ピノキオピーがフルアルバム『META』を携え、ワンマンライブを開催!彼の追い求める理想の表現について紐解くインタビュー!

インタビュー | 2023.05.18 18:00

──紙資料によると『META』には“何かを信じすぎてしまいそうなときや、疑いすぎてしまいそうなときにこそ様々な価値観の海に飛び込み、そのなかで煌めく「自分」を生き抜いてほしい”という願いが込められているとのことですが。

こうは言っているものの、僕自身があんまり物事について考えてないんですよ。それで最近反省することが多くて……(苦笑)。

──ええっ、考えていない人はこんな曲たち作れないですよ。

いやいや(笑)。自分自身に“もっとちゃんと考えなきゃいけないよ”という戒めの意味合いから、そういうことを曲にしてることが多いのかなとも思います。だから「神っぽいな」にも《批判に見せかけ自戒の祈り》という歌詞を書いているんですよね。僕のやっていることは“神の視点”ではなくて、“神っぽい視点”。“不完全な人間が言ってます”というのがベースにあるんです。そのスタンスはずっと変わらないかもしれない。日頃生活をしていても迷うことやできないことが多いので、そういうときにもっとしっかりしなきゃなあと反省するんです。だから説教したいとか、みんなを引っ張っていこうという気持ちはなくて。“こういうことってあるよね。みんなはどう?”くらいの感覚なんです。

──その距離感や温度感は、昔から変わらないですよね。

あんまり“これはこうだ”と断定したくないのと、主語を大きくするのが苦手なんです。僕らはこうなんだ、こうすべきだという歌詞は力強くて勇気が出るという側面もあるから憧れたりもするんですけど、それを自分が書くとなると“誰が誰に何を言ってるの?”と思っちゃうんですよね(苦笑)。だから僕の書く歌詞が捉えにくいと感じる人も多いと思うんですけど、人によっては“こういう視点があるからこういう視点にも行きついているんだな”としっくりきてくれるんじゃないかなと思うし、そう感じてもらえたらうれしいなと思っています。

──今おっしゃったことを包含しているのが、タイトルトラックの「META」なのではないでしょうか。

「META」はこのアルバムでやったことの種明かしみたいな曲ですね。どの曲も自分が作っているものだし、伝えたいことでもあるんですけど、すごく引いた目線で書いているので、誰かを攻撃するために書いてないんですよね。いろんな目線を通して物事を見て、最終的に自分はどうするんだろう? 自分のかたちってどういうものなんだろう? という気持ちがすごく強かったので、それが聴いてくれる人に伝わってほしいなと……。伝えること、伝わることって本当に難しいですよね。

──そうですね。ピノキオピーさんの楽曲はいろんな視点が描かれているぶん、受け手それぞれが自分の都合のいいように解釈をしてしまう面はありそうです。

歌詞という少ない情報をさらに切り取られてしまうと、まったく違うかたちで伝播していきますよね。伝わることでいい方向に向かって気持ち良くなることもあるし、でも気持ちよくなりすぎるのも良くなかったりもして。そういういろいろが、どうかうまいことなってくれ!という気持ちから、「META」の《どうか~しませんように》という歌詞につながっていったのかなと思います。

──「META」のサウンドが宇宙のイメージと近いのは、俯瞰のメタファーでもあるのでしょうか?

これはシンプルに僕の好みですね(笑)。やっぱり創作の原点が藤子・F・不二雄さんのSF短編集なので、その感覚が残っているんだと思います。MVにも地球が出がちですし、爆発しがちなのも宇宙から受けるイメージだと思うし。でも宇宙は神の視点でもなくて、“ひとりの人間がそういう視点で見ようとしてる”くらいの感じなんですよね。それぐらいのテンションがいいなと思うんです。

──歌詞には客観的な視点を用いつつ、サウンド面はご自分の好みやルーツに忠実であると。

そういう意味で言うと、「エゴイスト」はタイトルのとおりほんと僕のエゴをテーマにしていますね。サウンドも流行りに乗るのではなく、自分のルーツとしてある四つ打ちのアシッドっぽい音とか、気持ちのいい音を曲には反映させたくて作りました。というのも、冒頭3曲が「神っぽいな」、「魔法少女とチョコレゐト」、「転生林檎」じゃないですか。4曲目くらいでしっかり“わたし”視点で書いた曲がないと、このアルバムを聴いていて不安になるんじゃないかと(笑)。

──(笑)。いろんな視点を楽曲に盛り込んでいるのは、歌詞にある《わたしはわたしで あなたにはなれないから》という大前提があるからこそ、できることかもしれません。

いろんな視点を盛り込んだ曲が続いてしっちゃかめっちゃかになっているところに、“自分はこういう立ち位置で、こういう感覚を持っている”という意思表示が出てくることで、ちょっと正気に戻るというか(笑)。「エゴイスト」は客観性の中でも自分を通した視点で作った曲ですね。

──ピノキオピーさんはご自身の好きなもの、感銘を受けたテイストを楽曲に落とし込んでいく一方で、すごく柔軟に様々なチャレンジをなさっている印象を受けます。曲中にご自身の声やゆっくりボイスを使ってみたり、エラー音がメロディになったり、VOCALOID楽曲のなかでは比較的タイトで緩急の効いたサウンドメイクをなさっていたり、アイデア豊富で自由だなと。

ここ最近は少ない音数で、説得力のあるアレンジを組んでいくのが好きなんですよね。VOCALOIDは肉声よりもボーカルの情報量が少ないので、それをカバーするために自分の声を重ねて厚みを出すようになったんです。だから自然とオケもすっきりしてくるというか。でもすっきりしすぎちゃうと記憶にも残らないので、フックになるものは入れたいんですよね。もともとAphex Twinのドリルンベースみたいな音も好きだから、エラー音っぽいものを入れがちかな。そういうものは、VOCALOIDとも相性がいい気がするんです。

──ピノキオピーさんの初音ミクの歌はどこか不完全な印象を与えるので、それも“エラー”の一環なのかなと今のお話で思いました。

ソフトがどんどん進化していて、今はミクの声にビブラートやしゃくりとかもつけられるんですよ。だから人っぽい歌い方も全然できるんです。でも普通にペッと打ち込んだ状態だと結構いい塩梅になるというか、人ではない者が歌っているという状態が僕は好きなんですよね。

──そのアンバランスな雰囲気が、ピノキオピーさんにとって重要であると。

人じゃないものが人間くさいことを歌ったり、アバウトなニュアンスの声でかっこいいことを歌っていたり、そういう相反するものが同居している状態が好きなんですよね。かっこいい声でかっこいいこと歌うとそのまますぎると思ってしまうので、かっこよくもなければ雑でもないという、どちらでもない状態が心地いいんです。

ピノキオピー - 匿名M feat. 初音ミク・ARuFa / Anonymous M

──『META』はご自分以外の客観的な視点を用いつつも、ピノキオピーさんのルーツや好きなものも投影されている。それもある意味“どちらでもない状態”かもしれません。

嘘がないようにはしたいんです。たとえば曲の流行りがあるとしても、自分の気持ちが動かなければ作らない。“これはどういうことなんだろう?”と興味が湧いたり、“これはおいしいアレンジだな”と思ったときは自分なりにちゃんと理解したうえで出すようにしていますね。そういうリスペクトや愛がない状態で作ると、自分にとって化け物のようなものが生まれるいうか……。それは自分が作りたいものではないんですよね。ちゃんと自分の感覚を通したうえで作っていきたいんです。

──だからピノキオピーさんの発信するものは、どことなくすべてリンクしているんですね。

理由付けされていなくて、ポンッと放り出されている状態がちょっと怖いのかもしれないですね(笑)。少しでもつながってる状態が心地いいのかもしれないというか、個々が関係していない状態だと自分で納得できないというか。自分的に違和感があることはしたくないんだろうなと思います。

──7月29日にはKT Zepp Yokohamaにて『META』を引っ提げたワンマンライブ「MIMIC」が開催されます。なかなか意味深なライブタイトルですが。

ピノキオピー 実は「MIMIC」は、アルバムタイトルの候補のひとつでもあったんです。いろんな視点を想像して書くことは、思想の擬態でもあるなと思ったんですよね。結果アルバムのタイトルは『META』になったんですけど、「MIMIC」は言葉の響きが可愛いのでライブタイトルにちょうどいいなって。

──“ミク”という言葉を甘噛みすると“ミミック”にもなりますしね。

『META』も「MIMIC」も“ミク”もみんな“M”でMだらけですね(笑)。昔の曲も今の曲も多種多様な変化が起こってきていることが感じられるライブがいいなという思いも込めています。それもあって、フライヤーには様々な姿に擬態したアイマイナをあしらったんですよね。

──今回はピノキオピーさんにとって初のZepp公演ということで、よりスケールの大きなライブが観られるのではないでしょうか。

ピノキオピー こんな大きな場所でやることになるとは……というのが率直な感想で(笑)。今の状況に戸惑いつつも、こういう大きいところでやるからには、ちょっと面白いことができたらいいなとは漠然と考えています。やっぱりたくさんの人が自分の作った曲を聴いてくれてるんだなと実感できるのはライブという場所なんです。すっごい笑ってくれてるなあとか、この曲でこういう感情になるんだなとかも、一つひとつはっきり見えるんですよね。観てくれる人からの熱を感じて、僕も同じぐらいの熱で答えられるようにしたいし、いただいた熱でまた新しい作品を作っていけたらと思っています。

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