山中さわお、ソロツアーファイナル。完全無欠のロックンロールショーで観客を熱狂の渦に!

ライブレポート | 2023.07.21 19:00

山中さわお「BOOTY CALL TOUR」
2023年7月13日(木) 渋谷CLUB QUATTRO

「ありがとう。いやー、楽しかったわ!しかし、こんなに俺の曲が好きなんて。もしかして青春時代はクラスの人気者とかポップなキャラクターではなく、ちょっと居心地の悪さを感じながらここまでサバイブしてきた仲間なんじゃないのか?もしそうなら、出会うべくして出会ったんだろう。これ以上のことなんか、ねえよ!!」

アンコールでオーディエンスにまっすぐ告げられた山中さわお(the pillows)の言葉が、特別な愛にあふれた温かい空間であることを何よりも鮮やかに証明していた。そんな同志たちが集い熱狂した8thソロアルバム『Booty call』のリリースツアーファイナル、東京・渋谷CLUB QUATTRO公演の模様をレポートする。

割れんばかりの大歓声に迎えられ、Indianのシャツを纏った山中さわお(Vo/Gt)がバンドメンバーを引き連れて登場。4月にリリースされた最新アルバムのオープニングを飾る表題曲「Booty call」から、ライブはいきなりアクセル全開でスタートした。Black&White仕様のサイクロンを弾きながら“やりたい事やろうぜ”“行儀の悪い夢を楽しみたい”と本能的に歌われる、コロナ禍の憂鬱を晴らすようなガツンとくるロックンロールが早くも痛快でたまらない。フロアも負けじと賑わいを見せ、演者・観客ともに準備万端、あとは爆発するだけといった感じだ。

自身の不眠症をスカっぽいノリで陽気に笑い飛ばす「Balalaika」へと続くなか、その盛り上がりを受けて山中から思わず「いいねえ!」という声がこぼれた。ツアーを重ねて仕上げてきた4人のアンサンブルを筆頭に、木村祐介(Gt/ArtTheaterGuild)の華々しくメロディアスなフレーズ、安西卓丸(Ba/ex.ふくろうず)の歪みとドライヴ感が効いたサウンドメイク、楠部真也(Dr/Radio Caroline)の全体を揺るぎなく支える対応力に富んだプレイ……レコーディングにも参加したおなじみの布陣による個性豊かで音源以上にアグレッシブな演奏、息ぴったりのコーラスも輝きを放つ。

「Peacock blue (is calling me)」までを颯爽と駆け抜け、「ひさしぶりじゃないか。みんな元気かい? 『BOOTY CALL TOUR』のクライマックスだ。やりたい事やろうぜ。今夜、俺たちは孤独じゃない。熱い夜にしよう!」と山中が挨拶。

ハッキリしたサビがない展開が逆に気持ちいい『Booty call』のリード曲「セクレト ヴィスタ」は、ストレンジな夢の世界から醒めたくないという内容だけれど、まさに今この瞬間の興奮を永遠に味わっていたいと歌っているように聴こえた。“隣にキミがいる 他に何が要るって言うんだ”の部分も、仲間がいっぱい集ったライブハウスで体感してこそ、よりいっそうドラマティックに響いてくる。

山中らしいポップさで魅了する一方、獰猛なテンションもじわじわと高まっていき、「allegory」はもちろん1分半の“Booty version”でパンキッシュに披露(オリジナルは2020年発表のEP『nighty night』に収録)。ガレージ感が強いマイナー調の「Lame town」では、場内に歓喜のハンドクラップが勢いよく巻き起こるなど、ロックンロールに飢えているオーディエンスの姿がありありと見て取れた。シニカルでささくれ立った「愛のパラダイス」もその過熱ぶりにうまく溶け込ませ、楽しさと爆発力が全面に出たライブは続く。

「日曜日に名古屋でライブがあって、そこから3日間休みだったんだけど、もう暇で暇で……!ツアーの合間ってどうしていいんだかよくわかんないし、早くステージに立ってみんなの顔が見たかったよ。ロックンロール、どんどん行くよ!」

楠部のシャッフルビートが際立つゴキゲンなアレンジの「トランス バランス」、山中がサビの“Ahaha”を左右に揺れながら歌った脱力感たっぷりな「Grave Keeper」、ドラムセット前で間奏のキメを鳴らす4人からいい関係性が改めて窺えた「オルタナティブ・ロマンチスト」、山中と木村が交わすツインギターの絡みやバンドの瑞々しい突破力が光った「Boogie Box」と、『Booty call』の収録曲を軸に、色とりどりのナンバーがテンポよく繰り出されれば、湧き上がる拍手と歓声はますます長く大きくなるばかり。

「すごい人気があるな。やっと売れるのかもしれない」とお決まりの口調で笑いを取る山中は、1stソロアルバム『DISCHARGE』を作った13年前のことを語り出す。さらに、翌2011年に発表した2ndアルバム『退屈な男』のタイミングで顔見知りだった現ドラマーの楠部と初めてスタジオに入ったこと、そのときにとても息が合って予定していた「The Beautiful Lip」のレコーディングがあっという間に終わってしまったこと、ロックアウト(終日貸し切り)でレンタルしていたので「真也、まだ帰らないでくれ。20分で新しい曲を作るから」と呼び止めて急遽もう一曲録ったことなど、知られざるエピソードが明かされた。

中盤では、瞬発力から生まれたその「Do you like a walk?」(『退屈な男』に収録)を奥ゆかしく演奏。リリース当時はソロのライブをやるつもりがなかったこともあり、昨今のタフなサウンドとはまた毛色が異なる、穏やかなオルタナフォーク感が漂うアプローチがじんわりと心地いい。本ツアーで初披露となったレアな楽曲のあと、「POP UP RUNAWAYS」以降は再びロックに転じ、ファンの表情を見渡しながら山中はステージを満喫する。

そして、忘れられない瞬間のひとつとなったのが、この3年の怒りや悲しみや孤独を綴った「ロックンロールはいらない」「アインザッツ」の流れ。

“ロックンロールは要らない
大衆に媚びた戯れ言だ
旗色気にするロックンロールは要らない
ロックバンドは要らない
毒にも薬にもならない
敵を作らないロックンロールは聴かない”

真っ赤な照明の下、本当は大好きなロックンロールをそう貶めながらもパワフルに歌い上げる「ロックンロールはいらない」で、さまざまな感情が一気にギューッと押し寄せるフロア。そこに新たな風が吹き込んだのは、アウトロの“誰とも話が通じない”を“キミとしか話が通じない”と山中が歌い替えた瞬間だった。こんな惨状においても自分の音楽を必要としてくれた人への愛情。最後にその想いを添えたことで、曲が抱えるやり切れなさに微かな光が射す。

“思い出は全部 塗り潰したんだよ
空っぽになった 昨日までと違う世界”

救いのムードが生まれて始まった「アインザッツ」も、3年前に絶望の底で書いたそんな苦悩の歌が、最後のサビでまた新しい言葉に変わる。

“思い出をやっと 取り戻したんだよ
空っぽじゃなかった 昨日までと違う世界”

他の曲よりもとりわけエモーショナルに、時にグッと切ない表情を浮かべてシャウトし、願っていた景色を取り戻した現在の心境を新しい歌詞で熱く伝えた山中。そのうえで“他の生き方は知らない”と改めて歌い、納得できなかった気持ちにしっかりと白黒をつけてみせた。木村、安西、楠部も彼の気概をガッチリと音で支え、オーディエンスも居ても立っても居られない感じの激しいリアクションで喜びを露にする。今回の『BOOTY CALL TOUR』はただのリリースツアーではなく、3年間で量産してきた5枚のアルバムを総括しつつ、自身の複雑な想いに決着をつけるツアーにもなったのだと思う。

感情を強く解き放ったところで、いったんクールダウンさせるように、それぞれが自由なMCを届けたメンバー紹介タイムへ。

「祐介くんは年下だし、真也さんは10コくらい年上で、さわおさんは遥か上なんです。そんな年齢もバラバラな人間が集まってるのに、このツアーを回っていていちばん思ったのは“俺たちマジで友達じゃねえ?”って(笑)。青森では夜中にみんなで海を見に行ったり。あるときはソフトクリームを急いで食べたりね。


すごく不思議な感じなんですけど、楽しいことしかない、本当に夢みたいな時間でした」(安西)

「つい最近、御茶ノ水の楽器屋で僕が使ってるこのパワーキャスターが中古で安く売ってて、けっこういい値段する珍しいギターなのでどうしようかなと見てたところに、店員さんが“お客さん、もしかして……!”と話しかけてきたんです。ついに顔をさされる人間になったかと思ったら、“ギター、初めてですか?”とあまりにも予想外の質問が来て(笑)。しかも“長く弾かれるなら、テレキャスターやストラトキャスターのような定番がいいですよ。家で弾くぶんにはいいかもしれないけど”と言われたり。帰り道のモヤモヤがすごかったです」(木村)

「みんな、最高です。このバンドで無事にここまで楽しく来られて、本当によかったです。ツアーが終わりという寂しい気持ちもあるんですけど、今日帰る頃には僕とさわおさんに関連するちょっと面白い発表ができると思いますので、またよろしくお願いします!(終演後、9月30日(土)に東京・荻窪 TOP BEAT CLUBでRadio Carolineと山中さわおバンドによるライブイベント『Top Of The World』が行なわれることがアナウンスされた)」(楠部)

「悪魔のパブに連れてってやるよ!」と山中が呼びかけた「The Devil's Pub」を皮切りに、前回の『MUDDY COMEDY TOUR』(2022年)から好評を博している「Desert me」、息もつかせぬ高速BPMで疾走する「ヒルビリーは かく語りき」と、ライブ後半はアッパーなロックンロールを怒涛の如く畳みかけた4人。「Mallory」での軽快なリズムに合わせた手拍子など、過去のソロ曲にも即座に反応できるオーディエンスの躍動も美しい。

本編ラストは、山中の「終わりだーーー!」という叫びからなだれ込んだ「the end」。フロアに燃え滾るシンガロングを起こし、メンバー全員が楽しそうで仕方ない感度良好なバンドの姿を存分に見せつけ、4人はステージを降りた。

アンコールも、山中がハンドマイクで歌う超ファンキーな「Muddy comedy」をはじめ、ソロのエネルギッシュなナンバーの数々で大いに踊らせ、愛情をくれる最高の理解者たちと孤独じゃない夜を実感する時間に。

また、さわおバンドのもうひとりのベーシストである関根史織(Base Ball Bear)がステージに現れ、ピロウズの「LITTLE BUSTERS」がCMに起用されているSUNTORY「ザ・プレミアム・モルツ“ジャパニーズエール”香るエール」で乾杯する一幕も(2ヵ月で全18ヵ所を回った『BOOTY CALL TOUR』では、安西が11公演、関根が7公演でベースを担当した)。他愛もないことをしゃべる5人のトークが場を和ませ、山中は何度も「楽しいツアーだった!」と繰り返す。

3回にわたったアンコールのラストは、山中が1人でステージに立ち、ピロウズの「ジョニー・ストロボ」を弾き語りで披露。ライブで確かめた感情を乗せるように歌われた“永遠じゃなくたって価値がある夜”のメロディが耳に残るなか、自分らしい無敵な瞬間を取り戻した完全無欠のロックンロールショーは幕を閉じた。

SET LIST

01. Booty call
02. Balalaika
03. Peacock blue(is calling me)
04. セクレト ヴィスタ
05. allegory
06. Lame town
07. 愛のパラダイス
08. トランス バランス
09. Grave Keeper
10. オルタナティブ・ロマンチスト
11. Boogie Box
12. Do you like a walk?
13. POP UP RUNAWAYS
14. ロックンロールはいらない
15. アインザッツ
16. The Devil’s Pub
17. Desert me
18. ヒルビリーは かく語りき
19. Mallory
20. the end

ENCORE-1
01. Muddy comedy
02. Vegetable

ENCORE-2
01. DAWN SPEECH

ENCORE-3
01. ジョニー・ストロボ(弾き語り)

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