中嶋ユキノ、ホーム・渋谷PLEASURE PLEASUREで迎えた全国ツアーファイナルは、幸福感に満ちたステージに

ライブレポート | 2025.05.03 12:00

中嶋ユキノ アコ旅2025~Can't Stop This Feeling!~
2025年4月20日(日)渋谷PLEASURE PLEASURE
[メンバー]Vo.Key:中嶋ユキノ / Per:若森さちこ / Bs:⼩川悠⽃ / Gt:⽯成正⼈

シンガーソングライター・中嶋ユキノのライブツアーシリーズ「アコ旅」。2025年は3月にリリースしたデジタルシングルの曲名である「Can’t stop this feeling!」を副題にし、全国8ヶ所を回った。ファイナルの会場は近年の彼女のホームでもある渋谷PLEASURE PLEASURE。彼女と19年間にわたりステージに立ち続ける若森さちこ(Per)、2021年から「アコ旅」に参加している小川悠斗(Ba)、「Can’t stop this feeling!」のサウンドプロデューサーであり2017年から2019年まで中嶋のサポートギタリストを務めた石成正人(Gt)という強力なプレイヤーとともに、エネルギッシュなライブを繰り広げた。

ピアノの音色が鳴り響き、やおら会場が暗転する。青い照明が灯るステージにサポートメンバーが登場し、中嶋がセンターのピアノ前に現れるとひときわ大きな拍手が沸いた。SEに若森がビートを重ね、観客もクラップで続くと「カンガルーファイター」でライブがスタートする。爽やかさと力強さのある演奏と、強い意志を感じさせる歌声は鮮やかに空間を色付け、中嶋のグリッサンドも痛快に響いた。

若森のジャンベでつないだ「好きで好きで」は石成のガットギターが楽曲に込められた恋愛感情を情熱的に描き、「夏のせい」では海風を彷彿とさせるコーラスとピアノがきらめき、会場はひと足早い夏景色に包まれる。メンバーが一丸となって楽曲のポテンシャルを最大限、もといそれ以上に発揮させる演奏は気概に満ちており非常に頼もしい。ファイナルに至るまでの7公演の充実を十二分に感じさせた。

観客と直に顔を合わせられた喜びを語った中嶋は、デビュー作収録曲や新曲、未発表曲、ライブでお馴染みの楽曲などから“今届けたい曲”を持ってきたと続け、「いつかキミと海辺の町で」を披露する。カホンやボンゴなどのパーカッションやなめらかなベースライン、丸みを帯びた電子ピアノの音色などが合わさり、会場は瞬時に夕暮れの海辺のイメージに彩られた。それに乗せて情感豊かかつ可憐に歌う中嶋は、その楽曲の物語の主人公のようだ。

2017年に行った初めてのアコースティックツアーが石成と若森を招いた3人編成であったこと、当時は石成もギターが1本、若森はカホンと小物のみであったことに触れた中嶋は、「ベードラ(バスドラム)が大きくなったらいよいよ“アコ旅”ではなく“ロク旅(ロック旅)”かも」と笑わせる。そして「デビューアルバムから久しぶりすぎる曲を、今のわたしアレンジでお届けします」と告げ、「そばにいるから」と「朝がくれば」の2曲を届けた。少しずつ音が厚くなるアレンジと比例するようにボーカルや歌詞も濃く色づく前者、悲しみを糧にまっすぐ前進する姿を体現した後者と、楽曲のメッセージに説得力を持たすアレンジだった。

メンバーとともにアコ旅の思い出を振り返ると、最後のもう一歩がなかなか進展しない恋にやきもきする女子の心情を綴った「あとほんの少しだけ」、自身の両親のエピソードを反映させた「洗い物担当くん」と、中嶋の茶目っ気が発揮された未発表曲2曲を披露する。会場にリラックスした空気感があふれるなか、中嶋は実家で1枚のDVDを見つけたことを明かした。そのDVDには2009年8月26日に撮影した、24歳の中嶋が未来の中嶋に宛てたビデオメッセージが収録されていたという。

2009年の中嶋は、ライブ活動はしていたもののレコード会社が決まらず、CDが出せない日々が続いていた。そんな不遇の渦中の中嶋が未来の中嶋に告げたのは、弱音ではなく「わたしは小学校1年生から歌手を目指してきたよね。歌っていくべきなんだよ。あなたには歌しかない。これを観ているあなたが夢を叶えていると信じたい。諦めてほしくない。だから頑張ろう、頑張れ、頑張ります!」という鼓舞と決意表明のメッセージだったという。

ピアノを鳴らしながら「もし2009年の自分にメッセージを送れるなら」と前置きをすると、2016年にメジャーデビューをし、2017年から定期的にライブツアーを行い、高校生の頃にTVで観ていた石成や2006年より交流のある若森、若い世代の小川とステージに立ち、スタッフやファンに恵まれるなか夢を追い続けていると伝えたいと話し、「ギターケースの中の僕」「だれかのはなし」と“アーティスト中嶋ユキノ”の生き様が刻まれたであろう楽曲を披露する。スケールを増していく演奏と、強い眼差しを感じさせる歌声は、彼女の音楽への揺らぐことない愛情と熱量をありありと表していた。

すると一転、軽快なSEとともに観客に起立を促すと、歌うたいの決意表明が綴られた「はじまりの歌」を奮起するようにたくましく歌い上げる。その勢いに乗せてグルーヴィーな人生賛歌「HAPPINESS」、ロックナンバー「Can’t stop this feeling!」とたたみかけ、中嶋は石成と向き合ってギターをプレイしたり、ギターをかき鳴らしながら身体を躍動させるなど、凛々しさあふれるパフォーマンスを見せた。

内観的な世界からエネルギッシュに駆け抜けていくエモーショナルでドラマチックな展開に、観客からの興奮の拍手と歓声が鳴りやまない。感無量といった表情の中嶋は呼吸を整えてピアノの前に座り、最後に「この歌は春夏秋冬、皆さんの思い出と一緒に聴いていただけるとうれしいなと思って作りました。永遠はないけれど、“いつまでも”を願って書いた曲です」と告げ、最新曲「そよ風のように」を届けた。センチメンタルでありながらも希望を感じさせる、強い願いが込められた歌声は、会場を鮮やかに包み込んだ。

アンコールではまず中嶋と石成が登場し、2人編成で「桜ひとひら」を披露する。石成のギターのアルペジオは桜の花びらがひらひらと舞う様子を想起させ、桜の花の美しさを体現したメロディやボーカルと合わさって、空間を桜色に染め上げた。すると小川と若森のリズム隊もステージに登場し、ビートでつないで「なんでなの!?」へ。観客も高らかなクラップとシンガロングで楽曲に参加し、ライブならではのハッピーな一体感を作った。

「ツアーを終えたくない気持ちでいっぱい」と後ろ髪を引かれる中嶋は、ツアーを回るようになった当初は観客が満足できるライブができるのかという不安と緊張が大きかったことを明かし、「特に今年のツアーではその不安から解消されて、皆さんと旅ができたような感覚があります」と晴れやかな表情を浮かべる。そして今年も若森と回る2人編成のライブツアー「ふたり旅」の開催を計画中であることを告げ、「時がたっても」で今年のアコ旅を締めくくった。あたたかく柔らかな音色は再会を約束するようで、音楽やステージへの真摯な思いが綴られた歌詞は、今の彼女が歌うことでとても誇り高く響く。演奏が終わるとスタンディングオベーションが起こり、見事なまでの感動的なエンディングを迎えた。

近年リリースされた楽曲が彼女の現在のモードをクリアに表していることはもちろんだが、この日は過去曲に綴られた歌詞のメッセージがさらに深く、エネルギーを持って響いていることが印象的だった。未来への願いのような気持ちで書いていた楽曲たちが、今の彼女にとってリアルな感情になっているのかもしれない。それは彼女がどんなことがあろうと音楽にまっすぐと向き合い続けてきた証だろう。ライブへの不安から解き放たれた彼女は、いまいちばん純粋に音楽を楽しめているのではないだろうか。そんなことを想像させる、幸福感に満ちたツアーファイナルだった。

SET LIST

01. カンガルーファイター
02. 好きで好きで
03. 夏のせい
04. いつかキミと海辺の町で
05. そばにいるから
06. 朝がくれば
07. あとほんの少しだけ
08. 洗い物担当くん
09. ギターケースの中の僕
10. だれかのはなし
11. はじまりの鐘
12. HAPPINESS
13. Can't stop this feeling!
14. そよ風のように

ENCORE
En01. 桜ひとひら
En02. なんでなの!?
En03. 時がたっても

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