インタビュー/長谷川誠
──3年3か月ぶりとなるニューアルバム『WILD LIPS』はスケールが大きくて、ロマンティックで、なおかつ大人の色気が漂う素晴らしい作品です。どんなことをポイントにして制作にのぞんだのですか?
シングルが3曲(映画『イン・ザ・ヒーロー』の主題歌「Dream On」、ゲーム『三國志13』のテーマソング「Dance to the future」、テレビアニメ『義風堂々!!兼続と慶次』の主題歌「The Sliders」)あったので、ポップに振りすぎてベストアルバムみたいになるのは嫌だったんですよ。なので、聴き手に媚びたりせずに、自分の好きなことだけをやりたいようにやらせていただきました。
──身も心も躍らせる見事なエンターテインメントとして成立していて、吉川さんの歌声がやたらとエロいです。
エロい歌を歌いたくて。アメリカのソウル・ミュージックってやたらとエロいじゃないですか。どうして日本にはそういう音楽が少ないんだろうって以前から不思議に思っていた。もっと大人向けのものがあってもいいんじゃないかなって。それと、前作『SAMURAI ROCK』は社会的なテーマを掲げて作った作品だったので、その反動もあったと思います。
──エロい歌を歌う上で、心がけたことはありますか?
生真面目にならないこと、頭で変に考えないってことですね。真面目にエロい歌を歌ってもおもしろくないですから(笑)。
──楽器としての声の音色の深さ、豊かさを感じました。
歌い手は体が楽器ですから。肉体労働者ですから。
──現在の自分の歌声、どう思われていますか?
まだまだですが、だんだん思い描いたように歌えるようになってきたかなとは思ってます。以前と比べても、キーも下がってないし、声量も増している。煙草を吸わなくなったとか、肉体的なことも要因になっていると思いますけれど、舞台(『SEMPO』)をやった時にクラシックの発声を習ったこともプラスになっているのかなと。いろんな声の出し方もできるようになったし、いろいろなことが繋がって、結果が出始めている気はします。
──大黒摩季さんがコーラスで参加している「Expendable」でのかけ合いもスリリングで魅惑的です。
彼女は5年くらい歌っていなかったんですが、その間、節制したり、勉強しなおしたりしたみたいで、以前から持っていたハードでハスキーな声にプラスして、透き通ったきれいな声も出るようになった。休養して大変だったと思いますが、そのことも身にしているんじゃないでしょうか。
──聴き手の本能や衝動を覚醒させるような音楽だなと感じました。
動物としての人間のパワーを表現していこうという意識はありました。こじんまりした歌を歌う気がしない。最近、小真面目、小利口な歌が多くて、つまんないなあと思っていて。自分はそういうのじゃないものを作りたい。等身大の歌みたいなのは自分の担当じゃないですから。エンターテインメントには夢を描ける良さがあるわけで、夢までこじんまりとするのはいやですね。
──吉川さんのルーツであるストーンズ、デビッド・ボウイ、デュランデュラン、ロバート・パーマーなどの80年代の洋楽のエッセンスが色濃く反映された作品でもありますが、このあたりは?
自分の中で今、80年代の音楽が新鮮に響いていて。ミディアムであっても、踊れる音楽であるところがいい。デビッド・ボウイやミック・ジャガーって、当時50ぐらいでしょ。今の自分が80年代の頃の彼らの年齢になって、やっとこういう表現ができるようになってきたのかなって思います。
──「サラマンドラ」のグルーヴも最高です。どんなところから生まれた曲なのですか?
ストーンズがディスコを取り入れた80年代の頃の感じをイメージして、踊れるブルースみたいなことをやりたかったんですよ。コード展開しないという縛りを付けて、フレーズと旋律の出し入れで抑揚を付けていった。やり尽くされたパターンではあったので、独自のもの見つけていくのに時間がかかりました。味わいがありながらも、テキトーな感じもほしくて作っていったら、こうなった。自分でも気に入っています。ライブでやったら、お客さんに受け入れてもらうまでに時間がかかるかもしれないんですが、1度、受け入れてもらったら、楽しく踊れる曲になると思いますよ。
──『日清焼きそばU.F.O.』のCMでも使われている「Oh,Yes!」は高揚感と爽快感とがあって、ライブでも盛りあがりそうですね。
デュランデュラン、パワーステーションあたりをイメージして瞬発力と集中力で作った曲です。歌詞はjam君に手伝ってもらった。“罵詈雑言”など、日本語なんだけど英語的な響きに聞こえるような言葉も入れて、遊び心も交えて作っていきました。
──タイトル曲「Wild Lips」を始めとして、バンド・サウンド全開のロック・ナンバーも目立っています。
アルバムのレコーディングには生形真一君(Nothing’s Carved In Stone/ex.ELLEGARDEN )、ウエノコウジ君(the HIATUS/KA.F.KA exTHEE MICHELLE GUN ELEPHANT.)、湊雅史君(ex.DEAD END)という今度のツアーのメンバーにも参加してもらったんですが、「Wild Lips」はこのメンバーで“せーの”で録りました。イメージしていたのはフー・ファイターズ。ロックなメンバーが揃ったので、必然的にそういう方向のサウンドになった。
──「Love with you」での深みのある歌声も素晴らしいです。声そのものから伝わってくるものがたくさんあります。
歌詞は松井五郎さんなんですが、「ともかく言葉を少なくしてください」ってお願いしました。「吉川君、それはすごく難しいね」「だから松井さんにお願いしているんですよ」って(笑)。デモテープもウーとかアーばっかりだった(笑)。饒舌なミディアムはいやなんですよ。半分スキャットでもいいくらい。日本にはミディアム文化ってあまりなくて、急にバラードになってしまう。ブライアン・フェリーの大人のミディアム、素晴らしいなあと思っていて、そういうところに自分でも挑戦し続けて、年齢なりの色っぽい曲がやりたい。ブライアン・フェリーも大きな指針ですが、遥か遠く目指しているのはフランク・シナトラ。じいさんになった時に、シナトラみたいに歌えたらというのが大きな目標ですね。
──アルバムタイトルを『WILD LIPS』としたのは?
色気のあるロックなアルバムということで、最初、『Rock’n Rouge』と付けようと思ったんですが、「松田聖子の曲にあるよ」って言われた。確かに松本隆さんの作詞曲であった。きっとどこかで聴いて無意識のうちにインプットされていたんでしょうね。作詞で参加してくれているjam君が「『HOT LIPS』ってどう?」って提案してくれたんだけど、自分の曲ですでに『HOT LIPS』はあった。「じゃあ『WILD LIPS』はどう?」「それはいいね」ってことで、こうなりました。
──セクシーなイメージもあるし、ロックなイメージもあるし、ぴったり合っていますよね。
くちびるって、おもしろいんですよ。傷口のように見える瞬間もあるし、人間の体の内側を見せているようなところもある。人間の本能が露わになっている場所がくちびるなんじゃないかなって思っていて。本能や衝動という人間の根本に立ち返ったエネルギッシュな音楽を目指したので、このタイトルがしっくり来た。
──アルバム・ジャケットもインパクトがあります。
最初はくちびるのデザインを考えたんだけど、ありとあらゆることをストーンズにやられていたので発想を転換して、背中の写真とキスマークを組み合わせることにしました。映画『キャット・ピープル』の頃のナスターシャ・キンスキーみたいなくちびるのイメージがあったので、“くちびるが印象的な女の子、誰かいない?”ってまわりに聞いたら、ちょうど、『日清焼きそばU.F.O.』のCMで共演している水原希子ちゃんがくちびるが印象的な女優さんのベストスリーに入っているとのことだった。頼んでみたら、おもしろがって、やってくれました。
──この最新作『WILD LIPS』を携えてのツアーも6月11日から始まります。ツアー・メンバー、キーボードのホッピー神山さん以外はみんな、初参加となります。この編成としたのはどうしてですか?
ここ数年やってもらっていたEMMAちゃんが、2016年はTHE YELLOW MONKEYのツアーとかぶってしまうので、今回は参加出来ませんというところからの流れでした。だったら、ここで新しいメンバーとやるのもいいかなと。バンドって、しばらく一緒にやっていく良さもあるんですが、水は澱まないことも大事で、時には新しいメンバーとやることも必要ですから。バンドってゼロから作っていくおもしろさもありますしね。
──メンバーはどのようにして決めていったのですか?
湊君にはアルバム『Cloudy Heart』の時に、何曲か叩いてもらったことがあって。同い年だし、自分を貫いていく真っ直ぐなところも好きなんですよ。ウエノ君はアベ君と同じTHEE MICHELLE GUN ELEPHANTのメンバーで、同じ広島出身ということもあって、一緒になった機会に話すようになって、レコーディングに1回来てもらったら、立って弾いていた。「そうしないと気合いが入らないんですよ」って言う。その頃からおもしろいヤツだなと思っていた。昨年夏の“中津川 THE SOLAR BUDOKAN”でも一緒に演奏したんですが、ぶっとい音を出すので、湊君のドラムと組み合わさったら、骨太な男っぽいサウンドになるだろうなって。生形君はEMMAちゃんからの推薦もあったんですが、以前、四国のフェスで一緒になったとき、ELLEGARDENのステージを観て、その時からいいなと思っていた。ロックなメンバーが揃ったし、レコーディングで何曲か、一緒にやった段階ですでに手応えを感じていたんですが、今後、さらにいいバンドになっていくと思います。
──ツアーはどんな内容になりそうですか?
新作の曲もやりますが、『下町ロケット』の影響なのか、幅広い年齢層の方にチケットを買っていただいているらしく、初めて観る人、久しぶりに観る人もいると思うので、通常のアルバム・ツアーよりも代表曲を多めにしようかと考えています。バンドのメンバーが大幅に変わったので、どうなっていくのか、自分でも楽しみですね。みんな、こだわりがあるから、ひょっとしてリハーサルの途中で衝突して、メンバーが変わっているってこともあるかもしれない(笑)。時にはぶつかることもあるかもしれませんが、火花が飛び散るところも含めて、楽しんでいただけたらと思っています。
──8月27日、28日の東京体育館がツアー・ファイナルとなります。
東京体育館はやったことがないので、未知の場所ではあるんですが、目指すところは変わらない。スタッフと話しながら、準備を進めていこうと思っています。骨折してからはひたすら泳いでいたんですが、水泳は上半身ばかりに筋肉が付くから、水中ではいいんですが、地上ではマイナスに働くところも出てくる。これからステージに向けて、陸上でしっかり動けるように体を変えていかなきゃいけない。追い込んで追い込んで、よりよいコンディションにして、ステージにのぞんでいこうと思っています。
■「Wild Lips」Official Music Video (short ver.)