兵庫慎司のとにかく観たやつ全部書く:第67回[2020年11月前半]編

コラム | 2020.11.25 18:00

イラスト:河井克夫

 音楽などのライター兵庫慎司が、主に音楽、時々演劇やお笑いやプロレス等の、生で観たライブについてレポを書き、半月に一回のペースでアップしていく連載です。新型コロナウィルス禍以降は、主に配信ライブを観て書き続けていましたが、秋口から生で観られる機会も増えてきて、今回=11月前半は、5本中4本を生で観ました。が、11月中旬から感染者数が急増していて、今後どうなるんだろう……と、不安に包まれています、これを書いている現在。

11月1日(日)17:00 真心ブラザーズ@品川インターシティホール/Streaming+

 『Cheer up! 003』と銘打った、ニュー・アルバム『Cheer』のリリース・ライブ。前の二回は配信オンリーだったが、今回は有観客・配信ありで、YO-KINGと桜井秀俊、ふたりでの弾き語りで行われた。配信プラットフォームはStreaming+、チケット代は3,300円、11月3日(祝・火)23:59までアーカイブ配信あり。
 ステージ中央に紅葉した木、その左右にススキが繁るセット(すべて本物)の前で、「今日は照明に色をつけないんだって」(YO-KING)「初めてきいた」(桜井秀俊)などと言いながら、ふたりで全19曲をプレイ。
 桜井が昨日作ったというSE「真心ブラザーズ大運動会」からの「どか〜ん」でスタート、「荒川土手」「情熱と衝動」「朝が来た!」「旅の夢」を経て、ニュー・アルバム『Cheer』から「パッチワーク」「緑に水」「不良」、そして「流れ星」をはさんで『Cheer』から「サンセットハンター」「こんぷろマインズ」、後半は「JUMP」で場の空気をフワッと熱くしてから『Cheer』収録の「炎」、さらに「サマーヌード」「BABY BABY BABY」「きみとぼく」と連打して本編終了、アンコールは『Cheer』から「かっこいいだろ」、シメは「空にまいあがれ」。こうして書いてみると、改めて「いいセットリストだったんだなあ、この日」と思う。
 曲によって、桜井がすっかり上達したスチール・ギターを弾いたり、まだあんまり上達してないバイオリンを披露したり、YO-KINGが自由にも程があるMCの中でポロッと「適当な前向きさが大事」と、「それ金言では?」と思わせることを言ったり、かと思えばリード・ギターを弾いてくれと桜井に言われて、「俺を誰だと思ってんの? 弾けないよ! 単音では弾くなっていうのがお祖父ちゃんの遺言なんだから!」と拒んだりする、頭っから最後まで、とにかく楽しい時間でした。
 なお、アンコールでは、1月にバンド編成で東名阪ツアーを行うことが発表された。1月11日(祝・月)名古屋ダイアモンドホールが『Cheer up!』の「004」、17日(日)大阪・なんばHatchが「005」、31日(日)東京・日本青年館ホールが「006」、ということになります。

11月7日(土)18:00 GRAPEVINE@中野サンプラザ

 11月1日(日)神奈川県民ホール・大ホール、11月3日(祝・火)大阪・オリックス劇場、そしてこの東京・中野サンプラザ、と、GRAPEVINEが行った3本のホール・ツアーのファイナル。おそらく新型コロナウイルス禍の状況を見ながら、急遽、開催を決めたのだと思う。
 「また始まるために」や、「報道」や「光について」が演奏され、アンコールの最後が「アナザーワールド」で終わる、という選曲は、新型コロナウイルス禍の最中だからそうしたんだろうか、まあ「光について」は頻繁にライブでやるけど、それ以外はそんなにしょっちゅうやる曲じゃないし……などと考えながら観ていて、気がついた。
 GRAPEVINE、「コロナ禍に行うライブ」ならではのダメージを、比較的受けにくいバンド、と、言えるかも知れない。お客さんは一席飛ばしで収容人数の半分、一緒に歌うのや歓声を上げるのはNG、多くの人が座ったままで鑑賞、という状態でライブをやっても、普段のライブとの差が、他のバンドよりも小さいかも、ということだ。
 そもそも、「踊れない」し「騒げない」し「はしゃげない」、客席が一体となってのシンガロングなんてまず起きない、でも、じゃあライブ・バンドじゃないのかというと、誰もが認める圧倒的なライブ・バンドだし。
 6曲目の「すべてのありふれた光」あたりで、自分が「コロナ禍のライブであること」を完全に忘れて観ていることに気がついて、そんなことを考えたりしたのだった。田中和将のボーカルも、バンドの演奏も、終始惚れ惚れするすばらしい鳴りだった。って、楽器はともかく、人の歌声を「鳴り」と言うのは変な気もするが、田中のボーカルって何かそんなふうに表したくなる、不思議な魅力がある。

11月12日(木)19:00 Creepy Nuts@日本武道館/Thumva/LINE LIVE-VIEWING/Streaming+

 11月12日(木)に切っていた初の日本武道館ワンマンライブを、入場者を半分にする・11日(水)との2デイズにする・その上で12日は生配信も行う、という形に変更して開催したライブ。配信プラットフォームはThumva/LINE LIVE-VIEWING/Streaming+の3つ、配信チケット代は前売3,500円で当日3,800円で、11月19日(木)23:59までアーカイブ視聴可能。その2日目のライブを、現場で観ました。
 ニッポン放送のいろんな番組で触れられていたし、本人たちも『Creepy Nutsのオールナイトニッポン0』でネタにしていたが、DJ松永、2日とも本番中に涙腺決壊。1日目は、終演後も泣きじゃくりが止まらず、楽屋挨拶を欠席した、という話を、2日目のMCでR-指定がしたのだが、直後にまた顔からタオルを離せなくなってしまい、そのさまが画面にどアップで映る、という按配でした。
詳しく知りたい方は、ラジオ書き起こし職人・みやーんZZが、『オールナイトニッポン』のその話題のところを文字にしておられるので、そちらをどうぞ。
R-指定とDJ松永 Creepy Nuts武道館公演・松永号泣を語る
 ライブそのものは、仲間のラッパー等のゲストも、サポート・メンバーもなし、頭から最後までR-指定とDJ松永のふたりっきりで、自分たちの肉体だけでやりきったステージだったこと、そしてそれがすばらしかったことに、圧倒されたし、感動した。菅田将暉とか呼んで「豪華!」という感じを出すことも可能だっただろうに、あえてそうしない。パフォーマーとして本当に足腰が強いなあこのふたりは、くぐってきた修羅場の数が違うんだなあ、と、観ながらつくづく思った。
 あ、2日目の終演後は、ちゃんとふたりで楽屋挨拶に登場しました。

2020.11.11,12
Creepy Nuts One Man Live「かつて天才だった俺たちへ」日本武道館公演にお越し頂いた皆さん、配信をご覧頂いた皆さん、有り難う御座いました!

アーカイブ配信▼
http://creepynuts.com/tour/1manTour2020-2021.html

Photo by
@HiroyaBrian

Creepy Nuts R-指定 & DJ松永さんの投稿 2020年11月14日土曜日

11月15日(日)19:30 佐藤千亜妃@Billboard Live Tokyo/Streaming+

 佐藤千亜妃が以前から行っている、カバー曲をやるライブ『VOICE』の4回目。今回は『佐藤千亜妃Special Cover Live VOICE4〜far and near〜』と、タイトルに『〜far and near〜』が付いているのは、お客さんを入れた上で生配信も行うから。会場はBillboard Live Tokyoで、11月14日(土)・15日(日)それぞれ2公演ずつ、生配信を行ったのは15日の2公演目。配信プラットフォームはStreaming+でチケット代は2,800円、11月17日(火)23:59までアーカイブ配信あり。
 私、同時刻に、下北沢シェルターの突然少年vs赤い疑惑に行っていたので、買っておいて、後でアーカイブで観ました。バンド・メンバーは、キーボード宗本康兵、ギター藤田顕、ベース種子田健、ドラムBOBOという豪華な布陣。
 1曲目がOfficial髭男dismの「Pretender」だったのは、「ああ、なるほど」と思ったが、MCを経ての2曲目がSUPER BUTTER DOGの「コミュニケーション・ブレイクダンス」だったのには「マジか!」と驚いた。そういえば、ちょっと前に永積崇がインスタで、きのこ帝国の「金木犀の夜」を弾き語りでカバーしていたので、そのお返し、という感じだったのかもしれない。違うかもしれないが。
 それ以降は、椎名林檎「闇に降る雨」松田聖子「SWEET MEMORIES」キリンジ「エイリアンズ」ゆず「バイバイ」宇多田ヒカル「初恋」平井堅「Sweet Pillow」チャットモンチー「世界が終わる夜に」中島みゆき「ファイト!」。アンコールはひとりで弾き語りで「橙ラプソディー」(未音源化曲)、バンドと一緒に「You Make Me Happy」、と、自身の曲を2曲歌って終了した。
 メジャーな曲もマニアックな曲もあったが、総じてなんかもう「センスいいなあ! いいとこ突くなあ!」と言いたくなる、佐藤千亜妃のボーカルで聴けるのがとにかくうれしい全13曲だった。
 というか、個人的にツボだらけだった。SUPER BUTTER DOG、大好きで、この頃、何度もインタビューしていたり。「Sweet Pillow」は、自分が平井堅に初めてインタビューした時のアルバム『Gaining through losing』の収録曲だったり。観ながらいろいろ思い出して、何か、しんみりした気持ちになった。あと、アンコールの自分の2曲も、すばらしかった。特に、モロにファンクな「You Make Me Happy」、このメンバーだとさらに格別。
 あ、後日ツイッターにアップされたセットリストには、Wアンコールで、自身の「Summer Gate」が書かれていたので、配信が終わったあとに、その場のお客さんに向けて歌ったのかもしれません。

11月15日(日)19:30 突然少年 ゲスト:赤い疑惑@下北沢シェルター/Loft Project・ZAIKO

 ニュー・アルバム『心の中の怪獣たちよ』のリリース・ツアーで、全会場ゲスト・バンドを迎えて無観客生配信、の7本目。チケット代は1,000円で、ZAIKOのロフト・プロジェクトのチャンネルで配信、11月18日(水)までアーカイブ視聴あり。現場で観せてもらいました。
 今回のゲストは、彼らの西東京の先輩である40代男性3ピース・バンド、赤い疑惑。「若くないということ」「それでもバンドをやっているということ」のやるせないリアリティに満ち満ちた楽曲の数々に、どんよりと心を打ち震わされる。で、自分が、そんな歌を次々を歌っている人(ボーカル&ギターのアクセル長尾)の10歳上であるという事実に、さらにどんよりする。
 で、そのあと、炎の塊のような突然少年のステージにぶっとばされる、という日だった。10月22日に新代田FEVERでthe band apartとやった時(こちら)よりも、格段によかった。すんげえ生々しさ。かといって「若いっていいなあ」では決して片付けられない、もっと得体の知れないエネルギーが放たれている。
 セットリストは「約束」「雨の日」「台風」「ボール」「魂の味」「火ヲ灯ス」「青空」「サマータイムストレンジャー」「フロムアンダーグラウンド」「100年後」の10曲。8曲目の「サマータイムストレンジャー」でいったん終わり、「フロムアンダーグラウンド」「100年後」はアンコールという体だった。本来「フロムアンダーグラウンド」は、本編でやるはずだったが、ボーカル&ギターの大武茜一郎曰く「勢い余って飛ばしちゃった」そうです。
 しかし。まさかその1週間後に、こんなことになってしまうとは。これを書いているのは11月22日(日)なのだが、今日の正午、ギターのカニユウヤがバンドから離れることが発表されたのだ。
これがその発表。

 だあああ。なんでやあああ。いや、理由は本人が書いているとおりなんだろうけども、びっくりだし、ショックだ。カニユウヤ、とんでもないギターを弾く、得難いにもほどがある存在なので。彼の腕なら、今後サポートとかでひっぱりだこになったりしても不思議はないけど、突然少年で弾いてほしい、やはり。
 この日のライブが、突然少年でカニユウヤがギターを弾くのを自分が観た最後になりました。という結果にならないことを心から望みます。戻ってきてほしい。

  • 兵庫慎司

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    兵庫慎司

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