黒木渚が完全復活後の手応え、ワンマンライブ「〜幻想童話〜砂の城」の展望を語る！

──喉の状態と向き合う1年だったと思いますが、歌の表現も変わってきたのでは？

そうかもしれないです。難しい症状ではあったんですが、以前の歌声に執着していてはこの状態から抜け出せないし、お医者さんとも相談しながら、新しい声を作っていこうと思ったんです。声自体は授かりものだから、それをそのまま活かして、表現を一から作っていくっていう。そういうものじゃないですか、アスリートとかも。

──フォームを改良するとか、身体の使い方を変えるとか。

そうそう。最初に始めたのは、「クセをなくして、いちばんラクなやり方で大きい声を出す」ということだったんですが、正しい姿勢で声を出していると体がめっちゃ元気になってきたんです。あとは「普段しゃべっている声の高さを2音上げましょう」とか。そうやって新しい回路を作ると、それを使って声を出すようになるんですよ。調子が悪いときは、それがバグってる状態だったんです。そのせいで必要以上に力が入ってしまって。お医者さんが科学的に説明してくれたのも良かったんですよね。へんに励まされるよりも、「今はこういう状態だから、こうしていきましょう」と淡々と説明してもらったほうががんばれるタイプみたいです。

──「解放区への旅」のボーカルも、以前と雰囲気が違いますよね。奥行きが増したし、歌詞がしっかり伝わってきました。

先に進めた感覚はありましたね。私はずっと「プロである以上、歌が上手いのは当たり前で、その先に表現がある」と思っていて。でも、完璧であることをいちばん気にしているのは、自分なんですよ。お客さんは案外、気にしていないというか、いちばん調子がよくなかった時期のライブも「上手い」「声、ちゃんと出てるよ」って言ってくれて。その経験があったから、声をリセットするのも怖くなかったんです。ライブとレコーディングは別ということも、この1年で気付くことができましたね。

▼黒木渚「解放区への旅」【Official Music Video】

──1年間の活動休止のなかで、得たものも多かったようですね。

そうですね。本もたくさん読んだし、陶芸をやったり、絵を描いたり、ジムに通ったり、部屋の壁紙を張り替えたり。

──壁紙を自分で張り替えたんですか？

はい（笑）。お月さまのデザインの時計を買って、白い壁に掛けていたんですけど、「お月さまなんだから、背景はやっぱり夜空だろう」と思って。時間があったからできたことですよね、それも。あと、お芝居もかなり観ましたね。衝撃的な作品もけっこうあったんですけど、特に劇団サンプルの「ブリッジ 〜モツ宇宙へのいざない〜」はすごかったです。「私も一生、モノを作り続けないとダメだな」と思えたし、すごく刺激になりました。芝居を観ると、自分のライブに反映できるんですよ。舞台装置とか、舞台の機構とかも参考になるので。

──2018年2月24日（土）には昭和女子大学人見記念講堂でワンマンライブ「〜幻想童話〜砂の城」が開催されます。どんなステージになりそうですか？

前回のライブのときに前衛舞踏家の伊藤キムさんに参加していただいて。かなり芸術性が高いから「ここまでやって大丈夫かな？」と思っていたんですが、実際にやってみると「ぜんぜんいける」という感触があったんです。自分自身が「本当に芸術性が高い」と思っている表現であれば、それが難解なものであっても、お客さんはちゃんと理解してくれる。そういう信用があれば、やれることもさらに増えていくと思うんですよね。自由度が上がって「黒木渚はこうあるべき」というスケールが大きくなっているというか。もともと私には音楽の他に文学という柱があって、活動休止中も文学に救われて。2月のライブでは、そのことも演出に取り込みたいと思っています。一夜限りのライブなので、儚さというか、「このライブは二度と見られないんだな」と感じられるものにしたいですね。

──期待してます！シングルのリリース後も、制作は続いているんですか？

はい。どんどん作っていきたいと思っているので。芯の部分は変わらないと思いますが、「解放区への旅」を書いたことで、しなかやさを得られた気がしていて。以前は「障害物に向かって肩が壊れるまでタックルし続ける」という感じだったんですけど（笑）、いまは「バネが付いた靴で飛び越えてもいいんじゃない？だってルールなんてないんだから」という気持ちなんですよ。柔軟性だったり、ちょっと余裕を持てるようになったのかもしれにないですね。

──黒木渚の音楽の世界も大きく広がりそうですね。

そう思います。休んでいる間に小説を書いていたから、自分のなかの語彙も更新されていているので。ただ良いことを歌うだけではなくて、異物感だったり、毒っけを混ぜたいんですよね、やっぱり。そのバランスをさらに研ぎ澄ませていきたいですね。