兵庫慎司のとにかく観たやつ全部書く:第146回[2023年10月後半・木村充揮×奥田民生、GRAPEVINEなどの4本に行きました]編

コラム | 2023.11.20 17:00

イラスト:河井克夫

 音楽などのライター兵庫慎司が、自分が観たすべてのライブのレポを書く連載の146回目。普段は月二回アップしていますが、この2023年10月のように、月間15本以上になる時は三回にしていて、今月は6本・5本・4本に分けて書きました。というわけで、以下、2023年10月22日(日)から29日(日)までの間に観たライブです。

10月22日(日)19:00 まんぷく、むらかみなぎさ @ 下北沢mona records

 『むらかみなぎさ×まんぷく あしたのしおり』という対バン企画で、シンガーソングライターのむらかみなぎさ(女性)と、まんぷく(というバンド)が出演。最初はむらかみなぎさがひとりで弾き語り、次はまんぷくで、アンコールはまんぷく+むらかみなぎさで2曲セッション、というかコラボ。
 アコギと歌のむらかみなぎさも、歌とギター&ベース&ドラム&鍵盤(と鍵盤ハーモニカ)のまんぷくも、昭和の時代から、この国にも、英米にも存在したような……なんだろう、えーと、フォーク・ロック、という言い方は雑すぎるが、でもそんなような、ごくオーソドックスな、古式ゆかしいタイプの音楽性である。
 だから、聴いていて驚きはしないが、いつまでも浸っていたくなる吸引力がある。必要最小限な言葉とメロディと楽器の音をそこに置いていく、みたいな曲調で、そのメロディや言葉のひとつひとつをじっくりと吟味したくなる、いい時間だった。

10月23日(月)19:00 木村充揮、奥田民生 ゲスト:浜崎貴司 @ 横浜Bay Hall

 横浜ベイホール等でよくやっている「Rock’n Roll Closet」というシリーズイベントで、2年くらい前に木村充揮とピーズの対バンを観に行ったことがあるが、今回は木村充揮と奥田民生というブッキング。『木村充揮 レッツゴー古希! 〜ロックンロールクローゼット編〜』というタイトルなので、70歳記念であれこれ動いておられる中のひとつ、ということなのだと思う。開催9日前に、浜崎貴司も出演することがアナウンスされた。
 で、当日。最初に奥田民生が『ひとり股旅』スタイルで60分、なのでなるべくMCを増やして間をもたせつつの10曲。6曲目で浜崎貴司が登場、2013年にこのふたりで共作した「君と僕」を歌う。あと、7曲目に「ぼくら」をやったのが新鮮、というかレアだった。2013年の全パートひとりで演奏して作ったアルバム『O.T.Come Home』収録曲。
 そして木村充揮は、歌うと見せかけて酒を飲み、曲に入ると見せかけてタバコをふかして、お客をじらし放題じらす、という得意技を、ちょっと心配になるくらい(例の山崎まさよしの「水戸で2時間半で8曲」事件の直後だったもんで)織り交ぜながら、そして憂歌団のヒット曲「胸が痛い」のさわりだけ歌ったと思ったらやめたりもしながら、マイペースでステージを進めていく。
 後半で浜崎貴司が加わり、ふたりで2曲。さらに奥田民生も登場して3人になってからは、憂歌団の代表曲の連発。「パチンコ」「おそうじオバチャン」「嫌んなった」「上を向いて歩こう」、そして最後に「君といつまでも」。と、豪華なレパートリーを、豪華な3人が歌うさまを観れて幸せでした。

10月26日(木)18:30 GRAPEVINE @ LINE CUBE SHIBUYA

 ニューアルバム『Almost there』のリリース・ツアーの東京公演。その収録曲11曲全部、各時代からの曲を13曲、全24曲のステージ。『Almost there』、どえらく良くて、今もしょっちゅう聴いているので、全曲生で聴けてうれしい限り。その他も好きな曲や、今生で聴くと改めて良さがわかったりする曲ばかりで、大満足の2時間強だった。
 最初のMCで田中、さらっと「わてら、今年で結成30周年です」。なのに今年、特にそれを打ち出して活動しているわけでもなく、普通にニューアルバムを出してツアーをしているだけ、というのがバインらしい。
 前作『新しい果実』(2021年)と今作『Almost there』を聴いていると、もしかしたらこのバンド、デビュー〜最初のブレイクの時期以来かもしれない、大きな変革期を迎えているんじゃないか、と思う。サポートメンバーもスタッフもずっと同じ人たちとやっているし、ステージセットや演出も極力シンプルな方向性だし、いきなりガラッと変わったりはしない人たちだけど、今いるファンを離さないまま、新しい人たちにリーチできる可能性を持った、今以上に広く深く評価されるべき音になってきているんじゃないか、と。
 前作が『新しい果実』で、今作には「実はもう熟れ」という曲が入っている。あと、1曲目の「Ub(You bet on it)」には「新しい果実には当然熟す時が訪れる」「熟れすぎたのは是か非か」というラインがあったりするのも気になる。
 田中和将、アンコールを終えて去る時に、「ありがとう、今日も幸せでした」と、オーディエンスにお礼を言った。

10月29日(日)18:00 THE SPELLBOUND @ Zepp Shinjuku

 今年2023年は、BOOM BOOM SATELLITESデビュー25周年、ということで、5月8日(月)にリキッドルームで行った企画「BOOM BOOM SATELLITESの曲をやるTHE SPELLBOUNDと、THE SPELLBOUNDの曲をやるTHE SPELLBOUNDが対バンするライブ」(それについて書いたこの連載はこちら)。それに続くツアー版として、札幌・福岡・名古屋・大阪・東京の全6本を回った、そのファイナルがこの日。
 まず、頭からの8曲がBOOM BOOM SATELLITESの時間。7曲目にデビュー・シングル「Push Eject」をやったの、びっくりした。5月8日にはやらなかったし、それ以前のライブでもやっていなかったので。あのイントロのシンセの響きで「えっ!? あっ!! うわー!!」となりました。リアルタイムで聴いた当時のことを思い出した、つい。
 で、次=8曲目の「Kick It Out」を終えて中野雅之、「BOOM BOOM SATELLITESです」と挨拶して大拍手&大歓声を浴びた。と思ったら、間髪入れず「THE SPELLBOUNDです」。中野、オーディエンスを見回して「みんな、むちゃくちゃ楽しそうだね。僕たちもすごい楽しいツアーの時間を過ごしていて、今日で最後だと思うとほんとに名残惜しい、もうすでに胸がいっぱいです」。
 で、THE SPELLBOUNDのブロックに突入、8曲を演奏。数曲でゲストボーカルのXAIも参加する(もうレギュラー的な存在なんですね)。そして、アンコール(いったんはけずにMCをはさんでそのままやった)で、3曲追加して終わったが、そのアンコールに入る時のMCで、中野は、このようなことを言った。
 僕は、片割れが早く亡くなってしまったので、その分長生きしようと思っています。今日来てくれたみんなも、昔から僕たちの音楽を聴いて支えてくれた人たちで、一緒に歳を重ねて、時間を経て、大人になって、おじいさんになって、おばあさんになって、共に幸せな時間を過ごしていけたらいいなと思ってるんですけど。僕はみんなより長生きするので、みんなの人生を送り出す音楽を、ずっと作って演奏していきたい。
 それを受けて小林祐介、「僕は中野さんより1年だけ長生きします」。オーディエンス、どちらの言葉にも大拍手と大歓声を送った。
 なお、アンコールでも告知されたが、この主催イベント『BIG LOVE』のVOL.2が、年明けに大阪と東京で行われる。大阪は1月27日(土)に、難波のMETA VALLEYという新しいハコでYAHYEL(サポートドラムの大井一彌が在籍するバンド)と、東京は2月1日(木)にリキッドルームでMAN WITH A MISSIONと対バン。

  • 兵庫慎司

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    兵庫慎司

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