アグレッシブな“さなぎ状態”!織田哲郎が新たな試みの数々について、ツアーについて語る。

インタビュー | 2019.08.29 18:00

──次なるアルバムのこともうかがいたいのですが、1年半ほど前のインタビューで、「60歳、デビュー40周年で出せたら」とおっしゃってましたが、まだ出ておりません。今の時点で、どんな状況なのか、教えていただいても良いでしょうか?

本当は去年出すつもりで作っていたんですが、自分の場合は、制作に入って初めて、俺は今こういう状態なんだってことが認識できるところがあって。昆虫に例えると、昆虫って、いろんな成長の仕方があって、最初から成虫とほぼ同じ形で生まれて、脱皮を繰り返して大きくなっていくのが不変態(無変態)、幼虫から成虫になるのを不完全変態、幼虫からさなぎの時期を経て、成虫になるのを完全変態などがある。完全変態って、考えてみると、生き物として非常におもしろくて、どうしてわざわざ1度、さなぎになる必要があるんだろうって思うじゃないですか? わざわざまったく動けないさなぎの状態になって、しかも中はただのドロドロしたものが詰まっているだけになっている。でもそのドロドロがやがて羽化して蝶になったりする。人間にもいろんなタイプがあって、私の場合は完全変態というヤツで、しょっちゅうさなぎの状態になるみたいで、今がその状態なんですよ。となると、この時期に無理してもしょうがない。いつか、この段階を越えると、なんらかの成長があって、アルバムに繋がっていくんじゃないかと思います。

──現状で良しとしていないからこそ、大きく成長していくために、さなぎになるわけですね。

自分のアルバムを作る時に特に顕著なんですが、音楽家として成長し続けている感覚がないと、作品を完成させることが出来ないんですよ。どうしてもさなぎの時期が必要になってくる。今がまさにそれで、内部はドロドロの状態です(笑)。

──これまでに何度くらい、さなぎの時期を経てきているんですか?

大きく分けると3回ですね。最初はソロアルバム『VOICES』を作る前の2年間。21歳でWHY、22歳で9th IMAGEというバンドを結成して、24歳でソロデビューしたんですが、22歳から24歳までの2年間が最初のさなぎ期間だった。当時の2年間って、今の感覚でいう10年くらい空いた気がしてましたが、それくらい空けざるを得なかった。さなぎの2年間があって、それまでとは違う音楽家として、ステップアップできたんじゃないかと思います。その後も細かくはいろいろあるんですが、最も大きく空いたのは1993年に『T』というアルバムを出してから、2007年に、『ONE NIGHT』というアルバムを出すまでの14年間ですね。物理的な時間もかなり空いたし、声変わりせざるを得ない状況もあった(注・2000年にスペイン旅行中に強盗に襲われて、首を絞められて、声帯まわりの軟骨が変形する事件が原因)。でもあの事件含めて、いろんなことがあって、さなぎの期間を経て、『ONE NIGHT』というアルバムをしっかり作ることができたからこそ、以前よりも音楽家として成長することができた。そのことがその後も楽しく音楽をやれていることに繋がっていると思いますね。

──さなぎの期間って、ただじっとしているだけではなくて、内面では実は様々な化学変化が起こっているわけですね。

おそらく生きている中で様々な刺激を受け、影響を受け、急速な破壊と再構築が行われているんじゃないかと思います。自分が音楽を作ることは吐く息みたいなものなんですが、それって、吸わないことには吐けないんですよ。吸うというのは単純に、いろんな音楽を聴くということだけじゃなくて、音楽以外のことも含めて、心が動くことが必要で、感動の質と量が重要になってくる。そうしたものをしっかり吸収していくことが、音楽家としての次なる段階に結びつくんだと思います。

──お話をうかがっていて、次の作品への期待が高まりました。いつになるかはわからないけれど、完成した時には、新しい段階に入った織田さんの音楽を聴くことができそうですね。

素晴らしいものを作りたいと思っています。本当はね、社会の中で仕事としてやっていることなんだから、もう少しなんとかしろよという思いもあるんですが、こればっかりはどうしようもない。

──それだけ自分の音楽を妥協せずに作っているということですよね。アルバム制作はさなぎ期間でも、ライブに関しては、活発化していて、昨年から今年にかけて、武漢、成都、北京と、中国で開催されている音楽イベント『YOUTH NEVER GONE』にも参加しています。『碧いうさぎ』の中国武漢公演の映像からも中国の観客の熱気が伝わってきました。実際にやられて、いかがでしたか?

基本的に中国のああいうコンサートでは立ち上がるのは禁止で、特に北京は最前列は空けてあって、警備の公安の人が座っている状態だったんですが、みんな、日本語で大合唱してくれるんですよ。『世界が終るまでは…』も泣きながら合唱してくれて、武漢ではみんなが立ち上がって、ステージに上がってきてしまう人もいた。あの曲はアニメ『SLAM DUNK』のエンディングテーマなので、『SLAM DUNK』の人気のおかげもあるんですが、いろんな人の成長の過程で、アニメと一緒に俺の音楽がこびりついているのはすごいことだなと思いました。日本の昭和の時代に通じるような熱気を肌で感じられたのは大きかったですね。熱って、伝導しますから。演奏もそうだし、音楽家として今後活動していく上での熱エネルギーをもらえた気がします。

──中国公演を経て、10月からは“織田哲郎 LIVE TOUR 2019「猪突猛 SING! SING! SING!」”もあります。ツアーに関して何か考えていることはありますか?

正直、まだ具体的なことは何も決まってないんですよ。ただ、音楽家として、今は過渡期にあると思っているので、その状況はなんらかの形で反映されるんじゃないでしょうか。どうなるんだろうな(笑)。やってみたいことはいろいろあるんですが、どうなるか、自分でもまだわからないんですよ。

──「猪突猛 SING! SING! SING!」というツアー・タイトルは恒例の干支にひっかけてのものになっていますが、 SING! SING! SING!と言うからには、歌いまくるのでしょうか?

そう言っちゃったからには歌いまくらないとね。実際、今はガツンと歌いたい気分なんですよ。しみじみとしか歌いたくない時期もあったんですが、5月に北島健二のライブにゲストとして出演して、久しぶりにハードロック的な曲を歌って、大きな声で歌うのも悪くないな、しみじみした方向ばかりには行きたくないなと思ったんですよ。

──織田さんの音楽の幅の広さが楽しめそうですね。

一時期、アコースティックな方向ばかりに向かったのは、ポップス産業の中でスピードと売り上げを競い続けなきゃいけないという流れに巻き込まれて、より刺激の強い音楽を追究した時期の反動でもありますよね。挙げ句の果てに、首を絞められて、急ブレーキがかかって、うるさい音楽を聴きたくない、クオリティーの高い、いい音だけ、聴きたいという思いが強くなっていった。じゃあ、いい音とは何かと言ったら、腕のいい職人が丹精込めて作った生の木の楽器を、熟練の技を持ったプロフェッショナルが真剣に鳴らしている音だろうと。自分自身でもアコギ以外、弾きたくないという時期がしばらく続きまして。でも最近は、エレキギターを弾いてると、楽しいなって思うことも多くなってきたので、そこも大きいですよね。今でももちろん質の高い音も最高に好きだけど、俺はやっぱりロックンロールも好きなんですよ。ロックンロールって、逆にクオリティーが低いほうが良かったりもして(笑)。俺はその両方あるのが好きだし、その二つのバランスが重要だなと思っていますね。ロックンロールって、儚いところも好きなんですよ。

──瞬間瞬間で完全燃焼していく音楽ですもんね。

その儚さがいいわけで。ロックンロールは自分の中で重要だと思っているんです。当然、ROLL-B DINOSAURもやっていくんだけど、自分のライブでも、そういう部分も満足できるものにしたいんですよ。

──ROLL-B DINOSAURのライブもあります。ROLL-B DINOSAURでの先々のビジョンは?

ROLL-B DINOSAURでも来年はアルバムを作りたいですね。そろそろみんな、もっと適当にやれるようになるといいなあと。

──適当というのは?

みんな、ある程度、音楽をわかっているプロが集まったバンドじゃないですか。でもロックンロールで最強なのは、音楽の作り方をよく知らない連中が集まった時に、たまたまできちゃった変なものだったりするんですよ。ある程度、わかっている連中が集まっている中で、いかにもっと馬鹿になるかがテーマで。もっとやっちゃってもいいんじゃね、もっと馬鹿になってもいいんじゃねって思ってます(笑)。

──今後の音楽活動についてイメージしていることはありますか?

自分の中でこれができるようになってきたとか、やっとこれが分かってきたってことはいろいろあるんですよ。それをちゃんとやんなきゃなって思ってますね。課題はいっぱいあるし、やればやるだけ増えていく。そうは言っても人間の時間は有限なので、やれる時にやれることをやっていけたらと思っています。

──『オダテツ3分トーキング』の中で、限界を考えずに突っ込んじゃうこと、そしてそれを人と共有することが青春だとすると、20代だけでなく、40代も50代も青春っぽいとおっしゃってましたが。

その定義で言えば、60代になった今も青春ですね(笑)。どこまで行っても、新しいことをやってないと、気が済まない性格だし、生きてる限り、このままなんじゃないかと思いますね。

PRESENT

サイン入りCD「CAFE BROKEN HEART」を2名様に!

受付は終了しました

公演情報

DISK GARAGE公演

LIVE TOUR 2019「猪突猛 SING! SING! SING!」

2019年10月25日(金) 日本橋三井ホール

チケット一般発売:2019年8月3日(土)

ROLL-B DINOSAUR

2019年9月6日(金) 赤羽 ReNY alpha

≫ 詳細はオフィシャルサイトをご確認ください。

RELEASE

「CAFE BROKEN HEART」

SINGLE

「CAFE BROKEN HEART」

(キングレコード)
2017年7月5日(水)SALE

OTHER

YouTube『オダテツ3分トーキング』
自身が手がけた楽曲についてのエピソードやポイントトークを毎週土曜日動画配信中!

 

【織田哲郎YouTubeライブ動画配信決定!】
2019年8月31日(土)22時頃〜
▼こちらから配信予定
https://youtu.be/g_X2CtbbfQ8

  • 取材・文

    長谷川 誠

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