清春、誕生日前夜に開催した『The Birthday』東京公演をレポート

ライブレポート | 2023.11.15 18:00

『The Birthday』
2023年10月29日(日)恵比寿ザ・ガーデンホール

 清春はその時その時の自分でしか作れない音楽を作り続けてきた人物であることを、痛いほどに実感したライブだった。55歳の誕生日の前日である2023年10月29日に恵比寿ザ・ガーデンホールにて開催した、毎年恒例のバースデーワンマンライブ『The Birthday』 。現在進行形で進化し続ける彼の鮮度と凄みが、途轍もないスケールを持って襲い掛かってくるようだった。

 場内が暗転すると、パーカッショニストの辻コースケが登場し、ジャンベやボンゴ、コンガなどの民族楽器を用いて演奏を始める。打音の躍動に乗せてギタリストの大橋英之、サックス&フルート奏者の栗原健が登場して演奏で追随すると、最後に淡紫色のセットアップ姿の清春が現れ、彼の密度の高い咆哮に観客も歓声で応えた。

 1曲目は「JUDIE」。巧みなリフレインを用いたベースレスのサウンドスケープはスリリングなグルーヴを巻き起こし、清春は睨みつけるような熱い歌声を響かせると同時に首元のスカーフを緩めたり、上着を脱ぐなどして流動的に次々と異なるスタイリングを見せる。その滑らかな行程は視覚に心地よさを与えた。

 辻がドラムを叩いた「club「HELL」」、観客のシンガロングも沸いた「赤裸々」などでテンションを上げると「グレージュ」では憂いを描き、より観念的な空間へと包んでいく。静寂を通り抜ける風のようなパーカッションとサックスの音色から始まった「洗礼」は、霧の深い森の中を彷彿とさせる抒情的かつ野性的な音像が会場を支配した。なかでも清春の悲痛なボーカルは泣き叫ぶ獣のように純粋で、会場全員がじっくりとその声を受け止めていた。

 登場から5曲披露した後に落ち着いた柔らかい語り口で気の良いトークを繰り広げ、そこからなめらかに「錯覚リフレイン」へとつないだ。その時の彼が感じるままのテンポで状況が変化していくため、彼が主導を取ったジャムセッションのように時間が流れていく。清春の感情という風に乗って、音のなかを漂うような感覚だ。「my love」ではアコースティックギターを抱え、ギターボーカルスタイルで歌唱。ネックのそばでストロークをするため硬質な音が鳴り響き、それが楽曲に宿る悲しみの感情をよりダイレクトに表現していた。

 バンドインストのセクションを挟み、真っ赤な衣装に身を包んだ清春がステージに再登場して「TWILIGHT」を届けると、「アモーレ」では「歌」という枠に収まらない破壊的なボーカルで会場を圧倒する。それは観客のシンガロングといったライブならではの空気に突き動かされるからこそ生まれてくる歌声で、最後に清春と栗原が向き合ってプレイする様子は、両者から途轍もない覇気が感じられた。「妖艶」ではじっくりと身体の中までも這うようなボーカルと音色、観客のまっすぐな歌声が入り乱れ、その渦に取り込まれていくような感覚に陥る。清春も特別なものを感じたのか、観客の歌声で楽曲を締めくくると最後に一言「素晴らしい」とつぶやいた。

 その後もその濃密な空間はより深いものとなる。「アウトサイダー」「SURVIVE OF VISION」「美学」と現実世界が爛れてゆくような、この世とあの世の狭間にゆっくりと沈んでいくような、夢うつつの時間に包まれる。肉体を解き放つような音楽。だが不思議と、強烈な生への執着も感じた。夢というには、血が巡るような瑞々しさが会場の隅々にまで行き渡っていたのだ。

 その後清春はおもむろに、自身の生き方や死生観が垣間見られる発言を続けた。「“食べる寝る清春”という感じで(中略)、これからも残りの年数、できるだけ自分の好きなように生きていきたいと思う」「皆さんも自分が“ちょうどいい”と思うバランスで生きて死んでください」「僕は自分のことを素敵だと思う。みんなもそんなふうに思ってほしい」など強い思いを静かに語ると、本編ラストは「下劣」。自分が“清春”であることをないがしろにすることなく、放棄することなく守り続けてきたからこそ、彼は進化を繰り返しているのだと実感する精悍なアクトだった。

 アンコールでは栗原と大橋によるバースデーソングに乗せてケーキが登場。ケーキを眺めて「可愛いね」と言いながらいちごを頬張った清春は、現在制作中のアルバムについて語り始めた。今までのアルバムと比較すると果てしない内容で、清春だけでなく参加ミュージシャンも全員自由にプレイしているがゆえに壮大で、聴くべき音がたくさん収録されているという。「(延期になるので)待たせますけど、そのぶんいい内容でお届けできると思う」と約4年ぶりのソロアルバムに太鼓判を押した。

 そして同作から憂いのあるメロディを力強く歌い上げる「SAINT」、歌心を感じさせるメロディが琴線をくすぐる「RUTH」、じょじょに大空のようにスケールを増す「ETERNAL」と、どの楽曲もキャッチーさとディープさを併せ持っていた。「ETERNAL」の“思うままに生きるだけ”という言葉は、この日のMCからも滲んでいたメンタリティだ。我が道をすがすがしい表情で進む彼の姿が見られるアルバムになるのかもしれないという想像が掻き立てられた。

 そこから弾き語りの“流し”のセクションに入り「貴方になって」を披露すると、「アロン」に加え「空白ノ世界」「LAW’S」となだれ込む。するとsadsのヒットソング「忘却の空」のイントロのコードを弾き始め、「この曲あんまり好きじゃないんですけど(笑)、僕を支えてくれた1曲ではありますので」と言うと同曲を歌唱し始めた。今の清春の歌声から20年前の清春が顔を覗かせる様子は、歴史を積み重ねてきた人間ならではの痛快な空気感だ。ひりついたジャムセッションを経てなだれ込んだ黒夢の代表曲「少年」も、当時と変わらない鋭利なムードが鮮烈だった。

 「できるだけ長く、自分の身体が思うように動く状態であれば続けたいと思います」「嫌なことはしない。嫌な人とは会わない。やりたい努力はするけどしたくない努力はしない。そんなふうに嫌なことをしなくてもいい人生を皆さんにもらった気がします」と語る清春は、想像以上にミュージシャンとしての人生を送ってきたためこれからどうなるかが想像つかないと話す。そして「ダサいことはしたくないし、頑張りたいですね。僕もみんなと同じで、“なんのために(この仕事を)やってるんだろう?”と思うことがあります。だけど残された時間のために……やるんだろうな」と等身大の思いを素直に言葉にすると、黒夢の「MARIA」を歌い3時間半の熱演を締めくくった。

 最後に清春は再度丁寧にサポートメンバーを紹介すると、12月12日の新宿LOFTを皮切りにスタートする全国ツアー「TOUR 天使ノ詩 2023-2024 NEVER END」への意気込みを見せ、「今でも“すごいアルバムを作る”とちゃんと思えていることは奇跡だと思います」「アルバムには僕の今の100%を投じ続けてきています。ファンに限らず音楽好きな人には、わかる人にはわかるアルバムだと思います。皆さん誇りに思ってください」と再度アルバムへの手ごたえを露わにした。

 55歳の誕生日を迎える前日にセッティングされたバースデーワンマンライブ。それは刻一刻と近づく“終末”に向けて、「自分はいつまで音楽を続けられるのか。そして自分はいつまで音楽を続けるのか。どんなふうに人生を歩んでいくのか」という答えの出ない問いかけを、ひたすら自分自身に向けているようにも見えた。そんな彼が作る“永遠”という言葉を掲げたアルバム『ETERNAL』とはどんなものなのか。それが完成したときに、年またぎ全国ツアーを終えたときに、彼の心の中にはどんな感情が広がるのだろうか。今もなおわからないものを追い続ける彼の姿は、旅人のような凛々しさと切なさが迸っていた。

SET LIST

01. JUDIE
02. club「HELL」
03. 赤裸々
04. グレージュ
05. 洗礼
06. 錯覚リフレイン
07. my love
08. TWILIGHT
09. アモーレ
10. 妖艶
11. アウトサイダー
12. SURVIVE OF VISION
13. 美学
14. 下劣

ENCORE
15. SAINT(新曲)
16. RUTH(新曲)
17. ETERNAL(新曲)

弾き語り

18. 忘却の空
19. 少年
20. MARIA

公演情報

DISK GARAGE公演

TOUR 天使ノ詩 2023-2024
『NEVER END』

2023年12月12日(火) 新宿LOFT
2023年12月30日(土) Veats Shibuya[FC ONLY]
2023年12月31日(日) 大手町三井ホール[Countdown]
2024年1月6日(土)7日(日) 柏PALOOZA
2024年1月14日(日) 仙台CLUB JUNK BOX
2024年1月18日(木) Live House浜松 窓枠
2024年1月19日 (金) 名古屋 ボトムライン
2024年1月27日(土)28日(日) 京都MUSE
2024年2月2日(金)3日(土) 水戸LIGHT HOUSE
2024年2月9日(金) Yogibo META VALLEY[大阪]
2024年2月11日(日) 福岡トヨタホール スカラエスパシオ

RELEASE

『ETERNAL』

NEW ALBUM

『ETERNAL』

(ヤマハミュージックコミュニケーションズ)
近日発売!

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  • 沖 さやこ

    取材・文

    沖 さやこ

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  • 撮影

    森好弘

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