松本 隆スペシャル・プロジェクト「風街ガーデンであひませう2017」DAY1 ライブレポート

2017.10.0800:00

~松本 隆 作詞活動47周年記念スペシャル・プロジェクト × 恵比寿ガーデンプレイス23周年記念WEEK~ サッポロ生ビール黒ラベルPresents 風街ガーデンであひませう 2017
2017年10月6日(金) 恵比寿ザ・ガーデンホール

TEXT/田中サユカ
PHOTO/旭 里奈(CYANDO)

これは作詞家・松本 隆のデビュー47周年を記念して、恵比寿ガーデンホールが3日限りの“風街”と化すプレミアムライブ・イベント。

70年代以前に日本人が抱いていた「理想」や「固定概念」から、日本語を用いてロマンティックに解いてくれた松本 隆の“風街マジック”は、もはや2000曲を裕に超えており、こうして50周年を待たずしての開催実現がなされたことは、音楽ファンにとって喜ばしい限りだ。

ロビー・ラウンジでは「風街BAR」が限定オープン、サッポロビールによる“完璧な”ビール「パーフェクト黒ラベル」をはじめとした 選りすぐりのドリンクを楽しめる。さらに会場上手(かみて)DJブースでは松本作品の砂原良徳リミックスが特別にプレイされるという演出も心憎い。“十月の雨”となったこの日、1500人もの音楽ファンがそれぞれの“風街”を胸に集った。

注目のステージでは45周年のトリビュート盤「風街であひませう」のサウンドプロデューサー・鈴木正人が音楽監督を務める「風街ばんど」の生演奏とともに松本 隆作品にゆかりのあるアーティスト達が一夜限りのパフォーマンスを展開した。

トップバッターを飾ったのは、吉澤嘉代子の歌う「さらばシベリア鉄道」だ。1980年に生まれたこの曲は、オリジナル・太田裕美の枠を超え、作曲者・大瀧詠一や数々のアーティストが歌い継いで来た名曲だ。

歌の中で最も大事にしているというのが“歌詞”だという吉澤。次いで歌われた小泉今日子のカバー曲「魔女」では、温順な歌唱で 隠れた名曲と名高い「魔女」の 大胆でおてんばな世界観を浮き上がらせていた。

吉澤嘉代子

二人目はアニメ「マクロスF(フロンティア)」からデビューを飾ったランカ・リーこと中島 愛の「星間飛行」。“クラッ!”でも“ドキッ!”でもなく“キラッ!”と光る本曲は、初代マクロスの時代から作詞を渇望していたという松本による“銀河系一のアイドル”渾身のデビュー曲。松本自身が“本気で音楽で平和が訪れる”と信じたと語るこの歌こそ、今地球上で最も響かせたい音楽の一つだ。その後は中島の憧れ・松田聖子の「瞳はダイアモンド」を情感たっぷりに歌い上げ、松本作品へのリスペクトを感じさせてくれた。

中島 愛

今夜はアーティスト自らが松本作品への溺愛ぶりをパフォーマンスで魅せ合う一夜でもあったようで、続く上白石萌音もまた、松本&ユーミン(呉田軽穂)コンビ作品の「赤いスイートピー」に松本作品への思いを込めて歌った。
松本作品における “若手アイドルの現代版としての役割を見事に果たした若干19歳の上白石が次に選んだ曲は「Woman“Wの悲劇より」。ドライブする個性的なヴォーカリスト・薬師丸ひろ子の背中を追わず、一人の新人歌手として挑んだ迫真の表現力には鳥肌モノであった。この勢いで映画劇中の名セリフに進んでも違和感のない説得力を兼ね備えたステージングに、思わず目頭を熱くする観客の姿も見られたほどであった。

上白石萌音

ここからは2000年以降の松本作品と最も縁濃い作曲家・プロデューサーの一人・冨田恵一とのセッションが始まる。
927日にリリースされた松本 隆全作詞のアルバム「デラシネ déraciné」で全曲プロデュースを務めた冨田。早速 披露された収録曲「消しゴム」では、作曲を担当した吉澤加代子を再びステージに迎えて披露した。
冨田恵一が次なる歌い手の名を呼ぶと、どっと歓声が沸いた。秦 基博の登場である。松本 隆との「パラレル」を蘇らせてさかいゆうも合流し、さらなる盛り上がりをみせていた。

楽屋エピソードなどのトークも快調であった3人だが、その後の「タイム・トラベル」はとにかく“圧巻”の一言だった。約40年前の超・新人“原田真二”の洋楽にシフトしていく気迫が再現される錯覚と、時を経た実力派日本人アーティストによるレアすぎるグルーヴ感が“時間旅行のツアー”のごとくリンクされていったのだ。まさにこのライブの起こした“奇跡”でもあった。
さかいゆうによるピアノ引き語りアレンジで泣かせた「SWEET MEMORIES」も素通りできない。松本 隆の描く歌が時代や性別を超えた存在であることを観客に示しながらも、とめどなく湧き出るアーティスト・さかいのプライドが、歌からピアノから次々と解放されていく様(さま)に、この場にいる誰もが釘付けになっていた。

秦 基博/さかいゆう

冨田ラボ・冨田恵一

さて、今夜のステージは“歌詞”が主役なだけに、ステージのバックスクリーンでは所々でリリックスピーカーのごとく歌詞が飛びだす演出も施されている。ここでも上白石萌音が「眠りの森」をポエトリーリーディングするとバックスクリーンでは“小舟”や“森”などの幻想的な言葉たちが映像となって現れては消えていく。その文字を拾いながら聴き手のまぶた裏のスクリーンに再び映し出せば、歌詞そのものがリフレインされていくことが確かなことだと、多くのファンが悟るのである。

いよいよライブも佳境に入り、見事なまでの「雨色」を聴かせた秦が、今夜のレジェンドゲストを紹介すると、南 佳孝が中央から姿を見せた。拍手で迎えられる中で、南は早速ギターをかき鳴らし、引き語りで「涙のステラ」を披露。会場をリラックスした大人のライブハウス空間へと誘った。かと思えば次曲「SCOTCH AND RAIN」「スタンダード・ナンバー」でムードたっぷりのラウンジへと一変。1980年代前半に魅せたダンディズムは裏切ることなく、観客の目をみるみると輝かせていった。

「松本くん!」と懐かしそうに南が呼びかけると、客席後方で見守っている松本にスポットライトが当たった。お互いに照れながら見つめ合う姿に、場内が一瞬でときめいた。
「松本くんが書いてくれた曲の中で、僕のハイライトはやっぱりこの曲なんじゃないかな。」

そう言って南が選んだのは「スローなブギにしてくれ(I want you)」。深みを増した声に耳を傾けながら、互いに歌詞とメロディーを胸に刻む。これまで売れるために生きることのなかった一人の作詞家が 結果的に他人(アーティスト)の人生を引き受け続けてきたという系譜が、その中で何度も「自由」と言う文字を書いては消した“戦い”の筆跡が脳裏に浮かぶ。なんとも感銘深いラストであった。

南 佳孝

松本 隆

—大人になるとは、どういう事だろうかー

これはお馴染み、サッポロビール黒ラベルのCMテーマでもあるが、作詞家生活を始めて47年経った今でも“微熱少年”のままで言葉を紡ぎ続ける松本 隆ほど、このテーマが似合う大人もいないだろう。

今夜も開催された第二夜では、レジェンドゲストとして斉藤由貴が登場。クミコの歌う最新の松本作詞曲では、ポップスが大人のものになった瞬間にも立ち会えたし、キリンジから続く富田恵一と堀込泰行コンビによる松本ワールドも興味深かった。畠山美由紀や手嶌 葵、ハナレグミからは松本 隆作品の新たな普遍性を見出せた。

第三夜のレジェンドゲストは太田裕美。当時より松本作品の実験的な試みまで受け入れてきた太田にしか成せない表現や、森高千里や安藤裕子、中川翔子といった後世を担う若手女性陣の活躍に胸が高鳴るばかりだが、上中丈弥、田島貴男、ROLLY、OKAMOTO’Sという日本ロックの源流にどっぷりと浸かってきたメンツが登場するとなると、はっぴいえんど時代から変わらぬ松本 隆の“ロックの放浪記”を大胆に魅せてくれるだろうという期待もせずにはいられない!
しかしここはどんなマジックが起こるのか…身を任せていこうじゃないか。 

今回恵比寿に誕生した有限の“風街”。しかし想像することが可能な限り、すべての人に“風街”は存在するのだという。それは場所に限らず、映像や時間も当てはまるだろう。この場所に あなたなりの“風街”を持ち込むのもよし、あなただけの“風街”を見つけに来るのもよし。いずれにせよ残りの1夜は当日券も残り僅かなので、急ぐように!

風街ガーデンであひませう2017:10月6日(金) [DAY1] セットリスト

01. さらばシベリア鉄道 / 吉澤嘉代子
02. 魔女 / 吉澤嘉代子
03. 星間飛行 / 中島 愛
04. 瞳はダイアモンド / 中島 愛
05. 赤いスイートピー / 上白石萌音
06. Woman“Wの悲劇”より / 上白石萌音
07. 消しゴム / 吉澤嘉代子 with 冨田恵一
08. パラレル / 冨田ラボ with 秦 基博
09. タイム・トラベル / さかいゆう & 秦 基博 with 冨田恵一
10. いつか晴れた日に / さかいゆう
11. SWEET MEMORIES / さかいゆう
12. 朗読:眠りの森 / 上白石萌音
13. 雨色 / 秦 基博
14. 涙のステラ / 南 佳孝
15. SCOTCH AND RAIN/ 南 佳孝
16. スタンダード・ナンバー / 南 佳孝
17. スローなブギにしてくれ(I want you) / 南 佳孝

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