兵庫慎司のとにかく観たやつ全部書く:第58回[2020年6月後半・観た配信ライブ全部書く]編

コラム | 2020.07.07 17:00

イラスト:河井克夫

 音楽などのライター兵庫慎司が、基本的に音楽のライブやイベントやフェス、時には演劇とかお笑いとかプロレスなど、つまり「生で観たエンタテイメント全般」について、ひとことレポを書いていく連載です。
 2020年2月末以降、新型コロナウイルス感染拡大防止でライブ等がなくなって以降は、「配信ライブを観て書く」という形にして続けていますが、この6月後半、終わって数えたら、全部で8本になっていました。
 なので今回は、なるべく手短に、簡潔に、を心がけて書きます。ではどうぞ。

6月17日(水)20:00 TENDOUJI @+Streaming

 ニュー・シングル『HEARTBEAT/SUPER SMASHING GREAT』の発売日に「TENDOUJI ONLINE RELEASER PARTY『生放送!このままキミをHOT! GET! NIGHT!!!』と銘打って開催された生配信ライブ。というタイトルなので、開演前と終演後のBGMで「ほっとけないよ」(楠瀬誠志郎の1991年のヒット曲)が使われていた。チケットは1,000円、48時間後までアーカイヴ視聴可能。
 その新曲2曲はもちろん演奏。あと、アコースティック・コーナーがあったり、ファンのリクエストに応えてレアな曲を披露したり、ピクシーズとニルヴァーナのカバーをやったり、『MAD CITY』(ファースト・アルバム/2017年8月)の収録曲だけどライブでやるのはそのアルバムのリリース・パーティの時以来、ってくらいレアな曲を披露したり(Mosquito and Bee)──。
 というふうに、とにかく盛りだくさんな時間だった。アンコールを合わせて全部で15曲。久々にライブをやれる喜びと、無観客生配信という不慣れな状況とが相まってか、メンバー、どこかテンパりつつも楽しそう、という風情だったが、途中のMCで、ポロッと「やっぱやってみないとわかんないね、自分に何が足りてて何が足りてないのか」「めっちゃ緊張すんね、ライブって」と言っていたのが、やけに切実で、リアルで、そこも含めてとてもよかった。
 というか、そういう真摯な気持ちでやっているから、いいライブになるんだろうな、と思った。

6月20日(土)・21日(日)オンラインやついフェス @全国各地&各配信サイト

 毎年6月第3週末の土日に、渋谷のライブハウス複数を借り切って行っているやついいちろうプレゼンツのサーキット・フェス『やついフェス』、9回目となる今年はコロナにより「オンラインやついフェス」として開催。なんせ会場が多いので、LINE LIVE、ニコニコ生放送、YouTubeなど、複数のプラットフォームを使用、しかも配信であることを逆手に取って、札幌・京都・大阪・島根・沖縄からも中継する、というもの。事前のクラウドファンディングは行っていたが、視聴自体はそれとは関係なく、無料。
 時間が長いし、会場が多いので、出たり入ったり、休んだり他の仕事をしたりしながら観ましたが、「オンラインでいっぱいライブとかトークとか見せてます」ってだけじゃなくて、ちゃんと「フェスの空気」になっていたのが、さすがやついいちろう、と感心した。彼がしゃべっている後ろにZOOMでお客さんの顔がだーっと並んでいるところとか、まさにそう。今テレビとかでもよくやっているけど、そういうのとはあきらかに雰囲気が違った。
 自分が観た中でのハイライトは、1日目のトリのサニーデイ・サービス(3人編成、鬼気迫るステージとはまさにこのこと)と、1日目・2日目の『やついフェス歌合戦』でした(毎年楽しみにしているが、今年も血を吐くほど笑った。しまおまほのバラエティ能力の高さを、毎回思い知ります)。

6月21日(日)20:00 海北大輔 @ニュー風知空知/TwitCasting

 毎年恒例になりつつある東京キネマ倶楽部ワンマンが中止になったこの日、ニュー風知空知から生配信で海北大輔が弾き語り。チケット代1,000円、アーカイブは7月5日まで。これまで彼がインスタグラムで行ってきた生配信ライブとは異なり、キーボードも弾いたり、ギターをループさせて重ねたり、時にはそのループに合わせて鍵盤ハーモニカを吹いたり、曲によってはコーラスマシンを使ってハモリを入れたりしながら、行う。というものだった。
 ソロ曲の「小さな町の小さな歌」で始まり、「4:53am」で本編が終わり、ドラム大岡源一郎が一升瓶持って分割画面に登場してアンコールを求め、もちろん観ているみなさんも求め、それに応えて追加された「旅立ち前夜」までで全15曲、2時間。
 途中のMCで「汗をかく感じが久しぶりで、すごく楽しいです」と言っていたが、その言葉どおりの、真摯極まりない大熱演。曲が始まるたびにコメント欄がワーッと湧いたり、時には投げ銭が飛びまくったりする、その臨場感まで含めて「ライブだなあ、これ」と思う。
 9曲目に新曲を歌ったが、その紹介もよかった。
「いろんな人たちを励ます歌、いろんな人たちと歩んでいく歌が、これから溢れてくると思うんだよね。すごく尊いことだし、僕もそういう歌を作っています。でも、このなんともいえない数ヵ月間で、心が疲れてしまった、ベキベキに折れちゃったのも事実でさ。そういう歌もあるべきなんじゃないかなあと思いながら、ものすごく後ろ向きな言葉を並べた曲です」
 とのことでした。で、いい曲でした、とても。音源になるのが楽しみ。

6月23日(火)19:30 眉村ちあき×突然少年 @下北沢 SHELTER/ZAIKO

 『がんばろうぜライブハウス! 眉村ちあき×突然少年 無観客生配信2マンライブ』と銘打って行われたロフト・プロジェクトの企画。配信はZAIKO、チケット代は2,000円、6月26日までアーカイブ視聴可能。自粛前、最後にライブを行ったのは、3月25日のここ下北沢 SHELTERだった突然少年は、この日から「無観客配信ツアーイントーキョー」をスタート、2本目は6月28日(日)に下北沢LIVE HAUSでのライブが配信されている。
 その突然少年、とりあえず、全員Tシャツを着ていることにびっくりした(いつも裸なので)。で、久々なせいか、なんだかもうめちゃめちゃ気合いの入ったライブだなあ、と思いながら観ていたら、4曲目に「台風一過」をやる前に、茜一郎(ボーカル&ギター)が「何に本気になったらいいのかわかんなくなる時もあるんですけど、(本気になるのは)こういう時だな、と思います」と言っていて、それがとてもぐっときた。
 後攻、ここのところ配信ライブやりまくっている(というか、普段からライブやりまくっているのをそのままのペースで配信に移している、とも言える)眉村ちあき。ひとりのステージ。舞台だけでなく、シェルター入口からフロアに下りる階段とかまで使いまくる、いつものような自由奔放なステージだったが、そんな破天荒な楽しさ以上に、「ライブやってなきゃどうにかなってしまう」みたいな切実さがリアルに伝わってくるステージだった。という気分でこちらが観ていたせいもあるかもしれないが、感動的でした。

6月25日(木)20:00 サザンオールスターズ @横浜アリーナ

 42年前(1978年)に「勝手にシンドバッド」でデビューした6月25日に、「サザンオールスターズ特別ライブ2020 『Keep Smilin’〜皆さん、ありがとうございます!!〜』」と銘打って配信ライブを開催。ABEMA、GYAO、U-NEXT、LINE LIVE、バンドのファンクラブのサイトなど、8つのメディアで配信。無観客にもかかわらず、会場は横浜アリーナ。
 開催の理由はふたつで、まずライブのスタッフ約400人のギャラや会場代などを捻出し、雇用を生むため。もうひとつは、ライブの収益金の一部を、新型コロナウィルス感染症の治療や研究開発にあたる医療機関に寄付するため。チケット代は3,600円で、終了後の発表によると約18万人が購入、推定約50万人が視聴したという。6億4800万円の売上ってことですよね。うわあ。充分に目的は達したであろうと思います。しかし、このサザンやBTSの世界配信(75万人が観た)のような例を目の当たりにすると、「そうか、配信ライブが普通のライブといちばん違うところって、ソールドアウトの上限がないことか」と思い知りますね。
 で、「無観客でもいつもどおりやる」じゃなくて「無観客じゃなきゃできないことをやる」ということが演出の軸になっている、すっごいライブだった。普段ならありえないところにカメラがあって、斬新なアングルでステージを観れたり。フロアから天井に向かって光が走るなど、客席まで使った照明作りがさまざまにあったり。15曲目の「東京VICTORY」では、アリーナのまんなかに巨大な聖火台が登場。
 という演出の数々も含め、選曲のすばらしさも含め、終始目と耳を奪われっぱなしの22曲だった。サザンも桑田ソロもけっこうライブ観ているつもりだが、それでも……いや、「だからよりいっそう」だな、「初めて観た、こんなの」と強く感じた。

6月28日(日)16:00 SHISHAMO @カルッツかわさき/Streaming+

 3月〜5月に行う予定だったニューアルバム『SHISHAMO 6』のリリース・ツアーの中止を受けて、振替公演として行った無観客生配信ライブ。ツアーで行くはずだった会場の中から、カルッツかわさきを選んだのは、地元だからでしょうね。チケット販売会社、イープラスのプラットフォーム「Streaming+」を使っての配信で、チケット代は2,500円。
 ライブの詳細に関しては、そのイープラスの音楽サイト、SPICEで、知人のライター鈴木淳史がレポを書いているので、そちらにまかせます。
SPICE:SHISHAMOがホームタウン・川崎からのツアー再現オンラインライブで届けてくれたもの
 で。この日、僕がもっとも心打たれたのは、ボーカル&ギター宮崎朝子の、歌っている時の表情だった。前述のレポにもあるとおり、無観客生配信ライブというものにどう向き合えばよいのか戸惑っている、緊張している、ということを本人は隠さず口にしていたが、曲に入るともうびしびしカメラ目線で歌う。で、その表情が、歌そのものと同じくらい、伝えたいことを伝えてくる。こう言われても本人うれしくないかもしれないが、すごい俳優って、セリフなしでも表情だけで、すごくいろんなことを表して、伝えてくるじゃないですか。そういう感じだった。相当な覚悟を持って臨んだんじゃないかと思う。釘付けになった、終始。

6月29日(月)21:00 フラワーカンパニーズ @新代田FEVER/ZAIKO

「『月刊フラカンFEVER2020』号外—ライブ再開宣言-」と題した生配信ライブ。フラカン、2020年は毎月一回新代田FEVERでライブを行う『月刊フラカン』という企画を始めたが、普通にライブをやれたのは1月2月だけ、以降コロナ禍で3月は無観客無料生配信、4月5月は開催できず。でもここから(無観客でも)ライブを再開するぞ! ということで、有料生配信でリスタートしたわけです。
 ZAIKOで配信、チケット代は2,500円、7月2日(木)22:30までアーカイブ視聴可能。MCでの本人たち曰く、「こんなに(ライブが)空いたの、2001年以来」。その頃所属していたレーベルのボスに「しばらくライブを休んでいい曲を作ることに専念しろ」と命じられ、ライブできなかった時期があったのでした。
 で。フラカンのセットリスト、基本的にベース&リーダーのグレートマエカワが考えているのだが、この日のセットリスト、最高だった。いちいち意外で、でもいちいちうれしくて。なので、そのまま書いておきます。

1 深夜高速 / 2 人生GOES ON / 3 フェイクでいこう / 4 西陽 / 5 NUDE CORE ROCK’N ROLL / 6 DIE OR JUMP / 7 夜をまるごと / 8 ロックンロールバンド / 9 真赤な太陽 / 10 虹の雨あがり / 11 いましか / 12 ピースフル / 13 恋をしましょう / 14 アイム・オールライト / En.最高の夏

6月30日(火)19:00 9mm Parabellum Bullet『カオスの百年〜YouTube Super Chat〜』@新代田FEVER・YouTube

 4月1日に行う予定だったが新型コロナウィルスの影響で延期になっていた無観客ライブ配信。視聴は無料だがスーパーチャットによる投げ銭が可能、アーカイヴは残らない、リアルタイムで一回きりのライブ……と、書いてから気がつきました。今回観た8本の中で、無料だったの、『やついフェス』と、これだけですね。この連載をさかのぼって読んでいただければ、この2ヵ月くらいの間に、無料中心から有料中心へと、世の中の趨勢が一気に変わったことが、よくわかると思います。
 なお、9mmのライブとしては、2020年になってから初めて。そうか、半年空いてるのか。それはつらかったろう。と思うが、そのフラストレーションをたたきつけて大爆発させるような感じではなく、音の細部まで神経が行き届いた丁寧なライブなように感じた。で、そこがとてもよかった。
 と思ったのは、ヘッドホンで大音量で視聴したせいかもしれないが、そのせいで、それぞれのギターが、それぞれの曲の、それぞれの瞬間で、どんなことをやっているのかがクリアにわかったりして、それがおもしろかったりもした。あ、そのギターのうちの1本=サポートは、ライブの前半は武田将幸(HERE)が、後半は爲川裕也(folca)が務めた(と、19:40あたりのMCで菅原卓郎が紹介した)。
 後半、「名もなきヒーロー」をやる前に、卓郎は「活動してきて初めて書いた応援ソングで、何をどうやったらいいのかわからない今の時期にすごい力を発揮してくれたなと思う曲」と紹介した。とても納得。
 そこからラストまでは「Everyone is fighting on this stage of lonely」「Black Market Blues」「新しい光」という、もう怒涛の選曲だった。コメント欄が歓喜の声で埋まり、投げ銭が飛ぶ。中には「それ普通のワンマンのチケットより高いじゃん」って人もいた。9999円投げた方も、ひとりでなくいらっしゃいました。

  • 兵庫慎司

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    兵庫慎司

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