webDI:GA LIVE REPORT


大宮あん朱(arp)/「大宮あん朱 一人舞台 -金木犀 モノ語リ-」2007.11.3(土) daikanyama晴れたら空に豆まいて


2007.12.26 up

現在、arp は久々となるニューアルバム制作中だ。
そんな中、ヴォーカルを務める大宮あん朱がソロライヴを行うという。

一人舞台と聞いたので、ギターやピアノでの弾き語りを想像したのだが、どうやらその予想は大きく外れていた。演劇的な要素を全面的に取り入れた舞台になるのだと言う。この時点では正直イメージが湧かなかった。
昨今はいろんなユニットやバンドがライヴに趣向をこらしており、そういうものの1つかと思っていた。

濱田貴司は今回、プロデュース・音楽監督という肩書きで参加している。ソロライブと言うより、arp による新しいステージ演出への挑戦のようである。

濱田は「僕はロックバンドなどより、映画音楽に感動して音楽を始めてるんですよ。だから演劇や映画の音楽は前々からやってみたかった。音楽を作る才能を生かしつつ、人を楽しませることに関してはいつも考えていて、今までもいろいろ試したけど、今回は演出家に脚本を書いてもらって構成しました」。
その演劇的なステージへの着想は「前にも一部、ライヴで取り入れたことがあったし、あん朱ならきっと出来るんじゃないか、むしろ向いていると思ったんですよね」という濱田のアイディアからだ。

その話を大宮に振ると「演技に向いてるかはわからないですね。むしろ自分が女優だなんていうのはおこがましい(笑)。ただ、自分はなにかにのめり込みやすいというか…(笑)」。
といいつつこの企画に対する意欲は彼女も高い。
「いつも私が思っているのは歌に限らず、自分のパフォーマンスに触れてもらうことで、誰かの心にある何かにこんな感じで火を灯せたらいい」と目の前にあるロウソクを指差した。
しかし、一介のシンガーがいったいどこまで出来るのか、本人も「そこは相当、プレッシャーですよ(笑)」とのことだった。

さて、この日の会場は代官山『晴れたら空に豆まいて』。落ち着いた風情がゆったりとした和を感じさせる会場だ。
“金木犀モノ語り”と銘打った今夜のショーのステージにはマイクを置くために設置されたテーブル以外何もない。

開演時間前には座席はすべて埋まった。
祭日の土曜日ということもあり、会場はリラックスした雰囲気だ。

SEが流れ、会場の電球がひとつひとつゆっくりと落ちていくと大宮が白い衣装をまとい、一人ステージに現れた。
ステージ後方のスクリーンに映像が流れ、まだ音源化されていない“金木犀”を歌い始める。

彼女ひとりのパフォーマンスに圧倒されて先ほどのリラックスムードは一変し、会場全体が金縛りにあったようにピーンと張り詰めた。

歌が終わるとその歌声に圧倒されていた観客から拍手がまばらに起こり始め、段々と大きくなる。ここで通常のコンサートであれば MC で繋ぐということになるが、この日は少し趣が違った。

そこに一人芝居でのステージが展開し始めたのだ。セリフで繋いだミックステープのようなステージである。
オペラやミュージカルのように物語を強調するために音楽があるのではなく、arp の楽曲からインスピレーションを受けた物語が楽曲を軸に展開している。

語られるのは一人の少女を主人公にして、彼女自身に問いかけるもう一人の自分がいるという設定を軸にした、恋愛、そして生きることの物語だ。現実に確かなものはなく、日々は同じような繰り返しだけれど、少しずつ人は成長していくことをテーマにしている。曲間に流れるSEも雰囲気を盛り上げている。

“わたしのこえ”など新曲を含めた楽曲を重ねる中で、物語は楽曲へ、楽曲は物語へと互いに影響を与えていく。

ステージ上では相変わらず大宮は一人なのだが、進行していくにつれて会場全体を完全に物語の世界の住人にしてしまった。
だれもが身じろぎせず、歌に、物語にと集中し、ステージ上での展開に固唾を呑みながら時間を過ごす。

舞台が進んでいくほどにその声は伸びやかに、それでいて語りかけるように響きわたっていた。
演技も真に迫っている。

物語は“Reborn”で主人公が立ち直り、最後にもう一度オープニングに歌った“金木犀”を登場させるという構成が象徴的だった。
エンドロールが流れて映画でも見終わったような感覚になる。

最後は大きな拍手とともに物語からは離れ、会場は緊張感から開放された。
大宮が再び登場し“光のさすほうへ”を唄い、この日最後に最初の MC を行った。

今回の舞台はいい意味で裏切られた。
挑戦でありながらよく練られており、多分、arp を知らなくても充分楽しめる完成度だった。
大宮あん朱のシンガーとしてだけでなく、表現者としての素材の質の高さ、そして濱田の楽曲構成力も十分に堪能できたし、また違った物語、構成で見てみたい。

そして arp は年が明けて1/26に、今度は渋谷のWOMB に登場する。
新作を引っ提げた次回のライヴに濱田は「今回は内省的でしたけど、次は正反対にド派手にやりますよ」と不敵に笑った。そちらはどんな手で来るのかも非常に楽しみである。


●REPORT BY 鈴木りゅうた



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INFORMATION

■LIVE
・arp ワンマンライブ「零」
 1/26(土) 渋谷WOMB
 ●NOW ON SALE

■RELEASE
・New Mini Album 「>Redirect」
 ●1/26 ON SALE

■OTHERS
DI:GA1月号(1/1~配布号)にて arp インタビューを掲載!


■OFFICIAL HOMEPAGE http://www.arpweb.jp/



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