どんな場所でもkoboreであり続ける。自己最大キャパの会場に挑んだ「ZERO RANGE TOUR」セミファイナル・EX THEATER ROPPONGI公演をレポート!

ライブレポート | 2021.11.24 17:00

kobore ワンマンツアー2021「ZERO RANGE TOUR」
2021年11月11日(木)EX THEATER ROPPONGI[東京]

koboreは元来、どんな場所でもkoboreとして存在できるバンドだ。アウェイと言われるような場所でも、これまでに経験のない大舞台でも、自分たちの軸をぶらすことなくホームグラウンドのように立ち振る舞える。物怖じせず、自分たちの闘い方で魅せていく姿は非常に頼もしく、その生きざまは多くの同世代の若者の心を昂らせてきただろう。

さらに、彼らの音楽は一抹の仄暗さも孕んでいるのが特徴だ。情緒深いメロディやギミックの効いたコードワーク、メロディアスなベース、緩急の効いたドラムなどには、繊細な感覚が通っている。徹底的に感染症対策を取りながら全国23ヶ所を回ったワンマンツアー「ZERO RANGE TOUR」のセミファイナル・EX THEATER ROPPONGI公演は、そのふたつの要素がより濃い状態で鳴り響いていた。

開演前、薄暗いステージでメンバーたちがサウンドチェックをし、19時を過ぎるとそこには全員が揃う。どうやら1000人超えのキャパシティのホールでも、SEを使わずいつもどおりサウンドチェックからそのまま演奏を開始するらしい。

緊迫感のある佇まいの4人がお互い目を合わせると、耳を劈くような轟音をぶっ放した。客電や観客の作る喧騒を一瞬ですべて掻き消して、佐藤 赳(Vo/Gt)が「府中から来ましたkoboreです」と高らかに叫ぶと1曲目は「ティーンエイジグラフィティー」。全員がのっけからトップギアで、その後も「FULLTEN」、「HEBEREKE」、「るるりらり」とつないでいく。

佐藤 赳(Vo/Gt)

楽器隊は演奏に没入し、佐藤は衝動に身を任せるままにステージに寝転がるなどまるでクライマックスのような熱量だ。そんな4人の音と姿に圧倒されていると、全国各地のライブハウスで演奏している彼らの姿がふと頭に過った。そこで彼らは今、バンドにとって最大キャパの会場でライブをしているのではなく、「ZERO RANGE TOUR」をしているのだと気付いた。4人の演奏はこれまでの21公演と地続きで、ツアーで培ってきているグルーヴや感情を、ただただストレートに投げつけている。

「最高だな!」と笑う佐藤は、2020年から続く状況下でツアーを行ったことに触れ「俺たちと同じ船に乗ってくれてありがとうございます」と観客に頭を下げる。わたしはコロナ禍で初めてkoboreのライブを観たため、佐藤がMCでここまで興奮を露わにしていることが新鮮であり驚きだった。もちろん以前の彼も熱い心意気を持っていたが、もう少しスマートで偉容を誇っていたように思う。「俺らはコロナウイルスなんかではなく、今日来てくれたあなたに用があるので、いっぱい叫んで歌って帰ります」――そう語る彼からは、観客とともにライブを行える喜びと、当たり前の日々を奪われることへの苛立ちの感情が漲っていた。

伊藤克起(Dr)

安藤太一(Gt/Cho)

「夜に捕まえて」や「夜を抜け出して」などポップな楽曲のセクションでは、各メンバーのプレイヤーとしての個性がより明確に。伊藤克起(Dr)の作る硬派でドラマチックなリズムワークと、安藤太一(Gt/Cho)のロマンチックかつピュアでクリーンな音色が、歌を立体的に彩る。田中そら(Ba)はドラムとギターをなめらかに縫合するように低音を奏で、楽曲を引き立てることに徹すれば徹するほどその存在感が増していくところも印象的だった。

田中そら(Ba)

「SUNDAY」から間髪入れずに伊藤のドラムソロを挟み、鋭くも軽やかに舞うように「ローカルから革命を」へ。「どうしようもないな」でさらに演奏の強度は上がり、「HAPPY SONG」では佐藤の日常とひとりごと的な詞世界を丁寧に抽出する。このセクションは昼から夕暮れ、真夜中から夜明けへとグラデーションを作るようなセットリストで、「ナイトワンダー」からはディープゾーンに。艶を感じさせる歌、スケールの大きなサウンドスケープで魅了すると、田中の緊迫感のあるベースソロから「ミッドナイトブルー」で夜特有の高揚感と感傷性を煌びやかに音へ映し出した。「東京タワー」は涙の成分を多く含んだ佐藤の歌と楽器隊の演奏が力強く呼応する。昔の佐藤が書いた歌詞によって、今の佐藤が鼓舞されていく様子がとても沁み入り、それを東京タワーとほど近い六本木という街で見られることも感慨深かった。

MCで「今日みたいな日を“特別”と言うなら、そんな現実クソくらえっすわ」と言う佐藤は、以前のような楽しみ方ができるライブ、つまり当たり前の日々を取り戻したいと続ける。「結局上を向いても涙は零れてくるし、下を向いてもなんも落ちてない。俺たち、前を向くしかないんですよ。俺たちくらい前を向いていたいです」――彼のその言葉のあと演奏されたのは「夜空になりたくて」。泣きだしそうな歌声が、言葉以上に今の心境を物語っていた。

その様子を見て、koboreは悲しみという感情があるからこそ強くなれる、前を向けるバンドなのだろうと思った。コロナ禍前の彼らは、音楽とライブがあったから、悔しさも悲しさも苦しみもそこで喜びに変換することができた。ゆえに2020年以降、これまでにない大きな苦しみを味わい、生きる術を奪われた彼らの心中は計り知れない。それでも彼らはなによりも大事な「当たり前」を取り戻すために、いばらの道でありながら今出来ることから一つひとつ行動に起こしてきた。

大切なものを守るなかで湧き上がった喜怒哀楽やさらに研ぎ澄まされた強い意志が、この日の演奏ではつねに迸っていた。「ダイヤモンド」や「幸せ」、「テレキャスター」といった過去曲もより深みを増し、佐藤は歌とギターでは伝えきれない溢れだす気持ちを叫んで、汗とともにこちらの心臓へと投げつける。そんな4人に観客の心も焚きつけられるのは必然。「爆音の鳴る場所で」ではシンガロングが会場中に響き渡っていると感じるほど、会場にいる一人ひとりから強い気魄が溢れていた。

佐藤はこのツアーで、本当にいい歌とは声が枯れることも恐れず、ひたすら必死に誰かに伝えようとしている歌ではないかと語る。そのあと長尺のイントロとともに披露した「ヨルヲムカエニ」は、4人の尋常ではない集中力が眩い。こちらを圧倒する音像。そのアウトロでラフな笑顔を浮かべて客席を眺め、ピースサインを掲げる佐藤の姿は、非常にシンボリックだった。本編ラストの「当たり前の日々に」まで、4人は針を振り切るような熱量で駆け抜けた。

アンコールは2曲。「ヨルノカタスミ」のあと、「アケユクヨルニ」のアウトロで佐藤がおもむろに客席に語り掛けると、自身の音楽との出会い、koboreへの結成の話を続ける。彼の「今鳴らしてる俺たちの音が俺はいちばん好きだ、いちばん愛してるんだ」という言葉のあと、4人の演奏はさらに熱が入った。その爽やかな轟音のなかで、佐藤は「いつも音楽に生かされているお前が、俺たちの音楽を生かしている。ありがとう」と全身を振り絞って叫ぶ。観客はそれに澄んだ瞳で応えた。希望と不安を抱えながらも、まっすぐと前を向いて新しい明日を迎えようと固い誓いを交わすような、純度の高いラストシーンだった。

 「ZERO RANGE TOUR」が地続きだったように、彼らのバンド人生はこの先も続いていく。このツアーを経た彼らはどんな音楽を、どんな演奏を我々に届けるのだろうか。koboreという物語の続編をこの先も追いかけていきたい。

SET LIST

01. ティーンエイジグラフィティー
02. FULLTEN
03. HEBEREKE
04. るるりらり
05. 夜に捕まえて
06. 夜を抜け出して
07. SUNDAY
08. ローカルから革命を
09. どうしようもないな
10. HAPPY SONG
11. ナイトワンダー
12. ミッドナイトブルー
13. 東京タワー
14. 夜空になりたくて
15. ダイヤモンド
16. 幸せ
17. テレキャスター
18. 爆音の鳴る場所で
19. ヨルヲムカエニ
20. 当たり前の日々に

Encore
01. ヨルノカタスミ
02. アケユクヨルニ

公演情報

DISK GARAGE公演

Live Information

灰色ロジック 1st full album ”see the sea” release tour 2021
2021年11月27日(土) つくばPARKDINER・茨城
ACT:kobore / 灰色ロジック / OA 音速ばばあ

府中Flight × 佐藤赳(kobore) pre. “ローカルから革命を vol.5” Flight 31th Anniversary!!
2021年11月30日(火) 府中Flight・東京
ACT:佐藤赳(kobore) / 横山優也(KOTORI)

Dear Chambers presents “ぼくらの遊び場TOUR 2021-Autumn-
20211211() 新宿LOFT・東京
ACT: kobore / Dear Chambers

RELEASE

『Orange』

2nd EP

『Orange』

(Columbia)
2021年6月9日(水)SALE
  • 沖 さやこ

    取材・文

    沖 さやこ

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  • 撮影

    Akira “TERU”Sugihara

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