ビッケブランカ『RAINBOW ROAD』第二弾で「バキバキのエンタメをバキバキの衝動が超えていく瞬間」を観た

ライブレポート | 2024.01.22 17:00

Vicke Blanka presents RAINBOW ROAD - 翔 -
2023年12月28日(木) TOKYO DOME CITY HALL

 2023年12月28日(木)、TOKYO DOME CITY HALLにて、ビッケブランカが『RAINBOW ROAD - 翔 -』を行った。「1年に1度ファンと集まることができる場所」として、ビッケブランカが2022年10月30日に東京ガーデンシアターで立ち上げた、ワンマンのシリーズイベント『RAINBOW ROAD』の第二弾である。
 ギター (井手上誠)、ドラム (若山雅弘)、ベース (牧山羽留奈)、キーボード (神佐澄人)、コーラス&キーボード(Nona* Iwamura)、バイオリン×2(岡部磨知、天野恵)、それからボーカル&時々ピアノ&さらに時々ギターのビッケブランカ、という8人編成で、20曲・2時間半にわたって、満員のオーディエンスを魅了し続けた……いや、予定ではそうだったが、それでは収まらなかった(後述します)。

 なお、この日のライブは、CSテレ朝チャンネルで生中継された。さらに、そのライブ本編に舞台裏密着映像もプラスしたスペシャル特番として、2024年2月11日(日)に、同じくCSテレ朝チャンネル1で放送されることを、ライブ後半のMCで、本人が発表した。その番組は「スカパー!番組配信」にて、同時&見逃し配信も行われる。

自身の「キロン」がパイプオルガン調のSEに変わり、それが鳴り終わってまっ暗になった、と思ったら、ステージの左右にまで届く超横長サイズのLED画面がパッと光を放ち、その中央にビッケブランカが立っている。逆光でシルエット状態。歓声がワッと大きくなるが、本人はそのまま静止&無音の状態をしばしキープしてから、1曲目「天」に突入する──。

 というオープニングにも表れていたように、コンセプチュアルで、細部まで作り込まれていて、完成度の高いステージだった。
「この曲ではLED左右横の階段を駆け上がってステージ上方に行って踊る」とか、「この曲はイントロでピアノをがんがん弾く」とか、「この曲は弾き語りで始める」とか「この曲ではパッドを叩きまくる」というような、曲ごとのビッケブランカの役割の違い。
 バラードによるヤマの部分が二回設けられていたり、アンコールはやらないことが最初から決まっていたり、その上で、「もっともっといいやつに いつかはなれますように もっとかわいいやつに いつかきっとなれますように」と歌う「Changes」がラストに置かれていたりするセットリスト。
「打ち上がる花火」「電車の車輌内(なので窓の外の景色が変わっていく)」「雪」「星空」「砂漠」などなど、それぞれの曲に合わせてバリエーション豊かに変わっていく、LED画面の効果映像(使わない曲も当然あり)。

 などなど、いずれも「なぜこうなのか」が伝わってくる、言わば「必然でできている」ステージだった。筋立てて解釈したり理解したりする前に、その瞬間に感覚で、表現者側の意志をつかみとれるような。
 今日ここで、このライブによって、オーディエンスに何をどう見せたいのか、何をどう聴かせたいのか、という本人の目的意識が、明確だったからだと思う。で、その明確な目的意識を、そのまま形にすることに成功していたからだ、とも思う。この『RAINBOW ROAD』というシリーズ・ライブが、毎回、1本きりのライブ企画であるのはすごくもったいない、このパッケージでツアー何本か回ればいいのに。などと言いたくなるほどの仕上がりだった。

 ただし。そのような、パッケージとしての完成度の高さだけが、この日のライブを自分がすばらしいと感じたポイントではない。そこだけだったら、観終わった時の自分の気持ちは、「感心」とか「納得」みたいな方向で、落ち着いていただろう。ではなくて、もっと「興奮」とか「感動」の方面に振り切れた気持ちになったのは、その完成度の高さの先にあるものに、やられたからである。
 それは何か。ドキュメントだ。そこまでのパッケージを作り上げておきながら……というか、正確に言うと「作っている途中なのに」なのだが、それを自らぶっ壊しかねない言動をとってしまうことがあるのだ、ビッケブランカというパフォーマーは。
 この日、もっともそれが顕著になった瞬間は二回。一回目は、「ミラージュ」終わりのMCで、「『RAINBOW ROAD』っていうのはどうなん?みなさんにとって」と、オーディエンスに問うた時。返ってきた数々の反応の中の「はなまる!」という声に、「ああ、いい表現!」と喜んでから……「はなまるって言葉を使った歌詞、あったよな?……そうだ、これこれ」と、「Lucky Ending」をピアノを弾きながら歌い始め、ワンコーラス歌いきって大拍手を浴びてから、次の「北斗七星」に行った時である。

 そして二回目。今年は海外いろんなところに行って来た、ポーランドでは最前列にいた客に「『Moon Ride』をやれ!」とすごく言われた、終演後の写真撮影会でもそのファンに「なんでやらないんだ!」と責められた。その人は、2日目も最前列の同じ場所にいて、また責められた──というMCを「Stray Cat」の前にして、大いにウケていたのだが、その次のMCでのこと。
 「Echo」の前に、今日はアンコールがないことを告げ、「アンコールなんかに残せないぐらい、今から6曲ぶっ通してドーッと行くから!」と宣言するビッケ。「言いたいことあったら今言って、悔いありませんか?」とオーディエンスに問うたところ、「『Moon Ride』やって!」という声が。と、キーボードの神佐澄人に「(初めてだから)できないよね?」と確認し、「じゃあギターでやろうよ」と、自分(歌とギター)・ギター・ベース・ドラムだけで「Moon Ride」を、フルコーラスやったのだ。
 というわけで、前述したように、全20曲のはずが、21曲、いや、「Lucky Ending」もあったから21曲半、に、なったのだった。
 それより前のMCで、『RAINBOW ROAD』はホーム感がある、と喜んでいたので、このオーディエンスの前なら、少々むちゃなことをやっても大丈夫、という気持ちもあったのだろうが、それにしてもだ。
 やるかね、リハがゼロの曲をぶっつけで、満員のTOKYO DOME CITY HALLで。あと、配信ならまだしも、テレビの生中継が入っているんだから、予定とは尺が変わるようなことは避けねばならないはずなのに。

 というように、すばらしいエンタテインメントがまずある上で、そのエンタメに生身のドキュメントが勝つ瞬間。「完成度を上げたい」という理性を「なんかもうやっちゃいたい」みたいな衝動が超えていく瞬間。

 自分がビッケブランカのライブを、もっと言うと彼の音楽そのものを好きな、たくさんある理由のうちの、かなり大きなポイントは、そこかもしれない。プロレスを大好きなのもそこだし、「八百長でしょ」とか言う人を「わかってねえなあ」と思うのもそういうところだ。
 って、話がそれたが、言うまでもなくそのような「エンタメとしての完成度」と「衝動の爆発」の両方がある表現は、その分、より強く、より深く、オーディンスを引き込む。

 本編後半の、お面ダンサー4人が登場した「Ca Va?」「ウララ」、そして「革命」は、「最後にバーッとアガって終わりましょう」的な、この日のステージの中でもっとも「お約束」な時間である。もっともエンタメで、もっとも非ドキュメントなブロックである。
 にもかかわらず、この3曲で爆発した客席のテンションは、ドキュメント以外の何ものでもない、それはもう生々しいものだった。天井知らずの歓喜だった。さっき書いたように、ここまでに何度も「完成度に衝動が勝つ瞬間」があったことが、効いたのだと思う。
 この3曲の中でもっとも新しい「革命」のイントロにのせて、ビッケブランカは言った。「僕は海外に行っていて、気づいたことがあります。言葉がわかんなくて歌えないってこともありますけど、言葉がわかんなくても歌える人もいる。でも、もっとシンプルにする方法を見つけた。歌詞がなければみんな歌えるんだってことを知った!」。そして次の瞬間、「♪おーおーおーおー」と歌い始めた。

 あとひとつ。
 「ウララ」の中盤で、ブレイクして演奏がキーボードだけになるところのお決まりになっているのだが、そこでビッケブランカは、客席に手を振る。振り続ける。ちょっとずつ身体の向きを変えたり、ステージを右から左へ移動したりしながら、そっちに向かって自分が手を振り忘れている場所が客席にないように、とても丁寧にやる。この日は2分6秒かけて、それをやった(測りました)。
 いちばん盛り上がる曲の中でやることとしては、あきらかにどうかしているこの時間が、僕はとても好きである。この人、狙いや計算じゃないわ、本当に来てくれた全員に「ありがとう」を伝えたくてこれをやってるんだわ、と、そのたびに感じるので。

 あ、もうひとつ書いておかないと。終演時に次の『RAINBOW ROAD』が発表になった。2024年5月4日(土・祝)大阪フェスティバルホール、タイトルは『Vicke Blanka presents RAINBOW ROAD -伝-』。
 その前には、1月31日(水)バンクーバーから2月20日(火)までかけて、カナダとアメリカを回る北米ツアーと、3月に大阪・横浜・東京のBillboard Liveで行うファンクラブ・ツアーも控えている。

SET LIST

01.天
02.アシカダンス
03.蒼天のヴァンパイア
04.ポニーテイル
05.Luca
06.Bitter
07.WALK
08.まっしろ
09.Stray Cat
10.Sad In Saudi Arabia
11.Snake
12.ミラージュ
13.北斗七星
14.Echo
15.Moon Ride ※観客リクエスト曲
16.Winter Beat
17.This kKiss
18.Ca Va?
19.ウララ
20.革命
21.Changes

■「Vicke Blanka presents RAINBOW ROAD -翔-」
セットリストプレイリスト

公演情報

DISK GARAGE公演

Vicke Blanka presents RAINBOW ROAD -伝-

2024年5月4日(土・祝)大阪・フェスティバルホール

French Link Special Live 2024

2024年3月10日(日)Billboard Live OSAKA
2024年3月21日(木)Billboard Live YOKOHAMA
2024年3月31日(日)Billboard Live TOKYO
※2部制

Vicke Blanka North American Tour 2024

1/31[Vancouver] VOGUE THEATRE
2/2[Denver] GOTHIC THEATRE
2/5[San Francisco] GREAT AMERICAN MUSIC HALL
2/6[Los Angeles] THE BELASCO 
2/8[Dallas] STUDIO AT THE FACTORY 
2/9[Houston] SCOUT BAR 
2/13[Chicago] PARK WEST 
2/15[Toronto] ANNABEL’S 
2/18[Montreal] RIALTO THEATRE
2/20[New York City] PALLADIUM TIMES SQUARE

INFO

<SP特番>Vicke Blanka presents RAINBOW ROAD -翔-
放送日:2024年2月11日(日) 正午~ CSテレ朝チャンネル1にて
※「スカパー!番組配信」にて同時&見逃し配信あり

 

番組視聴方法・詳細
https://www.tv-asahi.co.jp/ch/contents/variety/0691/

  • 兵庫慎司

    取材・文

    兵庫慎司

    • ツイッター
  • 撮影

    タカギユウスケ(LiveYou)

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