古き良きポップミュージックに根差した音楽性、親しみやすさとエンターテインメント性を共存させたステージ、そして、質の高い演奏と歌によって音楽ファンを魅了し続けているKANに、弾き語りツアーについて聞いた。
いや、まだ戻ってはいないですね。お客様にとってはまだ“観たいから行く”という気軽な状況ではなくて、会場に足を運ぶにはかなりエネルギーが要ると思うので。僕自身は“やれるだけでありがたい”ですけどね。去年はライブ自体がやれませんでしたから。
演奏に関してはまったく影響ないです。お客様に「歌って」とは言えないですけど、それは他の方法を考えればいいだけで。バンド編成のライブは影響があるかもしれないけど、僕の弾き語りライブは演出も一切排除していて、ピアノ1台と歌だけですからね。あとは喋りでどうにかするだけなので(笑)。
基本は変わってないですね。もともと弾き語りツアーをはじめた理由は……1987年にデビューしてからはバンド編成のライブしかやってなかったんです。ライブのなかに1~2曲くらい弾き語りで歌うことはあっても、一人だけでコンサートをやることはなかった。でも、2002年にフランスに行って、2004年に戻ってきたときに「一人でやれないのはアーティストとしてダメなんじゃないか」と思ったんですよね。で、バンドのライブとは別に弾き語りのツアーを始めたんです。バンドではあの手この手でエンターテインメントを追求していますが、弾き語りは真逆で、演出は一切せず、ピアノと歌だけで納得してもらえるか?ということなので。それは今も変わってないです。
構成を決めたら、あとはただ練習するだけですからね。ピアノと歌のクオリティを上げることしか考えてないというのかな。直前の2週間は他のスケジュールを入れず、ずっと準備してるんです。ステージに上がるのは僕だけなので、選曲や曲順もギリギリまで悩めるんですよ。バンドの場合はリハに入るまでに曲順を決めて、資料も揃えて、なるべく効率よく準備するけど、弾き語りはそうじゃないので。なるべく多めに練習して、ちょっとずつカットしながら組み立てて、(セットリストが)決まるのはかなりギリギリ(笑)。1回決めたら、変えないんですけどね。
はい。僕にとってはツアーですけど、来てくださるお客様にとってはその1回だけですから。初日から完全なライブをするのが本来の姿ですし、メニューも一切変えないです。熱心なお客様のなかには複数回来て下さる方もいらっしゃいますが、僕が(ツアー中に)構成を一切変えないのも知ってくれてると思うので。ジャズなどのセッション系のライブの場合は、その日によって違うという楽しさがあると思いますが、僕がやってるのはそっちのタイプではなくて。ポップスはどういう状況であっても、同じクオリティのものを見せるのが理想だと考えています。
反省したことがあるんですよね、90年代に。デビューしてからは作ってツアー、作ってツアーを繰り返していて、それが当たり前だと思っていたんです。その頃に他のアーティストのライブを観る機会があって。ファンじゃないとわからないことや、ツアーの中身を知っているという前提で話していて、ぜんぜん入り込めないことがあったんです。そのとき「もしかしたら自分も近いことをやってるかもしれない」と思って。そのときからですね、初めて来た方も、何度か来てくれてる方も同じように楽しめるライブにしたいと思うようになったのは。僕自身も、同じことを毎回毎回、新鮮にやらないといけないなと。
毎回違うのは、“Pink Card”のコーナーですね。お客様からのメッセージをその場で読んで(今回のツアーでは、スマホなどから専用ページにアクセスしてメッセージを入力する形式)、直接コミュニケーションを取るんですけど、お客様の反応によって、思ってもみない方向にいくこともあって。どうにか面白くしなくちゃいけないんですけど、がんばったけどまぁまぁなこともあるし、奇跡的におもしろくなることもあるし、かなりムラがあってそれはそれで楽しいです(笑)。
それは関係ないですね。普段の生活で窮屈な思いをしている方も多いと思いますが、そういうことは一切考えないでいい空間、時間にしたいので。MCでもコロナどうこうという話は一切してないんですよ。「いろいろあるなか、来てくれてありがたい」ということは言いますが、それだけですね。僕自身、その単語を聴くだけで疲れてしまうし、お客様にもそういうことを思い出さないコンサートにしたいんですよね。
「君のマスクをはずしたい」が出来たのはラッキーでしたけどね、題材をもらえたので(笑)。
何て言うのかな……。自己満足ではないけど、自分がやりたいことをやる、作りたいことを作るという考え方なんだろうなと思いますね。活動を継続できるのはファンの方々のおかげですが、ひとりひとりの考え方や感性も違うし、どんな曲をやれば喜んでもらえるかとか、いくら考えてもわかるわけないなと気づきまして(笑)。その後は、自分がどれだけおもしろいと思えるか?を基本にしてます。好みの方向性が近い人には楽しんでもらえるだろうし、違う解釈をしてもらってもいいというか、むしろそっちのほうが自分としてはおもしろいので。
秦くんとは10年以上の付き合いで、いつか一緒に曲を作りたいと思ってたんですよね。ただ普通にコラボレーションしてもおもしろくないし、“そんなの聞いたことないな”とことをやりたくて。秦くんに「まったく同じコード進行で違う曲を作ってみよう」と言ったら、最初は「え?」って感じでしたけど(笑)、快くやってくれて。そういうめんどくさいことにも取り組んでくれる人だと勝手に思ってたので、よかったです(笑)。
沁み込んでますからね。中学、高校の頃、レコード1枚買うのは大変なことだったし、“買った以上は”ということですごい聴き込んで。必死でコピーしたし──楽譜を買ったら負けと思ってて、耳コピしてましたーー隅々まで叩き込んでたんですよ。それが今も基本になっているし、いいことだなと思ってます。ここ10数年は中田ヤスタカさんの音楽ですね。これほど自分に刷り込んだアーティストは本当に久しぶりです。
次のツアーの準備も進めたいですね。制作もやらなくちゃいけないと思ってるんだけど、アルバムを1枚作り終える度に「もう無理!」って思っちゃうんですよ。でも、そろそろやらないといけないですね(笑)。