきた佐野元春さんの活動や、坂本龍一さんたちの活動もありましたし、マルタン・メソニエたちを発端としたパリ経由のアフリカ系やカリブ系の音楽が注目されていわゆるワールド・ミュージックのブームが起こったりして、“るつぼ的な東京カルチャーは面白いなあ”ということはすごく感じていましたし、その中心はやはり渋谷だったと思います。

1987年10月17日 公園通り風景(提供:渋谷区)

──ところが、90年代に入ると、かつては公園通りの坂を上っていくことに重ね合わされたバンドのサクセス・ストーリーの展開の仕方が変わってきますよね。
一足飛びというか、すごく早くなりましたね。
──そのことを最初に感じたのは、どんな場面ですか。
イカ天(『三宅祐司のいかすバンド天国』)、ホコ天ですかね。イカ天で人気者になったと思ったら一気に武道館とか、ホコ天からいきなり武道館とか。先輩方から見れば、前の時代もかなりチャラチャラして見えてたかもしれないですが(笑)、それでもちゃんと手順を踏んで成り上がっていく、という感じがあったと思うんです。でも、90年代になると、そういうこと無しにいきなりポン!みたいな感じのスター・システムがあったような気がします。
──90年代に入ると、音楽の内容自体も変わってきたと思うんですが、望月さんのなかで90年代の音楽シーンというと、どういうアーティストが思い浮かびますか。
小沢健二とか…。小沢さんの渋谷公会堂公演は、私の“思い出の渋公”のひとつですね。ツアーではなくて渋公しかやらなかったんですけど、川端民生さんと渋谷毅さんと3人でのステージで、アルバム『球体の奏でる音楽』(96年)の曲だけでなく、ヒット曲もジャズ・アレンジでやったんですよね。
──96年ということは“渋谷系”華やかりし頃ですが、このインタビュー・シリーズにも登場していただいた田島貴男さんのオリジナル・ラブが渋谷公会堂のステージを回したりしましたよね。
あれも、インパクトのある渋公ライブでしたよね。しかも、ドリフみたいにステージが回って、出てきたメンバーがベロアかなんかのパンタロンで、“かっこいいなあ。センスいいなあ”と思いました。遊び感覚もあって、ちゃんとおしゃれでっていう。
──小沢健二やオリジナル・ラブがそういうことをどれくらい意識していたかわからないですが、ちょっと違う見せ方で「ロックのかっこよさって、こういうのもあるよね」と言いたくなるくらい、80年代後半から90年代始めの時期に、ロック・バンドの活動がかなりパターン化というかビジネス的にフォーマット化された側面もありますよね。
90年代の後半になるとTKブームになりますけど、それまでの時期にそうした多種多様な音楽や活動があった上でのTKブームという流れもあると思いますね。
──その90年代を通してチケットぴあのサービスもどんどん進化していき、音楽ファンの立場からすると、オンラインでチケットを予約して手に入れるということが普通になっていったわけですが、そういう状況の変化が音楽自体、ライブ自体の在りように何か影響を及ぼしたでしょうか。
う〜ん…、その質問の答えにはなっていないかもしれないですが、ぴあで長く雑誌を作ってきた立場からすると、80年代には「ぴあ」に対して「シティーロード」というライバル誌があって、音楽を始めいろんなカルチャーの情報を「ぴあ」は網羅的に扱うのに対して「シティロード」はかなりマニアックに選択して紹介する、というところで競い合っていました。それが90年代に入ると、ラーメン特集で「Tokyo Walker」と競い合う、みたいなことが多くなって、つまりカルチャーからエンターテインメントに言葉も変わり、しかも「シティーロード」との比較で言えば「ぴあ」はポップというイメージだったと思いますが、90年代の「Tokyo Walker」と「ぴあ」を並べると、むしろ「ぴあ」のほうがマニアックというイメージになってて、それくらいユーザーの気持ちも変わってきてるなということは当時感じていました。

「ぴあ」は、カルチャーやメディアを複合・立体化し、お客様に場を提供する、という使命感はずっと変わっていないです

──なるほど。そこで話は今に飛ぶんですが、昨年11月に本創刊された「ぴあ」(アプリ版)を拝見すると、情報の網羅性やチケットサービスとの親和性の高さ、それに様々なジャンルのカルチャー情報を分け隔てなく楽しめるといったことまで含め、まさに雑誌の「ぴあ」、そして「ぴあmusic complex」の流れを引き継いだ21世紀版だなと思いました。
確かに、私の仕事としてはずっと同じというふうに言えるかもしれないですね。つまり、カルチャーやメディアの複合・立体化ということ、それからお客様に場を提供するという使命感はずっと変わっていないです。
──この「ぴあ」(アプリ版)を使ってライブに出かける人たちの間にまた新しい伝説は生まれるでしょうか。
伝説の内容にもよりますが…、でもかつての伝説とはまた違う形の伝説が生まれるのではないですか。だって、80年代、90年代とは違う形のスターは生まれているわけですから。
──そして、今年は新しい渋谷公会堂もオープンします。
それこそ、LINEが渋谷公会堂のネーミング・ライツを持ったということが新しい時代を象徴していると思いますね。
──それは、渋谷公会堂というライブの現場もインターネットやバーチャルの世界と地続きの表現空間になっていくということでしょうか。
そうだろうと思います。現代のインフラはそれがデフォルトです、ということになるんでしょうね。で、現代の10代に新しい渋谷公会堂がインプットされるのは、自分の家でネットを通じて体験したライブだったりすることになるかもしれませんね。
──現場に出かけて行って体験する、というのではなくて?
それも現場になるというか、現場の概念が拡張されるということなのではないかと。だから、「足を運ぶ」というのも何をもってそう言うのか?みたいなことになっていくんだと思います。「情報を発信して、人の行動を喚起しましょう」というのが、ぴあに入った当時、私たちが叩き込まれたことでしたし、だから今原稿を書く時も写真を撮る時もそのことは常に意識していることなんですが、その喚起する行動の行き先が以前よりも多様になるんでしょうね。
──最後に、新しい渋谷公会堂に対する期待と希望を聞かせてください。
どうなるんでしょうねえ…。“ロックの聖地”みたいなイメージは今の時代にはそぐわないのかもしれないですけど、それにしても私たちにとってはずっと変わらず心の聖地だと思いますし、私も今は渋谷区民なので、渋谷区民としても使い勝手のいいホールになってほしいなと思います。

INFOMATION

「ぴあ」(アプリ)のご案内

ぴあ

映画、ステージ、アート、音楽、クラシック、イベント&フェスタの、網羅的な開催情報、ニュース、エッセイ連載など、情報誌「ぴあ」で掲載していた各種コンテンツ・機能をひとつのアプリに凝縮したアプリです。自分の「みたい」「みた」をすべて登録できる「マイノート」機能や、評論家や専門家をはじめとしたエンタメの目利き&ツウがいまみるべき1本をオススメしてくれる「エンタメ水先案内」等、情報の探しやすさだけでなく、「偶然の出会い」「検索ではたどり着けない出会いと発見」を提供しています。

 

ぴあ

[写真左]「今からぴあ」今日のTOPICSを一覧で紹介
[写真右]「水先案内人」エンタメの目利き・ツウが100人以上参加しているコーナー、「いまみるべき1本」を毎日教えてくれる

ぴあ

[写真左]「クリエイター人生」松任谷由実、荒木経惟、倍賞千恵子、塚本晋也などによる連載
[写真右]数多くの作品/公演情報の中からリマインダー(「みたい」リスト)やエンタメダイヤリー(「みた」リスト)をチェックひとつで作成

ぴあ

「はみだしYOUとPIA」思わぬところから出てきますので、どこにあるか探してみてください!

  • 兼田達矢

    インタビュー

    兼田達矢

SHARE

関連記事

イベントページへ

最新記事

もっと見る