兵庫慎司のとにかく観たやつ全部書く:第81回[2021年6月前半]編

コラム | 2021.06.23 18:00

イラスト:河井克夫

 音楽などのライター兵庫慎司が、生で観た、もしくは配信で観た、すべてのライブのレポを書いて、月2回ペースでアップしていく連載の、81回目・2021年6月前半編です。今回は6本を生で、2本を配信で観て、書いています。その8本のうち3本が、6月12日土曜日に固まっている、という、ちょっとトリッキーな回になりました。

6月1日(火)18:00/21:00 フラワーカンパニーズ×友部正人@新代田FEVER/Streaming+

 先月からの続きです。フラワーカンパニーズが行っている新代田FEVERでのマンスリー企画『月刊フラカン』、5月の回と6月の回は月末と月初をくっつけて2デイズで開催。5月31日(月)はヒグチアイとの、6月1日(火)は友部正人との2マンで、それぞれフラカンとのセッションも行われた。
 31日はすべて配信あり、1日はフラカンとセッションは配信あり。ライブは18:00からで、配信は21:00からのスタート。配信プラットフォームはStreaming+で、視聴券は税込2,500円、31日は6月6日(日)、1日は6月7日(月)の、23:59までアーカイブ視聴可能だった。
 というわけで、その2日目。最初は友部正人のステージ、「ただそれだけのこと」「ブルース」「ポテトサラダ」「銀座線を探して」「一月一日午後一時(高橋さん)」の5曲を、弾き語りで歌う。
 「ただそれだけのこと」「ブルース」「一月一日午後一時(高橋さん)」の3曲は、2020年9月リリースの最新アルバム『あの橋を渡る』からの曲で、「銀座線を探して」は、変わりゆく渋谷駅・渋谷の街を歌った内容なので、これも最近書かれた曲だと思う。という、常に現在進行形な友部正人を聴かせるステージだった。
 フラカンは「脳内百景」「まずはごはんだろ?」「俺たちハタチ族」「一週間」「履歴書」「この胸の中だけ」「揺れる火」「最後にゃなんとかなるだろう」の8曲。MCで鈴木圭介、「この胸の中だけ」は、昔、バンドと並行してひとりで弾き語りライブをやっていた頃に、友部正人とふたりでツアーを回ったことがあって、その時に作った曲であることを説明する。
 そのあとは、友部正人と鈴木圭介のふたりで、「愛について」と「一本道」の2曲を歌う。そして、フラカン全員が加わって、「誰もぼくの絵を描けないだろう」「どこへ行こうかな」「サンテグジュペリはもういない」「虹の雨あがり」「人間をはるか遠く離れて」の5曲を披露。
 「愛について」「一本道」「誰もぼくの絵を描けないだろう」は、友部正人の曲。「どこへいこうかな」「虹の雨あがり」は、フラカンの曲。「サン・テグジュペリはもういない」と「人間をはるか遠くはなれて」は、一緒にツアーを回った時に友部正人と鈴木圭介が共作した曲で、前者は詞が友部で曲が圭介、後者は詞が圭介で曲が友部。
 極めてレア、という意味でも、それらの曲がすばらしいし、パフォーマンスそのものもすばらしかった、という意味でも、「観れてよかった!」と、つくづく思う夜でした。

6月4日(金)18:30 空想委員会@千葉LOOK

 活動再開ツアー『社会復帰』の1本目。この千葉LOOK・21日(月)の名古屋CLUB UPSET・22日(火)の大阪梅田Shangri-La・7月3日(土)渋谷Guilty・そしてこの日のステージで発表された追加公演=7月4日(日)渋谷LOFT HEAVEN(アコースティック・スタイル)の5本とも、mahocastで生配信あり。チケット代は千葉と追加公演が税込1,500円、名古屋・大阪・東京公演が税込2,000円で、それぞれ6日後の23:59までアーカイブ視聴可。
 この1本目は、サポート・ドラム=CIVILIANの有田清幸と4人でのライブだった。「大好きなご主人に久々に会った犬か、あんた」と言いたくなるほど歓喜丸出しのギター佐々木直也、それよりは抑えめだがやはり空想委員会でステージに立っていることのうれしさを隠せないベース岡田典之と対照的に、真ん中のボーカル&ギター三浦隆一は、ストイックに黙々と歌っていく。というか、ちょっと固い感じに見える。久しぶりだから緊張してるのかな、と思いながら観ていたら、MCでその理由を明かした。
 ライブが始まる前は、歌いながらどんな感情になるんだろう、というのが自分でもわからなかったが、始まったら、休止前に自分が書いた歌詞がもういちいち自分に刺さりまくる。そのことに動揺している。と、話しながら、三浦、ほぼ泣きそうだった。いや、泣いていたかも。こっちもつられそうになった。初日を観に千葉まで来たかいがあった、と思った。
 あ、セットリストも最高だったけど、まだツアー中なので、そこは触らない方がいいか。いや、でも、毎回セトリを変えているようだし、そもそも生配信しているわけだし、名古屋は終わったあと佐々木直也のインスタにセトリ上げてたし、あ、でも千葉は上げてないな……ややこしいので、とりあえず、触らずにおきます。

6月6日(金)16:00 真心ブラザーズ@Streaming+

 桜井秀俊、53歳の誕生日に開催された配信イベント『誕生会オン・ザ・テラス』。視聴券は税込3,300円、プラットフォームはStreaming+、6月9日(水)23:59までアーカイブ視聴あり。「オン・ザ・テラス」というのは、カフェのオープンテラスのような場所からの中継だった、ということです。どこなのかは知りませんが、ビルの最上階でオープンテラスになっている、みたいな感じでした。
 定刻になり、ふたりがそのテラスに登場、着座。しばらく楽しげに語らったあと、曲が始まる。YO-KINGはギターを弾き、桜井はハンドマイクで立ち上がって、右に行ったり左に行ったりしながら歌っている……のだが、音が出ない。ヘッドフォンで聴いていたのをスピーカーに差し替えたり、PCで観ていたのをスマホに切り替えたりしてみたけど、ダメだ……とかやっているうちに、書き込まれるコメントが「きこえない!」「音が出てない!」ばかりになっていることに気づく。配信側のトラブルだったようで、最初からやり直しになりました。
 ようやく音が出るようになったところでYO-KING、「もう一回やるんだから、さっきの。恥ずかしいわあ」、桜井「渾身のファーストボケも、渾身のネクタイいじりも!」。あっはっは。そういえばさっき、YO-KINGが桜井の締めてるネクタイを指してなんか言っていた。なお、この「音が出なくてやり直し」のくだり、あとでアーカイブで観たらカットされていた。当然か。
 で、そのやり直した「BABY BABY BABY」から始まって、YO-KINGボーカルで「紺色」、桜井に戻って「いい天気」、最新アルバム『Cheer』から「炎」、ファンのリクエストに応えて「高い空」、「誕生日おめでとう」とノンアルで乾杯して「ノーメル賞ブギ」、そして「どか~ん」、YO-KINGが「Hey! みんな元気かい?」の歌詞を変えて歌った「Hey! 桜井元気かい?」、「僕は喜劇王」「サマーヌード」、最後に「消えない絵」、の全11曲だった。
豪華だった。で、ちゃんとしていた。このおふたりでこういう趣旨だから、もっとこう、数曲やってあとは延々としゃべってる、みたいな展開を予想していた。失礼しました。
 なお、次は7月14日(水)、YO-KING54歳の誕生日に、同様の趣旨の配信イベントを行う、と、告知された。

6月10日(木)19:00 くるり@Zepp Haneda/ Streaming+

 『くるり ライブツアー2021』のファイナル、Zepp Hanedaの2デイズの2日目。1日目=6月9日(水)の模様を収録した上で、6月19日(土)20:00から26日(土)まで、配信もあり。プラットフォームはStreaming+で、配信チケット料金は前売3,000円、通常3,500円。
 で。ニューアルバム『天才の愛』が4月28日にリリースされたばかりなので、そのリリース・ツアーだと思いこんでいたが、ツアーのタイトルからして、そんなこと、一切言っていなかった。という事実に、終わってから気がついた。『天才の愛』からやったのは、「野球」と「潮風のアリア」の2曲だけでした。そうか、確かに『天才の愛』、そのまま通常のバンド編成に置き換えて鳴らすのが難しい、ライブで再現しにくい曲、多いかも。
 ただ、「琥珀色の街、上海蟹の朝」で始まって、前半は「ばらの花」「さよならリグレット」「ハイウェイ」など、後半は「春風」「リバー」「ロックンロール」「HOW TO GO」など、惜しみなく名曲を連発してくれたし、『天才の愛』にも入っていない新曲を2曲もやったし、ボーカル&ギター岸田繁・ベース佐藤征史・ギター松本大樹・キーボード野崎康弘・ドラム石若駿が加わったバンドの演奏は、「うわ、今、耳が喜んでる!」と終始思いっぱなしなくらいの見事さだったし、なんにも文句ありません。くるりという存在の得難さを、ただただ実感した時間だった。アンコールで岸田は、「長いことバンドやってますけど、いちばん楽しいツアーでした」と言った。
 余談。終わった後、『天才の愛』を最後に脱退したファンファンが、ライブを観て絶賛のツイートをしていて、それに佐藤征史が「えっ、来てたん? 会いに来てよ〜!」とリプを返していたのが、微笑ましかったです。

6月11日(金)19:00 ヒグチアイ ゲスト:THE CHARM PARK@日本橋三井ホール

 『HIGUCHIAI presents 好きな人の好きな人 -入梅-』という企画。THE CHARM PARKと2組で、6月3日(木)大阪umeda TRADと、東京日本橋三井ホールの2本が行われた。
 THE CHARM PARKは、ギターを叩き、その音をループさせてパーカッションにしたり、同じくループでギターの音を重ねたり、弦が切れてしまったので曲順を変えてピアノ弾き語りで「カルペ・ディエム」を歌ったりする、自在なステージングで、場を魅了する。
 ヒグチアイは、必殺の「東京にて」でスタート。新曲2曲などを経て、7曲目の「わたしはわたしのためのわたしでありたい」まではひとりでピアノ弾き語りで聴かせる。そして、テレビ東京のドラマ『生きるとか死ぬとか父親とか』のエンディングテーマの「縁」を、THE CHARM PARKとセッション。交互に歌ったり、時にはハモったり。
 うわあ、ラッキー、いいもん観た。と思っていたら、さらに「いいもん」が待っていた。アンコールを求める拍手が止まらず、急遽1曲追加、最近ヒグチアイがライブでよく歌っている、未音源化の新曲「mmm(ハミング)」を、THE CHARM PARKと一緒にやったのだ。
 この連載の前回にも書いたが、「mmm」は、「口を開けずに歌う歌」、つまりコロナ禍だから作った歌。曲を終えたヒグチアイは「いつかこの歌を、ラララで歌える日が来ますように。また会える日まで、どうか生きていて」と、オーディエンスに伝えた。

6月12日(土)13:00 アナログフィッシュ@AKABANE ReNY alpha/bitfan

 アナログフィッシュの企画『最近のぼくら』の「vol.2」。会場が赤羽なのも新鮮だが、昼の13時からというのが、もっと新鮮。コロナ禍とはいえ、なんで? と思ったが、この日のこの場所、夕方からの公演は、彼らと親しいSPARTA LOCALSだと知って納得した。
 つまり、定員の半数以下しか入れられないというデメリットを補うため、2バンドで共同でハコを借りて、同じ日に1公演ずつやる、という作戦だったんですね。なるほど。私的には、「あ、その日、東京ガーデンシアターの宮本浩次のバースデー・ライブだから、行けないわ……え、昼なの?」というわけで、ハシゴできたので助かりました。
 ちなみに、最初のMCで佐々木健太郎、今日は宮本浩次の誕生日であること、その日にエレファントカシマシの地元である赤羽でライブができることの喜びを、言葉にする。「個人的にすごい胸が熱いです」とのこと。
 いい曲いっぱいやってくれたけど、今のこの世の中で聴くと、よけいに胸に刺さるのは、やっぱり下岡晃の曲が多いなあ。「テキサス」とか、「戦争がおきた」とか、「抱きしめて」とか……などと思いながら聴いていたら、健太郎の「スピード」が、それらと同じように、やたらとリアルに胸に迫ってきて、驚いたりもした。
 ライブでは披露しているが、音源化はまだの新曲も、健太郎2曲、下岡晃1曲、やってくれたりして、大満足のライブだった。
 なお、この模様を60分強の尺に編集し、佐々木健太郎が音のミックスをして、6月20日(日)21:00から28日(月)0:00まで配信もあり。プラットフォームはbitfanで、チケット代は2,500円。

6月12日(土)17:30 宮本浩次@東京ガーデンシアター/PIA LIVE STREAM

 昨年は作業場からひとりっきりで生配信、一昨年はリキッドルームで行った、宮本浩次のバースデー・ライブ、今年は2020年にオープンした東京ガーデンシアターで開催。日本武道館と同じくらいのキャパ。コロナ禍なので一席飛ばしだが、余裕でソールドアウトだった。当然か、今の宮本の勢いなら。Streaming+・PIA LIVE STREAMで生配信もあり。配信チケットは税込3,850円、6月15日(火)23:59までアーカイブ視聴可、だった。
 児玉裕一による効果映像の数々とか、オープニングはその映像をバックに宮本がランタンを手にして登場するとか、途中、曲終わりで暗転して、パッと明るくなったら、宮本の衣装が「sha・la・la・la」のMVの白スーツに変わっているとか、演出が凝っていて、いちいち効果的だった。
 が、それ以上に、とにかくもう、演奏と歌が圧倒的。ギター名越由貴夫、ベースキタダマキ、ドラム玉田豊夢、キーボード小林武史、というメンバーによる演奏、どの曲も、とんでもないグルーヴ。ソロ宮本浩次の曲も、カバーアルバム『ROMANCE』の曲も、エレファントカシマシの曲も(「悲しみの果て」「今宵の月のように」はよくやっているが、「ガストロンジャー」「あなたのやさしさをオレは何に例えよう」をやったのは新鮮でした)、イントロが始まるたびに「うわ、すごい!」と驚かされる。
 で、そんないかつい音を、「乗りこなす」というよりも、それに正面からぶつかるように挑んでいく宮本の歌が、さらにとんでもない……って、最近、いや、ここ数年、この人のライブを観るたびに、そんなことばかり書いている気がする。でも、本当にそう感じるんだからしょうがない。
 発しているエネルギーが、ひとりの生身の人間から出る容量を超えている感じ。枯れかけた花に向かってワーッと歌ったら咲くんじゃないか、的な。いや、声を浴びせるまでもなく、今の宮本なら、花をキッと睨んだだけで咲くかも。なんだそれは。いや、でも、そのくらいなんですってば、本当に。
 というわけで、ようやく実現したバンド編成でのソロのワンマンだけあって、わりとたっぷり尺はあったんだけど、ただただ圧倒されていたら、あっという間に終わってしまった。
 あ、そうだ、その尺に関して。一部16曲・二部8曲・アンコール1曲の計25曲だった。5月5日の『JAPAN JAM 2021』出演後のインタビューでは、11曲やっただけで身体に数日間ダメージが残った、これでツアーに出たらライブできるのか? という悩みの中にいる、と言っていたが(こちらのインタビューです ≫SPICE:宮本浩次が明かす、最新作「sha・la・la・la」誕生に至る激流と充実の日々 )、この日、終わったあと、大丈夫だったかしら。観ている分には全然平気そうだったけど。と、ちょっと心配になりました。
 なお、25曲目=アンコールは、小林武史と作ったばかりだという新曲で、そのふたりでの演奏。美しいバラードでした。

6月12日(土)17:30 鈴木茂・フラワーカンパニーズ@渋谷B.Y.G/LIVEWIRE/PIA LIVE STREAM

 スペースシャワーとぴあが組んで、コロナ禍以降に立ち上げた配信ライブチャンネル、LIVEWIREの「OTONA SESSIONS at B.Y.G」。これは、1969年オープンの渋谷の老舗ロック・バー、B.Y.G.で、「オトナ向け2マンライブ」を行うという企画で、その第2回がこの鈴木茂とフラワーカンパニーズ。無観客ではなく、お客も入れている。といっても、小さな会場である上に、コロナ禍対応でキャパ半分なので、20人限定だったそうです。ラッキーだな、観れた人。
 フラカンのグレートマエカワが鈴木茂のバックを務めた縁があって、グレートの方からオファーして、この対バンが実現した(と、MCで言っていた)。配信チケットは3,300円、6月18日(金)23:59までアーカイブ配信あり。私もその配信で観ました。
 ナビゲーターは大宮エリーで、まず彼女ひとりのトーク、続いて鈴木茂のライブ、次は鈴木茂と大宮エリーのトーク、そしてフラワーカンパニーズのライブ、さらに鈴木茂とフラワーカンパニーズのセッション、最後にみんなでアフタートーク──という番組構成だった。
 鈴木茂のライブには、バックでグレートも参加。はっぴいえんどの「花いちもんめ」や、名盤『BAND WAGON』からの「砂の女」など、鈴木茂の名曲の数々のベースをグレートが弾いている、というのは、なんだかもう、「晴れがましかろう、グレートさん!」と言いたくなる光景だった。
 フラカンのライブは、「揺れる火」で始まり、「いましか」「深夜高速」「履歴書」「虹の雨あがり」「東京ヌードポエム」「東京タワー」「最後にゃなんとなるだろう」と、最近ライブでよくやっている曲の中から、B.Y.G.というハコに合いそうなやつを中心に選んだ、と思しきセットリスト。あ、「東京ヌードポエム」は、めずらしいか。
 で、最後のセッションは、はっぴいえんどの「はいからはくち」、フラカンの「A-HA-HA」、共通のミュージシャン仲間だった故・遠藤賢司の「夜汽車のブルース」の3曲だった。竹安のバッキングで鈴木茂がリードを弾き、圭介がリードボーカルをとるさまは、やはり、なんとも感慨深いものがありました。
 なお、鈴木茂さん、アンコールで圭介に「ジャッキー・チェンに似てるね」。メンバーもお客さんも大笑い。圭介、「この上なく光栄です」。

  • 兵庫慎司

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    兵庫慎司

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