兵庫慎司のとにかく観たやつ全部書く:第59回[2020年7月前半・観た配信ライブ全部書く]編

コラム | 2020.07.25 19:45

イラスト:河井克夫

 音楽などのライター、兵庫慎司が、主に音楽のライブやイベントやフェス、時々演劇やお笑いやプロレスなどの、生で観たエンタテイメントすべてについて、ひとことレポを書いてアップしていく連載です。
 2020年2月末以降、新型コロナウイルス感染拡大防止のために、ライブ等が自粛されるようになってからは、「配信ライブを観て書く」という形で続けているのですが、最近、それらが週末に集中する傾向がいよいよ強まり、全部リアルタイムで追うのがなかなかハードになってきました。以下、2020年7月3日から16日までの間に観た、5本のレポです。

7月3日(金)20:00 安部コウセイvs小山田壮平 @渋谷某所/Streaming+

 コンサート制作会社セブンスソフトハウスによる、有料生配信ライブイベント『SEVEN’S UTOPIA』の1回目で、HINTO/SPARTA LOCALSの安部コウセイと小山田壮平が弾き語りで共演。
 イープラスのプラットフォーム、Streaming+で生配信。チケット代は2,000円、7月5日の22時までアーカイブ視聴が可能。さらに7月17日にはHINTO/SPARTA LOCALSのレーベルcat fish labelのYouTube公式チャンネルに、アンコールのうちの1曲がアップされた。
 知人のライター鈴木淳史が書いたオフィシャル・レポートが、SPICEにアップされているので、詳しくはそちらをどうぞ。
SPICE:安部コウセイ×小山田壮平、弾き語りによるオンラインライブ『SEVEN'S UTOPIA』のオフィシャルレポート到着
 私的には、まず先攻の小山田壮平、8月26日リリースの初のソロ・アルバム『THE TRAVELING LIFE』の収録曲をばんばんやってくれたのと(というか、そもそも前からライブでやっていた曲をレコーディングした、という順番だろうけど)、andymoriの名曲の数々もどんどんやってくれたのが、素直にうれしかった。
 後攻の安部コウセイは、後半の「ここからSPARTA LOCALSブワーッとやります」と言ってからのエンジンのかかりかたが、ちょっと「マジか!」と言いたくなるくらいすごくて、目を見張った。
 アンコールはふたりでセッション、andymoriの「革命」とSPARTA LOCALSの「トウキョウバレリーナ」の2曲。前者は主に安部コウセイが歌って、後者は小山田壮平がちょっと多めに歌う、というサービスにも、とても得した気持ちになりました。さっき書いたように、後者がYouTubeに上がっているので、貼っておきます。

安部コウセイ×小山田壮平『トーキョウバレリーナ』

7月11日(土)19:30 くるり @京都磔磔/LIVEWIRE、PIA LIVE STREAMING

 スペースシャワーが立ち上げたオンライン・ライブハウス『LIVEWIRE』での生配信で、1回目は7月5日のカネコアヤノ、2回目がこのくるりの京都磔磔ライブ。ライブの動画配信のみのチケットは前売2,500円/当日3,000円。中止になった2020年春のツアーのリハを追った『[特Q]ツアー リハーサルの記録』という約30分のドキュメント映像も観れるチケットが、前売3,000円/当日3,500円。なお、『[特Q]〜』を単独で買うと500円。ライブ生配信後も、7月14日23:59までアーカイブ視聴が可能、という料金設定だった。
 ライブは、岸田繁、佐藤征史、ファンファンのメンバー3人の他、ドラムBOBO、ギター松本大樹、キーボード野崎泰弘、という布陣。BOBOと野崎泰弘はフロアの両端で、他の4人はステージでプレイ。
 最初、岸田繁がハンドマイクだったので「お!」と思ったら、やはり、2010年代のくるりが放った鬼名曲「琥珀色の町、上海蟹の朝」(2016年リリース)が1曲目、という、うれしいスタート。以降、2曲目「鍋のなかのつみれ」と3曲目「麦茶」はファンファンと松本大樹がはけて4人で演奏、4曲目の「温泉」からは野崎もいなくなって岸田&佐藤&BOBOの3ピースでプレイ、6曲目「東京レレレのレ」からはファンファンが戻って4人になり、7曲目「キャメル」8曲目「ブレーメン」9曲目「宿はなし」はBOBOがはけてメンバー3人のみになる。で、10曲目「Liberty&Gravity」では、全員が戻って6人になり──。
 というふうに、曲によって演奏参加人数が変わっていく、だから演奏の質感や響きもそれに伴って変わっていく、なんというか「音の物語性」みたいなものに満ちたライブだった。
 にしても、今さら言うことじゃないけど、つくづく、とんでもない演奏。画面越しでもすごいグルーヴ。バンドっていいなあ、などというあたりまえなことを、改めて感じた。
 14曲目の「奇跡」が終わったところで岸田、「あと2曲やる予定やったけど、しゃべりすぎてギリギリになりました」。で、「じゃあ最後の曲です!いいんじゃないですか、これが最後の曲で」と言って突入した「everybody feel the same」、選曲自体も演奏のものすごいダイナミズムも含め、確かに最後にとてもふさわしかった。
 曲が終わって岸田、「20時59分!間に合った!(BOBOに)テンポ上げてくれたもんね!さすが!」。京都磔磔の音止めって、厳格に21時なのです。確かに、蔵を改装した(というかほぼ蔵のままの)ハコなので防音に限界あるだろうし、場所は普通の住宅街だし、よくここでライブハウスやれるなあ、と、初めて行った時、思ったものです。

7月11日(土)21:00 teto @新代田FEVER/Streaming+

 シングル『4(for)prologue.』のリリース記念ライブで、新代田FEVERから無観客有料生配信。イープラスのStreaming+で配信、チケット代は2,000円で、7月19日の22:00までアーカイブ視聴可能。
 FEVERのフロアを使い、4人向かい合ってのステージ。1曲目の「invisible」が始まった瞬間に、思わず「うわ、すげえ」と口に出して言ってしまったほどの、もんのすごい勢いの音。tetoの場合、生のライブだと爆音すぎて音の細かいディテールが聴き取りづらい時もあるが、配信だと全部の楽器がクリアにきこえてくるし、歌詞もヒアリングしやすい。ハイスピードで切り替わる、そして何かっつうとボーカル&ギター小池貞利を「何もそこまで」と言いたくなるくらいアップで映す、荒々しいカメラワークもいい。
 2曲目に「拝啓」、3曲目に「奴隷の唄」をやり、4曲目に「市の商人たち」を歌う前に、小池貞利はMCをはさんだ。47都道府県のツアーの途中でコロナウイルス禍でこんなことになってしまった、ほかのアーティストはすぐ配信ライブを始めていたけど自分たちはそういう切り替えができなかった、じゃあどうするかと考えて、すぐ新曲を届けたいと思った、本も作りたいと思った、それをやってから「じゃあ配信ライブ、やってみるか」ということになった──と、ここまでの活動を説明。
 にしても、tetoみたいなバンドって、配信でライブを観ても「ああ、生で観たいよなあ」という思いが募るばかりなのでは、と、始まる前はちょっと思ったのだが、必ずしもそんなことないんだな、こういう直球なライブ・バンドでも「配信だからできる見せ方、聴かせ方」ってあるんだなあ、ということがわかる、そんなステージだった。いや、もちろん、生で観たくなったけど、それだけじゃなかった。ちゃんとそういう配信にしていたスタッフの力だと思う。
 あ、スタッフで思い出した。ライブの前に、tetoのライブ制作のエイティーフィールド青木さんが、スマホを見ながら前説したんだけど、声が全然きこえない、なんだろう、と思っていたら、30秒近くしゃべってからマイクのスイッチが入っていないことに気がつき、右手でスイッチオンして改めてしゃべり始めたのには、死ぬほど笑いました。

7月12日(日)19:30 星野源 @渋谷クラブクアトロ/ZAIKO

 ソロデビュー10周年を記念して、『Gen Hoshino’s 10th Anniversary Concert“Gratitude”』と銘打って、10年前にソロとして初めてのライブを行った7月12日に、同じ渋谷クラブクアトロで収録したライブを配信する、という企画。を、星野源が行うことを知った時、「あ、その10年前のクアトロ、観たわ。で、レポかなんか書いたわ」と思い出し、そのレポを探してみたらあったので、ツイートした。そしたらたちどころに2,000を超える「いいね」が付いて、今の星野源の人気のすさまじさを、改めて実感しました。
 そのレポ、これです。
rockinon.com:星野源 @ 渋谷クラブクアトロ
 で、今回のこの無観客ライブはZAIKOで配信、チケット代は3,500円+手数料。プラスで送料を770円払えば、紙のチケットを送ってもらえる「“最前列”チケット付き視聴パス」も販売された。なお、配信時の前半、アクセスが殺到して一時的にログインしづらい状況になったことを受けて、アーカイブ配信は、7月19日23:59まで延長された。
 で、クアトロのフロア部分にメンバーと円状に向き合って立ち、その周囲をおびただしい量の照明やカメラが囲む状態で行われた、ライブそのものに関しては、とっくに数多くの音楽サイトでレポがアップされているが、基本的に「10年前をトレースします」というものではなかった。
 10年前のファースト・アルバム『ばかのうた』収録曲の「老夫婦」なんかもやったが、最新アルバムのタイトル・チューン「Pop Virus」で始まり、「地獄でなぜ悪い」「桜の森」「Crazy Crazy」「SUN」「恋」などの、星野源の活動の中でポイントになった重要な曲を次々とプレイしていって現在へ辿り着き、最新曲である「折り合い」と「うちで踊ろう」もライブで初披露する、という、これまでと現在と未来をギュッと圧縮して観せるようなライブだった。まさに、18曲があっという間。照明やカメラワーク等が、無観客仕様、つまり普段のライブだとできないフォーメーションになっていたのも、とても効果的だった。というかそもそも、無観客じゃなきゃクアトロみたいな小さなハコでできないだろうし、今の星野源。
これ、後日、DVDとかでパッケージでリリースされる予定、あるのかな。出してほしい。手元に持っておきたいです。

7月16日(木)19:30 キュウソネコカミ @梅田Shangri-la/Streaming+

 結成10周年がコロナ禍とぶち当たってしまったことを「あー!!ツイてない!!」と(オフィシャルサイト等で)嘆いているキュウソネコカミが、『電波鼠-梅田シャングリラから生放送!!ライブ&アフタートークもあるよっ-』と銘打って行った、初の生配信ライブ。プラットフォームはStreaming+、チケットは2,500円、7月23日までアーカイブ視聴可能。あと、7月19日には、メンバーがそれに副音声を付けて公開、というサービスもあった。なおキュウソ、ライブは4ヵ月半ぶり、だったのだが。
 回線トラブルでスタートが派手に遅れた。一時はバンドのアカウントから「20:30を目処に開始の可否を判断させて頂きます」というツイートが流れたので、かなり深刻なトラブルだったのだと思う。
 で、結局、1時間ちょっと遅れでスタート。前説担当のFM802の人気DJ、飯室大吾(元ディスクガレージ社員)が、遅れたことを平謝りに謝った後、カメラがシャングリラのロビーから中に入ると、キュウソの5人がフロアに円状に向き合っている。「止まるなー!止めるなー!全国のバンドマン、生配信は危ないぞー!」とヤマサキセイヤが叫び、「ビビった」でライブが始まった。メンバー、延々と待ってくれていたみなさんに対する申し訳ない気持ちと、「取り返さねば!」という焦り、あと久々のライブであるという緊張、しかしそれゆえのうれしさ、などが脳内でごっちゃになってスパーク、みたいな状態なのか、しょっぱなからなんだかもう、すっごいテンションである。音も、それぞれの表情も。続く「良いDJ」では、フロアのまんなかの部分の床がグリーンバックになっていて、そこに(この曲だったら)ターンテーブルなどの映像が映し出される、という演出が仕込まれていることがわかる。
 最初のMCでヤマサキセイヤ、「待ってる間のチャット(のファンの声)が優しくて、ヤバかった。20時になった時、俺、涙ホロリの時間があったのよ、でもその時にチャットに救われた」と、感謝の気持ちを伝える。
 以下、「推しのいる生活」「邪邪邪 VS ジャスティス」「スベテヨシゼンカナヤバジュモン」「ファントムヴァイブレーション」「ギリ昭和」までやって、「一回ちょっとまったりしゃべりませんか?」(byヨコタシンノスケ)と、全員バーカウンターへ移動。しばしトークしてから(ここでもセイヤ「ほんまに怖かった! ほんまにチャットに救われた」と感謝)、「ここで休憩入れたのは理由があるんですよ。新曲をやります!」と発表。
 セイヤ曰く「自粛期間に唯一俺らが作った新曲」で、仮タイトルは「3 minutes」。シンノスケ曰く「3分ちょうどで曲を終わらす」という趣旨だそうです。セイヤ、「なんかきいたことあるな、それ」。で、曲が始まると、画面に秒数のカウンターが出た。そして、本当にきれいに3分で終わった。「3ミニッツ」と「三密=密集密閉密接」をかけた、切実でシリアスで素敵な歌詞の曲でした。
 その後、「おいしい怪獣」を経ての「DQNなりたい、40代で死にたい」では、中盤の「ヤンキーこわい」のところで、床のグリーンバックに、両手を挙げたお客さんたちを映す、という演出。セイヤ、「本来、この上に乗りたかってんけど、踏むの悪いなと思って。こんな機会やから、ファンをまといたい」と、グリーンバックの布を羽織ってハシゴに上り、天井のミラーボールを触る、というパフォーマンスを見せる。
 そして「ハッピーポンコツ」「The band」の二連発で終了。その後は、またバーカウンターに移動して乾杯したり、グッズを紹介したり、飯室大吾を呼んで感想を訊いたり、というトークのコーナーが、しばし続く。
 で、このあとさらに、アンコールあり。セイヤがグリーンバックの全身タイツを着て床に寝転がり、身体を映像と同化させながら、アマチュア時代の代表曲「困った」を歌う、というもの。何かもう、大笑い、なおこの曲、中盤で「社会のしがらみ」と書かれたダンボールにセイヤがダイブしてつぶす、というのが昔からの恒例なのだが、セイヤ、それをグリーンバック全身タイツで決行。シンノスケ、「なんか、可能性を見た!配信ライブの可能性を!」と、大いに称賛したのだった。

  • 兵庫慎司

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    兵庫慎司

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