兵庫慎司のとにかく観たやつ全部書く:第90回[2021年10月後半・ユニコーン、ナイツ、宮本浩次、フラカン、ピーズと木村充揮、斉藤和義など9本]編

コラム | 2021.11.09 17:00

イラスト:河井克夫

 音楽などのライター兵庫慎司が、基本は音楽、時々演劇やお笑いやプロレスなどの、自分が生で観た興行すべての短いレポを書いて、半月に一回アップする連載、90回目。2021年10月後半編です。今回は9本すべて生で観たやつ、しかもそのうち生配信もやっていたライブは2本だけ、という事実に、ライブ業界も、徐々にですが、コロナ禍前に戻りつつある、ということを感じます。

10月17日(日)16:00 ユニコーン@TACHIKAWA STAGE GARDEN

 『ユニコーンツアー2021 ドライブしようよ』全27本の15本目で、東京都立川市のTACHIKAWA STAGE GARDEN 2デイズの2本目。自分がこのツアーを観るのは初日の8月28日(土)の森のホール21(松戸市文化会館)以来。その時の当連載はこちら。
DI:GA ONLINE:兵庫慎司のとにかく観たやつ全部書く:第86回[2021年8月後半・フジロック3日間とユニコーンのツアー初日に行きました]編
 ユニコーンは前回の2019年のツアーを「100周年だから尺は100分、100分経ったらランプが回って強制終了」というルールでライブをやった。そしたら「時間内に収めるようキビキビやる」「でも実は曲数そんなに削ってない」「この方がむしろよくない? 内容が濃くて」みたいな手応えがある、と、当時、ご本人たちは言っていた。
 さすがに100分ではなかったが、みっちりと濃くてコンパクトだったこのツアーの初日を観て、「ああ、あの時の手応えを踏襲したんだなあ」と思った。全体の尺、短めでありながら、ニューアルバム『ツイス島&シャウ島』の曲、13曲全部やったし。
 が、この15本目では、MCが伸びたりして、その初日の濃さに、ちょっとリラックスした部分が加わったように感じた。メンバーたちがライブを楽しめる度合いが上がった、というか。
 なお、『ツイス島&シャウ島』のコンセプトが「ロックンロール」なので、ツアー初日にABEDONと奥田民生はリーゼントになっていたが、この日はEBIと川西幸一もリーゼント。特に川西さん、昨日は違ったのに、今日突然リーゼントになったそうで、メンバーも驚いていた。OT、川西さんを「みやぞん」、EBIを「吉田鋼太郎さん」みたいだ、と指摘。大笑いでした。

10月18日(月)19:00 ナイツ@国立演芸場

 ナイツが毎年秋に行っている全国ツアー、気がついたら3年連続で行っている。今年は『キャホーと言いながら亭主が帰ってきた。』というタイトル。彼らの師匠である故・内海桂子の生前のツイートから選んで、毎年タイトルを付けている、というのは、ナイツのファンには周知の事実です。
 で、今年観たのは、東京公演=国立演芸場3デイズの3日目。前座の赤もみじ、ゲストのホリ、企画のコーナー(オキシジェン三好によるナイツに関するクイズ)の他は、ナイツの漫才、全部で5本、で、最後に歌。5本の漫才、定番の鉄板のものも、新しい方法を試しているものも、どちらもとてもおもしろかった。あれだけラジオやって(週に6本)、テレビも出て、東洋館でもそれ以外でも漫才の舞台をやりまくって、それでもこうして新しいトライアルを続けているのって、すごい。と、素直に思う。

10月20日(水)18:30 宮本浩次@川口総合文化センター リリア メインホール

 キャリアは30年を軽くオーバー、現在55歳にして、いちばん人気があり、いちばん世の中に注目され、いちばん広く深く愛されているのは、2021年である現在。しかも「ピークが来た」んじゃなくて「まだまだ行きそう」という、はっきり言って異常な状態を迎えているのが、今の宮本浩次だ。
 最新アルバムは『縦横無尽』、47都道府県を回るそのツアーは『日本全国縦横無尽』というタイトルで、言い得て妙というか、確かにそのとおりだと思うが、『前代未聞』でもハマると思う。
 で、そのツアーの初日を観て、『縦横無尽』で『前代未聞』である上に『天下無敵』でもあることを、まざまざと感じた。ものすげえパワー。1本目からこんなライブやってたら5本目くらいで息絶えるぞ、と言いたくなるくらいの全開っぷりだが、この人は全然息絶えない、下手すりゃさらにテンション上がっていく、ということを既に知っているもんで、ただただ楽しんだ。
 あと、不思議なこと。ベテランのシンガーは、加齢と共にキーの上限が下がっていくし、喉のタフさも落ちていくものなので、書く曲もその範囲で歌えるものにしていくのが普通だと思うが、宮本浩次、そういう配慮を一切しない。限界ギリギリまで声を振り絞らないと歌えないような曲を、最新作『縦横無尽』でも書いている。「もっと楽に歌える曲を書けばいいのに」「でもそれをやらないから、今、こんなにすげえ声を聴けてるんだな、俺は」と思ったりもした、観ながら。

10月23日(土)17:30 フラワーカンパニーズ@日本橋三井ホール

 フラカンが毎年夏から秋頃に行っているアコースティック形式のツアー『フォークの爆発〜座って演奏するスタイルです〜』、今年はそのタイトルに『おくのさんといっしょ』をくっつけて、キーボードで奥野真哉が加わった5人編成で、東名阪を回った。そのファイナルがこの日、フラカンにとって初めての会場である日本橋三井ホール。客席にもイスを出してのライブだったが、その席が、一つ飛ばしじゃなくてきれいに埋まっていている様に、コロナ感染状況の落ち着きを感じた。
 『フォークの爆発』の時はいつもやっているカバー、今年はRCサクセション「お墓」、あいみょん「裸の心」、ニューロティカ「青いお空に」、ソウル・フラワー・ユニオン「そら」の4曲。奥野真哉がレコーディングにも参加している「日々のあぶく」や、奥野真哉のメロトロンが曲のサイケ感をブーストさせる「宙ぶらりんの君と僕」、ギター竹安堅一がマンドリンを弾き、奥野真哉がアコーディオンを弾く「夕焼け」などなど、この編成だとさらに映える曲、多数あり。
 あと、このツアーに限ったことじゃないが、奥野さん、MC、おもしろい。そのおもしろさ、うつみようこ&YOKOLOCO BANDやフラカンではおなじみだけど、宮本浩次/エレファントカシマシや、布袋寅泰のサポートの時は観られない魅力だろうなあ、と、いつも思います。

10月24日(日)14:00 『UKFC Extra〜弾き語りの夕べ〜』@恵比寿ガーデンホール/Streaming+

 UKプロジェクトの所属アーティストを中心にした毎年夏のイベント『UKFC』、今年は秋に、弾き語りイベントという形で、会場をそれまでの新木場スタジオコーストから恵比寿ガーデンホールに移して開催された。Streaming+で生配信もあり。
 オフィシャルのレポートを書きました。SPICEに掲載されたのはこちらです。
SPICE:ロックミュージシャンたちが弾き語りで集った『UKFC Extra〜弾き語りの夕べ〜』公式レポ到着

10月27日(水)18:30 The fin.、DURAN@渋谷クラブクアトロ

 渋谷クラブクアトロが毎年やっている、対バン企画『QUATTRO MIRAGE』の中の1本が、この日。
 最初はThe fin.。かなり久々に観たが(『ASAGIRI JAM』で観た記憶がある、と思って調べたら2015年だった)、良くてびっくりした。音が鳴っている間、何も考えられなくなるというか、ライブが終わって「あ、俺どっか行ってたわ」と我に返るというか。音楽自体も、ステージ上の佇まいも、ざっくり言うと淡々とした感じなのに、没入感、トリップ感が強烈。
 で、DURANは、稲葉浩志や清春やスガシカオや小袋成彬など、あちこちでひっぱりだこのギタリストであり、バンドでの活動を経て、2018年からはソロ・アーティストとして作品をリリースしている。サポートでギターを弾いている姿は観たことがあったが(彼が初めてスガシカオのツアーに参加した時のライブはよく憶えている、すごいインパクトだったので)、ソロとしてのライブを観たのはこの日が初めてだった。
 おもしろかった! 歌とギターの本人、ベース、ドラム、パーカッション、ホーンという編成で、ジャンルも手法も全部跨いでいくみたいに、自由自在に音を出していて。
 なお、The fin.は11月24日に、DURANは11月3日にニューアルバムをリリース。これを書いている段階では、前者は12曲中5曲が、後者は全曲が、Spotify等にアップされているので、よく聴いています。

10月30日(土)15:30 POTSHOT@LIQUIDROOM/ZAIKO

 最初のMCでRYOJIが「絶賛解散中のPOTSHOTです」と挨拶していて、そうか、「解散」というのは「終わり」だけじゃなくて、「状態」を表す言葉としても使えるのか、でも確かに今のPOTSHOTってそうとしか言いようがないなあ、と納得した。2005年の解散以降、ちゃんと再結成して作品を作ったりするわけではないけれども、フェスやイベントから声がかかった時などに、時々ライブはやる、という。
 今回のこれは、『POTSHOT 2021 26 YEARS OF SKA PUNK! TOUR』というタイトル。結成25周年と4thアルバム『POTSHOT a GO GO』のリリースから20年を記念して、2020年に行おうとしていたツアーが、コロナ禍でできなくなったので、2021年にやる、というもの。東名阪の3本、昼と夜の1日2公演で、昼の部は『POTSHOT a-GO GO』全曲再現プラスアルファ、夜の部は「25周年+1」をテーマにベストヒット的な選曲で行う、という趣旨だった。
 そのファイナルの日=東京公演(ZAIKOで生配信もあり)の、昼公演を観た。トロンボーンのチャッキーは参加できないということで(確か4月にイベントに出た時もそうだった)、代打で「スカ君」こと須賀裕之が加わった編成で、『POTSHOT a GO GO』の16曲を1曲ずつ再現していくステージ。メンバーたちの楽しさ以上に、オーディエンスの、「うれしそう」を超えて「感無量」な感じに、ああ、POTSHOTが青春だったんだなあ、と、なんかしみじみさせられた。POTSHOTと言えば「ステージの上も下もおーおー歌う」のが武器のバンドであって、コロナ禍でそれができないのに、終始とても熱い空気だったし。

10月30日(土)18:00 木村充揮、ピーズ@横浜BAY HALL

 『ROCKN’ ROLL CLOSET』という企画の40回目で、木村充揮とピーズという夢のような組み合わせ。このひとつ前に書いたPOTSHOTの昼の部が終わったのが16:50過ぎで、自転車でLIQUIDROOMから中目黒駅までダッシュして東横線に乗り、終点の元町・中華街駅で下りて歩くこと約20分、横浜BAY HALLに着き、階段を上がってドアを開けたら、ピーズの4人はステージでそれぞれの持ち場についていて、「もう始められるんだけど、予定時間より早いと怒られちゃうから」と、18時になるのを待っているところだった。よかった、間に合って。
 で、ピーズ、「いつもだと老害とか言われてる俺たちですけど、今日に限ってはプリティ・ヤングですから」(はる)、「なんて日なんだよお、今日はあ! うれしいよお!」(アビさん)と、日本のブルースの生ける伝説との対バンを喜びながら15曲。11月1日(月)からライブ会場&通販で発売開始のミニアルバム『2021』の5曲もすべて演奏。
 MCによると、最初は弾き語りでオファーが来たそうだが、はるがバンドで出ようと言い出して、アビさん大喜び、というような按配だったらしい。
 そして、歌とギターとそれ以外のパフォーマンス(自分のギャグに自分で笑うとか、お酒飲んでばかりでなかなか曲を始めないとか)で、ファンを大いに喜ばせ、初めて観る人を大いに驚かせた木村充揮のステージの後半、ピーズの4人が加わってバンド編成になる。
 その1曲目は、木村「キーはCやから」とだけ言って、「ジェリー・ロール・ベイカー・ブルース」を、ぶっつけ本番でプレイ(したのだと思う、ピーズの4人が木村充揮を凝視しながら手探りで演奏していたので)。そして「嫌んなった」「おそうじオバチャン」と憂歌団の初期の名曲を二連発、ラストは「上を向いて歩こう」のカバー。
 このメンバーで聴けるなんて!木村さんとはるさんが交互に歌うなんて! という、超贅沢な時間だった。どちらも大好きな、終演と同時に、高校の頃に一緒にバンドをやっていた同級生(広島在住)に、「俺こんなの観たぞ!」とLINEを送ったくらいのうれしさでした。
 ただし、「おそうじオバチャン」は、ピーズは本来のシャッフルのアレンジで練習して来て、サウンドチェックもそれで行ったのに、本番で木村充揮が急に8ビートのロックンロー・バージョンに変えたらしく、終わったあとにはるが「俺たちめちゃくちゃ練習して来たんですよ!」と言っていた。でも「幸せでした」とも言っていた。

10月31日(日)17:30 斉藤和義@東京国際フォーラム ホールA

 コロナ禍で開催できなかった2020年のツアーと、2021年のニューアルバム『55 STONES』のツアーを合わせて行う、という趣旨の『KAZUYOSHI SAITO LIVE TOUR 202020 & 55 STONES』のファイナル、東京国際フォーラム ホールAの2デイズの2日目。
 アルバム2作分というボリューム感に加え、ドラムとキーボードがこのツアーから参加した新メンバーだったり、フリーセッションの曲を設けたり、MCで2020年から凝り始めた自作ギターを3本紹介したり、アンコールの最後がメンバー全員のドゥーワップで終わったり、と、新しいトライアルに満ちたライブだった、と感じた。
 11月4日(木)の、朝日新聞の夕刊にレポを書きました。朝日新聞デジタル、会員記事ですが、読める方はぜひ。
朝日新聞デジタル:(評・音楽)斉藤和義 アルバム2作分、多彩に進化

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