兵庫慎司のとにかく観たやつ全部書く:第159回[2024年4月前半・The Street Sliders×2、凛として時雨とsyrup16gなどの7本を観ました]編

コラム | 2024.05.01 17:00

イラスト:河井克夫

音楽などのライター兵庫慎司が、自分が観たすべてのライブのレポを書いて、半月ごとにアップしていく連載の159回目=2024年4月前半編です。久々に奇妙礼太郎の超絶ボーカルを味わえたこと、syrup16gの新曲を何曲も聴けたこと、スライダーズを二回観たことなどが、今回の個人的トピックでした。

4月1日(月)19:00 奇妙礼太郎、大武茜一郎 @ 下北沢440

奇妙礼太郎のLP『奇妙礼太郎』(2023年6月にリリースされた、音楽活動25周年記念アルバムのアナログレコード化)と、突然少年の大武茜一郎(以下せんちゃん)のソロアルバム『ヘイベイビー』の、ダブルリリース記念の弾き語りライブ。
先にせんちゃんが全7曲・40分のステージ。そのアルバムの表題曲「ヘイベイビー」と「マスクをはずして」(というタイトルだと思う)、あと最後にやった「同じ月を見ている」の3曲が、特に強く耳に残った。
奇妙礼太郎は、前半は「竜の落し子」「散る 散る 満ちる」「ONLY FOOL」と自身の曲を固め、中盤から後半はU-zhaan×環ROY×鎮座Dopenessの「おでん」と「ギンビス」、知久寿焼「きこえないうた」、オードリー・ヘプバーンやダニエル・ジョンストンのカバー曲などを経て、「最後に」と、ピアノ弾き語りで「スタンド・バイ・ミー」を歌う。ここまでで10曲。
で、「スタンド・バイ・ミー」のアウトロで「せんちゃん、助けて」とせんちゃんを呼び込んだ、と思ったら、「ウキウキWATCHING」=『笑っていいとも』のオープニング曲を歌い始め、客席から微妙な合唱が起こる。次はふたりで「ひとつになりたい」(蔦谷好位置のプロジェクト=KERENMIで奇妙礼太郎が歌った曲)を聴かせてくれる。
そして、出た、名曲「君が誰かの彼女になりくさっても」。せんちゃんがメインボーカルで、そこに奇妙さんが合いの手(歌詞に反応して「なんで?」「まだええやんか」「あたりまえのこと言うてるね」など)や雄叫びを入れまくる。さらに後半には、曲に合わせてaikoの「花火」の歌詞を歌い出す奇妙さん。aiko大好きなせんちゃんが、ここ440でaikoの曲だけを歌うイベントをやっているからだそうです。
で、会場が笑いと拍手に包まれて終了、かと思ったら、アンコールを求める拍手が止まず、急遽松田聖子「赤いスイートピー」を追加。せんちゃん、「一緒に歌ってくれる?」と言う奇妙さんに「ぜひ」と応えたものの、まったく予定になかったようで、2サビで歌詞が怪しくなったところで「♪きいてないよ〜赤いスイートピーやるのきいてなーい」などと歌う。
なんとか歌い終えて大拍手に包まれたせんちゃん、去り際にひとこと。「みんなでカラオケ行きませんか?」。

4月2日(火)19:00 フラワーカンパニーズ @ 中日ホール

フラワーカンパニーズは2024年3月から7月まで、結成35周年ツアー『今が旬』(いいタイトル)を行っているが、その途中でツアーとは別に名古屋でブッキングされたワンマン『竜の叫びを耳にした』が、この日。
彼らの地元名古屋で、建て替えられて4月23日に全面開業する中日ビルの中にある中日ホールが、一足早く3月29日から4月14日までオープニングイベントを行う、ということで、その中の1本としてオファーがあったそうだ。なお、他の日は、「ボブ佐久間×愛知工業大学名電高等学校吹奏楽部」とか、純烈とか、SKE48とか、落語とか、映画の先行試写などで、いわゆるロックバンドが爆音を出すのは、この日が初めてだという。
というわけで、いつものSEではなく「燃えよドラゴンズ」で登場し(「竜の叫びを耳にした」というタイトルはその歌詞から)、名古屋時代から存在する曲「孤高の英雄」でスタート。後半でも同じく名古屋時代から演奏している「アイ・アム・バーニング」や「恋をしましょう」が演奏された。
最新シングルの「アメジスト」と「ハートのレース」や、その前のシングル「天の神さまの言うとおり」、3月3日に配信リリースしたばかりの「ディスイズナゴヤ」(この日がライブ初披露)、などの最近の曲もプレイ。
それから、10曲目に「深夜高速」をやった時、鈴木圭介が歌い始めたらマイクが声を拾わなくてきこえない、というトラブルがあったのだが、咄嗟にお客さんたちが代わりに歌い始めて、はからずも感動的な光景になったりもした。普段のライブでは、この曲をみんなでシンガロングするようなことはないので、とてもレア。
あと、できたばかりの会場というのは、往々にして音が良くなるまで時間がかかるもんだけど、この中日ホール、驚くほど音が良かった。PAさんの腕も大きいだろうけど。ということもあって、本編20曲・アンコール2曲・Wアンコール1曲の23曲、満喫しました。

4月5日(金)19:30 まんぷく @ 下北沢近松

「今後ワンマンライブを続けていく第一歩として『腹一分目』と銘打ちました」──この日のライブを発表した時、タイトルの理由が公式サイトにそう書かれていたまんぷくのライブ。満員の下北沢近松で、本編13曲・アンコール2曲、トータル1時間10分強くらいのステージだった。
このバンドのステージを観るのは、半年ぶり・二回目。一回目は下北沢モナレコードで対バンライブだったので(この時です兵庫慎司のとにかく観たやつ全部書く:第146回[2023年10月後半・木村充揮×奥田民生、GRAPEVINEなどの4本に行きました]編 )、ワンマンは初めて。
歌&ギター、鍵盤、ベース、ドラムの4人からなる、フォーク・テイストのロックというか、はっぴいえんど以降日本のロックの中に脈々と続くジャンルというか、ただしシティ・ポップと言うにはもうちょっと素朴でいなたい感じというか……とにかく、そんなあたりの音楽性のバンドなのだが、前回観た時と比較すると、びっくりするほど良くなっていた。
そのあたりの音が好きな人には無論ばっちり、かつそれ以外の趣味嗜好の人たちにもリーチできそうな感じ。「え、今なんて言った?」とか「え、そう展開する?」と思わせる瞬間が、歌詞にもメロディにもある。
アンコールで次回のワンマン『腹二分目』を行う、という発表あり。9月27日(金)下北沢シェルターだそうです。

4月6日(土)17:30 The Street Sliders @ 日比谷野外大音楽堂/WOWOW、WOWOWオンデマンド

2023年5月3日日本武道館から始まった、The Street Slidersデビュー40周年記念プロジェクトの締めくくりである、2024年3〜4月のツアー『40th Anniversary Final THE STREET SLIDERS「Thank You!」』。その開催がアナウンスされてだいぶ経ってから、『THE STREET SLIDERS 40th Anniversary Final Special GIG 「enjoy the moment」』というタイトルで、追加発表されたのが、この日比谷野音である。
その日比谷野音を含めて、4月にスライダーズのライブを3本観た。というのは、立川ステージガーデンで始まり、NHKホールで終わるこのツアーが発表になった時、その最初と最後の東京2本はチケットを取れる気がしないから地方を狙おう、どうせなら沖縄がいいな(好きでよく行くのです)、沖縄なら取れやすそうだし、と申し込んだ。取れた。
で、後日。ソニー・ミュージックから、最終日のNHKホールの、レーベルが各メディアに発信するオフィシャルのレポを書く仕事の依頼が来た。で、「日比谷野音も観ておいてください」と言われて、喜んで行った。その結果、俺、沖縄まで行く意味は? ということになったのだった。
この日比谷野音、WOWOWで生中継、さらにWOWOWオンデマンドではアーカイブ配信もあったので、観た方も多いのではないかと思うが、本編のラスト3曲にホーン隊3名が加わるという特別編成タイムもあり。「Oh! 神様」「BADな女」「BACK TO BACK」をその分厚い音で聴けるのがうれしかったし、何より日比谷野音でスライダーズを観れること自体が幸せでした。

4月7日(日)16:30 凛として時雨、syrup16g @ LINE CUBE SHIBUYA

毎年5月に福岡で開催されているフェスで、今年は4月13・14日に渋谷のライブハウス10会場でも行われる『SYNCHRONICITY』が、それに先駆けて4月6・7日にLINE CUBE SHIBUYAで組んだ対バンイベントの2日目がこの日。対バンしたのはこの日が初めて、と、時雨のMCでピエール中野が言っていた。曰く「やってそうでやってなかった2マン」。確かに、3ピース、照明暗め、ギターのエフェクト深め、など共通項が多い2組である。あと、シロップの時に中畑大樹が言った「ドラムがMCするのね」というのも同じ。
で、時雨は「DISCO FLIGHT」「Telecastic fake show」などの代表曲を惜しみなくやってくれるセットリストだったが、シロップは、本編11曲アンコール1曲の12曲のうちの、なんと5曲が新曲。出たよ。と、思った。もう録音してあって、リリースを発表する前である、というようなことは、ないと思う。ただ、作っちゃったんだと思う。
というのはですね。ライブがあるのでリハーサルに入ったら、新曲ができてしまって、急遽レコーディングしてリリースすることにした、みたいなことが、過去にもあったのだ、このバンドは。
以前、五十嵐隆にインタビューした時、3人でリハに入ると、普段から人のサポート等の仕事をやっているベースキタダマキとドラム中畑大樹は、うまいから練習の必要がなくて、すぐスタジオでやることがなくなる。そうすると、つい新曲を作ってしまう、みたいなことを言っていた。今回もそのパターンなんだと思う、たぶん。
後半のMCで五十嵐、「また新曲をいっぱいやってすみません。日頃誰ともしゃべってないんで、歌ぐらいしかね、コミュニケーションがないので」。拍手を浴びていました。

4月7日(日)20:10 the telephones @ 代官山UNIT

東名阪対バンツアーのファイナル。18:00開演で、DJ片平実やDJ FREE THROWの3人やDE DE MOUSEやimaiが出演、トリのthe telephonesの出番は20:10。LINE CUBE SHIBUYAが終わってから行ってもthe telephonesには間に合うので、ハシゴした。着いたらその前のアクト=imaiが、マッドな音を放射しまくってめちゃめちゃ盛り上げていた。
で、the telephones。1年前にベース長島涼平が脱退して3人になったタイミングで、後任やサポートを入れるのではなく、そのまま3人で新しい方向へ舵を切った。それはたとえば「バックトラックの重要度アップ」「ドラム松本誠治は生ドラムからエレドラへ」「ノブの『演奏に貢献しなさ』に拍車がかかる」などというライブのやり方なのだが、わずか1年で早くもその完成形です、みたいな、圧倒的なステージだった。今の方がパーティー的な狂騒感がアップしていて、今の方がハイテンションで、今の方が下世話なくらいポップになっていて、そして今の方が狂っている。楽しい、とにかく。
アンコールで次のアクションを発表したのだが、「1日1曲ずつ10日連続で配信リリースした上で、5月15日に19曲入り配信フルアルバム『Life Is a D.A.N.C.E.』を出す」「5月17日〜21日に下北沢SPREADで5デイズでゲストDJを招いてワンマンライブを開催」という、これまた狂ったものだった。なんだかすごいことになっている、今のthe telephones。

4月12日(金)18:30 The Street Sliders @ 沖縄ミュージックタウン音市場

4月6日のところで書いたように、仕事で東京の2公演を観れることになり、沖縄まで行く動機がよくわからなくなりつつも、チケットは買ってるし、飛行機も宿も押さえてるし、沖縄好きだし、まあいいか、というわけで、行ったのだが。
行ってよかった! ミュージックタウン音市場、公式サイトによるとキャパはオールスタンディング時1,100人・イス使用時489席、だそうだが、この日はイスあり。で、6列目だったのだ、取れたチケットが。まんなかよりちょい右で、HARRY(村越弘明)の前。
この1年で観たスライダーズのライブ=日本武道館、KT ZEPP YOKOHAMA(2階)、日比谷野音(PAの前あたり)、どの時と比べても、ケタ違いに近い! 大昔、スライダーズが新宿の日清パワーステーションで4週連続ライブをやった時に観た、その時よりも近い! メンバー4人の表情や動きがよおく見える! 音もいい!
さらに、セットリストも日比谷野音とは違った。野音も後日観たNHKホールも、1曲目は「SLIDER」だったが、この日は「あんたがいないよる」で始まって2曲目が「SLIDER」だったり、野音でもNHKホールでもやらなかった「マスターベイション」を後半で聴けたり。くり返すが、いやあ、行ってよかった!

  • 兵庫慎司

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    兵庫慎司

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