女王蜂、「すべての瞬間が絵になる」一瞬も見逃せないステージをガーデンシアターで体現、オーディエンスを熱狂させた90分

ライブレポート | 2023.03.11 20:00

(撮影:森好弘)

女王蜂 単独公演「バイオレンス」
2023年3月2日(木)東京ガーデンシアター(有明)

2022年11月6日(日)から2023年2月19日(日)まで、「全国ホールツアー2022-2023 MYSTERIOUS』13本を回った末の、東京ガーデンシアター単独公演。ホールツアーの途中の2月1日(水)にリリースされたニューアルバム『十二次元』の収録曲であり、アニメ『チェンソーマン』第11話エンディングテーマとしてアルバムに先駆けてリリースされた『バイオレンス』がタイトルになっているこのライブでは、「バイオレンス」で始まり、「バイオレンス」で終わる、全21曲が演奏された。
『十二次元』からは9曲。4・5曲目で「ハイになんてなりたくない」と「長台詞」が続けて披露されたり、14・15・16曲目で「十二次元」「MYSTERIOUS」「犬姫」が並んだりと、重要なポイントに『十二次元』の曲が配置されたセットリストだった。

MCやチューニングのための曲間が設けられない。DJのように曲と曲がつながっている、もしくは曲が終わると間髪を入れず次の曲が始まる。曲と曲の間が数秒間空くこともあるが、その時は、アヴちゃんはじめメンバーたちが一定のポーズで微動だにしなかったり、照明が白一色になったりして、つまり「曲間が空くこと」自体が、ひとつの表現になっている。
ひとりで数人分の声が出る、なので複数の登場人物によって物語が進んでいく映画のようなアヴちゃんのボーカルと、「バックトラックならではの強さ」と「生演奏ならではの強さ」が合体した音、そのすごさは言うまでもない。この日も終始、東京ガーデンシアターが街のクラブに感じられるくらいの、「耳で聴く」のではなく「全身で浴びる」サウンドが鳴っていた。
しかし、もしそれが一切なくても──たとえばこれが映像作品で、音を消して観たとしても、そのまま魅了されっぱなしなんじゃないか、こっちは。この日の女王蜂のステージを観ていて、そう思った。

(撮影:森好弘)

歌っている時だけでなく、イントロや間奏、あるいは音が鳴っていない時まで含めての、アヴちゃんの表情、顔の向き、腕の動き、両足の形、全身のフォルム。決まっていない瞬間が、一瞬たりともない。いつどのタイミングでも観ても、すさまじく絵になっている。きっと、どの位置から、どの角度で観ても、そうだろう。繰り返すが、歌っていない時や、音が鳴っていない時も含めてだ。
ライブが始まってから終わるまでの間の、すべての瞬間の動きやポーズを完璧に設定して、それを身体で覚えてからステージに上がっている、とは、思えない。ダンスじゃないんだから。いや、まだ、ダンスの方が覚えやすいか。
お約束として動きやポーズが決まっている曲もあるが、それはほんの少しで、あとはその瞬間その瞬間の、詞の内容や歌への感情の乗せ方に合わせて、身体が動いているように見える。で、すべての瞬間が絵になる。しかも「アヴちゃん個人が絵になっている」のではなくて、その瞬間の、他のメンバーや照明等まで合わせた、ステージ全体が絵になっているのだ。
なんでこんなことができるんだろう。ステージ正面100メートルの位置から、引きで自分を映している映像が、常に脳内で見えている、そういう特殊能力を持っているんだろうか、この人は。

しかもだ。女王蜂のステージセットは、大会場であってもいつもシンプルだが、今回はアヴちゃんのポジションに、三段くらいの階段状になったお立ち台があって、終始アヴちゃんは、その上でパフォーマンスした。お立ち台から下りたのは、前半の「長台詞」(「八百屋お七」をモチーフにした、アヴちゃんの語りのみでできている曲)の時など、数回だけ。つまり、ほとんど同じ位置で、前述したような「すべての瞬間が絵になる」パフォーマンスをした、ということだ。
立ち位置を変えずに歌い続ける、でも歌以外のすさじまじいものも、全身から放ちながらパフォーマンスをする存在、自分がライブを観たことがある中では、Coccoとアヴちゃんしか思いつかない。

(撮影:中野修也)

(撮影:森好弘)

1曲目とラストで放たれた、このライブのテーマである「バイオレンス」。先にも書いた、アヴちゃんの語りである「長台詞」。バックトラックとバンドサウンドが音を超え振動として押し寄せた「KING BITCH」。「雛市」と並ぶ女王蜂のもっともドープな部分を表す「Q」。1から12までのカウントで終わった「十二次元」と、それに続く「13!」で始まった「MYSTERIOUS」。「返せ 返せ 借りたら返せ」のコールがメンバーとオーディエンスから響いた「油」(こんな言葉をみんなでシンガロングするバンド、他にいるか?)──。
などなど、観ていて「うわ、今、ピークだ」と思う瞬間だらけのライブだった。が、それ以外の瞬間はピークじゃなかったのか。そんなことない、ずっとそうだったわ、そういう異常なライブだったわ、と、観終わったところで気がついた。
21曲で90分足らず。もちろんアンコールはなし。このキャリアのバンドの、しかも8000人キャパのハコで行うアリーナ・ライブとしては、かなり短い方だと思うが、そりゃそうだろ、2時間とか2時間半とかやれるわけないだろ、こんなステージ。と、素直に思う。

(撮影:中野修也)

それから。日本武道館の時、大会場であるにもかかわらず、ステージを映すビジョン(画面)を入れなかったが、東京ガーデンシアターでも入れない。できることなら、東京ドームに立つ日が来ても、ビジョンなしでやりたい。私が豆粒くらいにしか見えなくても、伝わるものがあると思う──以前にこのDI:GA ONLINEで行ったインタビューで、アヴちゃんはそう言っていた。(こちら
その言葉どおり、この日の東京ガーデンシアターにビジョンはなかったし、ないことがなんの問題にもなっていなかった。
ただ、このようにアヴちゃんがビジョンなしにこだわる理由は、「生身の肉体だけで最後列まで伝えられるから」ということ以外に、もうひとつあるのではないか、と、観ていて思い当たった。
ビジョンが入って、そこに自分たちが映ると、カメラのアングルによって、一部分が切り取られることになる。顔だけとか、上半身だけとか、ステージの一部とか。
それがイヤなのではないか。ステージ全体において、すべての瞬間が絵になるようにライブを作っているんだから、観る側が「全体を観ます」とか「この部分を観ます」ということを、自分の意志で決められるように提供したい。作り手側が「はい、この部分を観てください」みたいに、切り取って差し出すことはしたくない、という。
絵画って、その画角すべてが作品なのであって、一部分だけトリミングして受け手に届けたら、まったく別のものになってしまうじゃないですか。というのと、近いのではないか。
フェスに出る時、あたりまえにビジョンが入っているのはしょうがない、そういうものだからそれに倣う。でも、自分たちでやりかたをコントロールできるワンマンの時は、それはしたくない。すべてを届けたいし、すべてを観る側に委ねたい。ということなのではないか、と思った。

「こっからブチアガっていこうと思います。そして今日このあと、素敵なお知らせがあります。(しばし間があり)これを手に入れるために、今までやってきたんだな、と、ずっと思ってます。手に入りました。どう闘うか、見といてください。ありがとうございました、女王蜂でした」

ラストの21曲目に、もう一度「バイオレンス」を持って来て、オーディエンスを熱狂させてライブを締めたアヴちゃんは、この日唯一のMCの最後に、そう言った。
そして、終演と同時に、ニューシングル「メフィスト」が5月17日(水)にリリースされること、その曲が4月から放送のテレビアニメ『【推しの子】』のエンディング主題歌であること、5月から全国ツアー『メフィスト召喚』を行うことが、発表になった。

(撮影:中野修也)

公演情報

DISK GARAGE公演

全国ツアー『メフィスト召喚』

2023年5月19日 (金) KT Zepp Yokohama
2023年5月23日(火)  Zepp Sapporo
2023年5月26日 (金) Zepp Nagoya
2023年5月27日 (土)  Zepp Osaka Bayside
2023年6月1日 (木)  Zepp Fukuoka
2023年6月9日 (金)  Zepp DiverCity(TOKYO)
2023年6月11日 (日) 仙台GIGS

RELEASE

『メフィスト』

『【推しの子】』エンディング主題歌に決定!

詳細はこちら
『十二次元』

約3年ぶり、8枚目のアルバム

『十二次元』

女王レコード)
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INFO

●“スクール型”オーディション番組「0年0組 -アヴちゃんの教室-」
毎週日曜1:25(曜深夜25:25)~1:55
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  • 兵庫慎司

    取材・文

    兵庫慎司

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  • 撮影

    森好弘

  • 撮影

    中野修也

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