ゆず、満開の笑顔の花に囲まれて、9年ぶりの国立代々木競技場 第一体育館 2デイズ開催

ライブレポート | 2024.12.05 12:00

YUZU ARENA TOUR 2024-2025 図鑑 Supported by NISSAN SAKURA
2024年11月23日(土)東京・国立代々木競技場 第一体育館

生命力ほとばしる、カラフルでビビッドでみずみずしい空間が出現した。ゆずの音楽のパワーとアートのパワーを融合した素晴らしいコンサートとなった。『YUZU ARENA TOUR 2024-2025 図鑑』の8本目、11月23日の東京・国立代々木競技場 第一体育館。

ゆずの2人の歌と演奏、バンドの演奏はもちろんのこと、映像、照明、フラワーアートを軸とした舞台セット、フラワーダンサーズのダンス、衣装など、コンサート作りに参加している人々の総力を結集して、極上のエンターテインメントショーを作り上げていたのだ。“アート”と書くと、小難しい印象があるかもしれないが、ひたすら楽しくて温かくて親しみやすいコンサートだ。

「国立代々木競技場 第一体育館、2016年の『TOWA』以来、約9年ぶりにこの会場に帰ってきました。ただいま~!」リーダーの北川悠仁がそう挨拶すると、「おかえり~!」という声が会場のあちこちから飛び交った。サブリーダーの岩沢厚治が笑顔で客席を見渡している。9年ぶりという言葉に、時の流れの早さを感じてしまった。近年は、ゆずの地元である横浜でのライブ開催が多かったこともあり、ここ、代々木でのライブは間が空いてしまったのだ。だが、代々木のステージに立っている2人を観ていると、“ホーム感”が漂っている。それもそのはずで、代々木でのステージは通算で17回目。かつて、何度か“体育館ツアー”を行っている流れもある。ゆずにはやはり体育館という空間がよく似合っている。観客がかしこまって鑑賞するのではなく、ともに歌い、叫び、踊り、手を振り、笑い、そして涙を流し、全身をフルに使って運動しながら、体感するコンサートだからだ。

今回のステージは、ツアータイトルからもわかるように、最新アルバム『図鑑』を軸とした構成になっている。映像、舞台セット、ダンス、衣装などでも花がモチーフとして使われていて、視覚的な表現も重要な要素になっている。過去にも何度かゆずのアートワークに関わってきた、フラワーアーティストの東信氏とのコラボレーションも実現した。オープニングから一気にゆずワールドに引き込まれた。音楽と映像が融合した演出が見事だ。ステージの背後にある全面スクリーンが効果的に使われていたのだ。ステージ上にも起伏があり、まるであたり一面に広がる青空と大地のもとで、2人が演奏しているかのようだ。歌と演奏の素晴らしさに聴き惚れ、ステージの背後に広がる光景の美しさに見とれた。この日のステージでは、『図鑑』に収録されている全曲が披露された。この最新アルバムの特徴とは、バラエティに富んでいること、それにも関わらず、統一感があること、個々の曲が様々な感情を内包していて深みがあることなどだろう。その歌の世界が映像や照明、ダンスなどと結びつくことによってより立体的になっていると感じた。

「まだ知らない謎だらけの世界、僕たちがめぐる『図鑑』の世界、素晴らしいメンバーと演奏していきます。みなさん、最後まで楽しんでください」と北川の言葉。バンドのメンバーは磯貝サイモン(Bandmaster)、真壁陽平(Guitar)、前田恭介(Bass)、河村吉宏(Drums)、松本ジュン(Keyboard)、佐藤帆乃佳(Violin)、亀田夏絵(Violin)、菊池幹代(Viola)、結城貴弘(Cello)の9名。ゆずの2人とバンドの9人とが息のあった歌と演奏を披露した。観客が参加できることもゆずのコンサートの醍醐味の1つだ。北川と岩沢の歌声に客席の歌声が混ざり、バントの演奏にハンドクラップが加わり、会場内に一体感と高揚感が漂った。

初冬ということもあり、冬を舞台にした初期の歌も何曲か披露された。北川の歌声がすぐ近くで響いてくる。岩沢のハーモニカによって懐かしさを呼び起こされる瞬間もあった。スケールの大きな歌の世界もいいけれど、パーソナルな歌もいい。ストリングスの4人がリコーダーを吹く場面もあった。ハイテクを駆使した演出がある一方で、人の持っている肌触りを感じさせる素朴なステージを展開できるところにも、ゆずのライブの良さがある。まるで、体育館が学校の音楽室になったかのようだ。北川が「どうぞ」と学校の先生のように優しく観客にうながして、会場内が一緒に合唱する場面もあった。北川、岩沢、観客の歌声が混じり合って、とてつもなくハッピーな空気が充満していった。

まるで図鑑をめくるように、次から次へと鮮やか世界が繰り広げられていく。そしてその中心には、北川と岩沢の歌と演奏がある。2人の歌声が強く深く響いてきたのは、彼らがこれまでの人生で感じてきた様々な感情のすべてを歌に込めているからだろう。ゆずがデビューしてからすでに27年以上。今の彼らの等身大の歌声が染みてきた。楽曲によって、ときには負の感情と向き合った歌声に胸を揺さぶられた。岩沢の凜とした歌声とキレ味のあるギターから、ヒリヒリとした感触を感じた。北川の歌声からは苦悩や葛藤までもが伝わってくるようだった。ゆずが人間の光の部分だけではなく、影の部分に踏み込み、ポップミュージックとして昇華していた。2人の歌声が悲痛に響く瞬間があった。だが、痛みとは生命反応の一種であり、生きていることの証でもあるだろう。彼らは音楽を奏でることによって、痛みすらもエネルギーに変えていた。北川と岩沢の2人のハーモニーは、どこまでも清冽で強靱で温かい。人と人とが連帯することのかけがえのなさを実感させてくれる歌声だ。『図鑑』という括りがあることによって、代表曲や人気曲、既発の曲もまるで、『図鑑』の中の1ページを担っているかのようだった。『図鑑』とは、希望と絶望、喜怒哀楽、生と死など、この世界にあるものすべてを包み込むものでもあるのかもしれない。コンサートの後半で北川からこんな言葉があった。

「デビュー28年目を迎えました。50(歳)ももうすぐ見えてくるなと思う時もあるけれど、これからも飽くなき好奇心とチャレンジ精神で、いろんな音楽をみんなに届け続けます」

この夜、多彩な音楽とアイディアあふれる演出を堪能できたのは、ゆずの飽くなき好奇心とチャレンジ精神があるからだろう。メンバー、スタッフ含めて、ゆずのチームとしての底力を感じるステージでもあった。ひたすら楽しいコンサート。だが、ただ楽しいだけではない。ゆずの2人が音楽の中に込めたメッセージを確かに受け取ったと感じたからだ。彼らが音楽によって伝えたものとは、悲しみや苦しみを乗り越えて進んでいくことのかけがえのなさなのではないだろうか。今回のコンサートでモチーフとなっている花はきわめて象徴的だ。花が咲き、枯れ、種を残し、そしてまた芽が出てくるように、絶望の中から希望が生まれてくることもある。アメリカの文豪、ヘミングウェイの著作『誰がために鐘は鳴る』の中の一節がこの日のコンサートと重なった。その一節とは、「世界は素晴らしい。戦う価値がある」。

ゆずの繰り広げた『図鑑』の世界、あちこちで花が効果的に使われていたこともあり、花の図鑑のような華やかさも見どころとなっていた。『図鑑』の最後の1ページに掲載されたのは、この日の観客数である10862本の笑顔の花だったのではないだろうか。10月からスタートしたツアー、すでに3月に行われる追加公演『YUZU ARENA TOUR 2025 図鑑 spring has come Supported by NISSAN SAKURA』の日程も発表されている。冬から春へ。季節が移り変わる中で、ゆずの2人はまた新しい景色を見せてくれるに違いない。そして、『図鑑』の収録される笑顔の花は、さらに増え続けていくだろう。

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