兵庫慎司コラム「ニッポンの野外フェスの次のありかた」が始まっている!?

コラム | 2017.07.13 17:00

兵庫慎司コラム「ニッポンの野外フェスの次のありかた」が始まっている!?

写真提供:PEANUTS CAMP

90年代後半〜00年代前半

1997年に『フジロックフェスティバル』がスタート。1999年に『ライジング・サン・ロックフェスティバル』、2000年には『サマーソニック』『ロック・イン・ジャパン・フェスティバル』が始まる。それら以外にも、各地にフェスが誕生し始める。

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00年代前半〜中盤

さらにロック・フェスが増える。フジやサマソニやそれに先駆けて行われていた日本初の大規模野外レイヴ系フェス『RAINBOW 2000』なども含めて、日本の大型フェス黎明期は洋楽アーティスト中心だったが、ライジングとロック・イン・ジャパン以降、邦楽アーティスト中心のフェスが増える。96年からスタートした『SPACE SHOWER SWEET LOVE SHOWER』が山中湖に会場を移したのも2007年。各地でフェスが乱立し、「フェス戦国時代」とか「フェス全盛期」というような言葉で形容されるようになる。

また、フジロックフェスティバルを主催するスマッシュが2001年から毎年10月に開催しているキャンプフェス、『朝霧JAM』や、ロック・イン・ジャパン・フェスティバルを企画制作するロッキング・オンが新たに立ち上げた年末の屋内フェス、『カウントダウン・ジャパン』のような、季節を夏に限定しないフェスも行われるようになる。

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00年第後半〜10年代前半

各地に乱立した邦楽ロック・フェスが、徐々に少なくなっていく。集客を見込める人気邦楽ロック・アーティストをブッキングしようとする→そうなるとどこのフェスもラインナップが似通っていくし、大物アーティストに関してはブッキング力の強弱で勝負がつく、ゆえに集客できないフェスは淘汰されていくことになる──。
って、ちょっとおおざっぱにまとめすぎだが、当時はそのように見えた。逆に、運営のしかたやラインナップの組み方に「ほかと似通っている」感がない、そのフェスならではのカラーを打ち出してきたフェスは、サマソニやロック・イン・ジャパン・フェスのように大規模ではなくてもサヴァイヴしていき、現在も続いている。宮城の『ARABAKI ROCK FEST.』や大阪の『OTODAMA-音泉魂-』などがその例だ。
また、都心部からのアクセスも便利な都市型フェスとして、雑誌MUSICAの製作・販売をするFACTとディスクガレージがゴールデンウィークに「埼玉初の室内大型ロックフェス」として主催・企画・制作をする『VIVA LA ROCK』や、『METROPOLITAN ROCK FESTIVAL』(東京・江東区、大阪・堺市)も近年はソールドアウトが続いている盛況ぶり。

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フェスに新しい波が来ている!?

さて。なぜにこうして、これまでの日本のフェスの歩みをざっと(本当にざっとだし、だいぶ私観ですが)ふり返ったのかというと、最近また、フェスに関して新しい波が来ていることを感じるからなのだった。
とりあえず、今年これから夏本番、いよいよフェス・シーズン最盛期だが、早くもこの段階で後悔していることが、僕はひとつある。
5月13・14日に、愛知県蒲郡市の三河湾に面した人工海岸の公園、大塚海浜緑地で行われた『森、道、市場』に行かなかったことだ。
東海地方を中心に、今回で開催8回目。公式サイトのティーザー映像を見て「うわあ、このフェス楽しそうだなあ」と思ったものの、場所が蒲郡だというのと、その日程にちょっと仕事が入ったこともあって、あきらめた。
が、このDI:GA onlineのスタッフKさんが遊びに行ったそうで、その話をきいて、「しまった、行けばよかった」と大後悔したのだった。

海っぺりの公園というロケーションで、飲み物/食べ物/衣服/雑貨などなどの300以上の、しかもこだわりの出店が集まり、12日の前夜祭まで含めると総勢70組を超えるバンドやDJが6つのステージに出演するこのフェスのようなありかたが、ここ数年で人気を集めるようになってきた、新しいスタイルなのではないかと思うのだ。
まず、00年代頃からか、音楽のフェスにちょっと遅れるくらいの時期から、食べ物関係のイベントが増え始めたことを実感している方は多いだろう。『B1グランプリ』みたいな大規模なものもそうだし、ドイツビールの『オクトーバーフェスト』などもそうだ。
『タイフェス』とか、『アフリカフェス』とか、『東京ラーメンショー』とか、代々木公園や日比谷公園で毎週末何かしら行われているのが現在はあたりまえになっているが、15年前や20年前はこんなことはなかった。
で、フリーマーケットなどの、衣服とか雑貨とかを売る催しは、音楽のフェスよりも以前から行われてきたが、近年、より大規模化したり、イベントとして形が整ったりしていく傾向にある。そのへんの公園でフリマをやっているだけではなくて、幕張メッセに延べ20万人集めて開催されるようになったりしたのは、やはり近年のことだ。

それから、キャンプ要素。アウトドアが人気、家族連れ等のキャンプが人気、BBQが人気、二子玉川の河原でBBQをやる人が増えすぎて管理や清掃のため入場料をとるようになった──というようなことも、やはりここ10年から15年くらいの、世の中の趨勢だと言えるだろう。

そうです。それらのすべての要素があるわけです、『森、道、市場』のようなフェスには。
って、僕が行ったわけではないが、行ったKさんに訊く限りでは、まさにそうだったという。で、大盛況だったという。初日は天気には恵まれなかったがとても楽しかった、来年も行くつもりだという。
どうでしょう。俺も行きたい!行けばよかった!ってなるでしょう、それは。

あともうひとつ、場所の力、というのもある。
『森、道、市場』は人口海岸の公園。たとえば、1993年(!)から続く福岡の人気フェス、『Sunset Live』は糸島市の芥屋海水浴場。もうひとつたとえば、中国地方&関西のイベンター、夢番地が、山口県のきらら博記念公園で2013年から行っている『WILD BUNCH FEST.』は、同じく美しい海のロケーションが人気で、チケットがソールドアウトする人気フェスになっている。「あそこは最高!」「一回行った方がいい!」と、出演したバンドたちから何度もききました。

Sunset Live 2016

WILD BUNCH FEST. Image Movie 2016ver

10年代中盤〜後半に誕生した新たなフェス

ARABAKI ROCK FEST.を企画制作するGIPが、福島の天神浜で始めたアコースティック・キャンプ・フェス『オハラ☆ブレイク』も、行った人、出演した人、ともにとても評価が高い。猪苗代湖畔に面したエリアに、3つのステージ、キャンプサイトを備え、ライブ以外に野外美術展や映画の上映も行われるこのフェスは、ROCK IN JAPAN FESTIVALと同じ日に開催(しかも福島なので隣県)であるにもかかわらず、毎年動員を伸ばしている……って、これも私、毎年ロック・イン・ジャパン・フェスティバルでなんかしらの仕事をいただいてそっちに行っているので、うかがったことないのですが、それでも耳に入ってくる、いいフェスだという評判が。

オハラ☆ブレイク’17夏 PV 【夏の湖の篇】

9月に行われている群馬県・みなかみ町の水上高原リゾートのアコースティック・キャンプ・フェス『New Acoustic Camp』が、そういったアコースティック&キャンプのフェスの先駆けということになるのだろう。8回目の開催を迎える今年は、ACIDMAN、Gotch、HY、木村カエラ、ハナレグミ、LOW IQ 01等の出演がアナウンスされている。なおこのフェス、OVERGROUND ACOUSTIC UNDERGROUNDのTOSHI-LOWがオーガナイザーを務め、参加者、主催者がお互いに主体性をもったフェス作りを目指しているそうで、ファミリー層にも人気が高い。

NewAcousticCamp 2016 SPECIAL DIGEST

というフェスはだいたいどれも、東京圏からは距離のある場所で行われているが(キャンプや近隣で宿泊もできるから当然だが)、昨年2016年から、都心からクルマで1時間ちょっとで行ける千葉県市原市の一番星★ヴィレッジというキャンプ場で、『PEANUTS CAMP』というフェスが始まった。

カジヒデキをキュレーターに迎えたこのフェスは、そもそもその一番星★ヴィレッジをキャンプ場として運営している会社が共催しており、「Let’s Chill」をテーマに、カジくん自らがブッキングに携わり、独自のラインナップも魅力。ライブ以外にもキャンプはもちろん、飲食やワークショップ(去年はカジくん自らボンビングをレクチャー、かせきさいだぁのフリスビー教室も)等も充実させていくコンセプトで行われている。
カジくんの「ヒーローは君と僕/Heroes」のミュージック・ビデオが、その一番星★ヴィレッジで撮影されたものなのだが、昨年それを観て「うわ、こんなとこなのか!これは行きたい!」と、映像でもわかる場所の力に、まず惹かれた。が、スケジュールが合わなくて行けなかった。で、終了後に行った人に話を訊いて、「ああ、やっぱりなんとかして行けばよかったなぁ」と思った。

今年はスケジュール、空けました。都心から近いのも、まだ規模がそこまで大きくないのも魅力だし。というか、テーマが「Let’s Chill」なので、そもそも規模を拡大していくことを目標としていない可能性もあるが。
『PEANUTS CAMP』が、新しいフェスのありかたを示してくれる存在になるかどうかはまだわからないが、少なくとも志の部分ではそれを目指しているようだ。今年、当サイトで、カジくんと村長(という人がいるのです)の対談の司会をやって、そう実感した。

兵庫慎司コラム「ニッポンの野外フェスの次のありかた」が始まっている!?

兵庫慎司

音楽などのフリーライター。
DI:GA online、DI:GA、RO69、ROCKIN’ON JAPAN、リアルサウンド、SPICE、SPA! 等に寄稿中。