3markets[ ]、リキッドを熱狂させたツアーファイナル。かつての“ライブ”を取り戻すエネルギーに満ちた夜

ライブレポート | 2023.03.07 12:00

3markets[ ] presents 「東京でのすごしかた」リリース記念ツアー
~『トビウオ祭』ツアーファイナル~
2023年2月24日(金)LIQUIDROOM

昨年11月に配信シングル「東京でのすごしかた」を発表し、東京・名古屋・仙台・大阪と作品を携えたリリース記念ツアー『トビウオ祭』を回ってきた3markets[ ]が、2月24日恵比寿LIQUIDROOMでツアーファイナルを迎えた。開演直前、満員の会場に向けてカザマタカフミ(Vo/Gt)が自ら影アナを務め注意事項などを述べた後、「声出しは、好きにやってください」という一声をかけると、観客からワッと喜びの声と拍手が起こる。その心地よいざわめきに、いよいよかつての“ライブ”が戻ってきている実感が、フロアに広がっていくのを感じる。会場が暗転し、ステージ上の4つの灯りに迎えられ登場した、カザマタカフミ、矢矧 暁(Gt)、田村 亮(Ba)、masaton.(Dr)には、待ってましたとばかりに大きな歓声が上がった。

カザマタカフミ(Vo/Gt)

矢矧 暁(Gt)

田村 亮(Ba)

masaton.(Dr)

今回のライブタイトルは『トビウオ祭』。“祭”にちなんで、masaton.のダイナミックなドラムと田村も太鼓を打ち鳴らし、“はっ!”“それっ!”と祭囃子に合いの手を入れながら「さよならスーサイド」のプリミティヴなパワーを持ったイントロのドラムにつなげていく。4人のエネルギーがぶつかり合う爆裂なアンサンブルから、続く「愛の返金」ではぐんぐんとスピードが上がっていき、ギターは咆哮をあげと、冒頭からその勢いは凄まじい。そして序盤のハイライトとなったのが、スポットライトのなかmasaton.が迫力のあるドラムを轟かせてスタートした「レモン×」だろう。それぞれの奏でる音ががっちりと組み合って自在に跳ね回るラテン的なビートと、そのタフで熱量の高いサウンドとは相反するようなカザマの乾いたボーカルがコントラストを生む。からあげにレモンをかけるか否かというわかりやすい題材をフックに、他者から評価されることや嫌われてしまうことを必要以上に恐れる姿を描く「レモン×」は、ソングライター・カザマタカフミという人がよく出ている。自尊心が低めで、でもそんな自分を客観視して皮肉ったり弱音を吐いたり、強がってもみせる。実生活では言えない、うまく伝えられない思いも、歌の中では饒舌だし、妄想力が磨き上げたユーモアも持ち合わせている。MCでは「みんなが、下には下がいるんだと思って元気になってくれれば」なんてことを言うが、卑屈になるだけじゃない、その不器用で、どこかかわいげが滲む感じがリスナーの心を掴むのだろう。さらにポストロック、オルタナをルーツとしたバンドサウンドは、歌が宿した感情を燃料にして、豪快に爆発していくのは爽快だ。ボルテージを急上昇させる「レモン×」で盛り上がったフロアに、「今日はありがとうございました。次で最後の曲です。3markets[ ]でした」とカザマはしれっと冗談を飛ばして、骨太な「サイゼ」のアンサンブルを叩きつけて、ライブは中盤戦へと突入していく。

中盤は、前半の濃密さとは逆の、隙間や呼吸感があるバンド・アンサンブルが心地よい曲が続く。淡々とした引き算の音でいて、歌と呼応する矢矧のギターフレーズが全体の歌心を引っ張り上げる「底辺の恋」や「バンドマンと彼女」。ミニマルでいてドラマティックな「4月」から、再びノイジーにサウンドもボリュームをあげていく「最愛(モアイ)」へと、緊張感と緩急のあるアンサンブルで魅せていく。新曲「暇」はキャッチーで、その力強いサビでコブシが上がって会場は一体感を増して、「僕はセックスができない」で観客は大きな手拍子を打ち鳴らしていった。「みんなこの曲好きなの!?」というカザマの問いに、フロアの方々から「好き!」と返答が上がる。会場内は女性の割合が高いが、その中で笑顔で答える男性ファンの姿に、カザマも嬉しそうだ。

また今回はシングル「東京でのすごしかた」のリリース記念ツアーだが、後半に差し掛かってようやく収録曲の「おもとだち」が披露された。この歌で描かれる、孤独をこじらせているがゆえに、友だちの概念がとてつもなく難しいものになっている哀愁感ややるせなさは、大人になるほど身にしみる。観客は、エモーショナルに奏でられるその歌をかみしめるように聴き、まだまだ浸っていたいというところだったが、ここで場面を大きく転換させるようにmasaton.のアグレッシヴなドラムソロへと突入し、フロアを一気に沸騰させると「¥1,000,000」の躍動的なビートで観客の体を揺らしていった。『トビウオ祭』にちなんでmasaton.と田村による賑やかな祭囃子でスタートした今回だが、カザマもまたそこに参加したいと言ってここで取り出したのは、コロナ禍に買ったという瞑想用のシンギングボウル(仏具のおりんのようなもの)。

祭りのハレの高揚感とは真逆の作用がある気がするが、ともかく厳かな表情でチーンとシンギングボウルを鳴らし、ここに続いたのは「東京でのすごしかた」収録の「マイニッチ」。疾走感のあるサウンドに、メンバーによるコーラスやシンガロング、これぞスリマのアンサンブルという軽妙なテクニカルさと爆裂さが楽しめる曲に、フロアから一斉にコブシが突き上がった。このコブシを下げる間もないまま、勢いのある矢矧のギターフレーズと、田村の力強いスラップベースで「整形大賛成」へとなだれ込み、カザマは早口のまくしたてるようなボーカルで曲のスピードをあげていく。そして、ラストに据えられたのは自らの名を冠した「社会のゴミカザマタカフミ」。人生への諦めにも似た感情を抱きつつ、同時にその存在を深く刻印するかのように叫び、爆音を軋らせて暴れまわっていく姿や、4人の大車輪ぶりは圧巻だ。自分は底辺だ、トビウオだって飛んでいる時間よりも水底にいる時間の方が長いと語るカザマだが、その溜め込んだ思いを叫びに変えた音楽は閃光となって誰かのともし火になる。ほんのひと時でも、苦い思いや孤独を分かち合うことで明日が続いていくことだってある。3markets[ ]のライブには、そんなエネルギーがある。ツアーのファイナルを迎えたこの日、2度のアンコールに応えた4人は、今年は学園祭やフェスに出たいと語り、また夏にはワンマンツアーを行なうと発表した。2014年にバンドがスタートし、ゆっくりとステップアップしていく中でコロナ禍となって、(どのバンドもだが)勢いを挫かれたところもあったが、今こうしてよりタフになってステージに立っている3markets[ ]。ベースの田村が正式加入となって約1年。バンドが、勢いよく地面を蹴っていることを感じるツアーとなった。

SET LIST

01. さよならスーサイド
02. 愛の返金
03. レモン×
04. サイゼ
05. 底辺の恋
06. バンドマンと彼女
07. 4月
08. 最愛(モアイ)
09. 暇
10. 僕はセックスができない
11. おもとだち
12. ¥1,000,000
13. マイニッチ
14. 整形大賛成
15. 社会のゴミカザマタカフミ

ENCORE
01. すこティッシュフォールド
02. 死ぬほどめんどくさい

W ENCORE
01.セブンスター

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