兵庫慎司のとにかく観たやつ全部書く:第44回[12月の巻~前編~]

コラム | 2019.12.20 19:00

イラスト:河井克夫

音楽などのライター兵庫慎司が、自分が観たライブや演劇やスポーツ等の「客前で人間が生で何かやるやつ」について、ひとことレポしていく連載。2019年12月後半編です。
今回は、15日の間に11本、何かを観に行きました。特に、12月8日から12月15日まで8日間続いていますが、これ、そのまま21日までノンストップになる予定です。

12月1日(日) め組 @ 代官山UNIT

2ndミニアルバム『ユエアイ』のリリース・ツアー6本のファイナル。『ユエアイ』は、サポートだったベース&ドラムが正式加入して作った最初の作品であり、菅原達也が初めて「人に届きやすいように」ということを考えてそれを実行した作品でもある(プロデューサーである事務所の社長のディレクションが大きかった、と、インタビューしたら言っていた)。
というわけで、ライブも、とてもオープンマインド、でも能天気さはゼロで、「伝えたい」と切実さが伝わってくるものになっている。平たく言うと「ポップでわかりやすくなった」ということになるんだろうけど、それによって薄くなるどころか濃さがさらに際立っているのが、とてもいい。

12月4日(水) U2 @ さいたまスーパーアリーナ

できれば座席ありで観たかったがそっちは抽選に外れ、アリーナのスタンディングの最後方のブロックで観た。が、それがよかった。ステージの左側から鉤型に伸びた花道みたいなところで4人が演奏するところから始まったんだけど、近い! ボノが、エッジが、アダムが、ラリーが、肉眼でくっきり見える! 興奮しました、それはもう。
あと、『ヨシュア・トゥリー』再現ツアーと言いつつ、それ以外のアルバムの代表曲もどんどんやってくれるし(1曲目がいきなり「Sunday Bloody Sunday」!)。巨大8K画面に映る効果映像(アントン・コービンによるもの。一緒に来日もしていて、MCで紹介された)は、どれもすごいインパクトだし。4人の「これぞU2」なシンプル極まりないバンド・サウンド、言うまでもなく最高だし。
あと、全体のテーマ性、メッセージ性が、いちいちこっちに刺さる。U2なんだから当然だけど。「Ultraviolet(Light My Way)」では、活動家や芸術家等の、世界の女性たちの写真と名前が次々と映し出される演出があり、緒方貞子や草間彌生など日本人も何人か登場したのだが、伊藤詩織さんが映った時は「おおっ!」ってなった。すごい、U2。
とにかく、「来てよかったあ」と、何度も思いました。なお、上の写真は、撮影OK、アップOKのライブだったので、撮ったものです。

12月5日(木) ユニコーン @ 中野サンプラザホール

ツアー『百が如く』の後半日程の大詰め、中野サンプラザ2デイズの2日目。RO.COMにレポを書きました。こちらです。しかし、「100周年だからライブの尺は100分、時間になったら強制終了」というこのツアーのルール、すっかり慣れた、ステージの上のメンバーたちも、ステージの下のお客さんたちも、自分も。

12月8日(日) JAPAN’S NEXT 渋谷JACK @ 渋谷ライブハウス 8会場

ロッキング・オンが年2回ペースで、渋谷のO-EAST、duo、O-WEST、clubasia、O-nest、O-Crest、VUENOS、Gladの8会場で行っている、主に新人アーティストが集結するサーキット・イベント。でも新人だけじゃなくて、今回で言うと感覚ピエロやマカロニえんぴつのような、人気バンドも必ずブッキングされているので、チケットはいつもソールドアウトになる。
若いバンドがいっぱい観たくて、お願いして、入れてもらいました。観たのは以下。
Have a Nice Day!(duo)→ズーカラデル(O-EAST)→PELICAN FANCLUB(duo)→THE BOYS&GIRLS(O-WEST)→Mr.Nuts(clubasia)→2(O-WEST)→KARMA(duo)→め組(O-WEST)→ヤングオオハラ(O-Crest)→The Songbards(O-WEST)→climbgrow(clubasia)→マカロニえんぴつ(O-EAST)
そうか。12個も観てたのか。どれもよかったけど、前から好きなズーカラデルやめ組とは違って、「初めて観たらよくてびっくりした」という意味でポイント高かったのは、KARMAだった。duoで入場規制かかっていてすごい超満員だったのもうなずける。音もキャラもとにかく瑞々しくて「うわ、これは愛されるわ」というバンド。この数日後にメジャー・デビューが発表になったし、これからどんどんでかくなると思う。
それから、O-EASTのトリのマカロニえんぴつは、もう風格すら漂っているように見えた。トリだから、というのもあるだろうけど、超満員のO-EASTの熱気、完全にワンマンのそれでした。

12月9日(月) レキシ @ 東京国際フォーラム ホールA

『アナザーレキシ あなたの知らないレキシの世界』というタイトルのホールツアー。まだ何本か残っているのでネタバレ自粛しますが、これ用に撮り下ろされたアーティスト写真(メンバーみんな革ジャン&サングラス、御館様こと池ちゃんも着物ではない)なんかにも表れているように、いつもとは違うレキシをお見せしますよ、という内容。で、それが実によかった! 新鮮だし、意外だし、でも奇をてらっているわけじゃなくて、正当にいいパフォーマンスだし。
あと、このツアーからグッズで「光る! INAHO」が発売されたもんで、あの曲の時は国際フォーラム ホールAの広い客席がその光で埋め尽くされて、それはもう壮観でした。池ちゃんもそのきれいさに呑まれつつ、「今、感動してるんだけど、でも、稲穂なのよね」と、複雑な感情に包まれていることを報告しておられました。

12月10日(火) 中村佳穂 @ 新木場Studio Coast

「うたのげんざいち2019」という自主企画。終わったあとに本人が「自主企画、250人から2500人になった不思議で有難い1年でした」とツイートしていたが、それはまあそう感じるだろうなあと思う、(わかりやすく「踊れる」とか「歌える」音楽ではないにもかかわらず)終始熱狂しまくる、平日なのに超満員のオーディエンスと相対していると。
とはいえ、僕もその「2500人になった」側であって、普通にファンならいいけど俺はこういう職業なわけで、「気がつくの遅くて失礼しました!」という気持ちになった。それくらいとんでもなくエクスペリメンタルなことをやっている、この人と、この人のバンドと、ゲストで出てきた(主に)ドラマー石若駿は。

12月11日(水)『キレイ-神様と待ち合わせした女-』@ Bunkamura シアターコクーン

松尾スズキ作・演出の舞台であり、彼が初めてミュージカルに挑んだ『キレイ-神様と待ち合わせした女-』の再々々演、つまり四回目の公演。
初演(2000年、主演は奥菜恵)、再演(2005年、鈴木蘭々)、再々演(2014~2015年、多部未華子)と、全部観ているが、生田絵梨花が主演を務め、神木隆之介や小池徹平や麻生久美子や阿部サダヲ(この人は毎回ですが)が出演したこの四回目は、こんなにメジャーなキャストなのに「芸能界感」みたいなものが一切ない、これまででもっとも拓けていて、受け手に深く届く強度を持つ作品になっていた。本当に、途方もない物語。
あと、四回目にして初めて松尾さんが出演していない『キレイ』であることだけがちょっと残念だったけど、でもこれ、出ながら演出するのはもう無理な規模の作品だよなあ、と、観て納得しました。

12月12日(木) スピッツ @ 横浜アリーナ

ニューアルバム『見っけ』のリリース・ツアー、横浜アリーナ3デイズ(12月12・14・15日と間を1日空けているのはコンディションを保つためだと思います)の1日目。まだツアー始まったばかりなのでネタバレ自粛しますが、やっぱり、ライブでおなじみの人気曲よりも『見っけ』の曲たちの方がうれしい。そりゃそうか。でもほんと、『見っけ』の曲になるたびに「きたあ!」って興奮した。特に、個人的に大好きな某曲の時はヤバかった、感情がかき乱されて。
それから、ステージ・セットや演出も、とてもよかった。アイディアと手間暇が注ぎ込まれていながら「やりすぎ」とか「スピッツっぽくなくなる」を絶妙に避けていて。

12月13日(金) 人間椅子 @ 中野サンプラザホール

『バンド生活三十年~人間椅子三十周年記念ワンマンツアー』のファイナル。このDI:GA ONLINEにレポを書きました。こちらです。

12月14日(土) フラワーカンパニーズ @ SHIBUYA O-EAST

2年前に初めて開催した、複数のゲストを招いて一緒に演奏したり歌ったりする『ニワトリフェスティバル』の2回目。スキマスイッチ・常田真太郎、クリープハイプ・尾崎世界観、THE COLLECTORS・加藤ひさし、曽我部恵一、ウルフルズ・サンコンJr.、The Birthday・クハラカズユキが出演。
常田真太郎は出てきたりひっこんだりしながら18曲中11曲に参加。サンコンとキュウちゃんは後半4曲とアンコール2曲に登場、小西と一緒にトリプル・ドラム状態に。
そしてボーカリスト3人は、まず自身の曲を圭介と歌い、次にフラカンの曲を鈴木圭介と歌う、という構成。尾崎世界観は「二十九、三十」と「孤高の英雄」、加藤ひさしは「ロックンロール・スターダスト」と「ノビシロマックス」、曽我部恵一は「月光荘」と「東京タワー」でした。スタンドマイク姿がレアな尾崎世界観(パンクスみたいな佇まいだった)、スター全開で「うっとり」集めっぱなしで「爆笑」とりっぱなしの加藤ひさし、超久々に歌った(と思う。1998年のアルバム『24時』の曲です』「月光荘」で圭介とハモりまくるさまも「東京タワー」でハイトーンでシャウトするさまも鳥肌もんだった曽我部恵一。みんな最高でした。

12月15日(日) NUMBER GIRL @ 豊洲PIT

一応面識のあるスタッフはいるものの、バンドの今の状況やなんかを考えると「招待で入れてくれない?」と頼めるほど自分は近くない、という自覚があったので、先行で申し込んだら当たった。ラッキー。
で、まだツアー2本目だったのでネタバレは自粛しますが、すごかった、ほんとに。デビュー前から解散まで何度も観てるのに、「ええと、こんなにすごい音を出すバンドだったっけ?」と、自分の記憶を疑うくらい。
9月に『京都音楽博覧会』で観た時は、解散時からそのままタイムスリップして来たみたいなヒリヒリした印象を受けた。が、今回はそれに「堂々感」みたいなものが加わった気がする。ギターとベースとドラムってこんなかっこいい音がする楽器なんだ、と、改めて思った。

BOOK

「ユニコーン『服部』ザ・インサイド・ストーリー」

兵庫慎司著
(リットーミュージック)
2019年11月21日(木)SALE

※初回限定特典:「服部巾着」を復刻!

≫詳細・ご購入はこちら

  • 兵庫慎司

    TEXT

    兵庫慎司

    • ツイッター

SHARE

最新記事

もっと見る