幸祜、観測者待望の現地ワンマンライブ、笑顔でステージへ!「今度はわたしがみんなに音楽で感謝をお返しする番」

ライブレポート | 2025.05.24 18:00

KAMITSUBAKI WARS 2025 神椿新宿戦線 幸祜3rd ONE-MAN LIVE「PLAYERⅢ」
2025年5月14日(水) Zepp Shinjuku (TOKYO)

体調不良による約4ヶ月の活動休止を経て今年2月に活動を再開し、4月には2ndフルアルバム『prayer2』をリリースしたバーチャルシンガー・幸祜が、『KAMITSUBAKI WARS 2025 神椿新宿戦線 幸祜3rd ONE-MAN LIVE「PLAYER Ⅲ」』を開催した。幸祜にとって約3年半ぶりとなる現地ワンマンは、もちろんチケットも完全ソールドアウト。バンドメンバーにはなきごとの岡田安未(Gt)、NELKEの伊藤雅景(Gt)、いつも君はそうだ/終日柄の岩瀬良介(Ba)、鳥山昂(Key)、WOMCADOLEの安田吉希(Dr)と若手実力派バンドマンを迎え、バンドマスターとバンドのライブアレンジは2023年のオンラインワンマンライブに続きCIVILIANのコヤマヒデカズが担当するなど、バンドのグルーヴを最大限に活かした熱演となった。

幸祜の目覚めを描いたオープニングムービーに“RESTART”の文字が躍ると、観客からは大きな歓声が沸く。冒頭から「始まりの銃声」「ミラージュコード」と最新アルバム収録のロックナンバーをたたみかけ、バンドのグルーヴを追い風に凛々しいパフォーマンスを見せた。「強欲」ではフロアからシンガロングが起こり、アカペラからなだれ込んだ「the last bullet」では幸祜も「もっと声を聞かせて!」と呼び掛け、バンドメンバーも果敢に観客を焚きつける。冒頭4曲から充分なほどに、観客、バンドと一丸となってこのライブを作り上げたいという彼女の熱くピュアな思いが伝わってきた。

「序盤から汗びちょびちょにさせるセットリストを組んできた」と笑う幸祜は、「手を振って!」と呼びかけながら両手を左右に振り、可憐さと色香を持ち合わせたポップナンバー「Lullaby」を披露する。ラストに願いを込めるようにミラーボールへと腕を伸ばし、物憂げにハイトーンで歌う姿も美しい。彼女は華やかな佇まいや多彩な身のこなしで魅了できるアーティストだが、その表現力はボーカルも同様だ。「閃光の彼方」では緊迫感のある演奏に乗せて、歌詞に描かれた感情を丁寧に歌へと昇華し、静と動をしなやかに往来する。英語詞曲「bliss」では柔らかい音と一体になるように息を多く含んだ声で楽曲を彩り、その感傷的な透明感に会場も酔いしれた。

「私を纏う」では芯の強さと繊細さを併せ持つ歌声と、花を模した手の動きが和風のメロディに艶を持たせ、未発表の新曲「在処」では揺れ動く感情を時に激しく、時に細やかに声にする。曲が終わるや否や伊藤が幸祜の近くに寄り衝動的にギターをかき鳴らすと、幸祜はクラップを観客へ促して新曲「僕は願うことをやめたんだ」へ。バンドの爆発力が映えるアレンジに、プレイヤー陣も感情を解放するように前のめりな演奏を展開する。そのエネルギーに触発されるように幸祜のボーカルも熱を帯び、全身を振り絞って声を出す姿も胸を打った。

バンドメンバーがステージから去ると「みんなで会場を揺らしてZepp Shinjukuをクラブにしちゃうぞ!」という掛け声から衣装チェンジをして「MiMi Cry」「ClimBinge」とダンスナンバーゾーンに突入する。軽やかなダンスと躍動感のある歌唱でフロアを踊らせる彼女を観ながら、幸祜というシンガーはつねに心地よさを与えてくれることを再確認する。バーチャルロックシンガーの称号に違わないパワフルなパフォーマンスでありながらも、打破などの攻撃的なニュアンスはほとんど感じさせない。どんな楽曲を歌っていても根本に優しさがある。そんなあたたかな人間味あふれるステージも、彼女の魅力のひとつだろう。

観客と手元のドリンクで乾杯をした後はバンドメンバーを呼び戻し、スペシャルゲストとして幸祜の音楽的同位体 狐子を招く。そしてV.W.Pの各メンバーがペアを組んだデュエットソング・派生曲から、幸祜が参加する「素的」と「歯車」をこの日限りのコラボレーションで披露した。同じ声質を持つ者同士でありながらも、異なる個性を持っている両者によるハーモニーやユニゾンは非常に味わい深い。歌い終えた後、幸祜は自身の活動休止中に開催された「V.W.P 2nd ONE-MAN LIVE「現象Ⅱ -魔女拡成-(再)」」の代打を狐子が務めたことに触れ、「不安もいろいろあったけれど、(狐子が)代わりに最高のパフォーマンスと最高の歌を奏でてくれて観ていて安心しました」と感謝を告げる。静かに微笑む狐子と、それをまっすぐ見つめる幸祜からは、神秘的な信頼関係が感じられた。

狐子がステージを去ると新曲「月時雨」を初披露し、岡田のアコースティックギターから「ゲンフウケイ」へとつなぐ。後者は幸祜が作詞作曲に参加している楽曲ゆえだろうか、発する歌の一言一言に特に重みを感じさせる。バンドメンバーも彼女の歌声に思いを重ねるようにスケールの大きな音像を作り、その気魄は幸祜が再び自身の物語を前へと進めていくこと、歌い続けていくことへの決意を象徴する一幕だった。その余韻のなか演奏された「カスミソウ」は、雨上がりのように爽やかな純粋さが煌めいていた。

幸祜は「実は(観客の)皆さんの顔がよく見えてるんですよ」と観客の顔を覗き込みながら手を振るなどし、「今回のグッズのペンライトやっぱ可愛いね」と微笑むと、「ペンラは何のためにあるかというと? そう! ライブに来たからには盛り上がらないとですよね!」「今日でいちばん大きな声聞かせて!」と会場を盛り上げて、バンドメンバー紹介のソロ回しから「ANTINOMY」へとつないだ。この日得たパワーを放出させるようなすがすがしい歌声を響かせると、本編ラストの「白昼夢」では衣装チェンジをしてエモーショナルかつキュートなムードで包み込む。ステージを去る間際には、バンドメンバーが彼女の私物をフロアへ投げ込むというサプライズプレゼントも。最後まで幸祜らしい遊び心が効いていた。

ダンスパフォーマンスを交えた「Abstractions Void」でアンコールをスタートさせると、「次の曲は子どもの頃を思い出すような、懐かしさのある曲」「最高の景色をみんなで作りたいのでペンライトの色をオレンジにして聴いていただきたい」と告げ、新曲の正統派ロックバラード「オレンジ」を初披露する。ラストはバンドメンバーもコーラスに参加し、楽曲に描かれた情景に深みを持たせた。

最後の曲の前に、幸祜は自身の思いを言葉にした。数ヶ月の活動休止期間で感じたこと、学んだことがたくさんあると話す彼女は、活動ができないことへの悔しさや苦しみ、羨ましさが渦巻き、日々不安を抱えていたという。ライブが公表できないまま延期になったことでチームやバンドメンバー、待っていてくれるファンに迷惑を掛けてしまったと自責の念にかられたが、ポジティブな言葉を掛けてもらうことで「自分だけが後ろ向きな気持ちでいたらだめだ」と思わされたことを明かすと、「今のわたしには音楽を共有できる仲間がいるということが、一歩進む勇気をくれた」と感謝を告げ、「みんなにはこれからも幸祜を観ていてほしいです」と頭を下げた。

「このワンマンライブでどうしても伝えたかったのは“感謝”です」「過去にみんなに“振り返れば必ずわたしがいます”と伝えました。悩んだり、つまづいたり下を向いてもいいし、休んでもいいと思います。もし前を向きたいと思ったときに、わたしは振り向いてみんなに手を差し伸べられる存在になれたらなと思います。今度はわたしがみんなに音楽で感謝をお返しする番です」とまっすぐ語ると、最後に復帰第1弾シングル曲「むすんでひらいて」を届ける。力強い演奏に乗る瑞々しくのびやかなボーカルは、次のフェーズへと突き進む彼女の姿を強く印象づけた。

エンドロールの後は、幸祜が5月から6ヶ月連続リリースをすること、その第1弾がこの日初披露された「オレンジ」であること、「幸祜 Virtual mini live [ code / chord ] 」のvol.1と2のBlu-rayを年内にリリースすることなどを発表する。連続リリース曲は幸祜への楽曲提供実績のあるFeryquitous、雄之助、Airaなど錚々たるメンバーが参加するとのことで、幸祜がこれまでの活動で出会った“仲間”と歩み出していくことを堂々と表明した。

No.038 幸祜 -KOKO- 「オレンジ」【Official Lyric Video】

幸祜は6月13日(金)、14日(土)にはKanadevia Hall(TOKYO DOME CITY HALL)にて開催される「KAMITSUBAKI WARS 2025 神椿後楽園戦線KAMITSUBAKI XPERIENCE」の初日にも参加が決定している。今回の幸祜のワンマンでも精度の高い細やかな身のこなしや現地照明と連動したカラーリングなどで、より非現実と現実の境界線が曖昧になるほどのXRライブを目の当たりにしたが、この日も映像、演出、パフォーマンスをこれまで以上にアップデートした内容になるとのことだ。復帰ワンマンを終えたばかりの彼女が花譜やヰ世界情緒とどんなパフォーマンスを見せるのかはもちろん、最終日の理芽、春猿火、明透、各オープニングアクトを務める少女革命計画の心世紀と罪十罰にも注目である。バーチャルアーティストたちとKAMITSUBAKI STUDIO / THINKRのタッグによるクリエイティブの進化と深化は、まだまだ留まることを知らなさそうだ。

SET LIST

01. 始まりの銃声
02. ミラージュコード
03. 強欲
04. the last bullet
05. Lullaby
06. 閃光の彼方
07. bliss
08. 私を纏う
09. 在処
10. 僕は願うことをやめたんだ
11. MiMi Cry
12. ClimBinge
13. 素的(幸祜 feat.狐⼦)
14. ⻭⾞(幸祜 feat.狐⼦)
15. ⽉時⾬
16. ゲンフウケイ
17. カスミソウ
18. ANTINOMY
19. 白昼夢

ENCORE
01. Abstractions Void
02. オレンジ
03. むすんでひらいて

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