世界の音楽聖地を歩く 第6回:ロバート・ジョンソン「クロスロード伝説」の真実

コラム | 2016.05.02 14:00

多くの自称”ロバート・ジョンソンの息子”が出現。正式に認定された息子は大金持ちに

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ヘイズルハースト駅に設置されている”ロバート・ジョンソン・バースプレイス”と記されたブルース・トレイル・マーカー

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[画像左]クラウド・ジョンソンが運営するロバート・ジョンソン・ブルース・ミュージアム [画像右]ミュージアムで訪問客の対応するロバート・ジョンソンの孫娘、アレサ・ジョンソン

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ミュージアム内部にはロバート・ジョンソン関連の資料が数多く展示されている

ロバート・ジョンソンは1911年5月8日にミシシッピ州ヘイズルハーストに生まれた。この町の周辺には彼の子孫が現在でも暮している。北側に位置するクリスタル・スプリングスでロバート・ジョンソン
・ブルース・ファンデーションを運営するクラウド・ジョンソンはロバートの息子で、ブルース・フェスティバルやワークショップなどを企画しながら、娘のテレサ(ロバートの孫娘)とともに、クリスタル・スプリングスの中心地でロバート・ジョンソン・ミュージアムを一般公開している。クラウドは約10年間に及ぶ長い法廷闘争の末、1998年に米国最高裁判所からロバート・ジョンソンの息子として正式に遺産相続人として認定され、約2億円の現金と今後の印税収入を受け取る権利を獲得した。砂利を運ぶトラック運転手として暮らしていたクラウドは大金持ちになり、47エーカーという広大な土地を手に入れて悠々自適な生活を送っている。法廷闘争の期間中、多くの自称”ロバート・ジョンソンの息子”なる人物が名乗りを上げた。その度に裁判は紛糾し調査は振り出しに戻った。クラウドがロバート・ジョンソンの息子と認定される決め手となったのは以下の証言だ。
ロバート・ジョンソンは1930年にヘイズルハーストに舞い戻っている。その後の2年間はこの町で暮らしながら、アイク・ジナマンというギタリストに師事してギターを学び直していた。この当時付き合っていたのがヴァージー・ジェーン・スミス・ケインという女性で、彼女は1932年にクラウドを出産している。この父親がロバート・ジョンソンだと法廷で証言したのが、ヴァージー・ジェーンの幼馴染のマエ・ウィリアムスである。「1931年の春でした。私はロバートとヴァージーが森の中でセックスをしているのを目撃したのです。間もなく妊娠が分かり10か月後にクラウドが生まれたのです」。

 

エリック・クラプトンの最大のアイドル、ロバート・ジョンソン

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かつてはブルース・クラブが軒を連ねていたローズデイルのブルース・ストリート。現在は廃墟となったビルが並んでいる

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ミシシッピ・ブルース・ファンデーションが設置している”ROSEDALE”と記されたブルース・トレイル・マーカー。クリームについては”Eric Clapton’s group Cream”と表記されている

チャーはクリームの『クロスロード』で炸裂するエリック・クラプトンのギター・ソロをコピーするために、自分の青春時代を費やしたとインタビューで語っている。エリック・クラプトンの最大のアイドルはロバート・ジョンソンで、クラプトン自身もロバート・ジョンソンのほとんどの曲を自分のアルバムでカバーしている。中でもクリーム時代の『クロスロード』でのクラプトンの若々しくアグレッシブなプレイは、全世界に多くのクラプトン・マニアを生み出した。彼はこの曲に1コーラス分の歌詞を自分なりの解釈で付け足している。それは同じくロバート・ジョンソンの『トラベリング・リバーサイド・ブルース』の最終バースで、その歌詞の舞台が上の写真のローズデイルという町である。クラークスデイルの南西に位置する、ミシシッピ川に隣接する人口が2000人足らずの小さな町だ。寂れ果てたエリアだが、ここにもクリームの写真などが貼り付けられたブルース・トレイル・マーカーが設置されている。このマーカーの前に立っていると必ず数人の黒人が近寄ってきてこう話す。
「俺はロバートについて詳しいから、ローズデイルを案内してあげようか?」
ほとんどがにわか知識でデタラメな話をするチップ目当ての連中なので、彼らの相手をする必要はないのだが、こういう連中がいつも待っているということは、ローズデイルにも多くのブルース・マニアやクラプトン・マニアが訪ねてくるという証である。

ロバート・ジョンソン 「クロスロード」

クリーム 「クロスロード」

Char 「クロスロード」

 

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桑田英彦(Hidehiko Kuwata)

音楽雑誌の編集者を経て渡米。1980 年代をアメリカで過ごす。帰国後は雑誌、エアライン機内誌やカード会員誌などの海外取材を中心にライター・カメラマンとして活動。ミュージシャンや俳優など著名人のインタビューも多数。アメリカ、カナダ、ニュージーランド、イタリア、ハンガリー、ウクライナなど、海外のワイナリーを数多く取材。著書に『ワインで旅する カリフォルニア』『ワインで旅するイタリア』『英国ロックを歩く』『ミシシッピ・ブルース・トレイル』(スペースシャワー・ブックス)、『ハワイアン・ミュージックの歩き方』(ダイヤモンド社)、『アメリカン・ミュージック・トレイル』(シンコーミュージック)等。