兵庫慎司のとにかく観たやつ全部書く:第154回[2024年1月後半・あら恋やビリー・ジョエルや真心@広島、などを観ました]編

コラム | 2024.02.21 17:00

イラスト:河井克夫

 音楽などのライター兵庫慎司が、生で観たライブすべてのレポを書く連載の154回目、2024年1月の後半編です。16年ぶりに、16年前と同じ東京ドームで観た、そしてそれはもう観づらい席だったビリー・ジョエルが、今回の個人的トピックです。システム利用料・発券手数料込で、24,330円でした。

1月18日(木) 19:30 あらかじめ決められた恋人たちへ@ 渋谷WWW

 あらかじめ決められた恋人たちへ、とても好きなバンドだが、仕事として接点があったのは、ずいぶん前に対談仕事の司会をした一度きり。こちらです。もう7年も前なのか。
池永正二×熊切和嘉対談 あら恋20周年と『武曲 MUKOKU』を語る
 が、それ以来、ご本人(池永正二)がリリースやライブの情報などを送ってくれるようになって(セルフ・マネージメントなんだと思う)、それで届いた1月17日リリースのニューアルバム『響鳴』を聴いたら、どえらく良かった。そのメールに「リリースライブあります、よろしければ」とも書かれていたので「あ、その日大丈夫です、ぜひ見せてください」というわけで、足を運んだのだった。
 ライブを観るの、初めてではないが、久々だった。で、終始もう、まさに得も言われぬ感覚に包まれっぱなしの時間だった。「浮遊感」とか「陶酔感」みたいなアシッド的な感覚と、「意識が覚醒する」とか「脳がフル回転する」みたいな理性に訴える感覚、その両方があるのがダブという音楽だ、と思っているところが僕にはあるが、その最上級みたいなやつ。貴重でうれしい時間だった。
 同業の先輩、小野島大さんが、池永正二にインタビューしているnoteを読んでから行きました。
あらかじめ決められた恋人たちへ:池永正二インタビュー 新作『響鳴』を巡って 「感情を四捨五入したくない」

1月24日(水)19:00 ビリー・ジョエル @ 東京ドーム

 16年ぶりの、一夜限りの来日公演。先行からチケットの抽選に落ち続け、最後に追加発売された「注釈付きS席」で、ようやくチケットを取れた。ステージの右真横で画面が見えない上に、自分の席とピアノの前のビリー・ジョエルの間にぴったりステージの柱があって、直視も不可能な席でした。それでもいい、と思って買ったんだから、しょうがないんだけど。
 16年前の来日の時は、レポの仕事だったので(その時書いたのはこちら≫ ビリー・ジョエル @ 東京ドーム )、招待で、いい席で観たんだよなあ……と思い出したが、ただし、その時は2年ぶりの来日で、まさかそのあと16年も来ないとは思っていなかった。客席も、埋まってはいたが、完売はしていなかった、と記憶している。まあなんせその16年前とは違って、今回は、それくらい誰もが待ち焦がれた(下手したらもうないんじゃないかとすら思っていた)来日公演だったわけです。
 で。そんな観づらい席であったにもかかわらず、やはり、終始幸せだった。頭にベートーベンの「第九」がくっついた「マイ・ライフ」で始まり、アウトロにレッド・ツェッペリンの「Rock and Roll」がくっついた「ガラスのニューヨーク」で終わる25曲、2時間20分強。という尺は、前回の来日の時より長かったし、内容も濃かった。ノドもずっと絶好調。なんちゅう74歳だ。
「オネスティ」「アレンタウン」「ストレンジャー」「ピアノ・マン」などなどのヒット曲、ばんばんやってくれたし、「イノセント・マン」の頭にローリング・ストーンズの「スタート・ミー・アップ」を歌って笑わせてくれたりもした。
 特にうれしかったのは、ドゥーワップ編成になって、「ライオンは寝ている」のカバーをしばし歌ってから入った「ロンゲスト・タイム」。この曲大好きなんだけど、前回の来日では「やってくれなかったなあ」と思ったもんで。
 何年後かわからないが、また観れる機会があることを、切に望みます。

1月25日(木)19:00 Apes/突然少年/東京パピーズ @ 下北沢CLUB Que

 CLUB Queの企画で、Apes/突然少年/Art Theater Guildの3バンドが出演するはずだったが、2日前にボーカルの伊藤のぞみの体調不良でArt Theater Guildがキャンセルに。急遽、東京パピーズが代わりに出演した。その2つのバンドはベーシスト(ヒロ・ハミルトン)が同じ、つまりどちらかにライブが入っている日はもう一方はライブはないわけで、なるほど、と言いたくなる代打です。
 で、トリで出たその東京パピーズも良かったし、トップのApes(要注目のニューカマー)も、「うわ、これは人気出そうだ」と思わせる勢いと繊細さに満ちていてとても良かったが、その間に出た突然少年が、特にしびれた。まあ僕は彼らをいちばんの目当てに行っているので、そう思うのは当然かもしれないが。
 にしても、PAのバランスが良かったとか、そういうのも関係あったかもしれないが、音のひとつひとつ、歌のひと声ひと声が、観ているこっちの全身に突き刺さってくる感じだった。食い入るように聴きました。
 なお突然少年、3年間共に活動したドラムの篠原賢a.k.a.ピエール畳がバンドを離れることが、2月9日に発表になった。いいドラマーなだけに残念。4月30日の新代田FEVERのワンマンが、彼が叩く最後で、それまでバンドは新ドラマーを募集しながら活動中。彼がいる間、なるべくライブに行こうと思う。

1月26日(金)19:00 おとぼけビ~バ~/betcover!! @ 渋谷WWW X

 おとぼけビ~バ~とbetvover!!、なんちゅういい対バンなんだ。先攻はおとぼけビ~バ~、演奏の破壊力もすさまじいし、「T! P! O! あきまへんか!」「いまさらわたしに話ってなんえ」(※特に「なんえ」が大事)「なんべんわたしをほかす気や」などなどのキラーフレーズだらけのリリックも、ライブで聴くといっそう、一緒に声に出して叫びたくなる。日本より先に海外で火がついたバンドだが、海外のファンたちも同じで、(たとえ意味がわからなくても)その言葉を発する際の口の快感にやられている、だからハマる、というところもあるのではないか、と思う。
 で、betcover!! はbetcover!! で、なんだかもう、独特にも程がある。1970年代〜1980年代の日本のAORのようなメロディと歌詞を、音が歪みまくり割れまくるアバンギャルドなバンド・サウンドにのっける、という、「こんな手があったか」というか「よく考えついたなこんなこと」と言いたくなる音楽性がとにかく新しいが、柳瀬二郎当人は、きっとそんな「これとこれを足すと新しい」みたいな計算はしていない。自分がかっこいいと思うことをやったら、こうなったのだと思う。
 ジャンルが近いとかファンがかぶっていそうとかいうことは全然ない、でもすばらしい組み合わせ。と、つくづく思った、両方を観終えて。

1月28日(日)17:00 真心ブラザーズ @ 広島クラブクアトロ

 うちは幸いまだ両親とも元気だが、高齢なので、コロナ禍が終わって以降は……って、「終わった」って言っていいもんなのかいつも迷うが、まあとにかく最近、なるべくマメに広島の実家に帰るようにしていて、ただ帰るだけなのももったいないので、観たいバンドのツアーの広島公演がある時を狙うようにしている。
 で、この間の年末年始に帰れなかったので、今回は、真心ブラザーズのツアーに合わせたのだった。このツアーは、ベースがフラワーカンパニーズのグレートマエカワ、ドラムがウルフルズのサンコンJr.。真心ブラザーズの桜井秀俊は、ここ数年、ウルフルズのサポート・ギタリストを務めているので、つまりお互いにサポートし合っているわけです。
 で。観て、とにかく選曲にしびれた。ライブでおなじみの定番曲もやるが、それ以上に「うわ、これライブで聴くのいつ以来だろう?」みたいなレアな昔の曲の方が、はるかに多いのである。ツアーが終わっていないので詳しく書くのは自粛するが、ライブの後で某曲に関してYO-KINGに「あれライブやったのいつ以来ですか?」と訊いたら、「えーとねえ、たぶん、SHIBUYA-AXでやった気がする」。AXが閉まったの、10年前。そういうことです。
 なお、グレートもサンコンも、音楽性の違いゆえにそれぞれの本業のバンドではやらないようなプレイを随所でしていて、それもとても新鮮。というのも含めて、ツアー最終日の東京公演(2月24日、EX THEATER ROPPONGI)も楽しみ。

  • 兵庫慎司

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    兵庫慎司

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