新境地を開き進化し続けるkainatsu。新アルバムとツアー最終公演に向けての思い

インタビュー | 2017.10.26 19:00

取材・文/翡翠

4年ぶりのアルバム「暮らし の はなし」をリリースし、ツアーを展開中のkainatsuが11月23日(木・祝)、東京・恵比寿ザ・ガーデンルームでライブを行う。昨年、「下北沢南口」でデビューしてから10年を迎えた歌姫は、ブッキングから企画までを自ら考えるマンスリーライブなどでブラッシュアップを続け、新アルバムでは初めてサウンドプロデューサーも務めた。アレンジメントにもこだわった1枚では、初めて英語詞で歌うなど新境地を開いた。進化し続けるkainatsuに、ツアー最終公演に向けての思いを聞く。

──「暮らし の はなし」のリリースツアー真っ最中ですね。4年ぶりのアルバムに収録した作品では、日常を描いています。「満員電車」や「満月」など、経験をしたことがある言葉が多く、その情景がまぶたに浮かびました。温もりを感じる9曲でした。

声とメロディーの良さを再確認して欲しいというのが出発点にありました。わたしは曲作りの際、いつもピアノ1本で作るのですが、弾きながら歌っているデモ音源を4人のアレンジャーの方にお渡ししたとき、みなさん「なっちゃんの世界観を活かすためにどうしたらいいのか」と愛着を持って丁寧に曲に接して下さって、その愛情が温度を感じることができる曲作りに繋がったのだと思います。わたし自身も柔らかく歌うように、心がけてレコーディングに臨みました。

──日常を歌ったのはなぜですか。

日常はドラマチックなものではないですよね。ありふれた日常を送っているのは、わたしも同じ。毎日こつこつでしか、未来に繋いで行くことはできないし、誰もほめてはくれないもの。でもその繰り返しというものをできること自体が、もう幸せなんだと気がついたことが大きいです。「耕して育てよう」で歌ったように、“何ひとつ欠けても 生きてはいけない”と思いますし、特別ではない日々がとても大切だと。
「tokyo planet」では、誰も誰かの特別なんかじゃないと歌いましたが、本当はそうじゃなくて、誰もが自分の人生の主人公だという気持ちを込めてストーリーを考えて行きました。

──大阪(10月14日)、名古屋(15日)のライブはどんな時間でしたか。
※編集部注 取材は10月18日に行いました

ツアーをするのは、2014年以来だったので、正直「来てくれるかな」という不安がありました。大阪と名古屋に行くのも久しぶりだったので、大丈夫かなぁと。でも、両方ともファンの人がすごく温かくて、「おかえり」と迎えて下さったので、心配だった気持ちはすぐに吹き飛びました。

──バンド編成が特別とうかがいました。

はい。kainatsu史上初めてのベースレス編成です。ドラムはおなじみのコミーさん(小宮山純平)、新しいアルバムの「contrast~幸せの定義~」で共演したマリンバ奏者のシーナアキコさん、アルバムで3曲(「耕して育てよう」「Rollin’!! Mornin’!!」「hana-uta」)のアレンジをお願いしたhuenicaのギタリストの榎本聖貴さんと一緒です。
これまでライブというと、「盛り上げなくちゃ!」と意気込んでいたことが多かったのですが、今回は「久しぶりの再会を楽しもうね」と、自宅にお友だちを招いたような気持ちでいます。いつも一番頑張るのではなくて、肩の力を抜いて。だから、揺れたかったら揺れて、じっとしたい人は目を閉じて。手拍子とか、ライブ中の決まり事は全て取っ払って、一緒に過ごす時間を、リラックスして楽しもうねと思っています。

──kainatsuさんのツイッターでは、リハーサルの様子が写真投稿されていましたね。カリンバやグロッケンなど珍しい楽器もありました。

今回のアルバムレコーディングでは多重録音をしているところが多く、ステージでどう再現するかということが課題としてあったのですが、ベースレスになったこともあり、アルバムと違うアレンジにしてみようと、ステージ上にトイピアノを3台セッティングするなど遊び心を全面に。あとはギターで演奏しているフレーズをあえてピアノで弾いたり、その逆もあったり。浮かんだアイデアを形にしていくのはとても楽しいです。

ステージにはグロッケン、トイピアノなど多くの楽器が並んでいる

──アルバムとは違うアレンジ。ファンの方の反応はいかがでしたか。

「暮らし の はなし」に収録した曲は、みなさん耳をすませて聴き入っている様子の方が多かったです。ライブではこの10年の間に歌ってきた曲も、特別アレンジをしていて、歌い出すと、「おぉ」と声が上がったりしたので、アレンジの意外性を楽しんでいただけたのかなぁと思いました。

──kainatsuさんにとって思い入れがある曲は?

やっぱり、デビュー曲の「下北沢南口」は特別です。10年前の曲ですが、いまも大事にしてくれる人がいるから、歌い続けることができると思いますし、【歌を聴きながら泣いてしまいました】、【初めてこの曲を聴いたのは高校生のときでした】、【この10年の間に結婚・出産をして、きょうのライブは親に子どもを預けてきました】など、ファンの方の思いを受け止めることができるのは、わたしが歌い続けてきたからだなと感謝の思いが湧きました。わたし自身も「下北沢南口」に出てくる女の子と一緒に成長しているので、みなさんもそうなのかなと思うと感慨深いです。

──ファンと一緒に成長されている。

そうですね。実は、アルバム1曲目の「tokyo planet」は「下北沢南口」の女の子の10年後をイメージして作ったんです。“この歌にあなたの面影がないように あなたの物語の中にも 私は居なかった”なんて、「下北~」を書いた20歳前後じゃ浮かばない言葉。都会でただ一人、不安だけど、子どものころのように、人に孤独を吐き出すこともできない。バラードがアルバムの1曲目って意外かもしれないけれど、曲の中に込めたささやかな光りのような思いを感じてもらえたらと願っています。デビュー曲もアレンジしてくれた、みなちん(皆川真人)がこの曲を手がけてくださったので、日常がふわっと開いていくような感覚を受け取ってくれたらうれしいです。

──その温かさは歌声にも宿っています。

“みんな”ではなく、“あなた”に伝えたいと話しをしたり、歌っています。それは、ラジオ番組を10年続けていることが大きいのかなと思います。家と学校の往復だった中高生のとき、眠れない夜は自分の部屋でそっとラジオを付けて、ラジオから聴こえてくる深夜放送や、パーソナリティーの方の笑い声に励まされました。海の向こうで人気の音楽番組を聴いていると、自分と世界が繋がっていると感じられて。自分が見ている世界は狭いものだと気付くことができました。わたしがラジオに支えられたように、誰かに寄り添うことができたらいいなと思っています。それはずっと持ち続けている原点ですね。

──恵比寿ザ・ガーデンルーム(11月23日)のステージが楽しみです。

名古屋・大阪のライブを終えてメンバーと、いいグルーブを持つことができたので、11月に向けて気合いが入りました。恵比寿まで少し間が空くので、いい意味で気合いを抜いて行きたいと思っています。まだ計画中ですが、2公演を見た人が改めて来ていただいても楽しめるように、選曲も変えようと思っており、特別な夜を一緒に楽しむことができたらと思っています。

「kainatsu LIVE TOUR 2017 〜暮らし の ひびき〜」

2017年11月23日(木・祝) 東京・恵比寿ガーデンルーム
17:00 開場 / 17:30 開演
〈バンドメンバー〉
榎本聖貴(Gt) / 小宮山純平(Dr) / シーナアキコ(Mar)
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RELEASE

「暮らし の はなし」
(SMC RECORDS)
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