SHISHAMO、10周年祝福ムードの武道館で密度の濃いステージを届ける

ライブレポート | 2023.01.23 18:00

SHISHAMO『SHISHAMO NO BUDOKAN!!! ~10YEARS THANK YOU』
2023年1月4日(水)日本武道館

SHISHAMOの10周年のお祝いであると同時に、これまでの10年の成果をしっかりと刻んだ夜となった。約3時間のコンサートだが、あっという間だった。つまりそれだけ充実した、密度の濃いステージだったのだ。場内に入った瞬間から正月のめでたさをそのまま引き継いだような祝福ムードが漂っていて、“赤と白”が目立っていた。ステージの床は赤。ステージ中央から伸びる花道も赤。センターステージには赤地に白のSHISHAMOのロゴがデザインされていた。観客の首のタオルも赤白。観客の服装も赤白コーデ率が高い。武道館の天井から架かっている国旗も赤白だ。

オープニング映像での始まり。「恋する -10YEARS THANK YOU-」のMV特別バージョンの映像が映し出され、登場する女の子(上原実矩)と男の子(岡田翔大郎)のその後のストーリーが描かれた映像へとつながっていく。武道館の前で男の子を待つ女の子。開演から10分がすぎ、男の子が現れ、二人は武道館の中へ。実は映像はリアルタイムの武道館前での中継映像へと切り替わっていた。武道館の扉を二人が開けた瞬間に、実際の武道館の扉が内部からも開いた。姿を見せた二人に驚きの歓声が起こった。映像から生中継映像へ、そして実際の二人の登場へとつながっていく演出が見事だ。サプライズのオープニング映像に続いて、宮崎朝子(Gt.Vo)、松岡彩(Ba)、吉川美冴貴(Dr)が登場すると、温かな拍手が起こった。

1曲目は「恋する」。デビューアルバムとCDデビュー10周年コンセプトアルバムに収録されている10周年を象徴する曲だ。イントロの演奏中にキャノン砲から紙吹雪が発射され、祝福ムードをさらに盛り上げた。ステージの背後のLEDには「10YEARS THANK YOU」と書かれたSHISHAMOの10周年ロゴが映し出されている。3人の気合いの入った歌と演奏に、会場内が揺れている。続いての「ねぇ、」での疾走感と爽快感とを備えたバンドサウンドも気持ちいい。最初から全開。気迫が音からほとばしる。

(Gt.Vo 宮崎朝子)

「去年の11月にCDデビュー10周年イヤーに突入して、武道館でライブをやらせていただくことになりました。みんなは祝いに来てくれたんですよね。楽しみにしてくれましたか?」と宮崎が挨拶すると、盛大な拍手が起こった。この日の模様は、U-NEXTでもライブ配信されており、自宅でSHISHAMOの10周年を祝っている人たちもいる。

せつなさとソリッドさが共存する「中毒」、MVにも登場する怪獣をモチーフにした映像が流れる中で、キュートな恋心を生き生きと描いた「君の目も鼻も口も顎も眉も寝ても覚めても超素敵!!!」、恋の不安やとまどいを疾走感あふれる演奏で表現した「きっとあの漫画のせい」など、多彩な恋心をエネルギッシュなロックサウンドで表現できるところに、SHISHAMOの独自性がある。10周年については、3人からこんなコメントがあった。

「私はSHISHAMOに加入して8年になるんですが、その前もSHISHAMOを聴いていたので、出会ってから10年になります。最初は“えっ、もう10年なんだ”ってびっくりしていました。でもみなさんが“おめでとう”って言ってくれて、うれしい気持ちが日に日に増しています」(松岡)

「軽音楽部でやっている時から12年くらい経っていて。当時は卒業したら終わりでしょって言っていたので、本当にうれしいです。SHISHAMOを好きでいてくださるみなさん、スタッフのみなさん、二人にも感謝の気持ちでいっぱいです」(吉川)

「こんなにやるつもりはなかったので、自分がいちばんびっくりしています。いろいろ出会いがあって、いろんなことがあって続いてきました。自分がやりたいと思っただけでは続かないと思います。SHISHAMOを聴いてくれる人、支えてくれるスタッフ、みんながいないと、無理でした。みんなでたどり着いた10周年イヤーだと思っています。みんなの顔を見られることがうれしいです」(宮崎)

恋心をファイティングスピリッツに昇華させていくような演奏がスリリングな「狙うは君のど真ん中」、ソリッドなバンドサウンドと観客のハンドクラップが一体となった「量産型彼氏」、失恋から立ち直ろうとする女の子の気持ちに寄り添うような温かさと力強さを備えた「メトロ」などなど。これらの演奏から、SHISHAMOの音楽はいつも“恋する人の頼もしい味方”であることを実感した。

SHISHAMOのこれまでの10年間を辿るヒストリー映像が映し出されている間に、センターステージに楽器がセッティングされ、3人が登場。前方に吉川、後方下手に宮崎、後方上手に松岡。三角形となって、それぞれが向き合う形で「僕に彼女ができたんだ」が始まった。観客もハンドクラップで参加して、会場内に熱気が充満していく。過去の野音などのセンターステージでは、アコースティック編成での演奏を展開することが多かったのだが、この日はバンドサウンド全開。

センターステージでは、3人が笑顔を見せるシーンもたくさんあった。「“かわいい”くらい、言ってもらっても大丈夫なんで」と宮崎が言うと、会場内から「かわいい!」という声。コロナ禍で声出しが制限される日々が続いていたので、客席からの声が新鮮だ。「私が“かわいい”って言われるのはライブくらいなのよ」と吉川が言うと、客席からさらに、「かわいい!」というたくさんの声。「これで明日から、世界がどんなに残酷でも生きていけます」と吉川。観客とのやり取りに続いては、疾走感あふれる演奏が痛快な「バンドマン」、観客のハンドクラップも加わって躍動する「生きるガール」へ。大きなうねりを生み出すダイナミックな演奏だ。

(Gt.Vo 宮崎朝子)

(Ba 松岡彩)

(Dr 吉川美冴貴)

3人が手を振りながら、センターステージから花道を歩いてメインステージに戻っていくと、拍手とともに声がかかった。あちこちから「かわいい!」の声。中盤は恋心の闇の部分を描いた曲が続いた。ファンキーなグルーヴと切れ味抜群のボーカルがザクザク刺さってくる「君の大事にしてるもの」、みずみずしいコーラスとアンニュイな空気感が新鮮な「二酸化炭素」、強い意志がにじむ「忘れてやるもんか」と、緩急自在の歌と演奏が見事だった。「忘れてやるもんか」では赤と白の光を使った照明の美しさにも息を飲んだ。

「このライブが終わるまでは、正月気分にはなれない」という松岡のMCに続いては、映像もまじえてのミディアムテンポの夏の曲「ハッピーエンド」。せつない恋の歌だが、恋を終わらせようとする歌の主人公の強い意志が伝わってきたのは、バンドの強靱な演奏があるからだろう。恋心のいとしさと甘さを丹念かつ繊細に描いていたのは「天使みたい」。歌の中に寝息が登場するところも画期的だった。宮崎のアコースティックギターで始まった「夏の恋人」は、さまざまな夏の思い出を喚起させる曲だ。この曲がリリースされたのは2016年。これから先、夏を重ねるたびに、さらに大きな曲へと成長していくのだろう。「夢で逢う」は歌と演奏の展開の妙を堪能できる曲だ。せつなさの極致と言いたくなる歌と演奏が見事だった。

SHISHAMOのワンマンライブ恒例の「吉川美冴貴の本当にあった○○な話」のコーナーでは、吉川が率直に現在の心境を語った。挫折の多い人生だったこと、自分には特別な才能がないとわかったこと、ステージに立つのが怖いと思う日があったことなどなど。

「もしかしたら自分はSHISHAMOのことが好きじゃなくなったのかなと思うこともありました。でも最近わかったのは、“好き”と“楽しい”がイコールではないことです。どんなにつらくてもしんどくても怖くても、自分がSHISHAMOのことが好きなんだなって、10年かけてわかりました。もがきながら明日からも活動を続けていくので、そばで見守ってくださったらうれしいです」(吉川)

そんな吉川の言葉に宮崎と松岡が即座に反応する。「いや、才能はありますよ。吉川さんの努力の仕方は尋常じゃないから、それは才能だと思います」と宮崎。「努力も才能です」と松岡も発言。「そばで見てる私も松岡も知っているから。凡人の努力の仕方じゃないから」と宮崎。こうしたMCからも、SHISHAMOの音楽に対する真摯な姿勢や、3人の絆の深さが見えてくる。そしてなによりも、3人の演奏の充実ぶりが、10年の日々を雄弁に物語っていた。涙する観客に「泣かないで」と宮崎。

終盤は観客が「待ってました」と言いたくなる曲の連続。ときめきのパワーが詰まった「君と夏フェス」、躍動するリズムに体が揺れる「君とゲレンデ」など、“好き”という気持ちをパワーに変換したエネルギッシュな演奏が続く。センターステージでの松岡の説明に続いて、「タオル」へ。「元気にいけますか!」という松岡の言葉に、観客が大きな「Yeah!」で応えている。SHISHAMOの10周年を盛大に祝うように、赤白タオルが何千もの風を起こしていた。

「明日も」では、さらに祝福ムードが濃くなった。キャノン砲から銀テープも発射され、ハンドクラップも一緒に参加。会場内がキラキラしている。この日はLEDには映し出されていた歌詞が、いつも以上に染みてくる。<痛いけど走った><苦しいけど走った><今日をひたすらに走ればいい>などのフレーズが、現在のSHISHAMOの姿と重なったからだ。もともとは、サッカーのサポーターの姿に触発されて作った曲とのことだが、ライブで演奏されるなかで、大きく育ってきた曲だ。さっきまで回していたタオルで涙をぬぐっている観客もいる。さらに「明日はない」へ。今の瞬間を完全燃焼していく白熱の演奏で本編終了。

アンコールは「ブーツを鳴らして」から。冬に聴く夏の歌もいいけれど、冬の歌も格別だ。ライブの冒頭で流れた男女の物語ともシンクロするような、せつない歌の世界が会場内に広がっていく。武道館でのライブの感想を、3人がそれぞれこう語った。

「楽しみにしていたし、楽しめました。いい年明けになりました。ここから10周年イヤー駆け抜けていきますので、みなさんと一緒に楽しい時間を共有していけたらと思っています」(松岡)

「時が一瞬ですぎていきました。本当にいい日でした。忘れられない日になりました。みなさんがいてくれたおかげです。少しでも恩返しができたらと考えていました。一緒に楽しい一年にしていっていただけたらうれしいです」(吉川)

「10年いろんなことがあって、コロナ禍があって、簡単じゃなかった気がしています。3度目の武道館ですが、特別な武道館になりました。これからいろんな場面で今日のことを思い出すような、糧になるような時間でした。みんなにとっても覚えてくれている日になったらうれしいです」(宮崎)

アンコールラストは「またね」。歌の歌詞のひとつひとつが深く染みこんできた。思いの詰まった歌、ギター、ベース、ドラムが大きなうねりを生み出していく。失恋の曲だが、この日の<またね>というフレーズは、観客との再会の約束の言葉のようにも響いてきた。アンコールも含めて25曲。3時間近く。SHISHAMOの音楽の魅力を堪能した。終演後、3人がセンターステージで手をつないでお辞儀をすると、「大好き~!」との声がかかった。「ありがとうございました」と3人が生声で挨拶して、ライブ終了。

終演後、LEDに冒頭の映像の続きが映し出された。実はこの映像も生中継映像だ。つまりライブが終わったばかりの武道館前からリアルタイムで撮影されていた。SHISHAMOのライブを観た二人が「楽しかった」「感動したなぁ」と会話をかわしたあとで、女の子が男の子に、自分の気持ちを告白する急展開に。つまり「恋する-10YEARS THANK YOU-」のMusicVideoで描かれているストーリーの続きが、描かれていた。SHISHAMOの武道館ライブが女の子の恋を後押しするかのようだ。

10周年の武道館がお祝いの場になったことは間違いないが、ここはゴールではなく、あくまでも、区切りのひとつにすぎないだろう。コンセプトアルバムのリリース、大阪城ホールでのライブなど、さまざまな10周年企画もひかえている。“ライブでの声出し”も解禁されつつある。きっと3人も、「かわいい!」という声をもっと聞かせてほしいに違いない。これから先のSHISHAMOのステージでは、熱烈なコール&レスポンスがたくさん出現することになるのだろう。

SET LIST

01. 恋する
02. ねぇ、
03. 中毒
04. 君の目も鼻も口も顎も眉も寝ても覚めても超素敵!!!
05. きっとあの漫画のせい
06. 狙うは君のど真ん中
07. 量産型彼氏
08. メトロ
09. 僕に彼女ができたんだ
10. バンドマン
11. 生きるガール
12. 君の大事にしてるもの
13. 二酸化炭素
14. 忘れてやるもんか
15. ハッピーエンド
16. 天使みたい
17. 夏の恋人
18. 夢で逢う
19. 君と夏フェス
20. 君とゲレンデ
21. タオル
22. 明日も
23. 明日はない

ENCORE
01. ブーツを鳴らして
02. またね

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