有安杏果、ポテンシャルが見事に引き出された、弾き語りで2時間を超えるステージ

ライブレポート | 2021.10.01 17:00

有安杏果 サクライブ 弾き語りツアー 2021
2021年9月11日(土) 渋谷PLEASURE PLEASURE

今年4月に宮城、北海道、大阪、香川、広島、福岡、愛知、東京と全国8公演に及ぶ「サクライブ 弾き語りツアー2021」を行った有安杏果。本来は9公演を予定していたが、大阪公演のみ9月に延期となったことで愛知と東京公演を追加。結果的に、東名阪ツアーという形になり、9月11日(土)には東京・渋谷PLEASURE PLEASUREでファイナル公演を迎えた。(ツアーを終えたばかりの有安杏果にインビューを実施!有安杏果、「サクライブ 弾き語りツアー2021」無事完走!ツアーを終えた今の思いを訊いた [インタビュー]

有安ひとりでステージに立ち、アコギやピアノを弾きながら歌う弾き語りでのライブ。結論から言えば、有安のギター演奏が5ヶ月前より格段にスキルアップしたことによって、歌と演奏と感情が一体となったパフォーマンスを見せてくれた。ギターを弾きながら踊り出すんじゃないか? と思うくらいのグルーヴを奏でる楽曲もあり、ソロのアーティストとしてのポテンシャルが見事に引き出されたライブであった。

観客は開演前からBGMに合わせて大きなクラップを鳴らして有安を迎えた。予定時間より5分押しで場内が暗転すると、有安はピンスポットが照らされたステージに静かに登場した。1曲目は春の弾き語りツアーではアンコールで歌っていた「虹む涙」。指弾きのアルペジオで始め、サビではピック弾きのストロークにチェンジすると、歌声にも力が入っていった。ファンの悲しい涙を集めて虹に変えたいという歌詞をギターの演奏でも表現。左右に赤と青のライトを照らし、真ん中に緑の灯りを作るというライティングも何かを象徴するようで素晴らしかった。

アコギをザクザクと力強く弾いて会場の熱気をあげた「Catch up」のあと、「心臓が飛び出るかと思うくらい緊張しました。みんな一緒にリラックスして、最高に楽しい1日を作りましょう」とあいさつ。アンニュイでアーバンな雰囲気に変えた「LAST SCENE」やハードボイルドなテイストの「遠吠え」では自然と体が揺れるようなグルーヴを紡ぎ出した。次の「裸」を前に、「みんな元気してた?」と呼びかけ、弾き語りライブをはじめた理由を語った。

「私が初めて弾き語りライブを観たのは、小谷美紗子さんのライブでした。めちゃくちゃカッコ良くて、すごい印象に残ってて。歌手として、いつかは自分の声と楽器だけで届けられるライブができるようになったらいいなと思っていました。まだまだ、本当に足りないことばかりですが、みんなに届けたい想いはいっぱいあるので、帰り道に1曲でも思い出せる曲があったらいいなと思います」

そんなMCを経て、小谷美紗子が提供した「裸」ではピアノのタッチで強弱をつけながら、ため息まじりのフレーズをポップに響かせ、足でリズムを取りながらピアノで弾き語った「ハムスター」では会場から小気味のいいクラップが沸き起こった。再びギターに持ち替えた「愛されたくて」や「Another story」では笑顔で軽やかに歌う彼女の“音楽を心から楽しんでる姿勢”に引っ張られるように手拍子が大きくなった。

中盤には日替わりのカバーコーナーが設けられていた。名古屋公演での「夏色」(ゆず)、大阪公演での「プラネタリウム」(大塚愛)に続き、この日は、「私が生まれる前にリリースされた曲だけど、いつ聴いても胸に染みる、大好きな曲」だという「真夏の果実」(サザンオールスターズ)をカバー。観客の心の中にある、それぞれの思い出の海の景色を引っ張り出してくれたが、何よりも彼女による<四六時中も好きといって>というフレーズの歌い方が甘酸っぱくも切実でグッときてしまった。

「なんだかんだ言って、一番練習してる曲かもしれない。この曲があったから弾き語りにつながったと思います。一番最初にみんなの前でギターで弾き語りした曲で、あの経験がなかったら、弾き語りライブをやろうと思わなかった」という「ペダル」から「色えんぴつ」へ。どちらも苦悩を抱えながらも、自問自答の果てに素直な自分らしく生きようと決意する楽曲で、心の叫びにも歌声で聴かせた。そして、ギターのボディを叩いてリズムを奏でた「Do you know」であるがままの自分としての躍動を見せ、いよいよ後半戦へ。

春の弾き語りツアーのために書き下ろした新曲「指先の夢」が、彼女が今、一番届けたい曲だろう。ギターの弾き語りによるバラードで、歌詞にはたとえどんな状況であっても、声が枯れるまで歌い続けるという覚悟が歌われている。ライブができない状況の中で、彼女はおうち時間の多くをギターやピアノの練習に使ったのだろう。彼女が練習のしすぎで赤くなった指先を見つめながら、いつかくる弾き語りライブを夢見ている情景が思い浮かんでくるような楽曲となっていた。

「夏が終わっていくときのことを考えながら作った」というバラード「ナツオモイ」をこの日はピアノで弾き語り、観客が1つになって手を左右に振った「TRAVEL FANTASIA」で盛り上げ、真っ白い光の中で歌った「ヒカリの声」で同じ空間で同じ音と光を浴びていることを強く実感させて本編の幕は閉じた。うまく言葉にはできないのだが、感覚として、「あ、今、つながってるな」と感じた人が多かったのではないかと思う。

アンコールの1曲目は、2016年7月3日に横浜アリーナで開催された初のソロコンサートのオープニングナンバー「feel a heartbeat」。今にも全力で駆け出しそうなパフォーマンスで観客の笑顔を引き出すと、「みんな、今日イチの顔をしてる」とリラックスした表情で笑い、「いろんな夏の情景を思い浮かべながら聴いてください」と語りかけ、フジファブリック「若者のすべて」をカバー。「心の旋律」では<歌いたい><歌いたい>と繰り返す中で、マイクを離れてアカペラで高らかに伸びやかに歌い上げると、温かく大きな拍手が沸き起こった。そして、最後に「最後の最後まで手が冷たいし、めっちゃ緊張してるんだけど、やってみてよかったなって思います。これからの自分の音楽人生に大切な経験をさせてもらったなと思っています。これからの自分に少しでも自信につながっていればいいなと思います」と語り、盛大なクラップが鳴り響く中で「Runaway」をアコギで弾き語りながら飛び跳ねるように歌唱。アコギとピアノの弾き語りで約2時間15分のステージを行ったことは今後の彼女の強さと自信に繋がるだろう。何より、彼女の歌いたいという思い、そのために、音楽に真っ直ぐに向き合う真摯な姿勢と誠実さは間違いなく観客一人ひとりの胸に届いたはずだ。

SET LIST

01. 虹む涙
02. Catch up
03. LAST SCENE
04. 遠吠え
05. 裸
06. ハムスター
07. 愛されたくて
08. Another story
09. 真夏の果実(サザンオールスターズ)
10. ペダル
11. 色えんぴつ
12. Do you know
13. 指先の夢
14. ナツオモイ
15. TRAVEL FANTASISTA
16. ヒカリの声

ENCORE
01. eel a heartbeat
02. 若者のすべて(フジファブリック)
03. 心の旋律
04. Runaway

  • 永堀アツオ

    取材・文 

    永堀アツオ

  • 撮影

    ハービー・山口

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