兵庫慎司のとにかく観たやつ全部書く:第128回[2023年3月前半・女王蜂、GRAPEVINE、エレファントカシマシ、クリープハイプ等の7本を観ました]編

コラム | 2023.04.05 18:30

イラスト:河井克夫

 音楽などのライター兵庫慎司が、自分が観たすべてのライブ(基本的に生・時々配信)のレポを書いて、半月に一回ペースでアップしていく連載の第128回・2023年3月前半編です。
 今回は、音楽6本でお笑い1本、東京圏が6本で新潟が1本でした。新潟LOTSに行ったの、いつ以来だろう……そうだ、THEE MICHELLE GUN ELEPHANTの解散ツアー以来だ、じゃあ20年ぶりか。みたいなことをツイートしたら、「違います、ミッシェルの解散ツアーは今はなき新潟PHASEでした」という指摘をいただきました。ああ、だからか、LOTSに着いた時、「あれ? 川っぺりに建ってた記憶がうっすらあるんだけど、違うなあ」と思ったのは。と、納得し、訂正しました。

3月2日(木)19:00 女王蜂@東京ガーデンシアター

 アニメ『チェンソーマン』第11話エンディングテーマとして提供した「バイオレンス」がタイトルに冠された大会場単独公演。すごかった、もう。このDI:GA ONLINEにレポを書いたので、ぜひ。≫ DI:GA ONLINE:女王蜂、「すべての瞬間が絵になる」一瞬も見逃せないステージをガーデンシアターで体現、オーディエンスを熱狂させた90分

3月3日(金)19:30 かが屋、ハナコ、空気階段@草月ホール

 というコント師3組によるライブ、タイトルは『三者三様』。僕は知らなかったが、2年前にも行われているそうです。空気階段の単独、いつも申し込んでも外れて、配信で観ているもんで、試しにこっちに申し込んでみたら、あっさりチケットが取れたのだった。ロックバンドと同じですね、単独よりもイベントの方がチケットを取りやすいというのは。
 でも、ハナコもかが屋も好きだし、生で観れてうれしかった。で、かが屋→ハナコ→空気階段の順で、1本ずつネタをやって、終わるともう1本ずつ、つまりそれぞれ2本ずつだったのだが、3組とも「1本目からおもしろい」「でも2本目がさらにおもしろい」仕上がりだったのが、さすがだった。
 あと、こういうライブの常として、出演者全員によるトークコーナーがあったのだが、これが新鮮だった。「今のうちに芽をつんでおきたい後輩」というテーマで、それぞれが語る、要は「この後輩がおもしろい」と紹介し合う内容だったのだが、自分は見事にちんぷんかんぷん、知っているのは1〜2組だけ。だが、満員のお客さん、誰かが名前を挙げるたびに「ああー」と声が出たりして、みんなちゃんと知っているのだ。
 うわ、俺、部外者! にわか! という感覚、普段ロックバンドを観に行っていると、あんまり感じることがないので、疎外感よりも新鮮さの方が上回ったのだった。あ、でも、ハナコの菊田だけは「俺、知らない」「そいつらも知らない」という感じで、私レベルでした。

3月4日(土)13:00 チョーキューメイ@新宿Marble

 昨年12月3日に、下北沢のサーキットイベントで初めて観たらとてもおもしろくて、次に自分が観れるタイミングは……と探したら、またサーキットイベントだった。今度は新宿、『見放題東京2023』で、Marbleの2アクト目に出演。
 この日も、とてもおもしろかった。ボーカル&ギター&バイオリンの麗の、めったやたらと目を惹きつけるキャラクターと、歌メロ&リリックの強さがいちばんの武器だと思うが、16ビート基調の常に「ハネてる」リズム隊も、ギター以上にピアノがサウンドのキーになっているところも、強く耳にひっかかる。あとシンプルに演奏がうまいし、若さに似合わずパフォーマンスも堂に入っている、というのも重要。
 今年1月に新しいEP『LOVEの飽和水蒸気量』がリリースされ、ウェブまわりにインタビューとかの記事もいくつか出ていて、もう注目され始めているようだ。次のワンマンは、4月15日(土)渋谷eggman。

3月4日(土)17:00 POLYSICS@渋谷 CLUB QUATTRO

 『見放題新宿2023』でチョーキューメイを観て、せっかくなのでその後も新宿のライブハウスをいくつか回ってから、渋谷クラブクアトロのPOLYSICSへ移動。
 ポリ、2022年は結成25周年なので、1年かけて全国各地を25本回る、そして1本につき1曲ずつ新曲を初公開していく、というツアー『POLYSICS 25th Anniversary Tour〜アタック25!!!〜』を行って来た。3月3日(金)の渋谷クラブクアトロで、25本目を迎えて、ツアーが終了。
 その翌日であるこの日は、POLYSICSが新宿JAMで初ライブを行ってからぴったり26年後、ということで『POLYSICS 26th Anniversary Live〜P2P〜』を、同じ渋谷クラブクアトロで開催。つまり、25周年の締めと26周年のキックオフを、2デイズで行ったのだった。当然ながら、1日目と2日目、まったく違うセットリスト。
 短距離走のような、もしくはフェス出演時のようなスピードと勢いで、20曲以上の尺を走り切る──ここ数年のPOLYSICSのワンマンは、そういう印象があったが、この日は比較的、曲間をとったりMCをはさんだりして、違うやりかたに挑んでいるのかな、と思わせる新しさがあったように感じた。
 とはいえ、ステージの上と下の、沸騰しっぱなしみたいな熱さは、これまでと変わらなかったが。いや、もっとヒートアップしていたかもしれない。1月末以降の声出し解禁で、オーディエンスのみなさん、心おきなく叫べるようになったので。
 「トイス!」や「オイ! オイ!」はわかるが、「カジャカジャグー」のサビで全員「カジャカジャグー−−−!!」とシャウトする、なんて光景、コロナ禍前もなかった気がする。最後は「Buggie Technica 2012」「Electric Surfin' Go Go 2017」「CODE4」の3連発で大団円。

3月5日(日)17:00 GRAPEVINE@新潟LOTS

 2002年リリースの5thアルバム『another sky』から20年、ということで、その再現ツアーの再追加公演。中野サンプラザ、新潟LOTS、Zepp Nambaの3本だが、東京の日は行けない (前回書いた四星球の日比谷野音と当たっていたのです)、じゃあ地方まで行こう、どうせならしょっちゅう行っている大阪より新潟がいいな、ということで、足を運んだ。
 このツアー、そもそも過去のアルバムの再現ツアーである上に、2022年7月2日・東京・昭和女子大学人見記念講堂のライブ映像作品とライブ音源作品が、すでにリリースされているので、田中和将曰く「ネタバレもクソもない」状態。どうするのかと思ったら、前半は『another sky』の収録曲を、12曲目から1曲目まで逆の順でやっていく、という構成だった。なるほど。
 で、後半は通常のライブで、新旧のいろんな曲を……いや、「旧」よりも「新」の方が多いくらいの感じで、アンコールを含め11曲をプレイした。
 どの曲も見事だったが、後半の4曲目・頭から数えて16曲目に演奏した「ねずみ浄土」が、特にくるものがあった。始まった瞬間にオーディエンスが「きたっ!」という空気になった。この曲を待っていたんだなあ、というのがリアルにわかる。GRAPEVINEの音楽的変遷の中でも、あるいは日本のロック・シーンにおいても異端中の異端である、この、言わば「どうかしてる」曲が、ライブのハイライトになっているのって、すごいことだし、すばらしいことだと思う。
 なお、最終日の大阪のオフィシャルレポートを、知人のライター鈴木淳史が書いているのを見つけたので、貼っておきます。≫ ぴあ:GRAPEVINE、再現ツアー『another sky』最終公演オフィシャルレポート「趣向凝らして逆からやってみました」

3月11日(土)18:00 エレファントカシマシ@横浜アリーナ

 新曲「yes.I.do」を携えての、デビュー35周年アリーナ・ツアー、横浜アリーナ×2、有明アリーナ×3、日本ガイシホール×2、大阪城ホール×2、の全9本の初日。さいたまスーパーアリーナとかはあったが、ここ横アリでエレファントカシマシを観るのは初めて。
 これを書いている時点では、大阪がまだ終わってないので、セットリストや演出等に触れるのは自粛しますが、ひとつだけ。けっこう前から宮本浩次、ライブでイヤモニを使っている。で、このツアー、ステージのまんなかから長い花道が設けられているんだけど、その先まで出て行って歌う時、イヤモニをむしり取って外している状態だったりするのだ。
 花道の先には、モニター(いわゆるコロガシ)は用意されていない。だから、バンドの音はきこえない。でも、演奏と歌がずれないのだ。この初日だけじゃなくて、その後も何本か観たこのツアー、一貫してそうなんだけど、あれ、なんでなの? なんでそんなことができるの? と、観るたびに不思議です。

3月12日(日)16:00 クリープハイプ@幕張メッセ

 幕張メッセと大阪城ホールの、アリーナライブ2デイズずつ。現在のメンバーになって10周年を記念して、2020年に行われるはずだったが、コロナ禍で延期になり、3年越しでようやく実現して、そのうちの幕張メッセの2日目を観た。で、大阪城ホールが3月25・26日なので、それまではネタバレできないが、これはぜひとも具体的に書きたい! なら終わるまで待とう、と決めたのだった。
 というのはですね。細部に至るまで見どころだらけ、興奮ポイントだらけのすばらしいライブだったのだが、中でもラストにやった「二十九、三十」が、もう究極だったのだ。
 「こういうひねくれたバンドだから、ちょっとでも背中を押しただけで、めちゃくちゃメッセージソングだと思われるのは恥ずかしいんですけど……実際、めちゃくちゃメッセージソングです」
 という尾崎世界観の言葉から曲に入ると、ステージ後方の画面に、次々と映し出されたのは、誰もいない渋谷スクランブル交差点、誰もいない新幹線の社内、誰もいない道頓堀、誰もいない京都、ブランコに使用禁止のテープが巻かれた誰もいない公園──などの、3年前の最初の緊急事態宣言、要はこのライブが中止になった当時の、日本各地の光景。
 つまり、3年前と現在のクリープハイプ、だけではなく、ここに集まった満員のオーディエンスの、3年前と現在も含めての、このライブであり、この曲であり、今のこの瞬間です、という演出だったわけだ。
 うわあ。泣くわこんなの。と思ったら、今まさに客席で泣いている女の子の顔がアップで映し出されたりして、「あざとい!」と思ったが、それでもまんまと大感動させられた。負けました。そう言いたくなりました、何か。
 で、尾崎、去り際に、「なんか、写真でも撮りましょうか。ダサいと思ってたけど、こういうの」。そう、今やどのバンドもやっている「最後に客席をバックに記念撮影」をやらないバンドなのだ、クリープハイプ。客席からどよめきと歓声と拍手が起こる。「……やめた方がいいかな。どう思う?」と迷ったりしつつ、結局「ああ……なんかダセえなあ……なんかダセえなあ……」とぼやきながら、記念撮影をした尾崎だった。というのもよかった、とても。

  • 兵庫慎司

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    兵庫慎司

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