フジジュンの「ライブ終わったらど~する?」#12 「バンドの圧倒的オリジナリティは、“秘伝の特製ダレ”に秘密がある!」

コラム | 2023.05.09 18:00

Photo:にしゆきみ

BIGMAMA『BIGMAMA COMPLETE』
2023年4月22日(土)横浜BAY HALL

仕事とプライベートを合わせて、年間約120本のライブを見ているフジジュン(おもしろライター)。基本、ぼっち参戦の筆者がライブ終わり、余韻を残したままにどんな過ごし方をしているか? を報告する連載。「このライブハウス行くなら、帰りはここがオススメ!」など、みなさんのおすすめの過ごし方も募集します! 今日ライブ終わったら、ど~する?

“ライブを観に行く土地”という印象が、そんなに無かったんだけど。最近、やたらと行く機会が増えたのが横浜。横浜の再開発で出来た、ぴあアリーナMMやKT Zepp Yokohama。あと、横浜駅近くに横浜BuzzFrontなんてライブハウスも最近出来て、横浜に行く機会がやけに多い。今年9月にはKアリーナ横浜がグランドオープンして、また行く機会が増えるだろうなんて思ってるのだが。この日、BIGMAMAの「BIGMAMA COMPLETE」ツアーの横浜公演で訪れたのは、1995年開業、もはや老舗ライブハウスと言える、横浜BAY HALL。

横浜みなとみらいと呼ばれる土地から少し外れた元町中華街駅から、歩いて15分。マリンタワーや倉庫街を眺める会場周辺に、昔ながらの横浜の雰囲気を残すこの会場。もともとは90年代前半、プリンスがプロデュースした「グラムスラム」というディスコだったそうで。倉庫のような簡素な外装とは裏腹に、階段にレッドカーペットが敷かれ、ライブフロアは豪華なシャンデリアが飾られた館内は、モダンでゴージャスな造り。半円形のフロアは3段階のステップ状になってて、ステージ近くで臨場感を味わいたい人から、ステージ全体を広域で眺めたい人まで、色んな楽しみ方が出来るのもこの会場の特徴。

開演時間となり、横浜BAY HALLのステージに登場したBIGMAMA。柿沼広也(Gt/Vo)のエッジィなギターにBucket Banquet Bis(Dr)のタイトなドラムが重なり、始まった1曲目は「ダイヤモンドリング」。安井英人(Ba)の重厚なベース、東出真緒(Vn/Key/Cho)の美しいヴァイオリン、そして金井政人(Vo/Gt)の繊細でエモーショナルなボーカル。激しさや力強さに美しさを兼ね備えたBIGMAMAが、会場の雰囲気によく映える。

僕も参戦した、3月3日(金)柏PALOOZA公演を皮切りに、全国25ヵ所を周り、これまでリリースした全ての楽曲149曲を網羅するという、前代未聞のこのツアー。

初日ライブレポ
https://www.diskgarage.com/digaonline/liverepo/175369

ツアー23本目となったこの日までに演奏された楽曲は、143/149曲! 横浜を含めてツアーは残り3本、残す曲は6曲。単純計算で1ライブ2曲ずつ、未発表の曲を披露すれば、無事全曲コンプリートになるのだが。全曲披露というコンセプトがあるがゆえに、イントロに歓声が上がった「Baseball prayer」など、普段はあまり披露されることのない初期楽曲たちにスポットが当たるのも、熱心なファンには嬉しい限り。

Bisのドラムソロから、東出のヴァイオリンと柿岡のギターのアンサンブルによる、ヴィヴァルディ「春」で始まった「走れエロス」は、伝家の宝刀と言える“Roclassick”楽曲であり、フロアに起きた大合唱も彼らの強力な武器。ツアーで磨き上げた新旧織り交ぜた楽曲たちと高いライブスキルでフロアを大いに沸かす中、「ライブハウスでしか聴けない新曲やっていいですか?」と披露したのは、「PEACE OF CAKE」。堂に入った歌や演奏、手拍子やかけ声を合わす観客の反応は、すでにライブ定番曲といった雰囲気で、これもまたツアーの成果のひとつだろう。

東出が鍵盤を弾き、ハンドマイクの金井がたっぷり気持ちを込めた歌声を聴かせた「auctioMania」、鍵盤を弾く金井が柿沼との美しいハーモニーを聴かせた「Nameless Star」と、編成も変えながらしっかり聴かせる楽曲が続き、金井の感傷的な歌声で始まった曲はツアー初披露となる「ライフ・イズ・ミルフィーユ」。「auctioMania」やこの曲が収録された、アルバム『君想う、故に我在り』が大好きだった僕は、思わず「わぁ!」と声を上げてしまった。そうか、このツアーでは全国でこういう現象が起きていたんだ! と、自らが体感することでファンの気持ちを実感出来たし、このツアーの醍醐味を味わうことが出来た気がして、なんだか嬉しくなる。

「25公演中、23ヵ所、いろんな街を回ってきました。そんな過酷な旅を経て、今日は凱旋の心持ちでやって来ました!」とBisが意気込みを語り始まったMCでは、「どうしたもんかな? と始まったツアーでしたが。走り出したら、“意外といけんじゃないの?”って感じになりました」と、柿沼がツアーを振り返る。「余談ですが、“誕生日が近いよ”って人はいますか?」というBisのフリに、勘の良いファンから歓声が上がると、始まった曲はツアー初披露の曲であり、『君想う、故に我在り』収録曲である、「Jeffrey Campbellのスケートシューズで」。わ~、嬉しい!! これで残すは、4/139曲。いよいよ長いツアーの終わりが見えてきた、メンバーはいまどんな気持ちなのだろう? と想像してしまう。

金井の独唱で始まった「Let it beat」から、「Strawberry Feels」と続くと、いよいよライブもクライマックス。大好きな「Strawberry Feels」に大興奮した僕はメモ帳を置いて、ステップの3段目から2段目に降りて、人混みに潜り込んで本格的にライブ観戦。すんません、完全に仕事放棄してました! 鳥肌立つほど美しくカッコ良かった「Swan Song」、キラーチューン「荒狂曲"シンセカイ"」と続き、会場が最高潮の盛り上がりを見せる中、ラストはこのツアーを象徴する楽曲となった、新曲「虎視眈々と」でフィニッシュ。終盤の流れがヤバすぎて、完全にただのファンとしてお客さんたちと一緒に盛り上がってしまった俺。これまた自らが体感することで、このツアーの素晴らしさを味わうことが出来て、大満足。熱心なファンも初めてライブを観る人も、そしてメンバー自身もBIGMAMAの魅力や凄さやカッコ良さを改めて知ることが出来た、本当に素晴らしいツアーだった。

そして、「ライブ終わったら、ど~する?」つうことで。イヤホンで『君想う、故に我在り』を聴きながら、海沿いの道をマリンタワー方面に向かってテクテクと歩いていた俺。山下公園を抜けて、たどり着いたのは中華街東門。目的地は横浜中華街、創業38年の歴史を持つ、老舗中国家庭料理店『山東』。看板メニューの水餃子が一度食べたくて、ず~っと行きたいと思っていた、このお店。メニューを見ると「水餃子(1人前10個)」とあって、意外と少食の俺は「一人で食べ切れるかな?」なんて思いながらも、XO醤チャーハンにも惹かれてしまい、水餃子とチャーハン、そして瓶ビールを注文。

ビールを呑みながら待つこと数分。テーブルに運ばれてきた水餃子はボリューム満点。テーブルの上にある特製ダレを水餃子に付けて食べると、これがめちゃくちゃ美味い! 手作りの厚めの皮はもっちもちで、餡は肉汁と野菜の出汁が凝縮。そしてなにより、ちょっと食べたことない味の特製ダレが、水餃子と抜群にマッチ。このちょっとマイルドな、特製ダレの味の秘密は何だろう? と思って、すぐにスマホで調べて納得。そうか、この特製ダレの美味さの秘密はココナッツなんだ! 10個も食べれるかな? と思って頼んだ水餃子だけど、食べ始めたらパクパクと箸が止まらない。XO醤の風味が効いたチャーハンも超パラパラで美味しくて、あっという間にどちらも完食。超美味かった、最高だった!

「水餃子美味かったな。今度は家族で来て、焼餃子も試してみよう」なんて考えながら、今度は2017年にリリースしたベスト盤『BEST MAMA』を聴いて、帰路に着いた俺。無理やり話をこじつけるみたいだけど、「BIGMAMAって山東の水餃子みたいなバンドだな」とふと思った。山東はそのまま食べても十分美味しい水餃子に、ココナッツ入りの秘伝の特製ダレをかけ合わせることで圧倒的なオリジナリティを生み出し、その他にない味を求めてファンが中華街までやって来る。一方、BIGMAMAはそのままでも十分カッコいいロックに、文学やクラッシックの要素、バイオリンの音色、バケツをかぶったドラマーといった材料を混ぜ合わせた秘伝の特製ダレをかけ合わせることで、圧倒的なオリジナリティを生みだし、その他にない音楽を求めて全国のファンがライブハウスにやって来る。

そんなこと言ったら、人気バンドはどれもロックに秘伝の特製ダレを加えることで、オリジナリティや独創性を出してるんだろうけど。水餃子+ココナッツという組み合わせに、「こんな美味いと思わなかった!」と驚かされた感じが、どこかBIGMAMAっぽいなと思ったのだ。そんなことを考えながら、シングル「Strawberry Feels」が“食べ物”をコンセプトにした作品だったことを思い出して。「BIGMAMAにココナッツの曲って無かったっけ?」と、こじつけの共通点を見つけようと思ったけど、ココナッツの曲は無かった(笑)。

4月26日(水)心斎橋BIG CATで『BIGMAMA COMPLETE』ツアーを無事完走して、次は恒例となる母の日ライブ、5月14日(日)Zepp DiverCity(TOKYO)での『MOTHER'S DAY』を開催するBIGMAMA。金井がnoteに書き記している【セルフライブレポ】で、「completeの向こう側。ちょっと自分でもまだ読めてない」と記していたが。全25公演、149曲をコンプリートして、確実にたくましさや強靭さを増しているであろう、最新型のBIGMAMAのライブが楽しみで仕方ない。たぶんセットリストにも、ツアーでそのカッコ良さを再発見した、意外な曲が加わってくることだろう。そして、もうひとつ。BisがYouTubeで生配信を行う、『【挑戦】149曲ノンストップで叩ききるまで終われない配信【約8時間】』という無謀すぎる企画も注目(5月5日(金・祝)配信予定だったが、5月20日(土)14時からに変更)。恐らく自分から言い出したであろう、BIGMAMAへの愛しか感じないこの企画は感動ですらある。改めてだけど、ホントに良いメンバーが入ったなぁ!

公演情報

DISK GARAGE公演

ライブ情報

MOTHER’S DAY
2023年5月14日(日) Zepp DiverCity(TOKYO)
チケット一般発売日:2023年4月8日(土)10:00

バケツナイト
2023年6月11日(日) 新宿BLAZE
※1日2回公演

PROFILE

フジジュン

1975年、長野県生まれ。『イカ天』の影響でロックに目覚めて、雑誌『宝島』を教科書に育った、ロックとお笑い好きのおもしろライター。オリコン株式会社や『インディーズマガジン』を経て、00年よりライター、編集者、デザイナー、ラジオDJ、漫画原作者として活動。12年に(株)FUJIJUN WORKSを立ち上げ、バカ社長(クレイジーSKB公認)に就任。メジャー、インディーズ問わず、邦楽ロックが得意分野で、笑いやバカの要素を含むバンドは大好物。

  • フジジュン

    TEXT・撮影

    フジジュン

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