角川映画から生まれたヒット曲 [DI:GA ONLINE×大人のMusic Calendar共同企画]第1回

コラム | 2018.01.21 12:00

執筆者:鈴木啓之

オールスターキャストの大作とアイドル主演作を中心にヒットを連発し、日本映画の歴史を大きく変えた角川映画が誕生してから既に40年以上が経つ。映画と連動した角川文庫のキャンペーンは出版界にも好況を及ぼし、“読んでから見るか、見てから読むか”の秀逸なキャッチも話題となった。さらには映画音楽という副産物も生まれる。サウンドトラック盤のリリースはもちろんのこと、主題歌のシングル盤も次々とヒットチャートを賑わした。いわゆるメディアミックスを鮮やかに展開したのである。

「およげ!たいやきくん」が大ヒットした1976年、角川映画の記念すべき第1作が公開された。ミステリー作家の大御所・横溝正史原作による『犬神家の一族』。市川崑監督による耽美な映像世界と豪華キャスト、活発な宣伝展開も手伝って興行的に大成功を収め、日本映画界に風穴を開けることとなった。横溝正史のおどろおどろしい世界が見事に描かれ、それまでにも各社で作られていた探偵・金田一耕助ものの最高峰となったのは、主演の石坂浩二の存在はもちろんのこと、大野雄二の音楽の力も大きかった。テーマ曲「愛のバラード」は日本人なら誰もが知るメロディだろう。LPと共にシングルも出され、インストとしては異例の売り上げを示したが、そのテーマ曲に詞が付けられて金子由香利が歌った「愛のバラード」のヴォーカル・ヴァージョンのシングル盤も出されていたことはあまり知られていないかもしれない。

「犬神家の一族」(C)KADOKAWA1976
監督:市川崑
脚本:長田紀生/日高真也/市川崑

続く『人間の証明』(77年)、『野性の証明』(78年)も大野が音楽を担当し、『人間の証明』からはジョー山中の歌う「人間の証明のテーマ」、『野性の証明』からは町田義人が歌う「戦士の休息」のヒット曲が生まれた。『野性の証明』は薬師丸ひろ子のスクリーン・デビュー作として知られ、父親役の高倉健との共演を立派に務め上げた彼女は、角川映画の顔となってゆく。ちなみにこの2作の間に公開された『野性号の航海』(78年)が実は角川映画第3作にあたり、音楽を手がけた井上堯之がメインテーマを自ら歌ったシングル盤も出されていた。『白昼の死角』(79年 ※企画で参画、厳密には角川映画ではない)ではダウン・タウン・ブギウギ・バンド、そして沢たまきヴァージョンも出された「欲望の街」、『蘇える金狼』(79年)では前野曜子の「蘇える金狼のテーマ」と映画と共にヒットが続いた。

「人間の証明」(C)KADOKAWA1977
監督:佐藤純彌
脚本:松山善三

「野性の証明」(C)KADOKAWA1978
監督:佐藤純彌
脚本:高田宏治

タイムスリップをテーマにしたアクション大作『戦国自衛隊』(79年)では松村とおる「戦国自衛隊のテーマ」、井上堯之「ドリーマー」など複数の主題歌・挿入歌がリリースされ、さらなるSF大作『復活の日』(80年)に至ってはジャニス・イアンが歌った主題歌「You are love」以外にも数々の関連シングル・LPが市場を賑わせた。80年代の角川映画は題材も拡がりを見せ、片岡義男原作の青春映画『スローなブギにしてくれ』(81年)で新たな展開を見せる。南佳孝が歌う同名主題歌もヒットして当時のニューミュージック勢と見事に融合。そしていよいよ薬師丸ひろ子の驀進が始まるのだ。角川映画での初主演作『ねらわれた学園』(81年)では松任谷由実が歌った主題歌「守ってあげたい」がヒット、そして次なる主演作『セーラー服と機関銃』(81年)で満を持して歌手デビューする。同名主題歌はオリジナルの来生たかお「夢の途中」との競作としてリリースされ、薬師丸ひろ子は映画と共に空前の大ヒットで歌手デビューを飾ることとなった。

『スローなブギにしてくれ 角川映画 THE BEST』
価格 ¥1,800+税
発売元・販売元 株式会社KADOKAWA

『セーラー服と機関銃 角川映画 THE BEST』
価格 ¥1,800+税
発売元・販売元 株式会社KADOKAWA

学業優先で少しの間休業していた薬師丸の復帰作『探偵物語』(83年)では大瀧詠一が主題歌「探偵物語」を書き下ろし、同時上映の原田知世主演『時をかける少女』の主題歌「時をかける少女」はユーミンの書き下ろし。共に大ヒットしてベストテン番組にも登場した。さらに渡辺典子もアニメ映画『少年ケニヤ』(84年)の主題歌「少年ケニヤ」とTVドラマ版『探偵物語』の主題歌「花の色」のカップリングでデビューして<角川三人娘>が出揃う。84年は正に三人娘の全盛期で、薬師丸は『メイン・テーマ』『Wの悲劇』、原田は『愛情物語』『天国にいちばん近い島』、渡辺は『晴れ、ときどき殺人』『いつか誰かが殺される』とそれぞれの主演作が続々と公開され、本人が歌った主題歌と共にヒットしている。

本来の大作路線でも、鹿賀丈史が金田一耕助に扮した『悪霊島』(81年)ではビートルズ「レット・イット・ビー」が主題歌に起用されて話題になったり、撮影所を舞台にした『蒲田行進曲』(82年)では、主演の松坂慶子・風間杜夫・平田満がカヴァーした既存曲「蒲田行進曲」と共に、中村雅俊が歌った主題歌「恋人も濡れる街角」もヒット。時代劇では『伊賀忍法帖』(82年)の主題歌となった宇崎竜童「愚かしくも愛おしく」、『里見八犬伝』(83年)の主題歌、ジョン・オバニオン「里見八犬伝」など枚挙に暇がない。志穂美悦子が主演した『二代目はクリスチャン』(85年)では、主題歌「二代目はクリスチャンのテーマ」を、原田知世、渡辺典子、原田貴和子、野村宏伸による豪華なユニット“BIRDS”が歌って映画に華を添えた。以降も多くの作品が世に送り出され続けている角川映画の栄えある歴史は、同時に映画音楽の歴史でもあり、日本映画史に燦然たる足跡を刻みながら現在に至る。

記事提供:大人のMusic Calendar

 

 

角川映画シネマ・コンサート
角川映画シネマ・コンサート特集

角川映画 シネマ・コンサート


●日時
2018年4月13日(金)開場 18:00 / 開演 19:00
2018年4月14日(土)開場 13:00 / 開演 14:00
●会場
東京国際フォーラム ホールA
●料金
全席指定 ¥9,800(税込)※未就学児入場不可
●上演作品
「犬神家の一族」「人間の証明」「野性の証明」
※各映画の上映は全編上映ではございません。各映画のオリジナル映像を元に特別に編集されたハイライト映像に合わせて、生演奏の音楽でお楽しみ頂く、最新のライブ・エンタテインメント=シネマ・コンサート形式で上演致します。予めご了承ください。

●出演
・大野雄二と“SUKE-KIYO”オーケストラ
大野雄二(音楽監督・Piano, Keyboards) 市原 康(Drums) ミッチー長岡(Bass)松島啓之(Trumpet) 鈴木央紹(Sax) 和泉聡志(Guitar) 宮川純(Organ)佐々木久美(Vocal, Chorus) Lyn(Vocal, Chorus)佐々木詩織(Vocal, Chorus) 他
・スペシャル・トークゲスト:石坂浩二

●チケット好評販売中!
角川映画 シネマ・コンサート  オフィシャルサイト

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≪著者略歴≫
鈴木啓之 (すずき・ひろゆき):アーカイヴァー。テレビ番組制作会社を経て、ライター&プロデュース業。主に昭和の音楽、テレビ、映画などについて執筆活動を手がける。著書に『東京レコード散歩』『王様のレコード』『昭和歌謡レコード大全』など。FMおだわら『ラジオ歌謡選抜』(毎週日曜23時~)に出演中。