兵庫慎司のとにかく観たやつ全部書く:第87回[2021年9月前半・藤井 風@日産スタジアムの配信などを観ました]編

コラム | 2021.09.27 18:00

イラスト:河井克夫

 音楽などのライター兵庫慎司が、生もしくは配信で観たライブ、すべてのレポを書く月二回更新の連載の87回目、2021年9月前半編。今回、全5本中4本が、配信を観て書いたものです。新型コロナウイルスの感染者数、全国的に、8月の中旬過ぎくらいがピークで、この頃はもう下がり始めていたんだけど、そのピークのせいで、9月上旬のライブやイベントが、相次いで中止・延期になったから、だと思います。で、9月後半は、中止・延期のピーク、過ぎました。ライブに5本行く予定で、5本とも生で観るので。今後、またピークが来ませんように。

9月4日(土)13:00 藤井 風@日産スタジアム/YouTube

 『Fujii Kaze “Free”Live 2021』と銘打った、ステージセットや照明演出一切なし、バンド演奏もなし、ピアノと藤井 風だけで、13時からの60分で終わることを事前に告知した上で、無料で、日産スタジアムで行われたライブ。当初は、有観客・YouTubeでの配信もあり、で開催される予定だったが、感染者数の激増を鑑みて、無観客・配信のみに変更になった。
 「いろんなことが制限されて、いろんなことを我慢して、いろんなことに縛られてきた、この夏。でも、人間は、僕たちは、もっと自由でいいはずだ。9月4日、空の下、芝生の上。この1時間を通じて、いろんな人の心が“Free”になっていくことを願って。」という文章が、このライブの特設サイトにアップされた。今だからこそ、このようなライブをやる、ということだ。
 無人の日産スタジアムのフィールドのまんなかの、グランドピアノと藤井 風が、引きの画で、モノクロで映っている──というオープニングから、すごいインパクト。
 1曲目「きらり」のイントロに合わせてカメラが寄り始める。歌が入り、間奏で「Fujii Kaze “Free”Live 2021」という文字が出たところで、画面がカラーに切り替わる。歌い終わると、英語と日本語で挨拶とMCをする。無観客になった経緯の説明を、「これが今のありのままの現状を表しています」という言葉で締める。
 「次はいきなり新曲をやりたいと思います」と、3曲目に「燃えよ」を歌い、続いて「もうええわ」をやる。特設サイトにアップされている歌詞のとおり、「燃えよ」は「クールなフリ もうええよ 強がりも もうええよ」という歌であり、つまり「もうええわ」と対になっている。
 立ち上がって歩き出し、ハンドマイクでアカペラで、5曲目「優しさ」を歌い始める。次の「特にない」では、曲の入りで視聴者にハンドクラップを求め、「手拍子するたびに、みんなの心の中にあるネガティブなエネルギーが、はじけてとんでいくようなイメージを、持ってほしいです。この曲が終わる頃には、わしは小綺麗になっとるはず」と言う。
 8曲目、「帰ろう」のイントロをしばし弾き、手を止めて、「みんな深呼吸しよか」と、立ち上がり、両手を広げて深呼吸する。その「帰ろう」を歌い終わると、少し前から降り出した雨に、「ほんまは、晴れじゃったら、寝そべり配信ということで、ここでやろうかと思っとったんじゃけど──」と言ったと思ったら、「雨でも寝そべります。一緒に昼寝しましょう」と、横になる。
 というような一挙手一投足が、すべて強烈だった。すごいカリスマ感、「この人がやるといちいち特別になる」という意味で。歌のすごさ及びピアノのすごさは言うまでもないが、そのような、存在感のすごさ、天賦のスター性のようなものに、すっかりやられてしまった11曲・1時間だった。
 あと、前述のオープニングの演出に顕著だが、撮影の見事さも、特筆すべきものだった……「撮影」じゃないか、生だから。「中継」か。とにかく、アングルやスイッチング等のカメラワークが、いちいちすばらしい。事前に藤井 風のスタッフと、どういう打ち合わせをしたんだろう、なんてことまで、観ながら考えてしまった。
 なお、YouTubeなので、画面下に視聴者数が出る。終わる頃には、17万人を超えていた。

9月5日(日)17:30 うつみようこ&YOKOLOCO BAND、フラワーカンパニーズ@京都磔磔/Streaming+

 フラワーカンパニーズやTHE BAWDIESなどのローディー、Q太郎(本名は木村至だがそう呼ぶ者は誰もいない)の50歳を祝う磔磔2デイズイベント。うつみようこ&YOKOLOCO BANDは両日で、1日目はフラワーカンパニーズ、2日目はPOLYSICSも出演。配信で観た。
 プラットフォームはStreaming+、アーカイブ配信は2日とも9月13日(月)23:59まで。視聴チケットは、1日券2,500円からで、2日通し券とか特典付き(缶バッジ+全出演者サイン入りポストカードとか、Tシャツ)とか、いろいろあり。
 で、1日目、最初はヨコロコ。もともと、オリジナルに加え、古い洋楽のカバーもいろいろやるバンドだが、この日の1曲目は、1982年にジョーン・ジェット&ブラックハーツがカバーして、大ヒットした、「I Love Rock’n Roll」だった。Q太郎がジョーン・ジェットのファンなので、と、後のMCで理由が明かされる。うつみようこ曰く、自分が高校の時にコピーした「デビュー曲」でもあるそうです。
 その他も、レッド・ツェッペリンの「移民の歌」、AC/DCの「You Shook Me All Night Long」(に日本語詞を付けたバージョン)、Q太郎のリクエストだというフォー・ノン・ブロンズの「What’s Up?」(これも日本語)などを演奏。で、「オリジナルもやらんと学祭バンドみたいになっちゃうから」(グレートマエカワ)と、「TIME OuT!」等のオリジナル曲もプレイ。後半の「Shot Gun」(ジュニア・ウォーカー&オール・スターズ)では、ブレイクでQ太郎がステージに呼ばれて、お客さんに挨拶&シャウト一発→曲が再開、という一幕もあり。
 後攻のフラワーカンパニーズは、外道「香り」のカバーでスタート。すっごい久々。20年ぶりくらいかな。そこから「NO WAY OUT」「JUMP」「はぐれ者讃歌」「揺れる火」「ダイヤモンド」「元少年の歌」。で、MCで、「ダイヤモンド」と「香り」がQ太郎からのリクエストだったことがわかる。そして新曲「ザッツオーライ」、メンバー自己紹介MCをはさんで「どろぼう」「NUDE CORE ROCK’N ROLL」「小さな巨人」で終了。
 で、いったん引っ込むのを省略してアンコール。ギター1本で、メンバー4人で「花束」を歌う。「長生きするのも楽じゃねえ それでもお祝いしたくてたまらねーぜ/おめでとう」という歌詞であるこの曲の後半で、磔磔からのケーキとフラカンのスタッフからのケーキが運び込まれ、Q太郎が自らの顔の形のウチワ(怒髪天坂詰克彦が作ってくれたそうです)で、ロウソクの炎を消す。で、最後は全員で、BO GUMBOS「夢の中」のカバーで締めた。

9月6日(月)18:30 うつみようこ&YOKOLOCO BAND、POLYSICS@京都磔磔/Streaming+

 昨日とはステージ後方のQ太郎の画が変わっている(というか落書きされている)。先攻はPOLYSICS、登場して持ち場につき、そのままSEにのっかる形で「Let’sダバダバ」でスタート。次は「Digital Coffee 」、というあたりまではライブでよくやる鉄板曲だったが、4曲目は、「えーと、これ、なんだっけ……」となった。「Much Love Oh! No!」、2011年のアルバム『Oh! No! It’s Heavy Polysick!!!』の収録曲である。
 曲の後半でQ太郎がステージに上げられ、ハヤシヒロユキ、「Q太郎! Much Love Oh! No! おめでとう!」とお祝いのシャウト。10年前の40歳記念ライブでも同じことをやった、それ以来この曲はやってなかった、次はQ太郎60歳の時にやろうと思います、とのことでした。
 その後も、「Q太郎のために作ってきました」(フミ)と、「Hopping Stepper」という新曲が披露されたり(すげえかっこいい曲だった!)、ハヤシが「Q太郎おめでTOISU! スマホにTOISU! を入れてる人は鳴らして!」と呼びかけてみんなで鳴らしたり(コロナ禍でコールできないのでその代わりに、ということですね)、と、いろいろスペシャルなライブ。ラストの12曲目は、Q太郎のリクエストで、「Electric Surfin’ Go Go」だった。
 あ、あと、後半のMCで、「ROCK IN JAPAN FES.の本番中に、Q太郎が足を肉離れ事件」について話していたのが、懐かしかった。私、現場にいました。ポリのライブ制作のヴィンテージロック若林さんがステージを下りて全力疾走で走って来たので、「どうしたんですか?」と訊いたら「Q太郎が肉離れ!」と叫びながら一切スピードを緩めず遠ざかって行ったのを憶えています。
 うつみようこ&YOKOLOCO BANDは、「木村Q太郎の親戚みたいなバンドです」というようこさんの挨拶からスタート。途中から日本語になる「アイコ・アイコ」(古き良きニューオリンズのスタンダード・ソング)などで、ギター竹安堅一がボトルネック奏法で大活躍したり、昨日もやったAC/DC「You Shook Me All Night Long」のカバーが、やっぱりかっこよかったり。
 「Q太郎のリクエストで。金曜日という曲です」、と、ザ・キュアーの「Friday I'm In Love 」をやってくれたのが、特にうれしかった。私も好きな曲なので。
 10曲やって本編終了、この日もいったん引っ込むのを省略してアンコールへ。ケーキと共にPOLYSICS登場の後、全員で、この日は最後に「I Love Rock’n Roll」で、締めた。

9月11日(土)17:30 OBLIVION DUST@Zepp Tokyo/PIA LIVE STREAM

 以前に当サイトでも開催前にインタビューを掲載した(こちら)、東名阪Zeppツアーのファイナル。この東京公演はPIA LIVE STREAMで生配信もあり、チケットは3,500円(税込)で9月14日(火)23:59まで視聴可能。その配信で観ました。
 インタビューでも予告していたように、前回のツアーと1曲もかぶっていないセットリストだったことや、2018年くらいからライブではやっているがまだ音源化されていない「Satellite」がかっこよかったこと(というか、新音源自体、2016年のミニアルバム『DIRT』以来出ていないのだが)などなど、観どころいっぱいのライブだったが、配信で観たから気がついたことが、ひとつあった。
 映像も音も、どえらくきれいだったのだ。コロナ禍以降、街のライブハウスからのやつも、アリーナとかのでっかい会場からの中継も含めて、配信ライブというものを何本も観てきたが、それらの中でもトップレベルのきれいさだった。
 なんでだろう。このライブ、前回の4月のツアーと合わせてDVDでリリースする (ことがMCで発表された)ので、いいカメラ&いい音響機材を使っているのかもしれない。とか、同期(バック・トラック)を使っているバンドは、配信でいい音を作りやすいのかもしれない。とか、いろいろ原因は考えられるが、映像に関しては、カメラワークと照明がよかった、というのがもっとも大きいのでは、と思えた。
 音に関しては、もともとものすげえ音圧で聴き手をぶっ倒す、みたいなライブをやる人たちだけど、そんな生のライブでの魅力に、音の細部まで味わえる繊細さが加わっているように感じた。
 それから。周知のとおり、Zepp Tokyoは2022年1月1日でクローズになる、ということで、後半のMCで、そのことに触れていた。特にK.A.Z.は感慨深そうで、1999年にこの会場ができた時に、Zilch等と一緒にOBLIVION DUSTでステージに立った時のことや、VAMPSでは全国でここでいちばん多くライブをやったこと(確かに、10デイズとかやっていた)、自分にとって最後のZepp TokyoをOBLIVION DUSTでやれたことを光栄に思うことなどを、言葉にしておられました。

9月15日(水)17:00 My Hair is Bad@新木場USEN STUDIO COAST

 『My Hair is Bad presents「超学校」』というタイトルのイベント。ゲストでyonigeとSPARK!!SOUND!!SHOW!!が出て、トリがMy Hair is Bad、の3アクトが出演。
 終始「透明な暗さ」みたいなものを音にしている趣の、yonigeのパーティー感ゼロなギター・サウンド&歌、自分の世代も関係あると思うが、とても好み。「バカ騒ぎ感」と「シリアスなメッセージ性」の療法があるSPARK!!SOUND!!SHOW!!のステージには、「なんかこの感じ、知ってる気がする……あ、ビースティ・ボーイズだ」と思ったりした(音楽的には全然似ていませんが、姿勢として)。
 というわけで、2バンドともとてもよかったが、さすがマイヘア、さらにその上を行くライブだった。おなじみの曲をやっても、初期の曲をやっても、最新の曲をやっても、今しかできない表現になっている。という言い方が、観ていて思い浮かんだ。
 そんなこと言ったらみんなそうじゃん、今目の前で演奏して歌っているんだから。いや、そうなんだけど、今目の前で鳴らされているその音楽の、こっちの受け取り方として、「初めて聴いた時に引き戻される」とか「この曲で歌われている感情を、自分が持っていた頃を思い出す」とかじゃなくて、今の彼らの表現を、今の自分として受け取る、という感触なのだ。何を書いているんだか、自分でもわからなくなってきたが。
 あと、前回観たのは半年前、ワンマンでさいたまスーパーアリーナ、今回は3バンド出演でスタジオコースト、というシチュエーションだったが、どちらでも変わらない、バンドとしての基本的なポテンシャルの高さに、改めて気がついたりもした。
 声がよく通る。歌詞がはっきり聴き取れる。ギターもベースもドラムも音の輪郭がクリアで、今何をやっているのかがよくわかる。リズム隊のノリと歌のノリがぴったり合っている、つまり「技術的に上手きゃいい」次元じゃないところで、演奏がいい。というような、本当に基本的な話だが、それらをここまできっちり達成しているバンドって、実はそんなに多くないと思う。

  • 兵庫慎司

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    兵庫慎司

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