兵庫慎司のとにかく観たやつ全部書く:第57回[2020年6月前半・観た配信ライブ全部書く]編

コラム | 2020.06.23 15:00

イラスト:河井克夫

 音楽などのライター、兵庫慎司が、主に音楽のライブやイベントやフェス、時々演劇やお笑いやプロレスなどの、生で観たエンタテイメントすべてを短くレポしていく連載です。2020年2月末以降、新型コロナウイルス感染拡大防止のために、ライブ等が自粛されるようになってからは、配信ライブを観て書く連載になっています。
 6月前半は、以下の4本を観ました。最後のアクトを除き、セットリストも記しました。

6月6日(土)21:00 田島貴男〈Streaming+〉Original Love Minimum Set 田島と木暮でOriginal Love!! @Streaming+

 コロナ禍で中止にせざるを得なかった『Original Love Summer Tour 2020』(5/31横浜関内ホールから7/19昭和女子大学人見記念講堂まで全8本)の代替公演として行われた、田島貴男と木暮晋也、ふたりによる生配信ライブ。イープラスの持っている「Streaming+」というチャンネルで配信された。料金は1,000円で、6/11の23:59までアーカイヴ視聴が可能。
 演奏場所はスタジオで、壁面にオイルアート等の絵画的な照明が投射され続け……いや、壁面だけじゃなくて、ふたりにもその照明が映って、顔や身体がさまざまな紋様に染まったりしながらのライブ。この照明が効果絶大だった、サイケデリックで。ポンポン切り替わっていくカメラワークもいい。
 田島の前にはマイクが2本あり、1本はヒューマンビートボックス用(曲の頭に口でリズムを言ってそれをループさせてドラムにする)、もう1本はボーカル用。そのループに合わせて田島はアコースティック・ギターと歌、木暮はエレキギターでの「The Rover」でライブはスタートした。
以下、セットリスト。

1 The Rover
2 ブロンコ
3 MILLION SECRETS OF JAZZ
4 STARS
5 Hum a Tune
6 接吻
7 グッディガール
8 ゼロセット
9 bless You!
10 LOVE SONG
En 夜をぶっとばせ

 「ブロンコ」ではヒューマン・ビート・ボックスのループを2つ重ねてから曲に入る。「MILLION SECRETS OF JAZZ」では、田島がスネア代わりにタンバリンを踏み始める。「Hum a Tune」の後半では木暮、ソロ弾きまくり。「bless You!」では田島が両足を使ってキックとタンバリンでリズムを作り、間奏ではふたりで延々とセッションを繰り広げ、手拍子しながら画面の前のオーディエンスを「God bless you! Crap your hand!」「手を鳴らそう! みんな踊ろう!」と、あおりまくる──と、どんどんヒートアップしていく。
 「LOVE SONG」の後半で、「♪倒れないでくれ」のところの声をループさせて何度も重ね、ひとりアカペラコーラスグループ状態を作っていったところ、特に鳥肌もんだった。
 アンコールはふたり、背中に「KEEP DISTANCE KEEP MUSIC GOING」とプリントされた、このライブのグッズTシャツで登場。で、曲は、出た、「夜をぶっとばせ」。田島が歌いながらキックを入れているのもあってか、アコースティック・セットなのにオリジナルの軽やかさとは違う、アッパーでねちっこくてグルーヴィーな仕上がり。曲の最後に田島、すんごいシャウトを響かせた。いやあ、いいもん観た。
 余談。PCでこのライブを観ている途中で、スマホの画面にインスタの生配信マークが出た。大根仁が森山未來+ELLE JAPONの編集長とインスタライブでトークの生配信を始めたのだった。同じ21:00から桜井秀俊も、二度目のインスタ生配信弾き語りライブをスタート(一回目のレポはこちら)。そして21:30からはアナログフィッシュ下岡晃もインスタ生配信で弾き語り。というふうに、土日は配信ライブが重なりまくって困ることが多いです、最近。

6月7日(日)21:00 初恋の嵐 @新代田FEVER(YouTube)

 YouTubeの新代田FEVER公式チャンネルで無料生配信(スーパーチャットによる投げ銭システムあり)、会場も新代田FEVER、アーカイブも1週間残る、という企画。最後のMCで隅倉弘至が語ったところによると、2002年のアルバム『初恋に捧ぐ』がサブスク解禁になったので、FEVERのチャンネルで配信ライブをやらせてもらいたいという話をしていたが、緊急事態宣言で不可能になった。でも緊急事態宣言が解除になったらすぐにFEVERが連絡をくれた、とのこと。
 メンバー間の距離をとるために、FEVERの客席フロアを全部使い、メンバーが円形に向かい合う形でセッティング。カメラは(僕が数えたところでは)5台くらい。
バンドは、ベース隅倉弘至、ドラム鈴木正敏のメンバーふたりに加え、サポート・ミュージシャンはギター:木暮晋也と玉川裕高、キーボード:高野勲というメンツ。
 以下、セットリストとボーカルです。

1 どこでもドア(短めのインスト・バージョン)
2 初恋に捧ぐ/クボケンジ(メレンゲ)
3 涙の旅路/クボケンジ(メレンゲ)
4 Untitled/松本素生(GOIND UNDER GROUND)
5 touch/松本素生(GOIND UNDER GROUND)
6 星空のバラード/隅倉弘至
7 ジョイント/岩崎慧(セカイイチ)
8 真夏の夜の事/岩崎慧(セカイイチ)
9 どこでもドア/隅倉弘至(※こちらはフル・バージョン)

 という全9曲。「独特な緊張感がありますね」(クボケンジ)、「エレキギターとかドラムとか最高って思いながら、今やってます。自分が今日出てなかったとして、家にいて、このチャンネル見たら、相当飲んだでしょうね。バンドマン、歌歌えないとか、でっかい音出せないとか、つらい」(松本素生)、なとど、ボーカルが替わるたびに長めのMCタイムが入る。
 岩崎慧の時は、メンバーそれぞれどんな自粛期間を過ごしてきたかを順番に話す、という展開になった。あと、昨日ここで彼の妹=岩崎愛が生配信ライブをやったそうで、その話になったりもした。というような話を聴いて和みつつも、MC長いなあ、と思ってから、気がついた。そうか、換気の時間だったんですね。
 クボケンジが出てきて「初恋に捧ぐ」を歌い始めると同時に、弾幕みたいに投げ銭が飛ぶ。松本素生の「touch」の後半では長尺インプロヴィゼーションに突入、それぞれの楽器が弾きまくり&叩きまくりの展開になる……いや、鈴木正敏のドラムは、ジャズ的な「叩かないこともプレイ」みたいな瞬間もあった。隅倉弘至の歌う「星空のバラード」、その素朴さがとても沁みる。「ジョイント」「真夏の夜の事」、岩崎慧のすさまじいボーカルは流石のひとこと。
 という、ハイライトだらけのライブだった。最後に隅倉弘至が「どこでもドア」を歌い終わり、メンバーが去ると、画面にメッセージが出た。

「ご視聴ありがとうございました。
またライブハウスでお会いしましょう。
新代田から世界へ、羽根木から未来へ
初恋の嵐 FEVER」

6月10日(水)19:30 うつみようこ&YOKOLOCO BAND @高円寺JIROKICHI(YouTube)

 高円寺JIROKICHIのYouTubeチャンネルで無料生配信。3月11日新代田FEVERの、フラワーカンパニーズとの対バン無料生配信ライブの時、5月5日に高円寺JIROKICHIでワンマンを行うことを発表したが、後日、中止が決定。その時期は、代わりに配信ライブを行うことも難しかったので、緊急事態宣言解除後のこの日に決行した、ということなのだと思います。
 メンバー全員フロアで、向かい合う形で演奏。全体の半分弱の曲で(6曲くらい)、うつみようこ、ギターも弾く。別の曲では歌いながらタンバリンを叩いたり、シェイカーを振ったりもする。
 ヨコロコ、カバー曲も多いし、オリジナル曲もブルースやソウルのスタンダードみたいな曲調で、カバーなのかオリジナルなのかの判別が難しかったりする。観ながらメモは取ったものの、自信なかったので、後日、ベースのグレートマエカワさんにセットリストを教えてもらいました。

1 STATEMENTSHIP 
2 Starlight
3 KOOL KIDz
4 わるいブルース
5 Cream Dream
6 Fun
7 Innocency
8 Another life this life
9 夜ばなし
10 PUBLIC PRIVACY
11 No No girls
12 なんのために
13 偶然なブレイム
En ショットガンメドレー

 で、投げ銭っぽく500円から5000円までの「後売りチケット」を売っていて、買ってくれた人には、その日リハでやった「Asshole」が付いてくる、というサービスもあり。
 1曲目の「Statesmanship」が始まった瞬間に、思わず「うわっ」と声が出た、観ていて。それぞれの楽器の鳴り、それらが折り重なった時のグルーヴのありよう、それを軽々と乗りこなす(無表情だし軽く歌ってる風情なのにものすごい声が出る)うつみようこのボーカル。いぶし銀とはまさにこのこと・・・・・・と書いてから気がついたが、個々のメンバー、それぞれの普段の現場でも「いぶし銀」なプレイ、というわけではないんですよね。グレートもキュウちゃんも暴れ気味だし、竹安は爆音だし。このバンドだとこうなるのがおもしろい。音楽性に合わせてプレイを変えているというよりも、ヨコロコに来ると己のプレイの中のそういう側面が引き出される、みたいなのことなのではないかと思う。なんせいい演奏、いい歌。
 頭2曲やったところで、ようこさん、「うるさくない? さっきとちゃうよ? リハの時より大きいね。あんたらひさしぶりやからちゃうん? こんなおっきい音は久しぶりだわ、私も」。というふうに、リハスタみたいなゆるいMCがちょいちょい入るのも、楽しかった。
 あとひとつ、後日セットリストをもらった時にグレートマエカワが言っていて、「確かにそうだなあ」と思ったこと。メンバーそれぞれ本業があるので頻繁には活動できないし、本数の多いツアーもやれないヨコロコのようなバンドにとって、配信ライブって、とても意味がある。コロナ禍でライブができないから始めたんだけど、地方在住で普段ライブに来られない人たちがすごく喜んでくれて、そのことに気がついたそうです。確かに。

6月12日(金)19:00 宮本浩次 @作業場/WOWOWオンデマンド

 昨年、宮本浩次は、誕生日であるこの日、リキッドルームでひとりで弾き語りライブを行った。で、今年はこのように、「作業場」と呼ぶプライベート・スタジオで、ひとりでライブをやって、WOWOWオンデマンドで生配信。WOWOWに加入していない人も、そのWOWOWオンデマンドにウェブ会員登録すると観られる、登録も視聴も無料、というもの。
 ただ、このライブ、7月26日(日)19:15からWOWOWで“拡大版”がオンエアされることが、既に発表になっている。「ライブ配信された楽曲に加えて、放送でしか見られないスペシャルな楽曲も披露されます」(宮本浩次オフィシャルサイトより)って、生配信だったのに放送でしか見られない曲もあるってどういうこと? あの日の終演後か開演前に、追加で曲を撮った、ということなんでしょうね。マジか。楽しみ。
 というわけで、これはどう考えてもネタバレはダメなので自粛しますが、ひとつだけ書く。
 それなりに長いことエレファントカシマシでのこの人のライブ、観ているつもりだが、それでも愕然とした。
 パフォーマンス自体が、まったくおんなじだったのだ。日本武道館とか大阪城ホールとか、さいたまスーパーアリーナとかロック・イン・ジャパン・フェスのグラス・ステージでやる時と。
 無観客で、カメラマンもいない(カメラは全部リモートだった)、もちろん照明やステージ・セットなんかあるわけない、ひとりっきりのスタジオで。「それでも本番と同じ気持ちで、同じテンションでやろうと務めている」みたいな風情じゃない。ひとたび「ライブをやる」というスイッチが入れば、目の前に4万人いようが、誰もいなかろうが、関係ないんじゃないの? この人。という感じなのだ。どれくらい。終演後の本人のインスタグラムによると、カメラ、25台も仕込まれていたそうだが、それでも「誰も映っていない」状態になることが、何度かあったくらいです。
 ちょっと怖くなってしまうほどだった。3月以降、いろんな生配信ライブを観てきたが、その中でぶっちぎりの1位だった、というか、次元が違う生き物を目撃した、と思った。

  • 兵庫慎司

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    兵庫慎司

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