TAKUI NAKAJIMA ACOUSTIC LIVE TOUR 2021 ALL COVER SELECTION
2021年5月15日(土)昼公演 ランドマークホール
2021年5月15日、横浜はランドマークホールにて「TAKUI NAKAJIMA ACOUSTIC LIVE TOUR 2021 ALL COVER SELECTION」が開催された。この日ライブは昼夜二部で行われたが、今回は昼公演のレポートをお届けしよう。
依然つづくコロナ禍での開催だ。本公演でも新型コロナウィルス感染拡大予防ガイドラインに沿った、様々な対策がとられている。
入場時の検温や消毒、適切な距離を保たれた座席にて観客は着席、マスク着用にての鑑賞スタイルで、MC毎に場内の扉を開けて換気を促す。コールアンドレスポンスもなく、アンコールのリクエストもできないけれど、それでもライブで中島卓偉のエネルギッシュな歌声を浴びることに大きな意義がある。誰一人としてルールを乱すことなく、心待ちにしていたファンがこの場に多く集った。
ビートルズのオープニングSEが鳴り響き始めると、会場は高まる。もちろん歓声を上げる者はいないのだが、熱気が沸き起こる言葉そのままに会場の温度が、徐々に上がる空気感がたまらないのだ。
スタートダッシュに選んだのは「ワインレッドの心」(安全地帯)と「Swallowtail Butterfly~あいのうた~」(YEN TOWN BAND)だ。聴衆が待ち焦がれていた卓偉のソウルフルな歌声が、シンプルなほどに表現力の問われる、また個性派楽曲の難解さをいとも簡単に自分のモノにしていった。特に女性の高音が特徴的な楽曲ともあろうに、逆に美しい低音を響かせて聴かせてくれたのには思わず息を飲むほどだった。
すっかり心を掴まれた聴衆のクラップが鳴り始めた。曲は「ミセス マーメイド」(チェッカーズ)。本ライブはバンドセットではなく、中島卓偉の歌と荒幡亮平によるピアノのみで表現される。赤いダウンライトが卓偉を照らす。曲の洒落た軽快さに加えて、聴衆の胸の高鳴りに合わせるように荒幡のピアノがたたみかける。そして卓偉のアーシーなファルセット。低音の美しさからの魂に響く高音へ…圧巻だった。
すごいものを見せられた後にサラッと入る、ありのままのMC。相変わらずの笑顔に会場が解れた。安心して過ごすことが難しい昨今だが、誰も傷つくことなくこうして再会できたことに、喜びを分かち合っていた。
カバーセレクションというコンセプトだが、ロックシンガーでありシンガーソングライターである中島卓偉は次曲に自らの楽曲「mother sky」を投入、大歓声のように空気が沸いた。メロディ、声、グルーヴ、何もかもが卓偉にフィットした感触が心地よい。これも足を運んでくれたファンへの応えなのだと察した。
「僕の曲で『'Cause I MISS YOU』という曲があるけど、その逆だね」
と言い、歌い始めたのは「想いあふれて」(松浦亜弥)。自曲で魅せる切なさと行き場のない想いはそのままに、楽曲を染め上げていく。呼応するようなピアノのメロディに乗った卓偉の歌の余韻が会場に重なっていく。情感で包まれた会場は「川の流れのように」(美空ひばり)から「風のエオリア」(徳永英明)、「星屑のステージ」(チェッカーズ)へと繋いでいく。
「風のエオリア」をビートルズのエリナーリグビーのようだと聴いて育った卓偉のカバーラインナップは、どれも昭和の歌謡界を彩った名曲ながら、「ロックな」だとか「ブラックっぽい」と形容するにはあまりにも稚拙な、アイデンティティと浪漫に満ちた世界だった。
続いては「また逢う日まで」(尾崎紀世彦)。その力強い声量を存分に発揮し、また卓偉の少年的な魅力やソウルフルなリズム感が相まって、ロックンロールチューン「GLORIA」(ZIGGY)へと昇華していく。青春の匂いを放つ卓偉の魂のロングトーン、フルバンドさながらのピアノソロが興奮を増幅させていく。
「悲しい色やね」(上田正樹)では、日本の歌謡史における“ブルース”を米国由来の“ブルース”を摂取してきた日本人ロッカーが一つの楽曲として向き合った、新たな味わいとして深く魅せてくれた。
中島卓偉のライブは、常に情熱とパワーに満ち溢れている。聴衆とステージが、時には競うように熱量をぶつけ合っていた。が、今はそれができないのだ。こんなことを書くのはどうかとも思うが、卓偉は明らかにもどかしさと苛立ちを隠せないでいた。でもそれは聴衆も同じだと知っている。その行き場のないエネルギーを歌で、拍手で、眼差しで互いにぶつけようとしているのだ。見渡せば、右左どこの誰を見ても「聴きにきてよかった!」と言いたげな目の輝きをしていたのが印象的だった。
「最後は自分の曲を歌わせてください!」
そう言って始めたのは2020年の自粛期間中に作られたという、未発表曲「きみの住む街へ」だ。「また皆さんの住む町に歌いに行きたい」そんな思いからできた本曲には、現在の思いの全てが詰まっている。爆発させたいライブへの想いをグッと噛み締めながら、新曲「想い出にすがらずに」を披露し、深い感謝の気持ちを伝えた。
情勢に振り回される日々は今後も暫く避けられそうにないが、この場にいた者の誰もが知りうることは、卓偉の音楽はエネルギー(栄養)だということだ。6月3日には配信EPリリースし、それに伴ってインスタライブを開催、限りある中で精一杯、力強くファンを愛し支え続けてくれている。すぐに熱いライブを浴びることのできる日は必ず来る。その日まで…。
しかし…ピアノ一台とヴォーカル一本かと疑うほどのグルーヴとエネルギーが放たれた、珠玉のライブだった。
SET LIST
01. ワインレッドの心(安全地帯)
02. Swallowtail Butterfly~あいのうた~(YEN TOWN BAND)
03. ミセス マーメイド(チェッカーズ)
04. mother sky
05. 想いあふれて(松浦亜弥)
06. 川の流れのように(美空ひばり)
07. 風のエオリア(徳永英明)
08. 星屑のステージ(チェッカーズ)
09. また逢う日まで(尾崎紀世彦)
10. GLORIA(ZIGGY)
11. 悲しい色やね(上田正樹)
12. きみの住む街へ(未発表曲)
13. 想い出にすがらずに(新曲)