世武裕子、生ピアノと歌の圧倒的な表現力が響き渡った東名阪ツアーファイナル

ライブレポート | 2023.07.27 17:00

世武裕子『あなたの生きている世界』リリースツアー
2023年7月20日(木) めぐろパーシモンホール 小ホール

2023年7月20日(木)、めぐろパーシモンホール・小ホール。世武裕子の「『あなたの生きている世界』リリースツアー」の、東京公演が行われた。
2022年11月9日に5曲収録の『あなたの生きている世界1』、そして2023年2月8日に6曲収録の『あなたの生きている世界2』を配信で発表し、その2作を『あなたの生きている世界1&2』としてCDにまとめて、2023年4月26日にリリースした世武裕子。カバー曲9曲と、自身の過去曲のセルフカバー2曲を収めたこのアルバムを携えて、名古屋・大阪・東京の3都市を回ったツアーのファイナルが、この日である。
このツアーは、本人曰く「生ピアノにこだわった」そうで、3都市とも、生ピアノで演奏が可能な会場を選定して、開催された。

この日、世武裕子が演奏したのは16曲。『あなたの生きている世界1』からは3曲、『あなたの生きている世界2』からは6曲。他に演奏した楽曲は、2018年リリースのアルバム『Raw Scaramanga』収録の「スカート」、2015年の『WONDERLAND』から「美しいあなた」。
その「美しいあなた」は8曲目だが、その次の9曲目は、ピアノのインプロビゼーション的なインスト曲だった。そして、さらにその次に歌われた10曲目「水のよう」は、People In The Boxの波多野裕文の曲である。彼のソロのライブでは歌われているが、音源としては未発表。
それから、『1』でカバーしているサカナクションの「グッドバイ」は、この日は歌われなかったが、サカナクションの別の曲=「ユリイカ」のカバーが、14曲目で披露された。
それに続いた15曲目の「かぞくのうた」は、坂本美雨のカバーである。オリジナルもバックはピアノのみの曲で、その編曲と演奏を担当したのは世武裕子。なので、半分くらいはセルフカバーのようなもの、と言ってもいいかもしれない。
それから、前半の6曲目では、Mr.Childrenの「口笛」を歌った。これも『あなたの生きている世界1&2』には収録されていないカバーである。世武裕子は、2018年のMr.Childrenのアルバム『重力と呼吸』に演奏・編曲で参加し、そのリリースツアーにもサポート・ミュージシャンとして参加しているが、この「口笛」は、そこから18年前にリリースされた曲である。

ステージに登場し、オーディエンスの拍手に包まれながら、「動画をセッティングするから待ってな」と、三脚にスマホをセットしてから、1曲目の「Deep River」の演奏に入った世武裕子。それ以降も、時にはピアノを爪弾きながら、時には演奏を止めて客席に相対しながら、2〜3曲おきにMCがはさまれる。
アーティストが観客に向かって話している、というよりも、面識のある誰かとしゃべっているかのような、身近で平易なトーンのMCで、そのたびに場がなごむ。が、次の曲に入ると、そのピアノと歌の圧倒的な表現力により、瞬時にオーディエンスの意識がステージに集中するので、空気がピッと引き締まる。それが繰り返されながらライブが進んでいくので、その「なごみ」と「引き締まり」のコントラストが、印象に残った時間でもあった。

それから。先ほど「『あなたの生きている世界1』からは3曲」と書いたが、より正確に言うと、『1』収録の広島東洋カープの応援歌「それ行けカープ(若き鯉たち)」は、今回は東名阪のツアーなので、ということで、中日ドラゴンズの応援歌・阪神タイガースの応援歌との合体バージョン「燃えよ! 六甲カープおろし」に形を変えて、12曲目に演奏された。
広島に移住したほど熱心なカープファンとして、断片的にとは言え「燃えよドラゴンズ!」と「六甲おろし」を歌うことの逡巡を口にしながらの(「燃えよドラゴンズ!」には「虎を倒して鯉釣って」という歌詞がある)、ピアノ演奏と歌唱に、オーディエンスは大いに喜んでいた。

宇多田ヒカルやフジファブリック、荒井由実や手嶌葵などの古今東西の名曲が、世武裕子の歌とピアノでどのように生まれ変わるのかを楽しむ。それが『あなたの生きている世界1&2』という作品であり、このツアーであったわけだが、『1』にも『2』にも収録されている、自身の過去の曲のセルフカバー──つまり、かつての世武裕子の曲を、今の世武裕子の歌とピアノで再現したらどうなるのか、ということも、とても重要であることがわかるステージでもあった。
11曲目に演奏された「君のほんの少しの愛で」と、13曲目に演奏された「みらいのこども2023」。どちらも、彼女の過去の代表曲である、というだけでなく、世武裕子というアーティストのスタンスやポリシー、あるいは思想や哲学を、表している楽曲であるように感じられた。

今日はアンコールを設けていないことを伝え、「今日は本当に本当に本当に、この時間をくれて、一緒にいてくれて、ありがとうございました」と、オーディエンスに感謝を伝えてから歌われた最後の曲=16曲目は、『あなたの生きている世界2』収録の森山直太朗のカバー「人間の森」。
2018年に、森山直太朗の依頼で、レコーディングでピアノを弾いた曲でもある。曲の後半の「答えのない世界」のリフレインが、ピアノに載って歌われるさまは、何か、祈りのような荘厳さをもって響いた。

SET LIST

01. Deep River(宇多田ヒカルカバー)
02. 若者のすべて(フジファブリックカバー)
03. プラチナ(坂本真綾カバー)
04. やさしさに包まれたなら(荒井由実カバー)
05. テルーの唄(手嶌葵カバー)
06. 口笛(Mr.Childrenカバー)
07. スカート(オリジナル)
08. 美しいあなた(オリジナル)
09. <ピアノ即興>
10. 水のよう(波多野裕文カバー)
11. 君のほんの少しの愛で(オリジナル)
12. 燃えよ!六甲カープおろし
13. みらいのこども2023(オリジナル)
14. ユリイカ(サカナクションカバー)
15. かぞくのうた(坂本美雨カバー)
16. 人間の森(森山直太朗カバー)

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