甘い暴力 2025 春のプレゼンツツアー「堕天」
2025年6月4日(水)Spotify O-EAST
2月27日(木)の宮城公演を皮切りに、全国ツアー『甘い暴力 2025 春のプレゼンツツアー「堕天」』を開催した甘い暴力。ツアー初日に発表した最新EP『堕天』を育て上げながら駆け抜けた全20公演の千秋楽・6月4日(水)Spotify O-EAST公演でも、彼らは闇の底から生み出された凄まじい情熱とエネルギーが激流となって渦を巻く、圧倒的なステージを繰り広げた。
文(Gt)、義(Ba)、啓(Dr)の3人が凄まじい重音を解き放つと、そこへ咲が姿を現し、届けられた1曲目は「愛の地獄」。ヘヴィなミディアムナンバーで一気に深淵まで引きずり込んでいく展開だ。低く降ろされたステージ頭上の照明から、緑色の光が凄まじいスピードで降り注ぎ、フロアではヘッドバンギングが巻き起こる。「躾」では、咲が不気味な声色を切り替えながらフロアを調教するように扇動すると、愛と狂気が紙一重な主人公の心情を表すように曲調が変わっていく「故に、ドエス。」へ。文が奏でる奇怪ながらも耳にこびりついて離れないギターリフと、ヒステリックに叫び散らかす咲のパフォーマンスでフロアを魅了すると、アウトロでは「お前は俺のもんや!」と咲が連呼。そして凄まじい絶叫から「バッド入る」へなだれ込む。感情が昂った啓が立ち上がってフロアを煽れば、義はフロアを見渡し、盤石でありながらも凶暴な音塊を疾駆させていく。流麗なピアノの旋律がダークなサウンドをドラマティックに盛り立てる「堕天」では、咲が2本のマイクを使い分けながら歌を届けていた。
この辺りで一旦ブレイクに入りそうな予感もあったのだが、「その辺の他のバンドと一緒にすんじゃねぇぞ? 甘い暴力の世界に引きずり込んでやるよクソヤロー共!」と咲が叫び、休むことなく「スウィート・ペイン・ロックンロール」「激痛」とヘヴィな曲を畳み掛け、さらに「今日のこのライヴが最高だったのかどうか、俺たち4人に委ねるな!」という咲の叫びから始まったのは、「てめえで決めろ」。その言葉に応えるように、オーディエンスも激しく叫び声を上げていた。
ここでようやく音がやんだのだが、暗転中もフロアからはメンバーの名前を呼ぶ声がとまらない。そこへ「運命に嫌われた」のイントロが流れ始めると、オーディエンスは自然と叫ぶのをやめた……のだが、「誰が黙っていいって言った!?」と咲が叱咤すると、再び絶叫。咲は、文がギターを弾き始めてもなお、フロアの声を求めていた。
ライヴ中盤では「噛み痕」や「知りたく無い」を披露。それまでのバイオレンス全開なパフォーマンスから一転、どっしりとした演奏と感傷的なメロディをじっくりと聴かせていく。この日のMCで、「巷で噂されている甘い暴力のイメージだけじゃなくて、歌もちゃんと届けたいんだよ」と咲が話していたのだが、確かにここまで書いてきたレポートも、見る人によってはいかにも恐ろしい記述が多かったかもしれない。ちなみに、彼らは次回のツアーをすでに告知しているのだが、タイトルは『甘い暴力 クソプレゼンツ ドM限定 大調教会』だ。どう考えても狂暴すぎるライヴになることが予測されるし、一見さんが二の足を踏みそうな雰囲気も存分にある。しかし、甘い暴力は心の底から湧き上がる欲望を勢い任せでただぶつけるのではなく、メンバー1人ひとりが情熱を120%表現できるスキルと、そんな4人がひとつの塊となって突き進んでいくバンド力を持っていて、彼らが音楽に、バンドに、オーディエンスに対してどれほど真摯に向き合っているかは、ライヴに来れば一目瞭然。それゆえに「君が幸せでいてくれることが、私の幸せに繋がるわけじゃない。」に綴られた繊細で切実な思いが、心の奥底まで響いてくるのだ。
音楽はもちろんのこと、途中で挟まれるコミカルな“茶番”も甘い暴力のライヴならでは。今回のツアーでは、「堕天」というタイトルに合わせて、天使チームと悪魔チームに分かれてのディベートバトルが行なわれた。内容としては、頭の中で天使と悪魔が囁く瞬間について、両チームが舌戦を繰り広げ、観客が「どちらが正しいかではなく、どちらがうまいことを言ったか」を選び、勝利チームには各地のご褒美グルメが与えられるというもので、なかなかに下世話なテーマに対して、生々しすぎる主張を繰り広げてフロアを盛り上げていた(ちなみに勝利したのは文と啓による悪魔チームで、東京のご褒美グルメとして出てきたのは「ストロベリー フェチ(Strawberry Fetish)」の“いちご飴”だった)。
再び演奏に戻ると、フリを交えた「イタイ女」や「嘘キス」でオーディエンスを激しく踊らせていき、カラフルなライトが煌めいた「らぶみ」は、曲調はポップでキュートながらも、放つ音はしっかりエグいというギャップも楽しい。そこから「熱く行こうぜ!」と咲が告げると、「蝶王」「ヒス症」を畳み掛け、再びピークを目指して走り始めた。「一秒一秒全部持って帰りたい、こんな奇跡みたいな空間ないから」と、胸の内をまっすぐにフロアに語りかけた咲は、続く「だいじょばない」ではマイクを両手で握りしめ、俯きがちに言葉を吐き出していく。さらに「暴動」「勝て」とハードナンバーを連発。ヘッドバンギングとコール&レスポンスの嵐が巻き起こり、バンドもオーディエンスも限界を突破していくようにお互いを激しく求め合う。その熱狂の中心で叫び上げていた咲は、目の前にいる1人ひとりを、そして何よりも自分自身を鼓舞しているように見えた。
というのも、この後のMCで彼は、この数ヶ月間「俺は誰にも求められていないんじゃないか、俺はいつか捨てられてしまうんじゃないか」と思ってしまっていたとのこと。また、「おそらく甘い暴力を聴いて、ライヴにまで足を運んでくれているお前は、同じような思いを持っているんだと思う」と話す。そして、「いいか、今から話すことをよく覚えておけ」と、自分自身にも言い聞かせるように、フロアに語りかけた。
「誰もお前のことなんて求めちゃいない。誰も俺のことなんて求めちゃいない。お前を、本当の意味で求めているものは、お前自身に他ならない!
お前がお前自身を必要としてやれ。
それが簡単なことじゃないのは分かってる。俺だってまだ全然できてないんだ。
だから今は理解できなくていい。1年後、10年後でもいい。でも、必ずこの言葉を、思いを昇華できるまで俺は必ずやる。必ず、この闇ごと引きずり回して、眩い闇となる!お互い流したその涙の後で、また会おう」(咲)
そんな言葉から届けられたのは、激情的に駆け抜けていく音の中でポエトリーリーディングを繰り広げる「なみだの後」だった。どうしようもなく心を蝕んでいく闇と、それでもその闇の中で確実に脈を打つ命と、闇の中でしか、闇の中だからこそ生み出すことができる言葉を紡ぎ、歌っていく覚悟を、絶叫する。そんな咲の言葉と共に激走する文、義、啓の演奏も凄まじいほどの熱量に満ち満ちていて、とてつもなくエモーショナルな空気が場内に漲っていた。「俺らはこんなところで負けてらんねえんだよ! 俺が俺自身の精神を凌駕する瞬間を目撃してくれ! 必ずまだやろうぜ! 何度でも! 連れて行ってやる!」と、この日のラストナンバーである「好きな人でしかイケません。」に到達。まさに命を削るように全身全霊のロングトーンを響かせるエンディングとなった。
全20本のツアーを締め括ったばかりの甘い暴力だが、ここからも続々と単独公演を開催することが決定している。まずは前述の通り、7月11日(金)から全国5カ所を廻るワンマンツアー『甘い暴力 クソプレゼンツ ドM限定 大調教会』をスタートさせる。それに加えて、8月13日(水)に大阪BIGCAT、8月24日(日)に恵比寿LIQUIDROOMで、『甘い暴力 クソプレゼンツ「あますぎてしぬ!!」』を開催することも発表された。「超凶暴」と「超激甘」という正反対のコンセプトになっていることもあり、それぞれまったく違う内容のステージを楽しむことができるはずだ。さらに、9月3日(水)には、EX THEATER ROPPONGIにて『甘い暴力 プレゼンツ「フェティッシュ」』が開催される。なお、本公演は全席指定のため、まだ彼らのライヴを未体験の方にとって──それこそためらってしまっている二の足を、一歩前に踏み出して──今の甘い暴力を知る絶好の機会でもあると思う。心の闇を引きずり回しながら、限界を突破してく彼らのステージをただひたすらに楽しみにしているし、多くの方々にも体感していただきたい。
SET LIST
01. 愛の地獄
02. 躾
03. 故に、ドエス。
04. バッド入る
05. 堕天
06. スウィート・ペイン・ロックンロール
07. 激痛
08. てめえで決めろ
09. 運命に嫌われた
10. 噛み痕
11. 知りたく無い
12. 君が幸せでいてくれることが、私の幸せに繋がるわけじゃない。
13. イタイ女
14. 嘘キス
15. らぶみ
16. 蝶王
17. ヒス症
18. だいじょばない
19. 暴動
20. 勝て
21. なみだの後
22. 好きな人でしかイケません。