cali≠gari 「30=6+7+8+9」
2025年3月15日(土)恵比寿ザ・ガーデンホール
『30』のオリジナルとなっているのは、活動休止前後の数年間──言わば、バンドの過渡期に制作された楽曲たち。なかでもいちばん古い『第6実験室』は、メンバー(特に石井秀仁)の反骨精神がわかりやすく顕になっていた時期で、かつて石井本人が「負の遺産」と語っていたほどにセンセーショナルな内容だ。ほぼ四半世紀を経たいま、そうした楽曲たちにスポットを当てた理由は定かではないが、どれもライヴ感あふれる躍動感をもって新たな息吹を得たのは確か。そんな「新しい昔話」が実演という形で表現された今回のステージ──本稿では、その最終日となる3月15日(土)の恵比寿ザ・ガーデンホール公演の模様をお届けする。
開演間際の場内。ロビーを彷徨いていると、フロアのカーペット上にポツンと据えられている蓋の開いた洋式便器を発見。ファンなら即座に『第7実験室』のジャケットを思い浮かべるだろうが、大勢の人が便器を囲み、位置取りしながら写真撮影している様はなんともシュールだ。もちろん自分もカメラに収め、着席すると程なく暗転。
暗闇のなかでセンシティヴに響き渡るのは、『8』に収められていた「読心」のケルティックなギターの調べ。そこから照明がゆっくり回りはじめると、桜井青(Gt)、村井研次郎(Ba)、サポート・ドラムのササブチヒロシが一人ずつステージに現れる。最後にヴォーカルの石井秀仁が登場すると、場に充満したどこか宗教的な空気を切り裂くように、ゴリゴリのユニゾン・リフが炸裂してライヴがスタート。オープニングはハード・ロッキンな武闘派ファンク「昏睡波動」だ。挑発的なヴォーカリゼーションでフロントを張る石井とは対照的に、両脇で身じろぎもせず息の合ったリフを放ち続ける桜井と村井。そのクールな佇まいがめちゃくちゃカッコいい。
ライヴでは定番の「-踏-」がそのヘヴィーなグルーヴをグラマラスに引き継ぐと、続いてはとんでもない速さのツービートからジャジーに失速する「まほらば憂愁」へ。4人は、とことん攻めたパフォーマンスで客席を豪快に撹拌していく。
そこから、深淵なシンセ・サウンドをアクセントにしながらスピーディーに駆け抜ける「その行方 徒に想う…」を媒介として、エレクトロニック色の強い楽曲を連打。桜井のロボ声も交えて人工的に煌めくエレポップ「デジタブルニウニウ」、レトロフューチャーなシンセと美麗なハーモニーがシンフォニックに絡み合う「虜ローラー」、仄かなロマンティシズムを讃えて加速する「ダ・ダン・ディ・ダン・ダン」と立て続けたかと思えば、桜井のヒステリックな語りも飛び出す暗黒シャッフル・チューン「白い黒」へ。さらに「黒い球体」──泥臭いギター・リフに貫かれたボーリングの歌と、客席からのクラップに導かれたグルーヴィーな悪態チューン「マス現象 ヴァリエーション2 諸事万端篇」と尖った歌詞の2曲を繰り出すと、町の雑踏のSEを挟んでアーシーなセンチメンタル・ソング「東京病」に展開。広すぎる情緒の振り幅を滑らかにスイッチさせると、そのままネオアコ×グラムな「100年の終わりかけ」で会場を染み入るような感傷に浸していく。
フロアから湧き起こった拍手に割り込むようにプレイされたのは、清澄なシンセが加わることで甘く改編された「愛の渇き」。ライヴで演奏されることも稀だけに、個人的には『30』のなかでも実演を楽しみにしていた一曲だ。
そこから桜井らしさ──ポップであればあるほど切なさとやるせなさが募る、ある種の〈cali≠gariらしさ〉が全開の2曲「ママが僕をすててパパが僕をおかした日」「スクールゾーン」を繋げてギアを上げると、イーブン・キックに誘われるがまま華やかなシンセ・ポップ「フラフラスキップ」へ突入。観客の軽快なクラップに合わせてアイロニカルな言葉を振り撒くと、彼らのライヴにおける鉄板チューン「ハイカラ殺伐ハイソ絶賛」で一気にクライマックスへ。「ハイカラ!」「殺伐!」「ハイソ!」「絶賛!」というコールと共に振り上げられる拳・拳・拳。ここでエンディングか? ……と思ったら、本編のラストは突然の新曲で「破滅型ロック」。サビが印象に残るパワフルなロック・チューンで駆け抜け、MCは一度も挟まないまま、メンバーたちは舞台上から去っていった。
どこか既聴感のある新曲だったため、もしかして思い出せない過去曲か……?と最後の「破滅型ロック」について考え込んでいると、恒例の「メンバーが去ってから5分置いてからのアンコール」がフロアのあちこちでスタート。それに応え、まずは桜井が一人でふたたびステージ上に登場した。ここで初のMC。「過去の曲を復活させたい」という意向で『30』の制作を企画した、と最新作について語りはじめる。そして、収録曲のリクエストを募るアンケートを取ったところ、「どうせお前らはライヴでやったことのない曲を聴きたいって言うに決まってるんだよって。このへんだろうな、って思ってた曲は、9割がた予想通りでした」と告白。なかでも「マス現象」のリクエストが異常に多かったそう。
そこから話題は本日初公開となった新曲「破滅型ロック」へ。ここで、先ほどの既聴感の謎が解けることになる。
「さっきの新曲ね、石井さんから送られてきた時に、『橋幸夫?』って聞いたら『そうです!』って返ってきて、『おおぅ……』って。そこから三日間、ササブチ君と私は『メキシカン・ローック♪』としか聞こえなくなりました(笑)。お前らも、cali≠gariのライヴに来たのに帰りは『メキシカン・ローック♪』ってフレーズが頭から離れなくなるから、ザマーミロ! ……えーと『破滅型ロック』、いい曲でしたね」。
そんなふうに無理やり話を締めると、続いては今後の告知へ。
「せっかく昔の曲を蘇らせたので、『30』の曲もそうだし、『第6実験室』から『8』まででやらなかった曲も、6月の『新宿ロフト5番勝負』でちまちまとやっていけたらと思ってます。ただ、cali≠gariは最新がいちばんカッコいいんですよ?」。
──そう続けると、新代田FEVERに始まり、ファイナルをEX THEATER ROPPONGIで迎える全国18公演の秋ツアー『TOUR 18』の情報を解禁。スケジュールが発表されるたびに、客席からは歓声が湧き起こる。ここでササブチ、村井、石井が登場。それを合図に、桜井が「というわけで皆さん、『30』の4公演ありがとうございました! 行くぞー! 東京!!」という雄叫びを上げると、ラストスパートに突入。頓狂なギター・フレーズと重音のリフ、どぎつい歌詞が連なる「ひらきなおリズム」、殺意のみなぎる盛大なロック・オペラ「-187-」、激走のハードコア「クソバカゴミゲロ」を畳み掛け、桜井と村井はフロアに降りて観客たちを煽りに煽る。連呼したら警察が飛んできそうなNGワードを会場全体でコールしまくったところで、この日のステージは終了した。
セットリストを振り返ってみると、『30』の収録曲のみならず、すべてが『第6実験室』〜『9』までの楽曲のみというレアな構成となった今回の4公演。そんなラインナップながらも懐古主義に陥らず、過去のはちゃめちゃなアイデアをきっちりと制御したうえで、「新しい昔話」として提示しきったところにこのバンドの底力と矜持がある。エッジは昔も変わらず彼らのなかでその刃を鋭く光らせているが、表現方法が年を経るほどに巧妙になっている──いや、その巧妙さこそがいまの彼らのエッジなのかもしれない。そんなことを改めて感じた今回の企画だった。
SET LIST
01. 昏睡波動
02. −踏−
03. まほらば愛愁
04. その行方 徒に想う…
05. デジタブルニウニウ
06. 虜ローラー
07. ダ・ダン・ディ・ダン・ダン
08. 白い黒
09. 黒い球体
10. マス現象 ヴァリエーション2 諸事万端篇
11. 東京病
12. 100年の終わりかけ
13. 愛の渇き
14. ママが僕をすててパパが僕をおかした日
15. スクールゾーン
16. フラフラスキップ
17. ハイカラ殺伐ハイソ絶賛
18. 破滅型ロック
ENCORE
01. ひらきなおリズム
02. -187-
03. クソバカゴミゲロ