兵庫慎司のとにかく観たやつ全部書く:第129回[2023年3月後半・エレファントカシマシのツアー4本目、奥田民生のツアー最終日などの7本を観ました]編

コラム | 2023.04.25 17:00

イラスト:河井克夫

 音楽などのライターである兵庫慎司が、自分が観たすべてのライブについて何か書いて、半月に一回のペースでアップしていく連載の第129回目・2023年3月後半編です。今回は、洋楽1本・邦楽4本・芝居(?)1本・フェス1本の合計7本でした。
 なお、最後の『シブヤデマタアイマショウ』に関しては、総合演出の松尾スズキさんがもし読んだら「そこをそんなに長々と書かれても」と言うと思いますが、書きたい気持ちを抑えられませんでした。

3月16日(木)19:00 PHOENIX@Zepp Haneda(TOKYO)

 数年前の『SUMMERSONIC』にこのバンドが出た時、ステージ間の移動の時間を読み間違えて出番に間に合わず、終わりのあたりのほんのちょっとしか観れなかった。でも、ほんのちょっと観ただけでも猛烈に良かったので、己の迂闊さを呪いつつ、次に来日があったら行こう、と決めたのだった。
 もちろん、コロナ禍より前の話です。今、調べたら、2017年でした。というわけで、今回がその「次の来日」……ではなく、その後も何度か来日しているが、そのたびに自分のタイミングが合わなかったり、チケットを取りそこねたりして、今回ようやく観ることができたのだった。5年半も経っていますね。
 それだけ待ったかいがあって、というのをさっぴいても、やはり、猛烈に良かった。DAFT PUNKの数年後、AIRなんかと一緒にパリのシーンから出て来たダンス系のグループ(実際、最初はAIRのバックバンドとして結成された)、でもロック・バンドならではのダイナミズムもふんだんに搭載している──という、最初の頃の印象は変わらないが、音もパフォーマンスも、年月が経ってもフレッシュなまま。いつ聴いてもいつ観ても新しいし、いつ聴いてもいつ観ても楽しい。
 あと、ボーカルのトーマス・マーズ、ライブ巧者と言えばいいのか、オーディエンスを前にしてステージに立っている間の、ふるまいや、佇まいや、歌い方や、演奏のしかたや、表情なんかが、とにかくいちいち魅力的。いやあ、むいてる。この仕事むいてるわ、あなた。と、言いたくなりました。

3月18日(金)11:00 『LIVE the SPEEDSTAR』@幕張メッセ

 毎年この時期に幕張メッセで開催されている、そして毎年オフィシャルレポの仕事をいただいている『ビクターロック祭り』、今年はビクター内のレーベル、スピードスターレコーズが設立30周年、ということで、それを祝うイベントとして、スピードスター所属のアーティストのみが出演して行われた。2ステージ制で、交互に演奏が進んでいく。
 GRAPEVINE、スガ シカオ、UA、KREVA、くるり、星野源、斉藤和義、矢野顕子、SPECIAL OTHERS、つじあやの、藤巻亮太、THE BACK HORN、AA=、竹原ピストル、LOVE PSYCHEDELICO、オープニング・アクトのMaverick Mom、以上の16組が出演。
 生え抜き組(くるり、つじあやの、UA、星野源、THE BACK HORN)も、移籍組(GRAPEVINE、スガ シカオ、KREVA、斉藤和義、矢野顕子、SPECIAL OTHERS、LOVE PSYCHEDELICO)も、いっぺん離れたけど戻って来た組(藤巻亮太、AA=、竹原ピストル)も含めて、キャリアの長いベテラン勢にオファーを出したんだな、という顔ぶれである。
 自分はそのうちのGRAPEVINE、UA、くるり、斉藤和義、のレポを書きました。PA卓のところで観ながら書いて即アップ、という仕事だったので、慌ただしかったが、楽しかったし、自分が書かないやつもすばらしいアクトばかりだった。お世辞でなく、スピードスターっていいアーティストだらけだな、というか、自分の好みと合うんだなあ、と、改めて実感した。
 スピードスターのサイト「SPEEDSTAR CLUB」で読めます。会員登録が必要ですが、無料なので、ぜひ。≫ SPEEDSTAR CLUB:LIVE the SPEEDSTARライブレポート&セットリストプレイリスト公開!

3月19日(日)17:00 エレファントカシマシ@有明アリーナ

 デビュー35周年アリーナツアー=横浜アリーナ×2、有明アリーナ×3、日本ガイシホール×2、大阪城ホール×2、の全9本のうちの、4本目・有明アリーナの2日目。9本のうち、行ける日は行ける限り行こう、と決めていて、自分が観たのはこの日が2本目。
 で、このあと、名古屋2デイズと、大阪の2日目も行ったのだが、結果的に、この日の宮本のテンションが、もっとも尋常じゃないものだったかもしれない。
 って、全公演観たわけじゃないから、決めつけるのはまずいが、でも、そう言いたくなるくらいのすさまじさだった。6曲目に「珍奇男」をやるのだが、あんなにアドリブだらけで、吠えるように暴れるように歌われる「珍奇男」、初めて観たかもしれない。鳥肌が立った。
 曲の後半では、宮本、叫びながら男椅子やマイクスタンドを蹴散らした挙げ句、ステージ床のパンチカーペットを持ち上げてビリビリビリー! って剥がしてしまう。ああっ、ダメそんなことしちゃ! アンコールならいいけど、まだ序盤なのに! このあとの進行に支障が! と、ハラハラした。

3月20日(月)19:00 マキシマム ザ ホルモン@仙台GIGS

 コロナ禍でお客さんが声を出せない間、『叫ぶペットボトルの黙る会』(7本のツアー。声を出す代わりに石などを詰めたペットボトルを振る)と、→『叫ぶペットボトルの唸る会』(名古屋公演1本。声を出す代わりに唸る)を行って来たマキシマム ザ ホルモンが、ついにお客さんが声を出していい状況になった、というので、(おそらく)急遽組んだツアーが、この『うる声やつら〜叫ぶ会〜』。2/17岡山、3/6静岡県の清水、3/20仙台、3/23札幌の4本。東京圏はなし。なので、仙台まで足を運んだ。
 で、行ってよかった。仙台GIGS、地方ではめずらしいデカバコで、スタンディングで1,500人強。そのフロアをぎっしり埋めた腹ペコたちが、久しぶりに叫んだり歌ったりわめいたりガヤを飛ばしたり、一糸乱れぬきれいなヘドバンをキメたり(これは声出しNGの頃からだが)、というさまが、なんかもう、めったやたらと感動的だったのだ。
 まだマスクはマストだし、ダイブ/モッシュは禁止なので(というか、ダイブ/モッシュはコロナ禍前から日本全国どこでも禁止で、でも厳しく取り締まっていなかった、ということなのだが)、本当に規制がすべて解除されたわけではない。それでも、この場にいてオーディエンスのエネルギーを浴びているだけで気持ちが浄化されていく、そんな光景だった。最初のMCでナヲちゃんが「何やだ、ちょっと、グッとこさせないでよ!」と叫んだ気持ち、よくわかりました。

3月21日(火・祝)17:30 真心ブラザーズ@中野サンプラザ

 毎年この時期の恒例であり、活動休止前のバンド形態=10人編成のMB’Sでライブをやる年に一度の機会、として続いてきた、真心ブラザーズの中野サンプラザだが、7月にサンプラが休館する、という事情で、通算20回目にしてひとまず最後になったのが、この日。キーボードの小川文明が2014年に亡くなった後は、ソウル・フラワー・ユニオンの奥野真哉が後任となって続いてきた、真心のふたりとメンバーたちにとっても、ファンにとっても、とても大切な行事(そう、「行事」と言っていいと思う)である。
 「EVERYBODY SINGIN’ LOVE SONG」「BABY BABY BABY」「愛」で始まり、「新しい夜明け」「ENDLESS SUMMER NUDE」「空にまいあがれ」で本編を終え、アンコールで「拝啓、ジョン・レノン」「RELAX〜OPEN〜ENJOY」を追加した、つまり「MB’Sであること」を軸に、やりたい曲・聴かせたい曲を詰め込んだ。2時間半・22曲。
 堪能しました。で、ちょっとしんみりしました。が、今回で最後であることについて、桜井秀俊は「くー、悲しい」と気持ちを表したのに対し、YO-KINGは、「寂しいけど、楽しかったからいいや!」と言ったのには、思わず笑った。おかげで、何か明るい気分になって、帰途につきました。

3月26日(日)18:00 奥田民生@広島上野学園ホール

 2年ぶりの全国ツアー『奥田民生2023 ラビットツアー 〜MTR&Y〜』の、地元広島で迎えたファイナル。このツアーの初日の1/28市原市市民会館、オフィシャルのライブレポを書きましたが(こちら ≫ SPICE:奥田民生、2年ぶり全国ツアー開幕 初日公演のオフィシャルレポート到着)、この最終日もオフィシャルのレポを書きました。ぜひ。≫ DI:GA ONLINE:奥田民生、地元広島の地で満員御礼のツアーファイナル!

3月31日(金)19:00 『シブヤデマタアイマショウ』@シアターコクーン

 ミュージカルというか、レビューというか、コンサート+演劇+コントの合体形というか、とても説明が難しい、松尾スズキの総合演出による、歌って踊って笑わせるエンタテインメントショー。2021年4月に『シブヤデアイマショウ』を上演して、今回はそのパート2。松尾スズキ、多部未華子、猫背 椿、村杉蝉之介、近藤公園、秋山菜津子、等が出演。プラス、生田絵梨花や小池徹平や森崎ウィンやソニン等の10名から、1公演につき2名が、歌のゲストとして登場。
 で、この公演を最後に、松尾スズキが芸術監督を務めるシアターコクーンが休館になるので(隣の東急本店の閉店→解体→その跡地にどでかいビルが完成する2027年まで、閉まるのだった)、タイトルの『シブヤデアイマショウ』に『マタ』が入ったのだと思います。
 3月30日から4月9日まで、昼夜2公演の日も含め、計13公演行われたうちの、2公演目を観た。その回の歌のゲストは、笠松はると廣瀬友祐だった。で、頭から最後まで、全身がくたびれるくらい笑ったし、歌やダンスにも魅了されたり、やっぱり笑ったりもしたし、つくづく「こんなのできるの松尾スズキだけ」な、すばらしい時間だった。以下、そのすばらしい時間の中で、個人的に超ツボだったポイントについて、書きます。
 この公演、8人編成の生バンドが入っていた。で、終盤、この舞台のテーマ曲「シブヤデアイマショウ」をみんなで歌い踊って、感動的にフィナーレ、と思ったら、突然次の曲が始まる。「は? なになに?」となる客席。え、この曲、globeの「DEPARTURES」じゃない? どういうこと? するとKEIKOのボーカルが始まるところで、いきなりバイオリンの女性が立ち上がって歌い始める。客席、爆笑。で、間奏、マーク・パンサーのパートは、ギタリストの男性がマイクをつかんでラップを始め、客席、さらに大爆笑──。
 というくだりがあったのだが、この「ギタリストが突然ラップ」のところで、客席でいちばん笑ったの、たぶん僕だと思う。ギタリストの彼、元ニューエスト・モデル→元ソウル・フラワー・ユニオンの河村博司なのだ。
 このバンドは、ピアノの門司肇がバンマスで、彼は松尾スズキの舞台の音楽を長年手掛けている。特に、生バンドが入る時は、この人の仕切りになることが多いのだが、10年くらい前からかな、そのバンドに毎回参加しているのだ、河村博司。「あ! あれ河村博司だ!」と、最初に発見した時は驚いたが、今回のラップはもっと驚いた。で、めちゃめちゃ笑った。
 ソウル・フラワー・ユニオンのキーボードの奥野真哉、ひっぱりだこのサポートミュージシャンで、あとフラカンと仲がいいのもあって、普段、現場で出くわす機会が多いので、次に会ったら知らせようと思います。

  • 兵庫慎司

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    兵庫慎司

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