“プロモーター・アヴちゃん”、女王蜂の『Q』がまごうことなき最高傑作になるまでを語る

インタビュー | 2017.04.04 18:00

女王蜂
インタビュー/兵庫慎司

女王蜂のニュー・アルバム『Q』がすごい。そこに確かにあるのにないように扱われている、なかったことみたいに覆い隠されている事実を、白日の下にひきずり出す音楽。そして、そのように覆い隠されている、背徳とかインモラルとか破廉恥という言葉で表されるものは、愛や情や純粋さといった言葉で表されるものと表裏一体、もしくは同一であることを立証する音楽。つまり、真実を描く音楽。最初から女王蜂はそういうバンドであり、であるがゆえに音源もライブも、見てはいけないものを見てしまったような、目をそむけていたことをつきつけられたようなショックに満ちていた。ただしそれは、衝撃的であるがゆえに異端だったわけだが、その異端の立ち位置から「どまんなか」に躍り出てきたのが、この『Q』というアルバムなのだ。
 誰にでもわかる、シンプルで「書く」よりも「話す」に限りなく近い言葉と、誰にだって届くドラマチックで美しいメロディと、誰をも踊らせる華やかなダンス・ビートで、それを表現できるようになった女王蜂。つまり、無敵になったということだ。こんなに危険で軽やかで美しいJ-POP(とあえて言う)、過去も現在もおそらくこの先も、女王蜂以外には存在しないだろう。アヴちゃんにインタビューに応えていただいた。

あきらかに最高傑作というか、自分のクリエイションの範疇を超えたものができたから

──休止明けの作品は2年前の『奇麗』ですけど、新しいアルバム『Q』を聴くと、むしろこちらの方が再スタートな気がして。

アヴちゃん(Vo) 自分のことをアーティストと思ったことは生まれてきて一度もないのですが、今日は演者とか作り手というよりはプロモーターとしてこの場に来ています。スーツを着て。最高傑作ができたので、これをたくさんの人に聴いてもらうためのインタビュー、プロモーションとして来ておりますので。宣伝マンとして来ている、っていう意味では初めての試みというか。初めて最高傑作と謳えるものができた、という意味では、処女作みたいなところはあるかもね。

──では、どのあたりをして最高傑作と自覚したのか、教えていただけますか。

アヴちゃん もうすっごい無意識で、あっという間に短期間でできた。もともとこれの前にアルバムを1枚分プリプロしていて、さあこれで出しましょうっていう時に「Q」っていう曲が浮かんで、「これだ!」と思って。「ごめん、もう一回やらせてくれない?」って速攻で全曲を作ったのがこのアルバムなので。
 いつか「Q」っていう曲を作りたいと思っていて、ずーっと。ライブを観に行くと……どのライブを観てても「台所からは饐えた匂い」(「Q」の歌い出し)っていう言葉と、その情景が頭の中を支配しちゃって、何もできなくなって、ライブをまともに観れない時期が続いて。「なんだろうこの気持ちは?」と思いながらも、たくさんの曲をプリプロしたんだけど……ある日「Q」が曲になってポンと出てきて、「あ、じゃあこの曲を配置してアルバムを速攻で作らなきゃ」と思って。アルバム2~3枚ぶんは構想があって、『Q』はもうちょっと先だと思ってたんだけど、できたので。
 虎の子だから、「Q」は。「Q」っていう曲で、初めて少年性っていうものを描いたので。自分の戦い方として、三つ巴なんですよ。自分自身がイスラム教の名前で、仏教徒だからお葬式は仏教で出すと思うし、クリスマス生まれで、っていう三つ巴だから。今回はほんと、ここまで、虎の子を曲にできたっていうところですかね。これまでのすべてが、これに対するイニシエーションだったという気もする。ここにたどり着くための経験だったりとか。あきらかに最高傑作というか、自分のクリエイションの範疇を超えたものができたから。

大阪のBIG CATで「Q」をやった時に、まわりの人に「これは実体験なの?」と聞かれて

──その少年性というのがどういうニュアンスのものか、ちょっと教えていただけますか。

アヴちゃん たとえばBL(ボーイズラブ)とか、キリスト教もそうやけど、ゼウスの力でキリストがいて、キリストが処女から生まれてきたとか、何かを背負わすための……綾波レイ(『新世紀エヴァンゲリオン』)とかゴジラとかもそうかもしれないけど、そういうものとしての少年性?女王蜂を始めてから、私は、自分の少年性を守るために、母になったり女王になったりして戦ってきた、っていうところがあったから。だから少年性っていうのは、本当に自分の核の部分かもしれないですね。ずっとあったものやけど、こうやって出すまでに時間がかかったってことなのかな、これに全部入ってるのかな、と思うんですけど。
 まあ、私だけの話っていうよりかは、今の世間のこととかを表せたような感じもしますね。昔聴いてたもの……たとえばオザケンも帰ってきたし、ヒッキーも帰ってきたし、「あの頃」っていうのが最新型になって帰ってくる中、私たちは現在進行形で……女王蜂が培ってきたものだけじゃなくて、今世情にあるものとかも、濃縮して出せたような。

──曲の書き方って変わりました?

アヴちゃん 基本的に曲は4~5分で書いちゃうのが、今までの癖だったんですけど、このアルバムは、ほんとに無意識に、気づいたらノートにいっぱい書いてあったとか、寝落ちして起きたらできてるとか、そういう感じでしたね。解像度の高い映画の早回しをグワーッて観せられて、それをストーキングして書いていく感じになったというか。
 私、映画をたくさん観るんですよ。で、最近、暴力を扱う日本映画が多かったりするから、若い監督とか。私たちの故郷は神戸で、救急車とかパトカーが来たのに次の日ニュースになってなかったりとか、そういうことがわりとたくさんあるので。それこそ小さい時に経験した阪神淡路大震災もそうだけど、そういうことが自分の中にずっとあるから。今の暴力を扱ってる映画を観ると、ドヤってる感じがするんですよね。 「あれ?ドヤんのなんでなんやろ?」ってずっと思っていて、「じゃあ私はこうしよう」ってカウンターで書いた曲が、何曲かあります。
 たとえば、「Q」は……この曲は、いつか書かないといけないと思っていた。うちら今まで、いろんな、救いのないと言われる、ダーク・チューンだと言われる曲を書いてきたけど、ダークだと思ったことは一回もなくて。ただ、自分の中であったことでもあるし、書かないといけない風景だと思ったから書いてきたけど……やっぱり、お父さんにぶたれてお父さん許せないとか、手篭めにされて許せないっていうことよりも、そこまでに至る気持ちだったりとか……死を描くにしても、死を選んでしまった人がかわいそうだね、っていうだけじゃないところまで描かないと、ダメな気がしたんですよね。それを、誰にでもわかる言葉で書かないとダメな気がした。
 「Q」はもうライブでやってるから、あの曲に対してよく手紙とかもらうけど。「あの曲を初めて聴いた時に、気づいたら手を握りしめてて爪のとこから血が出ていました」とか。大阪のBIG CATでこの曲をやった後も、ファンの方やまわりの方から「あの曲はアヴちゃんの実体験なの?」って聞かれて。どんな捉え方も、私は全部引き受けようと思ってる。
 私、今、マタギやってみたくて。私、双六を上がるように死にたいってずっと思っていて。
喜怒哀楽以上のすべての感情を知って、曲にして死にたいから。

──え? あの、猟をするマタギ?

アヴちゃん ごめんなさい、話、全然それちゃうんですけど。私、全部の感情を知って死にたい。全部の立場になることは、もちろん難しいと思うけど、男の子に生まれればよかった、女の子に生まれればよかったとか、あれやればよかったとかいう言い訳をすべてせず、喜怒哀楽以上のすべての感情を知って、曲にして死にたいから。全部見たい。だからマタギっていうのは、生き物を絞めるとか、殺すとか、剥ぐとか、そういうのも絶対大事な気がしていて。それを食べてるわけですから。

──そういえば昔……景山民夫という作家のエッセイを読んでいたら、「自分で殺せるくらいの動物しか食べちゃいけないんじゃないか」と書いてあって。

アヴちゃん それ、私も思ってる!だからそういう、殺すとか解体するとかいう全部は知らないままで、バイアスをかけてうまくやっていくっていうのが、世の中のテンプレなのかなっていうことを、今回のアルバムを制作していて思いましたね。

──そのテンプレからはじかれている事実も描くというのは、確かに女王蜂がやっていることですよね。

アヴちゃん そうですね。やっぱり震災で……まだ小さかったけど、人が亡くなったあとって、死体って膨らむんですね。で、破裂するんですけど。お祖母ちゃまが亡くなったんですけど、震災で混乱してて、棺が届かなかったので、2ヵ月間保冷剤で待ってたってことがあったんですよ。で、小さいながらチラチラ見ていて。
 なんかそういう……きれいな音楽とか、おしゃれなこととか、素敵なこととかいっぱいあるけど、街には下水道が走っているので。下水道ばっか見せるのはプレイにしかなんないから、そうはしたくないけれど、ちゃんと表裏一体にあるっていうことはやりたいですね。

──ツアーについて、もう考えていることはありますか?

アヴちゃん ああ、もうすさまじいものを用意してます。なんばHatchとZepp DiverCity(TOKYO)では、ちょっと大きめの演出をやろうと企てています。それから、ツアーはこのアルバムの曲たちは全部入れて……レコード会社と話し合って、歌詞を書き換えた部分がけっこうあるんですけど、それを全部元の歌詞で歌います。

 

PRESENT
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■女王蜂 『DANCE DANCE DANCE』(Full Ver.)

女王蜂全国ツアー2017「A」

5月12日(金)HEAVEN'S ROCK さいたま新都心
5月13日(土)柏PALOOZA

7月2日(日)Zepp DiverCity(TOKYO)
4月8日(土) SALE

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受付期間:4月8日(土)10:00 〜 6月8日(木)23:00
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RELEASE

NEW ALBUM「Q」
(女王レコード)
4月5日(水) SALE
※初回生産限定盤[CD+DVD]、通常盤[CD]の2形態
※アヴちゃんによる書き下ろしマンガを含む全52ページ豪華ブックレット仕様

※初回生産限定盤
※通常盤