兵庫慎司のとにかく観たやつ全部書く:第107回[2022年5月後半・THE 2、SPRINGMANとハイエナカー、阪神×楽天、ウルフルズ、DOPING PANDA、GLIM SPANKY、『ドライブインカリフォルニア』、フラワーカンパニーズとSaToMansionなどを観ました]編

コラム | 2022.06.10 17:00

イラスト:河井克夫

 音楽ライター兵庫慎司が、生もしくは配信で観た、基本は音楽のライブ、時々演劇やお笑いやプロレスなどのすべての短いレポを書く連載の107回目=2022年5月後半編です。月2回アップの連載ですが、2月・3月・4月はライブの数が多かったので、月3回に増やし、この5月から月2回に戻したのですが、結局、前半7本、後半9本の計16本になり、やっぱり3回に分ければよかった、と思っています。

5月18日(水)19:00 THE 2 ゲスト:フレデリック@渋谷CLUB QUATTRO

 リズム隊のふたりがバンドを去って活動が止まっていたが、ベースに元Shiggy Jr.の森夏彦、ドラムに元赤い公園の歌川菜穂が加入した新体制で活動を再開、バンド名を「2」から「THE 2」に改め、4月13日に山口一郎(サカナクション)がトータル・プロデュースを手掛けた新曲「恋のジャーナル」を配信リリースすることを、2022年2月22日に発表。これ以上きれいなゾロ目、200年後までないですね。
 そんなTHE 2が、渋谷CLUB QUATTROで対バンを迎えて行った3デイズの3日目が、この日。初日はOKAMOTO’S、2日目はハルカミライ、そしてこの3日目はフレデリックが共演した。
 で。ライブ巧者なフレデリックのステージもすばらしかったが、この日は、自分としては、なんと言ってもTHE 2のインパクトにやられた。って、フレデリックは『OTODAMA’22』で観たばかりだったので、というのもたぶんあるが、それにしてもTHE 2、本当に新しいバンドに生まれ変わっている。古舘佑太郎個人も、新しい人に生まれ変わった、とまで言ってもいいかもしれない。
 とにかく必死で、常に切迫感に満ちているそのさまが、シリアスにもコミカルにも見えるんだけど、それが「もうどう見えてもいいです!」みたいなふっきれ具合込みで、エネルギーを放っている気がする。で、それがとてもチャーミングに映る。
 このライブの直前に、歌川菜穂が6月から産休に入ることが発表になった。つまり、新体制でリスタートしたと思ったら、すぐひとりがすぐ休む、ということになったわけだが、事情が事情だし(めでたいことだし)、そんなようなバタバタ感も含めて、なんかもう全部あり、今のこのバンドの勢いなら! と、思う。

5月19日(木)19:00 SPRINGMAN、ハイエナカー、宇宙団、メレ@下北沢THREE

 ユニコーンのサード・アルバム『服部』に感銘を受けて自らの名前を「はっとり」にしたマカロニえんぴつはっとりの次は、ユニコーンの(1993年に解散する直前に出た)ラスト・アルバム『SPRINGMAN』を名乗るバンドが現れた。ということを、数ヵ月前に知り合いから教えられた。その後、5月8日(日)の『OTODAMA’22』の終演後に楽屋エリアで奥田民生に出くわして、ちょっと話したら、OTもそのバンドの存在を知っていた。
 で、そのSPRINGMANを僕に教えてくれた知り合いがやっている『ゴガツハズカム』というイベントに、彼らが出ることを知った。しかも、ハイエナカーも出る。元ヘンリーヘンリーズ→現ハイエナカーの村瀬みなと、6〜7年くらい前に、よくフラワーカンパニーズのライブに来ていて、うっすら面識があったけど、ライブはずいぶん観ていない。
 なので、行った。全部で4バンド出演、トップがハイエナカーで、3番目がSPRINGMAN。ハイエナカーみなと、昔はざっくり言うと初期エレファントカシマシやフラワーカンパニーズ等の影響を受けた、ハードでブルージーなロックンロールをやっていたのだが、もっと歌をしっかり聴かせる、沁みるし刺さるメロディと言葉を届ける音楽性に、変わっていた。
 で、初めて観たSPRINGMANは、ボーカル&ギター、ベース、ドラムの3ピース(あとで調べたら、ボーカル&ギター荒川大輔以外のふたりはサポートらしい。そのへんハイエナカーも同様)。で、『SPRINGMAN』の頃のユニコーンというよりも、ソロ奥田民生の影響が色濃い感じ、ギター・リフの豪快さとか、「吠える」と「脱力」が共存する歌い方とか、コードへの歌メロをのっけ方などが。こういう影響の受け方している人、意外とあんまりいなかったかも。
 メレと宇宙団も、「え、こんな方法あるのか」と、ちょっとハッとするほど個性的だった。ヒットチャートでは、バンドは衰退しているとか言われて久しいけど、ライブハウスの現場からは、新しくておもしろいものが次々と生まれていることを体感した。

5月21日(土)15:00 ウルフルズ@大阪・万博記念公園もみじ川芝生広場/WOWOWプラス

 ウルフルズが、万博記念公園で行ってきた野外巨大ライブ『ヤッサ!』、4年ぶりに、デビュー30周年を記念して開催。タイトルは『ウルフルズ 30th Anniversary Special Live OSAKAウルフルカーニバル ウルフルズがやって来る! ヤッサ! やります! 30曲 Ⅴ』。
 で、15時に開演し、4時間をかけて、本編29曲、アンコール3曲の全32曲を披露した。全体にMCを多めに入れていたのと、14曲終わったところでいったん休憩時間を設けたのが、4時間という長尺になった理由。
 30年間やり続けてきたこと……いや、活動休止していた期間もあったし、一回脱退して数年後に戻ってきたメンバーもいるので、「やり続けて」は、いないか。でも、そんないろいろな紆余曲折ありながら、30年後の今もこうして活動できていること、現在もこんなに集まってくれるファンがいること(ソールドアウトだった)、今もコロナ禍なのにこうして開催できたこと(メンバーはもちろんスタッフに感染者が出てもアウトなので)など、もうあらゆる意味で「やれてよかった!」「この日を迎えられてよかった!」という思いでメンバーは感無量、それを共有してオーディエンスも感無量。
 おまけに暑いくらいの快晴、天気にも恵まれた。という、言ってしまえば「よくなくなりようがない」状態で行われたライブだった。で、実際、それはもうすばらしい時間になった。
 トータス松本、ジョンB、サンコンJr.のメンバー3人のほか、ギターはおなじみ桜井秀俊(真心ブラザーズ)と、2014年の再始動以降ウルフルズのレコーディングに関わってきたプロデューサー菅原龍平。キーボードは伊東ミキオ。で、全体の半分くらいに、サックス武嶋聡、トランペット村上基、トロンボーン滝本尚史のホーン隊が加わる。
 あと、要所要所に総勢40人の「ヤッサダンサーズ」(地元の学生ダンサーのみなさん)が登場、ド派手にステージを盛り上げる。なおトータス、『ヤッサ』を始めた頃は34歳だった、その頃のダンサーたちと自分たちの年齢差と比べて、今の年齢差は……みたいなMCをする。まあそうよね、今は、自身のお子さんよりも全然下だったりするでしょうしね。
 本編のラストに「バンザイ V」をやる前に、「歌いながら、いろんなことを、思い出したり、考えたり。こんな『ヤッサ!』は初めてでした」と、トータスは言った。
 で、アンコールの「ガッツだぜ!! V」で、例のMVのお殿様の格好で登場して歌い、あの「一回死んで生き返る」くだりも、しっかりやって盛り上げた後、「この格好に恥じないように、幾つになってもこの格好ができるように、精進します!」と宣言した。で、「まだやってないのが1曲だけある!」と、ラストの「それが答えだ! V」に入った。

5月22日(日)17:00 DOPING PANDA@Zepp Haneda/CSテレ朝チャンネル2

 DOPING PANDA、全部で4本の再結成ツアー「DOPING PANDA ∞THE REUNION TOUR」のファイナル。前日のウルフルズ『ヤッサ!』に続き、こちらもいろいろ感無量なライブだった。
 Rolling Stone Japan Webにレポを書きました。こちらです。
 ≫ Rolling Stone Japan Web:DOPING PANDAが再結成ツアー完走 10年を経て奏でた音「今日の終わりは、始まり」

5月24日(火)18:00 阪神タイガース×楽天ゴールデンイーグルス@甲子園球場/カンテレ/CSスカイA/MBSラジオ/ABCラジオ 等

 9月23日(金・祝)に、フラワーカンパニーズが6年ぶりに日比谷野音ワンマンをやる、その宣伝でぴあWEBにインタビューをアップしたいから、神戸まで来てほしい。という依頼があった。
 フラカンは、その前にライブとレコーディングで10日ぐらい九州にいて、5月23日(月)にハイエースで神戸に移動して、25日(水)に神戸VARIT.でツアーファイナルのライブをやり、その翌日に東京に戻る、というスケジュール。
 で、戻ったら戻ったで、グレートマエカワが真心ブラザーズのサポートで四国に行ったり、その翌日にFEVERでライブがあったりして、かなりドタバタなスケジュールになって、締切に間に合うようインタビューの時間を取るのが難しい。しかし神戸は、24日(水)が丸々空いているので、そこでやるのが都合がいい、という事情。で、じゃあ行きますよ、どっか行くの大好きだし、と、神戸まで行って、16時から4人のインタビューをした。
 で、インタビューと撮影が終わったら、グレートが「これから甲子園球場に行く、阪神対楽天を観る」と言う。バンドのスタッフでありカメラマンでもある吉田さんは、ファンクラブの会報に載せるグレートの写真を撮りに、付いて行くという。グレート、僕とぴあ編集者に「一緒に行かん? マーくん(田中将大)が投げる日だよ?」。
 宿で仕事をしようと思っていたのでちょっと迷ったが、甲子園、行ったことがない、今日を逃すと一生行かないかも、と思い、行くことにした。ぴあ編も「行く」。それをきいていたギタリスト竹安堅一が「あ、じゃあ僕も行こうかな」。
 というわけで、総勢5名で、三宮から甲子園まで阪神電車に乗って、観に行った。最終的に1対0で阪神が勝利。両チームともミスや緩みが皆無の締まった試合で、とてもおもしろかった。あと、球場のスタンドで、初夏の夕暮れに飲み食いしながら観戦を楽しむ、という行為自体が久々で、ちょっとしみじみもした。
 しかし野球場、ジェット風船や声を出してのコールは禁止されていて、一応みなさんそれを守っているんだけど、選手が打ったり投げたり走ったりした時に湧き上がる「おおおっ!」というどよめきとかは、全然野放しなのね。たぶん今、すべてのエンタメの客で、いちばんシビアに感染予防マナーを守っているのは、ロックファンだなあ、とも思った。

5月25日(水)19:00 フラワーカンパニーズ@神戸VARIT.

 で、その翌日、フラワーカンパニーズのツアー『三十三年連続BOP』のファイナル。「絶賛公開中」や「行ってきまーす」といった最新の曲から、「寄鷹橋サンセット」「深夜高速」「なんとかなりそう」あたりの昔の曲まで散りばめつつも、全体にはここ5年くらいの、新しめの曲が多いセットリスト。
 しばらくライブでやっていなかったのが、このツアーからまたやるようになった「真冬の盆踊り」を、この日も後半に投下、フロアの温度が恐ろしく上がる。本来のキャパよりも上限を抑えているが、それでもいい感じで埋まっているし、見たところコロナ禍でのライブに慣れているお客さんが多いようで、VARIT.というハコまるごとでグルーヴが生まれているような、そんな幸福な時間だった。

5月28日(土)18:00 GLIM SPANKY@日比谷野外大音楽堂/uP!!!オンラインライブ

 GLIM SPANKY、5年ぶりの日比谷野音ワンマン。ベースは栗原大でキーボードは中込陽大、そして音源では叩いていたドラマー福田洋子が、この日ライブに初参加。2015年に初めてフジロックに出た時、会場を観て回っていて、BOOM BOOM SATELLITESで叩く彼女を観て「あの人にやってほしい!」とレコーディングのオファーをした、そして今回ライブにも参加してもらえた、と亀本寛貴が説明する。
 「アイスタンドアローン」で始まり、「褒めろよ」「愚か者たち」「怒りをくれよ」「大人になったら」等を経て、アンコールを「ワイルド・サイドを行け」で締める全19曲。松尾レミの弾き語りで始まった「大人になったら」はメジャーからのファースト・アルバムの曲だが、7年前以上に今の方が、より切実なものが伝わってくる気がした。
 アンコールでは、サントリー角瓶のCMで流れている「ウィスキーが、お好きでしょ」を聴かせ、このあと24時から配信がスタートする、とお知らせして、新曲「形ないもの」を初披露。「形ないもの」はニューアルバム『Into The Time Hole』のリード曲。その『Into The Time Hole』が8月3日(水)にリリースされることと、11月〜12月にそのリリース・ツアーを行うことも、この日発表になった。

5月29日(日)13:00 『ドライブイン カリフォルニア』@下北沢本多劇場

 1996年に初演、2004年に再演された、松尾スズキ作・演出の『ドライブイン カリフォルニア』の再々演。東京は5月27日(金)に始まり(そのあと大阪もある)、僕が観たこれが3公演目だった。
 阿部サダヲ、麻生久美子、皆川猿時、猫背椿、小松和重、村杉蝉之介、田村たがめ、川上友里、河合優実、東野亮平、谷原章介、以上11名が出演。
 僕は、1996年の初演は逃し(まだ大人計画を知る前だった)、2004年の再演は間に合った。なお、3回とも出演している田村たがめは、初演も再演も今回の再々演も、同じ役。12〜14歳の少年、ユキヲを演じた。すごいですね、1996年も2004年も2022年も同じ役って。26年経っとるがな。何の違和感もなかったし、観ていて。
 にしても。松尾作品に常にある「人の生き死に」というテーマを、キャッチーで開かれた形で描くことに、特に大成功している例かもしれない、この芝居。と、2004年に観たことを、また思った。あと、2004年の時から変えてあるギャグがおもしろいのはわかるが、2004年の時と同じギャグも、1996年の時と同じギャグも、今観ても大笑いするほどおもしろいのって、すごいことだと思う。物販で、再々演版の戯曲も、買って帰った。

5月29日(日)18:00 SaToMansion ゲスト:フラワーカンパニーズ@新代田FEVER

 6月1日(水)にニューアルバム『the umbrella』をリリースする、岩手県二戸市出身のメンバー4人全員兄弟バンド、SaToMansion が、その3日前に新代田FEVERで行った『New Album [the umbrella]Release Special 2MAN SHOW!!』。ゲストは、2021年11月にも盛岡CLUB CHANGE WAVEにて、2デイズで2マンを行った、フラワーカンパニーズ。
 先攻のフラカン、6曲目にSaToMansion の和夫(Vo&Gt./三男)を呼び込み、圭介とのデュエットで「深夜高速」。和夫のすさまじく熱の入った歌いっぷりにひっぱられて、圭介もどんどんヒートアップしていくのが、おもしろかった。
 SaToMansion は、アンコール2曲も含め12曲、全12曲収録の『the umbrella』からは8曲をプレイ。どうせならアルバムを1曲目から最後までやればいいのに、と思ってから、あ、そうか、まだ出てないんだった、と気がついた。それでも8曲もやったのって、かなりチャレンジングだが、オーディエンスはとてもそうとは思えないくらい、熱いリアクションを返していた、声が出せない代わりに、拍手やアクションで。
 MCで、盛岡に続き共演してくれたフラカンに、メンバー、感謝の意を述べる。幸城(Bass/長男)曰く、「兄弟4人で、好きなバンドが一致することなんてそうそうない」。

  • 兵庫慎司

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    兵庫慎司

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