tonun、シンガーソングライター&ギタリストとして多彩な表現力で魅せる

ライブレポート | 2023.03.15 18:00

tonun 2nd tour 2022-2023
2023年3月7日(火)LIQUIDROOM

昨年、YouTubeが選ぶこれからの活躍が期待されるアーティスト「YouTube Music Session」や、Spotifyが選ぶ注目の次世代アーティスト「RADAR:Early Noise 2022」に選出されたシンガーソングライターtonun。彼が2度目となる全国ツアーのファイナルを恵比寿LIQUIDROOMで開催した。当初、1月の公演予定が事情により3月へ延期となったが、2月15日に「Friday Night」でメジャーデビューを果たし、よりリスナー層が広がった印象もある。

リラックスムードの開演のアナウンスが流れ「2ヶ月、大変お待たせしました」というコメントに大きな拍手が起きると、俄然、フロアが温まり、暗転とともにメンバーが位置につく。アトモスフェリックなイントロから始まったのは「思考回路はmellow」。スタンドマイクで歌うtonunもメンバーも逆光にシルエットが浮かび、レーザーだけが鋭く光るというセンスのいい演出だ。甘くスモーキーなボーカルだが、音源よりパワフルでタメも効いた歌唱に軽く驚かされた。続く「東京cruisin’」でもメロディとラップをシームレスに行き来し、彼の作り出すもう一つの東京の夜に誘われるようだ。tonunもストラトキャスターを手にし、磯貝一樹(Gt)がアルペジオを弾いた瞬間に歓声が上がったのは「Sweet My Lady」。モノクロのライティングに色が差してくる演出がセンシュアルな楽曲のイメージを拡張する。幸せでチルな時間でありつつ、〈左手の薬指にダイヤの手錠をかけて繋がり合う〉なんてドキッとするフレーズが飛び込んでくるあたり、心地よいだけじゃない書き手のオリジナリティが伺える。

シンガー&ギタリストという稀有な魅力は「Wake Up Sunday Morning」で高まり、「君は言うかな」では神田リョウ(Dr)、安田照嘉(Ba)という辣腕リズム隊が生音ヒップホップとボサノヴァのムードを抜けのいいビートで作り上げる。この曲でもtonunは気持ちの入ったソロを弾き、グルーヴィなバンドサウンドにおけるギター&ボーカルの新鮮な在り方を見せてくれた。音楽性こそ違うものの、これだけギターと一心同体のシンガーソングライターの佇まいは大げさに言えばエリック・クラプトンのようなブルースルーツのミュージシャンに近いものを感じさせる。歌始まりの「真夏の恋は気まぐれ」ではシンセベースが良いフックになっており、グルーヴが増すフロアの熱気も受けて、tonunのボーカルもエモーショナルなファルセットのフェイクなど、どんどん自在になっていった。

サポートメンバーがいったん袖に下がり、弾き語りのコーナーでは「最後の恋のMagic」をアコギ一本でサーフミュージック的なアレンジにして届け、ツアーではカバーも披露しているとのことで、ジャミロクワイの「ヴァーチャル・インサニティ」をファルセットのフェイクも効かせながら聴かせた。さらに「あと1曲、弾き語らせてください」と、原曲もアコギのシンプルなアレンジの「あなたの季節が」を訥々と語るように弾き語る。金木犀の匂いと季節が紐付いた、切ない歌詞がさらに解像度高く染み込んでいく。息を呑んでステージに集中させる吸引力を見せたブロックだった。バンドが戻り、レコードノイズのSEがレイドバックしたムードのネオソウルナンバー「嘘寝」では磯貝が弾くセクシーなフレーズの音色もどこか夢の中のようなこの曲のムードを引き立てる。

すっかり異空間に意識を持っていかれたあとはダンスタイムとばかりにクラップを促し、小気味いいカッティングに乗せて「バージンヘア」、大樋祐大(Key/from SANABAGUN.)のエレピのリフが温かい「d.s.m」ではソロ回しをしながらのメンバー紹介も行われた。アウトロからドラマチックなSEでさらにBPMが上がる「Sugar Magic」につなぎパフォームするtonun。ピアノとドラムのアドリブなど、ライブバンドの底力が発揮されていく。このメンバーでのツアーが初めてとは思えないくらいミュージシャンシップが発揮されている。そこはやはりtonunがそもそもギタリストであることも大きいのだと感じた。ダンスタイムを終えると、本編ラストはしっとりと「今夜のキスで」をじっくり聴かせた。ブレスが多めのボーカル、合間に“ey”と自然にリズムを取るように入れるラッパーっぽいフックもごく自然。パワーボーカルではないけれど、十分にエモーショナルで多彩な歌の表情に驚かされたのだった。

1時間が30分ぐらいの体感で、もっと生歌を聴きたいファンが贈るアンコールに応えて、一人で再登場したtonunはもう1曲弾き語りをと言い、スティーヴィー・ワンダーの「Isn’t She Lovely」をアコギでカバー。さらにはあのハーモニカの部分をファルセットで歌うという、驚きのライブアレンジで聴かせた。こういうところにこの人のまだ知りえない可能性が大いに隠れていると思わせる。

メンバーが戻り、これからの季節にぴったりの「青い春に」を演奏したあと、唐突に「報告があります」と、いう一声にドラムロールのサービス(!?)があり、メジャー1stフルアルバムのリリースと、それに伴うリリースパーティとして6月24日(土)のZepp Shinjukuでのライブを発表。「夜ご飯1回我慢したら、行けるんで」と、新しい出会いを期待して設定したチケット1500円という価格のアピールをするtonunに、曲とはまた違うキャラクターが見え、グッと場が和んだ。大ラスはグッとファンク色の強いメジャーデビュー曲「Friday Night」、ツインギターの楽しさがあふれる「琥珀色の素肌」で、バンドスタイルの醍醐味を存分に堪能させ、いよいよここから本格的にスタートする第二章を予感させてくれたのだった。何度も書くが、日本でシンガー&ギタリストかつファンク/ソウル寄りの音楽性を持つソロアーティストは実に貴重。ライブだからこそ分かるtonunのオリジナリティをぜひ確かめてほしい。

SET LIST

01. 思考回路はmellow
02. 東京cruisin’
03. Sweet My Lady
04. Wake Up Sunday Morning
05. 君は言うかな
06. 真夏の恋は気まぐれ
07. 最後の恋のMagic
08. あなたの季節が
09. 嘘寝
10. バージンヘア
11. d.s.m
12. Sugar Magic
13. 今夜のキスで

ENCORE
01. 青い春に
02. Friday Night
03. 琥珀色の素肌

SETLIST PLAYLIST

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