【夏フェスコラム】若者vsおっさん。2022年某日、フジロックのWEB CMが炎上した

コラム | 2022.07.29 18:00

新型コロナウイルスの影響で中止や延期を繰り返してきた夏フェス。今年は、完全復活で開催するフェスも多く、ワクワクソワソワしているフェスラヴァーも多いはず。それにしても、彼らを中毒にしちゃうフェスの強力な引力って何なのでしょう?改めてフェスの魅力を考えてみるコラムシリーズです。第1回は「フェスの世代間」について。(DI:GA ONLINE編集部)

2022年某日、フジロックのWEB CMが炎上した。

あのフジロックが炎上?????なんで・・・。あ、そうか、きっと賛否を渦巻くメッセージをCMに忍ばせたからに違いない。そう思ってCMを観てみたら、ややこしいメッセージが見えることはなかった。少し油分が高そうなおじさんがただただフィーチャーされるだけ(という言い方が正しいかはわからないが)のCMだったのだ。そのCMが面白いかどうかとか、そのCMを観てフジロックに行きたいと思うかは何とも言えないが、おっさんが「おれはフジロックが好きでたまんねえぜ。だから、今年もぜってぇフジロックに行ってやんぜ。うほ。あ〜〜〜〜夏が楽しみ〜〜〜〜」くらいの温度感でしかなかったCMが炎上しているんだから、おっさんへの風当たりが強すぎワロタな事案であったとは言えそうだ。まあ、販促動画のターゲットが、完全に若者ではなくおっさんだったことは確かで、フジロックのCMは一般的なフェスやこれまでのフジロックの販促動画とは異なるメッセージを放っていたようには感じられた。とはいえ、これって、そんなにおかしな話なんだろうか。

だって、フジロックが開催されて25年、ROCK IN JAPAN FESTIVALが開催されて22年である。当時はゴリゴリのイガグリ坊主な少年も、今では腹回りの贅肉が目下一番の悩みのリーマンになっている、というケースも多いように思うのだ。当時の若者だった人間は、いつしか今の若者からすれば「おっさん/おばさん」と揶揄される年齢になってしまった中で、フェスのメインターゲットが変わってしまうのもあり得る話だと思うからだ。

ただ、ここは微妙な話で、どんどんフェスが当時のファンとともに年老いても良いはずなのに、意外とそうはなっていなかったりもする。実際、フェスの楽しみ方だって、少しずつ変わってきている印象を受ける。

昔なら、フェスのメインディッシュは演者が演奏する音楽だった・・・という人が多かったと思うが、年々その比率が減っている気がする。いや、別に音楽をおざなりにする人が増えたというわけではなく、誰かと一緒に過ごすための場としてフェスが機能しやすくなった印象を受けるのだ。例えば、水族館に行くのは魚を観に行くためだが、魚を観ることが目的かというとそんなことはなくて、一緒に行く誰かと親睦を深めることが真の目的だと思われる。「魚を観る」は、あくまでもその目的を達成するためのもの、という構図。フェスにおける音楽も、それと通ずるケースが多く、カジュアルにフェスの場を楽しむ層が年々増えている印象だ。また、お目当てのバンドはきちんと観るけれど、新規のバンドはほとんど観ない層も増えている印象だ。これは、フェスの楽しみ方の変化というよりも、スマホやSNSを通じた情報の摂取の仕方や、デジタル社会による時間管理の変化が起因しているトピックとも言えそうだが、そういう部分も含めて、この20年で、フェスのあり方が変化していることは明らかだ。

ポイントなのは、それだけフェスの参加者が世代交代しているということだ。いや、何いってるんだ、僕・私は20年間、毎年フェスに参加してきたぞ!という人もいるだろうが、フェスの参加者全体で観ていくと、明確に世代を交代しているはずだし、だからこそ、楽しみ方も変化しているのだと思う。ブッキングされるアーティストも新陳代謝が行われており、参加者が世代を交代していることを示すトピックになるかもしれない。2022年だと、フジロックやSUMMER SONIC、ROCK IN JAPAN FESTIVALといった日本のメジャーな大型フェスでYOASOBIやKing Gnuといった新世代のアーティストがヘッドライナー(あるいはそれに近いポジション)で名を連ねている。

また、MONSTER baSHではWANIMAやSUPER BEAVERやフレデリック、RISING SUN ROCK FESTIVALではマカロニえんぴつやsumika、RUSH BALLではSaucy DogやSHISHAMOといった、10代を中心とした若い世代に根強い支持を得るバンドがメインステージでブッキングされていることが確認できる。もちろん、アーティスト主催フェスや地元密着なフェスではまた様相が異なることもあるのだが、少なくとも、多くの大型ロックフェスでは、このように、新しい世代が台頭・躍進しているのが印象的である。

そう、色んな意味でフェスは変わり続けてきたのだ。なぜ変わり続けてきたのかといえば、それだけ常に新しい世代の観客を取り入れてきたからだ。そのように考えると、フェスはいつだって若者のためのものであり、だからこそおっさんをターゲットにしたフジロックのCMが炎上したのも納得だ、という論が展開できそうだ。が、ここにも一旦待ったをかけたい。なぜなら、フェスの場や音楽シーンって、単純な世代間で分けられるものではないと思うからだ。例えば、若い世代が躍進する背景を丁寧に見ていくと、そこに「おっさん/おばさん」の功績が見え隠れもする。というのも、当時の若者のカリスマ的存在だったバンドに影響を受けたバンドに、さらに影響を受けたバンドが、今若者に絶大な支持を受けているバンドである、ということが往々にしてあるからだ。

つまり、バンド間で歴史のバトンが受け継がれている。さらに言えば、そのバトンを繋いだ背景に、今はおっさんと揶揄されている当時の若者の姿も見えてくる。仕事だったり、自分の生活圏内に登場するおっさん/おばさんは、ロクな価値観のやつがいねえ・・・とうそぶく若者も少なくないと思う。でも、フェスの歴史を紐解いていくと、自分より上の世代がいたからこそ、紡がれている部分はおおいにあるのだ。・・・いや、まあ、SNSを通じて自分とは違う世代の楽しみ方が可視化されるなかで、上の世代が若者に対してマウントをとるケースも多く、同じ界隈でも世代間の軋轢が生まれるケースはある・・・んだけど、今回はそういうことを脇に置き、フェスの文化やバンドごとのストーリーを広く捉えると、世代間の違いさえも、フェス文化が強く根付く要因になっていたりするのだ。たぶん。

・・・と、そこまで考えてみたとき、フジロックのCMでおっさんだなんだと世代間で溝を生むことって、なんだかナンセンスなようにも思えてくる。そもそも、だ。フェスって、おっさんもいれば若者もいるし、特定のバンドの古参もいれば、音楽に対して完全にミーハーの人もいる。そこに来る動機も様々。それでも、きっとその日出演している誰かの音楽が聴きたいことは共通していて、だからこそ、その場に集い、本来なら重なるはずがない人たちが同じ場所に集うことになる。そんな奇跡も含めて、フェスの面白さがあると思う。

小さなライブハウスのライブだと、まったく同じ文化コードを持った人しか集っていないというケースもある。だからこその居心地の良さはある。でも、大きいフェスの場合、それとはまったくの違う状況だからこそ、生まれる伝説がある。それくらいのスケールだからこそできることってあって、それだけたくさんのお金が動くからこそできることってあって、他のイベントだったらできないが連続することで成立するカオスなドラマがあるからこそ、フェスは中毒的な魅力を解き放つのだ。おっさんも若者も玄人もミーハーもお金を払って来ちゃいたくなる場だからこその、興奮と感動がそこにあるわけだ。

ここで、強引に話をまとめよう。

いろんな世代が集うような空間だからこそ、フェスって面白いし、感動できるんだ、というのがこの記事の総論だ。つまりは、おっさん VS 若者の対立が瓦解した先にこそ、2022年のフェスにも特別な景色が生まれるんじゃないかと、そんなことを思うのである。

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