TOMOO Live at 日本武道館
2025年5月23日(金)日本武道館
メジャーデビューを発表した2022年2月のワンマンライブ『YOU YOU』から『Estuary』『BEAT』『Walk on the Keys』『TWO MOON』『Puddles』『Mirrors』『Anchor』…。近年のTOMOOのワンマンライブやツアーには彼女のその時々の心境を映したようなタイトルがついていた。しかし、昨年12月にパシフィコ横浜 国立大ホールで行われたワンマンライブ『TOMOO one-man live "Anchor" at PACIFICO YOKOHAMA』の退場時にもらったチラシには『TOMOO Live at 日本武道館』としか書かれていなかった。半年後までにはタイトルがつくのではないかと思っていたのだが、キャリア初となる日本武道館公演の当日を迎えても、「Live at 日本武道館」以外のタイトルは付いていなかった。
「日本武道館」自体がタイトルなのだろうと考えながら会場に足を運んだ。360度を観客で埋まった場内は、アリーナの北部分にステージセットが組まれ、頭上には4面のLED画面になる昇降サークル型の巨大なライトがぶら下がっていた。開演時間になると、ギター、ベース、ドラム、キーボード、パーカッションの5人編成によるバンドに加え、8人の弦楽隊、5人のホーン隊、3名のコーラスという総勢21名からなる「武道館スペシャル」(TOMOO命名)が入場。ヴァイオリンやビオラ、チェロのチューニングが始まったかと思いきや、そのままイントロダクションへとなだれ込み、TOMOOがステージの中央から登場。満員の観客から温かい拍手に迎えられた彼女がアップライトピアノの前に立つと、場内が暗転。ピンスポットに照らされたTOMOOが自身が注目されるきっかけとなった曲である「Ginger」のイントロを力強く演奏し始めると観客は総立ちとなってクラップを鳴らし始めた。TOMOOを含めて22名による演奏と大きな手拍子が重なる中でもミュートトランペットの繊細な音色が耳に届く。なんて贅沢な演奏と素晴らしい空間なのだろうと耳を澄ませているうちに、TOMOOの歌声と観客のクラップだけのパートに突入したが、その瞬間もドラマチックで感動的だった。鉄琴とフルートの音色が“都会の金曜日の夜”を明るく照らす「Friday」から、ステージを右に左に移動しながら弾むように歌った「恋する10秒」で、場内の熱気とクラップのヴォリュームはさらに上昇。そして、トライアングルがささやかなリズムを刻む中で、ストリングスとホーンが楽曲の世界観をダイナミックに広げていく「夢はさめても」で、“ばらばらに燃える心臓”を持つTOMOOと私たち、観客ひとりひとりの再会を祝った。
「今日、ここ、日本武道館に来てくれてありがとうございます。ここで会えて嬉しいです」と観客に感謝の気持ちを伝えたTOMOOは、「この場所は、想像しているよりもお客さんが近く感じるよって、噂には聞いていたんですけど、本当だったんですね。10年前に初めてライブを観にきた時はデカすぎて、こんなところでライブをするはずがないと戸惑ってもいたんですが、今日を迎えてみたらホッとします。不思議ですね」とリラックスした表情を見せた。そして、「MVを公開してから5年越しに叶いました」と喜んだ「らしくもなくたっていいでしょう」では、コリオグラファーでダンサーのえりなっちをゲストに迎えて二人でMVのダンスを再現。
コンガがフィーチャーされた「地下鉄モグラロード」から「ナイトウォーク」、ストリングによるイントロが加わった「17」といった、観客に学生時代を想起させる楽曲ではTOMOOがバンド全体のグルーヴを牽引。「その年の最初の夏の匂いがしたかもと思う時はハッとするんですけど、ついでに自分の中にある何かの箱のふたが開きそうな気もするんですよね」という言葉に導かれた「コントラスト」ではまさに青い夏の気配を匂いではなく、音楽で引き連れてきた。
ライブの中盤では「昔、ライブハウスで1〜2曲目によくやっていた」という「あめ玉」からTOMOO一人だけの弾き語りへ。「活動を始めて13年ぐらいになりますけど、いつも私に音楽を続けさせてきた人たちがいて。例え、そばにいなくても、私はあなたがいるまま歌ってるよ。今日を迎えるにあたって、その人たちのことが浮かんだ」という「Your Friend」では歌詞を噛み締めるように歌唱。そして、17歳の時にコンテストで歌唱した「金色のかげ」ではアコギとストリングスが加わったアコースティックセットで懐かしい思い出をはらんだような切ない歌声を届けた。
静から動、ミニマルからアンサンブルへ。歌い出しで再び観客が総立ちでクラップとワイパーを繰り広げた「雨でも花火に行こうよ」、オルガンとブルージーなギターが観客の体を自然と揺らした「ベーコンエピ」を経てライブは後半へ。武道館と同じ正八角形の巨大な円盤に月が浮かんだ「Grapefruit Moon」、TOMOOのブレスからフル編成に飛躍するダイナミズムに圧倒された「Cinderella」、ポエトリーリーディングをフィーチャーし、ドラマーも思わず立って叩いていた「風に立つ」。オセロのような白と黒の丸いモチーフが連なるスカートに着替えたTOMOOはこの3曲で“武道館スペシャル”ならではの迫力に満ちた圧巻のパフォーマンスを見せた。
そして、「2018年ごろにできた曲やそのころに原型があった曲を偶然、3曲続けて歌わせてもらったんですけど、すごくしっくりきますね。数年前にできてた曲ではあるけれども、その時に器ができたとしたら、そこに水が段々と数年かけて溜まっていって。今、いっぱいになった感じがします」と語り、ライブTシャツのバックプリントが「水を限界ギリギリまで貼った透明な器を真上から見下ろして撮った写真」であることを明かした。さらに、「今日、私、この場所も透明な器になったらいいんじゃないかなと思ったんです。今日は、あなたが、みんなが持ってるものを、この器に注いでもらえたらいいなと思ったんですよね。TOMOOの意図や意味じゃなくて、この瞬間瞬間にあなたの思いを注いで、思い出を持ち帰って欲しい」と続け、ライブにテーマやタイトルを付けなかった真意を説明した。
CLEAR BOWLというよりはINVIBLEの方がニュアンスが近いか。いや、平仮名で「とうめいなうつわ」かもしれない。突如、明かされた「透明な器」という裏テーマに思いを馳せる中、ライブでお馴染みの「HONEY BOY」とメジャーデビュー曲「オセロ」で場内の熱気を高めると、「エンドレス」では再び弾き語り、TOMOOは武道館に集まった観客一人一人の幸せを願うような祈りを込めた歌声を響かせた。そして、「もう1個だけ、器にまるわることで今の私の気持ちがあって」と語り始めた。少し長くなるが、彼女の音楽の本質につながる部分なので記しておきたい。
「私、いつも歌いたいことが常にひとりでに自分の中から勝手に生まれるわけじゃなくて。その時々で、色のない透明な器に何かが注がれて、その注がれたものの色や形が透けて見えてる感じなんですよ。注がれる何かは、自分の身に起こった出来事や触れたもの、見たもの、景色、目の前の人…いろいろあって。音楽をやってる自分はどういう存在か、これからどういうふうにありたいかなと思った時に、もし1つヒントがあるとしたら、透明な器なのかなと今、思っています。最初から私の中にあったものじゃなくて、注がれたものなんだよなと思えば、逆にもう怖がることもないのかもなと思ってて。豊かさや強さ、もしかしたら心も、私の内側に最初からあったものじゃなくて。どっちかというと、外というか、間にあるんじゃないかなって思う。そう思えば、いつの日か、自分の中が空っぽかもしれないと思うような時も、それを嘆く必要はないのかもしれない。そんなふうに、これからも私は曲を残しておけたら幸せだなって、いま、心から思ってます」
続けて、「何より曲の向こうには人がいますからね。だから、続けたいと思います」と新たな決意を示したTOMOOは、「今日はここにいてくれて嬉しかったです。本当にありがとうございました」と改めて感謝を伝えると、観客一人一人と目を合わせるかのように360度をぐるぐる見渡しながら<並んで歩こう>というフレーズを高らかに歌い上げる「Super Ball」で会場を明るく楽しい雰囲気で包み込んで本編を締めくくった。
アンコールでは、「ギリギリまでやるつもりはなかったんですけど、みんながいてくれて嬉しいなと思う中でやることになった」と話し、TVアニメ『CITY THE ANIMATION』のエンディング主題歌に決定している新曲「LUCKY」を弾き語りで初披露。さらに、観客はタオルを回して盛り上げる「POP’ N ROLL MUSIC」ではTOMOOが入場前にバンドメンバーとやっているという円陣の掛け声を共有して一体感を高めるとリスナーへの感謝の気持ちを込めた「Present」ではハンディキャノンを使って、アリーナにタオルを投げ込み、<九段下にて会えて嬉しいです>というメッセージ付きの銀テープも発射。最後に武道館に立てた喜びと充足感に満ちた表情で「またここでライブがしたいな〜。またここで会えるように頑張ります。続きます、旅は」と語ると、「また元気で会いましょう」と再会を約束してステージを後にした。
なお、終演後には11月から自身最大規模となる全国ホールツアー『TOMOO HALL TOUR 2025-2026』を開催することを発表。さらに、今年秋には、前作『TWO MOON』以来、約2年ぶりとなるメジャー2ndアルバムのリリースが予定されていることもアナウンスされ、観客から大きな歓声と期待値と喜びに満ちた拍手が上がり、その手には、色とりどりとなった器が抱えられていた。
SET LIST
01. Ginger
02. Friday
03. 恋する10秒
04. 夢はさめても
05. らしくもなくたっていいでしょう
06. 地下鉄モグラロード
07. ナイトウォーク
08. 17
09. コントラスト
10. あめ玉
11. Your Friend
12. 金色のかげ
13. 雨でも花火に行こうよ
14. ベーコンエピ
15. Grapefruit Moon
16. Cinderella
17. 風に立つ
18. HONEY BOY
19. オセロ
20. エンドレス
21. Super Ball
ENCORE
01. LUCKY ※新曲
02. POP'N ROLL MUSIC
03. Present
▼日本武道館公演SETLIST PLAYLIST
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